Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
さて、残すは福袋か。皆ボーナスは持ったな!?
アガルタでの活動において、協力関係にあるレジスタンスのライダーと、それが率いる男性のみのレジスタンスが活動拠点としている桃源郷。そこが一番安全だ。
食料も水もあるし、たまにエネミーが迷い混んでくるがいつアマゾネスに襲われてもおかしくない外よりはウン万倍も良い。
「戦闘終了。お疲れ様ぐだ男」
「お疲れー。あー、疲れたよー。ちょっと休まない?」
「確かに、少し休んだ方が良いかもしれませんね。幸い、活動拠点もあることですし」
「そうだね。一旦戻って休もうか」
今日も桃源郷に侵入してきた
袋に詰めたそれらを担ぎ、調理場に持っていくのだが……最近妙に体が重い。もとい怠い。何と言うか、自分の周りの空気の密度が増して動きづらくなったような感覚だ。
それと、何かを忘れているような気がする。あるべきなにかを……
「……ま、悩んでも特異点は修復出来ないってね」
「ん?どうしたのマスター。忘れ物?」
「何でもない。帰ろう」
そう言えばあるべき物がない、と言うことでふとこの前のロンドンでの話を思い出した。確かあれは2日目だった……
◇
1日目は偉い人が来ては取り調べみたいに話してまた別の偉い人に同じ様な事を話す。ひたすらその繰り返しでいつもの特異点探索とは違った疲労が溜まった。
2日目は午後からまた来いとの事だったから午前中は皆でロンドン観光。勿論、各々私服で目立たないようにはしていた。が、やっぱりと言うか当然と言うか、じぃじは色々無理があった為、仕方がないが気配遮断で妥協せざるを得なかった。
そしてその日の午後。また別の偉い人に案内されて時計塔内の病院に足を運んだ。セキュリティが他よりも高いエリア、そこに居たのはカルデアが爆破されたあの日……俺が居眠りしていた席で右に座っていた男性のマスターだった。
「あの人……」
「君も知っているだろう。君と同じく、カルデアでマスター──になる筈だった魔術師の生き残りだ。彼は爆破に巻き込まれた際にレイシフトで精神が壊れかけてね。あの通り、生きていても虚ろな眼で壁をずっと眺めているんだ」
「レイシフトで……?」
「君は平然とこなしているが、本来レイシフトは適性がある。彼も極めて優秀、そして適性も高かったが……ご覧の有り様だ」
『…………』
分厚い窓の向こう、ベッドで上半身だけを布団から出して向かいの白い壁を微動だにせずジーッと眺めている。
髪の毛は前に見たときよりも長くなっていて全く手入れしていないのが伺える。
「次はこっちだ。彼以外の他に数人生き残っていてね。彼は一番症状が重い」
先に歩き出した男の人の背中を追うように俺も歩き出す。
──一瞬、窓の向こうの彼がこちらを眼だけで見た気がした。
「彼女は脳へのダメージで手足に障害が残ってしまった。今では満足に物を持つことも出来ない」
「……」
『また、来たのね……その人は?』
「彼がカルデアのマスター、ぐだ男だ。再起不能になった君達の代わりに人理の修復を行った男だよ」
「あ、あの──」
『私達の代わり……?ふざけないでよ……ふざけないでよ!!何なの代わりって!?アンタが!たかが一般人が!!魔術の素質も無ければただの頭数合わせの凡人に過ぎ──っう!』
女性は片目が無かった。
ストレスか何かで引っ掻き回したのか、手足は傷だらけで包帯もそこら辺に落ちている。
『アンタも……アンタもグルなんでしょ……!私達を陥れるために!カルデアなんて御大層なモン作って!どの面下げてここに来たのよ!!死ね!死ね!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッ!!!』
「……っ」
「──次だ。彼女は酷く興奮しているみたいだから会話は望めんだろう」
男が歩き出すと同時に職員が2人程部屋の中へ入っていく。
女性を取り押さえ、鎮静剤を打つのだろう。暴れる女性は手足の感覚がやはり鈍いのか、傷が広がってもお構いなしに喚き、もがいていた。
『殺す!コロス!アンタの顔を覚えたわよ!!必ず殺しに──』
「こっちだ。彼女は放っておいた方が良い」
「は……はい」
俺は逃げるようにその部屋の前から足早に立ち去る。
どこまで離れてもその女性のわめき声は届いてきて、結局鎮静剤で収まるまでその声は施設の中に響いていた。
それからと言うもの、男に案内されて会う人達からは罵声、怨嗟、殺意、拒絶、敵意……様々なものを投げられた。
それもそうだ。死にかけて生き延びたと思えば、もう魔術師としては再起不能に陥り、中には魔術刻印を受け継いでいたのにそれが駄目になってしまった人も居た。例え事情を話しても、俺に向けられるのは負の感情しかない。
「彼女が最後だ。彼女は一番怪我が軽くて済んだ。精神的にも穏やかだから突然襲ってくるような事は無いだろう」
「……そうですか」
生き残った8人の最後の女性。彼女だけは今までの魔術師達のような閉じ込められているような部屋に居たのではなく、施設内に設けられたリハビリセンターに居た。年齢は自分と同じくらいで、オレンジ色の長い髪をアップのポニーテールにした娘。
遠くからこちらに右手を振った彼女の反対側の腕は、肩口から無かった。右足も膝から無い。これで、一番怪我が軽いのか……。
「こんにちは。貴方がカルデアの?」
「ぇ、あ、はい」
「……フォルヴェッジ先生。まさか他の皆に会わせてきました?」
「彼には知っておいて貰った方が良いと思ったんだ。黙ったままにしていては駄目だろう色々と」
「ホント、エルメロイ教室出身者ってそう言う所ありますよね……」
俺を案内してきた男はどうやらエルメロイ先生の教室出のようだ。やべ、二世付け忘れてた。
「じゃあ俺は失礼するよ。これでも忙しくてね。帰りは彼女が案内してくれるよ」
「任せて先生。じゃあ歩こうか。えーと……」
「ぐだ男です。よろしくお願いします」
「よろしく。私はリッカ」
リッカが立ち上がり、軽い足取りで歩き出したのをすぐに追いかける。何だか今日はついていってばかりだ……。
「ごめんね。多分凄く嫌な思いしたでしょ。殺してやるとか言われた?」
「まぁ、そこそこに。仕方がない事ですけど……」
「そうなの?仕方がないって、じゃあ爆破に加担したの?」
「そうじゃないですけど……居眠りした俺だけが生き残って、何だか──」
「ハイ、そこまで。それ以上言うなら蹴るからね」
「え?蹴る……」
そう言った彼女は右手で脇腹を掴んできた。
「へぇ……鍛えてるんだね。見た感じ筋肉もついてるし何と言うか雰囲気が違うね」
「雰囲気?」
「うん。場馴れしてるって言うか、どこ行っても落ち着いて対処できそうな図太さって言うか。そんな人がただ遊んで居るだけの筈がないって私は思うんだ」
「いや、割りと遊んでますよ……。何しろ古今東西の英雄が一杯居ますから。何もしてなくても問題はやって来ます」
「例のサーヴァント達ね。でも、皆貴方に力を貸してくれているんでしょ?現にそこに居るのだって貴方に不満を感じているとは思えないし、貴方は本当に
「おやおや。こちらが視えているとは驚いたよレディ」
丁度周りに人気が無くなった時にモリアーティが実体化して姿を現した。
言葉に警戒の色が無いのはすぐに分かった。だから俺も変に警戒するのは止めて近くの椅子に腰を下ろすことにした。先ずは義脚で動きにくいリッカを座らせてから左隣に座る。モリアーティは彼女の右隣に、ジャックは俺の膝の上に落ち着いた。
「ごめんね。私、昔からそう言うのは感知しやすい体質で。サーヴァントを見るのは初めてだけど、成る程使い魔なんて名ばかりの人間らしさね。ねぇ、サーヴァントってどんな感じなの?」
「君も図太いねぇ。まるでそこに居るマスターの様だ」
「
「えー?私そんなに図太い?」
俺が同意して良いのかは分からないが、図太いとは思う。ただそれが俺と似ているかと言われると自覚は無いなぁ。
「図太いとも。肉体面においても相当な頑強さがあると見たが……?」
「あぁ、体は昔から感覚が鈍いの。魔術刻印を受け継いだ時にそれが原因でね。だから人一倍我慢も出来たし、動けた。だからいつの間にか体は強くなってたの」
「へぇ。そんな事が……」
「そ。今は腕脚が無くなっちゃった分当然動きづらくなっちゃったけど、別に魔術が使えなくなった訳じゃないし義肢もあるからそこまで困っている訳じゃないわ。本当に運が良かったと思ってる。だって私の両隣でコフィンに入っていた2人、死んじゃったみたいだし……でも、貴方はそれに責任を感じる必要はない。貴方も運が良かった……いや、もしかしたらそう言う
「……ありがとう。ちょっと気持ちが軽くなりました」
そう言えば誰かも言ってたな。俺はそういう星の下に産まれたって。
あまり気にはしていなかったけど、実際に死んだ人達のリストを見て、一命をとりとめても2度と立ち上がれない、喋れない、見えない、聞こえない……皆を見て実感せざるを得なかった。そして、まだ来るであろう戦いの予感も確信へと変わった。
俺にはまだまだ、成すべき使命があるのだと。
「あ、そうだ。折角だしメアド交換しない?」
◇
「はぁ……
「とんでもないことをサラッと口にしましたね……ですが確かに、特異点……人理焼却があったからこそ私達は巡り会えた。特に私のようなIFの可能性は人理の不安定さがあってこそのもの。恐らく私にとって彼は過去未来において最高のマスターでしょう。そう思うと、この戦いが終わってしまう時が来るのが少し──いえ、とても惜しい」
「でしたら聖杯の力にて受肉をなされては如何でしょうか我が王(ランサー)」
「ガウェイン、ぐだ男は魔術師ではない。この戦いが終わればアイツはただの人だ。それなのに受肉したとは言え、いつまでもサーヴァントが近くに居てはアイツは本当に元の生活には戻れない。もっとも、それも最強の名を冠するサーヴァントが1人だけなら問題ないだろう」
「我が王(セイバー・オルタ)、最強とは誰が……?」
「無論、私だ」バーンッ
集中線が引かれたようなドヤ顔のアップ。
自分が最強であると言っているかのようなその自信満々な姿にガウェインは「流石です」と頭を垂れ、周りに居た他の円卓メンバーも同じ様に頭を垂れた。
するとそれに納得がいかない他のアルトリア達が「意義あり!」と一斉に指を指した。
「それは聞き捨てなりませんね」
「えぇ。星は私が上です」
「流石は王(達)。自分同士でも1歩も退きません」
「ガウェイン……貴方のそう言う所も流石だと思います」
よく分からない基準で最強を主張し始めたアルトリア一同に他のサーヴァント達も加わり、やれじゃんけんだ、やれ腕相撲だと賑やかになっていく。
聖杯で受肉するどうこうではなく、単純に誰が強いかを比べたくなるのはやはり英雄と言うべきか戦士と言うべきか。
「お、力比べか?俺っちも山でよくやったもんだ。いっちょ最強を目指してやってみ───何だ?」
袖を捲っていた金時がふと妙な気配を感じ取り、振り返った。
食堂の出入り口、その廊下側から異様な気配……気付いた他のサーヴァント達も妖気や怨念を感じると口々に警戒し始めた。
「何だってんだ一体……」
「ミスター金時。何かがこちらに迫っているのは感じましたか」
「あぁ。なんつーか、いろんなモンが来てるような気がするぜ」
「流石は金時殿。その動物的な勘はやはり山育ちだからですかね。今あの出入り口の先から来ているのは死霊……ここで死した魔術師達です」
カメラを構え、レンズ越しにゲオルギウスは全てが見えていた。
脚と言うには膨張しすぎて奇形化したそれ。腕は皮が無く、肩からは男女か分からない頭が生えていてその口から別の腕。または目から狭そうに押し出てきている腕……合計で7本の腕が不気味に蠢いている。
全身の眼球は別々にギョロギョロとして各々が集まるサーヴァント達を睨んでいた。
「なんと醜い……彼等は何故……」
《ワタシタチはシに、カラダがここからハナれてもナオ、トラわれツヅけている》
「──ッ、なんて不快な声なの……」
《おぉ、ユルせない。ユルせん。ユルすものか。あのオトコ……のうのうとイきノコったあのオトコ……ニクい!》
「ぐだ男の事か。ただの逆怨みで化けて出るものではなかろう。お前達は死者だ。あるべき所へ帰るんだ」
《ニクい……ウラヤましい……おっぱいモみたい……ジャックたん……イタい……クルしい……サムい……》
「……おい。今誰の本音だ」
《ガウェインさまステキ……ケッコンしたい……タタかいたくない……もうイヤだっ!!》
数十人分の霊が固まったそれは、時折聞き覚えのある声を発しつつ、誰かの何とも言えない本音を垂れ流している。
「戦いたくない……?何を言っているんだ?アイツらはまだレイシフトすら1回も──」
「いや、そうじゃねぇよロビン。ありゃぐだ男の本音だ」
「え?」
「誰とは言わねぇが、この事態にいち早く気が付いた奴が居てな。そいつが言うには、ぐだ男が溜め込んできた不満や恐怖心、人間の誰もが持っている死への恐怖だ。アイツも聖杯にスゲェ近い人間だ。いつの間にか、魔力の影響で抑えてきたモンが魂として1人歩きしはじめて、あれはそれを利用してんだと。つまりだ。魂である以上アガルタにいるぐだ男と繋がっちまってるから下手に攻撃すればあっちにも影響がある。人質だ」
「ではどうすれば?」
「簡単だ。ちょっとずつ成仏させてやるんだよ」
「?」
「……誰かあれに胸揉ませてやれ」
他のマスターの話があまり無いので、今のうち好き勝手にやるスタイルです。