Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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今年のクリスマスは一体どうなるのだろうか……
まさかサンタム・オルタとか出たりはしないだろうか……?

それはそれで聖杯ください。


Order.41 バースデー!

 

 

 

「帰ってきたぜカルデア!」

 

「おかえりなさい先輩。では早速健康診断をしますので準備を──」

 

「いや、時計塔じゃ何も食べてないから大丈夫だって……」

 

「いえ。駄目です。何があるか分かりませんので拒否権はありません。という訳でBBさんお願いします」

 

「はぁい♪お注射しますねー」

 

「ハァッン!蛮神の心臓エキスが入ってくりゅぅ!」

 

帰って来て早々にBBからぶっとい注射を刺されてビクビクと痙攣するぐだ男。

ロンドンに飛び立ってから早4日。特に怪我や事故もなく帰って来たが、何をされたのか心配なマシュ。やや暴走気味でもマスターの身を案じていた。

 

「じゃあ計画通り集中治療室にぶちこみますねー」

 

「一体なんなのs」

 

最後までの発言は許されず、集中治療室の扉は閉められた。

中で一体何をされるのかは医療班しか知らない。時々ナイチンゲールの叱咤する声が響くが、誰もがそれに構わずいそいそと動き出す。

ある者は料理の盛り付け。ある者はクラッカーを配る。

そう、今日はぐだ男の誕生日。本人ですら忘れているその誕生日を皆で祝うべくサプライズを計画していた。

 

「よし。彼が部屋から出てくるまでの10分がリミットだ。それまでに完璧に仕上げるぞ」

 

「おうさ」

 

 

「いってぇ……酷い目にあった……」

 

「お疲れ様ぐだ男君。こっぴどく怒られたみたいだね」

 

「ドクター……確かに怪我はしましたけど、そんなに大事になるようなものでも──いや、今更か」

 

「はは。まぁ、兎に角元気なら何より。お腹も空いたんじゃないかな?食堂に行こうか」

 

「そうですね」

 

途中から良く覚えていないが、ナイチンゲールが黙っていた怪我に激おこだったのは覚えている。

何だかんだ治療はちゃんとしてもらって別の怪我が増えた気がしなくもないが。

 

「そう言えば皆どこにも居ないんですよね。会議中ですか?」

 

「うん。サーヴァント同士で色んな情報交換をするらしいよ」

 

「へぇ。珍しい」

 

「……ぐだ男君。君はちゃんと生きているかい?」

 

「?いや、流石にナイチンゲールもそこまでしないですよ。あくまで殺してでも生かす。その鋼の意思を──」

 

(自分の誕生日を意識していないのか、非日常の中で忘れているのか……どちらにせよ、当たり前になってきたこの生活が彼を狂わせてしまった。ボク達大人が情けないばかりに……)

 

変な質問だなと思っているとドクターは神妙な面持ちで俺の顔を見ていた。

 

「ドクター?」

 

「ごめん。ちょっと考え事をね」

 

「ふーん。あ、着きましたよ」

 

食堂に着いてスライドのドアを開ける。シュッと小気味の良い音で食堂への来客を歓迎した入り口から1歩足を踏み入れた瞬間、鼓膜を乾いた音が大量に叩いてきた。

 

「先輩!お誕生おめでとうございます!」

 

「おめでとうございます、ぐだ男。今日という生誕日までの無事とこれからの幸福を祈って」

 

「あ、ありがとうガウェイン。マシュ。そっか……俺の誕生日か」

 

「何だよ忘れてたのかボウズ。お前さんちょっと疲れてんじゃねぇの?それじゃあ看護師サンにも怒られるわな」

 

「全く気付かなかった……」

 

失念していた。

俺が皆で誕生日を同じ日にして祝おうと言い出したのに無責任にも……。

 

「ハーイ!反省するのはそこまで。今日はアナタがこの世に生を受けたとても特別な日。忘れたものはしょうがないわ。けどそれを受け入れ、次に反映し、そして今を楽しむ!何たってぐだ男、アナタの誕生日なのだから!アナタがションボリしてたらお姉さんも楽しめまセーン」

 

「ケツァ姉……そうだね。ありがとう。ありがとう皆!今日がその日だとはすっかり忘れていたのは申し訳無い。この分は必ず挽回するから、取り敢えず騒ごうよ!何たって皆も誕生日だ!派手に盛り上がろうぜー!」

 

「「「おおお!!」」」

 

「ふっ、それでこそだぐだ男。よし、キッチンはこちらに任せたまえ!パーティーの準備は充分か!」

 

その掛け声で皆が手にしていた飲み物を一気に飲み干す。俺も渡されたコーラをイッキ飲みして乾いた喉に炭酸を叩き込んだ。

何だこりゃ旨いぞ!何かコーラに変なの入れたんちゃうか!?

 

「ヤァ!いい飲みっぷりね!お姉さんも飲むわ!Salud(サルー)Salud por tu cumpleaños(サルー ポル トゥ クンプレアニョス)!……ッ、……ッ、……ッハァッ!ンー!Rico(リコ)!大好きよぐだ男~ッ!」

 

「ムーチョムーチョ!ありがとうケツァ姉!ところで酔ってない?」

 

「そんな事はありまセーン!むしろシラフ(・・・)ネー!例えばこのお酒が相性の悪いアサシンの誰かが作ったテキーラだとしても決して酔いまセーン!だから熱ーいキス、しても良いわよね……?」

 

ケツァ姉が酔った!前から趣味を見付けたと言う事は聞いていたが流石は酒呑、カルデアで密かにお酒を作っていたのは本当だったか……。

しかしケツァ姉の熱い抱擁が俺を色々と困らせる!

 

「ケツァルさん駄目です!先輩はまだ未成年ですので口移しでもお酒は駄目です!」

 

「あん、マシュったら強引ネ♪」

 

「たった一杯でこれとは……凄いなぁ」

 

「マスター、誕生日おめでとう。度重なる地獄に君は幾度となく叛逆し、それを乗り越え、2度目の生誕の祝いをできる事、嬉しく思うぞ。これからも共に叛逆していこうではないか!」

 

「ありがとうスパルタクス。勿論、これからも宜しくね」

 

硬い握手を交わし、スパルタクスはいつもよりも(?)良い笑顔で去っていく。

続いて既にへべれけ状態の荊軻が絡んできた。上気した顔が近──臭!酒臭い!

 

「お~いぐだ男~。飲んでるかぁ?えぇ?」

 

「け、荊軻近いよ。て言うかどれくらい飲んだの?」

 

「はっは!分からんが、大王が持ってきたワインの樽は既に空けたぞ。しかし君も逞しくなったなぁ……セプテムで会った時とは見違えるようだ」

 

「流石にね。死に物狂いでここまで来たし」

 

「……私はな、前にも言ったが自分が死ぬのは恐くない。寧ろ相手を確実に殺すのなら死んでも良いのさ。けど、ここに来て分かったことがある。私も死が恐い時があるとな。それはぐだ男、君を守れず死ぬことだ。生憎守ることは知らない私だが、攻撃は最大の何とやらだ。もし君が殺されそうになった時、私を使え。この命、君を守るために相手諸共に散らしてみせよう」

 

「ありがとう荊軻。けど、俺も前に言ったけど嫌だよ。俺が生き残っても、そこに皆が居ないと意味がないんだから」

 

「──ったく。急に暑くなって来たから冷たい酒を貰ってくるとするか」

 

「程々にね」

 

酔っているのに確りとした足取りで冷えた酒を貰いに行く荊軻。

そんなに暑くは無いけど……しかも荊軻の服装じゃまず着込んでいるって訳でもないから酔ってポカポカしてるんだろうな。

 

「誕生日おめでとう。今年で幾つだ?」

 

「ありがとうアタランテ。今年で19だよ」

 

「……そうか。汝のようなまだまだ子供が、世界を救わなければならないなんて世も末だな。だがそれは汝にしか出来ない事だったのだろう。……酷なことを言うようで悪いが、お前(・・)は世界を救った、救ってしまった(・・・・・・・)。その責任は簡単に放棄できるものではない。これからも事あるごとにお前の力が求められるだろう。言わば英雄と同じだ。いつかは救った世界に裏切られ、殺される事もあるだろう。それでも──」

 

「アタランテ。俺はこの先どうなるかなんて分からない。言ったみたいに殺されたりもあると思う。だからと言ってこの戦いから俺が逃げたら誰かが死ぬ。数人なんてレベルじゃない、何万何億の人達が。子供達もだ」

 

「──そうだったな。すまない、余計な心配だった。汝もそう言う男だったな。本当に……私は最高のマスターに巡り会えた。ありがとう」

 

それは俺も同じだ。

こんな俺にここまでついてきてくれた最高のサーヴァントに巡り会えた事でここまで来れた。今のこの景色を見ることが出来る。

 

「こちらこそありがとうアタランテ。皆が居てくれたからここまで来れた。このお礼は必ず。だから今は一緒にリンゴ食べよ」

 

実は去年のバレンタインでアタランテから貰ったリンゴチョコから手に入れた種があり、それをよく貰う金のリンゴの栽培と並行して自分で育てていた黄金のリンゴ。

いつかアタランテに徒競走等が関係無い状態で食べて欲しいと思っていたんだ。良い思い出は無いだろうし、嫌ならそれはそれで俺達で食べるだけだけど……。

 

「そ、それは──」

 

「育ててみた。アタランテは食べたことあるの?」

 

「まぁ……食べたことは無いな。正直あれ(・・)があってから良い印象は無くてな。だが汝が育て、私にただ振る舞うだけなら別だ。実は少し味にも興味がある」

 

「でしょ」

 

「て言うか神話のアイテムを普通に栽培できるって凄いですね。どうやってやったんですか?」

 

子ギルが興味深そうに覗き込んできたので簡単に栽培方法を説明する。

植木鉢にオケアノスの良い土を入れ、種を埋めてからカルデアの外から持ってきた雪をろ過して溜めた水をあげるだけ。

 

「いやぁ、本当にそう変な事と言うか偉業と言うか得意ですねマスター。流石の僕も驚きましたよ」

 

「ね。リンゴの育て方、ましてや神話のそれともなると全然分からないから取り敢えずやってみたけど何とかなるもんだよ。はい、アタランテ」

 

「すまないな、では頂くぞ。…………美味しい」

 

「もしかして微妙だった?俺も…………ウッマ!何じゃこりゃ!」

 

「いや、すまない。私が想像していたより味が優しくてな。私が聞いた話では、この世の欲をかき集めたような味や生き物を堕落させる味とも。だが汝のはそれらを一切思わせない、本当に……優しい味だ」

 

黄金のリンゴが色んな神話で出てきているのは知っている。だけどその味が何ともダークアイテムっぽいのは初めて聞いた。

何というか、やっぱり黄金は誰でも狂わせるんだなって。

 

「あー!ぐだ男がアタランテに餌付けしてマース!黄金のリンゴで好きなようにするつもりネ!?それはお姉さんも許せないわ!堂々とルチャで勝負ネー!」

 

「翼ある蛇よ。今の私は汝が相手でも負ける気はしない。何せこのリンゴを食した私はATKが何倍にも増大する」

 

「へぇ……面白そうね。ならば私もフルパワーでお相手するわ!」

 

「アンタのフルパワーはマジで洒落にならないから止めなさい!」

 

流石のイシュタルもケツァ姉のフルパワーはカルデアが消えると知っているからか止めに入る。

結局テンション上がった皆でドタバタ騒いで飲んで食べて笑って泣いて……幸せな時間だった。

 

「ありがとう皆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「何変な顔してるのよニト。もしかしてお酒苦手?」

 

「いえ、そうではありません。少し気になった事がありまして」

 

「ふーん。何?」

 

「ぐだ男の周り……サーヴァントの皆さんに紛れてぐだ男と同じ格好の男女が何十人か居まして。一体誰なのだろう、と──」

 





魔術協会本部にて

偉い人「君がぐだ男だね。魔術の経験はからっきしと聞いたが?」

ぐだ男「はい。でも最近は頑張って剣と槍と弓と近接格闘術と筋肉と歴史と──あ、すみません。取り敢えず一杯勉強してます」

偉い人「筋肉……」

ぐだ男「筋肉です」


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