Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
私は去年のプリヤイベ少し前から始めたので、ヒトヅマニア達の六章での変わりようにはビビりました。
と、同時にトリスタンは素があれなのに反転のギフトでよくあれくらいで抑えられたなと思いましたよ。
※感想に返信するのが途中で途切れてしまったのでそのままにしてました。申し訳ありません。
ソロンモと呼んでいるのはわざとです。単純にそっちの方でリアルでも呼んでいたので。
「こどもの日?」
「そそ。子供の人格を重んじ、なんかそう、母親とかに感謝する日だね」
「説明がおざなりです先輩。ところで一昨日来たBBさんは一体何者何ですか?先輩をセンパイ呼びするとは……」
「俺も知りたい」
ゴールデンウィーク真っ只中。そう、世間はね。
カルデアはそもそも日本じゃなければ休日がちゃんとある職場ではない。
そう言えば昨日は魔術協会の人達がやって来て勝手なレイシフトとかにガミガミしてたけど……
『レイシフトだって無料じゃないんだぞ?ちゃんと承認を得てからにしてくれ。だがまぁ、緊急だったら仕方がないってあるよなぁ。ぶっちゃけ承認処理ダルいしなぁ……もう良いんじゃね?緊急事態なので現場で判断しました、が一番楽だべ。今度お偉いさんと飲み行くからちょっと愚痴ってみるわ』
『それな。シール・サーティーン。ディシジョン・スタート』
『『『おk』』』
『これは、お偉いさんをヨイショして良いように仕向ける戦いである──って感じでやろうず』
『冴えてるぅー!じゃあ取り敢えずカルデアはゴールデンウィーク無しね』
『え、何でですか……?』
『一応お咎めしておかないと怒られちゃうのよ。まぁ、特異点がまた出る可能性もあるからそれへの注意を兼ねてね?気を張っておくよーに』
『わ、分かりました』
『よし。じゃあ帰んべ』
『ゴールデンウィークだやっほぉい!』
『俺
『俺サーバルキャット見に行くわ』
『イクイク!』
『すごーい!私も行きたい私も行きたい!』
……と、言う感じであっちはゴールデンウィークを満喫するようすだ。良いなー!
あ、俺も特異点での記録の処理とかやる事一杯あるから休みはない。今もこどもの日の事を訊いてきたアタランテに意識を割きながらデータの整理中だ。あ、関数ミスってる。
「成る程。ぐだ男、汝はまだ未成年だったな?」
「うん。因みに俺は子供の日の対象じゃないからね」
「先輩もそろそろ誕生日でしたね。また皆さんでお祝いしましょう。そして大偉業を成した英雄としてその日は祝日に──」
「そんな大それた人間じゃないって……で、アタランテはこどもの日だから何かしたい訳ね?」
「うむ。英霊とは言え子供は子供だからな。当然のように戦いへ赴いているが、それを聞いたら違和感を覚えてしまってな……」
「成る程ね。じゃあ明日のこどもの日はお祝いだ!アタランテがしてあげたい事とか何か周りでもあったら教えて。俺も協力するから」
「ぐだ男君。そこの関数だと循環になってしまうよ?あとそれは効率的なまとめ方じゃないね。ここの関数はこうしてああすればすぐに終わるさ」
「じゃあダ・ヴィンチちゃんがやってよ!?真面目にやってぇ!」
「ばっか超真面目だぞぅ!」
そう言いながら他のスタッフに指示を飛ばしては自分で仕事はしないダ・ヴィンチちゃん。えぇい!ホームズはどうした!?教授はどこだ!?こういう時に限って姿を眩ましてぇ……。
「あぁー……何も考えなくても庇護される幼稚園とか戻ってみたいなぁ」
「ん?本当に?」
「うわ、ダ・ヴィンチちゃん反応早いねぇ。冗談だから止めてよね?」
「分かっているとも。この忙しい時に人手が減るのは惜しいからね」
「レオナルド!頼むから話してないで手伝ってよ!」
◇
「──と言うわけなんだ。夜這い常習犯の君達になら出来るよね?」
その夜。レオナルドは早速怪しい薬を調合して注射器に詰めたそれをとあるサーヴァントに手渡して指示をしていた。
受け取ったのは常習犯清姫。常習犯静謐のハサン。常習犯源頼光。完璧の布陣だ。
「この薬で
「まぁ、法的にはまだ子供だけども。それを使えば起きた時には既に身も心も幼い子供さ。あれだけのデスマを乗り越えた今であれば効き目は抜群。楽しい事になるよ」
「嗚呼……これでもっと母に甘えてくれると言うのですね」ウットリ
「ぐだ男様のショタ……毒は大丈夫でしょうか……」
「さぁ、
◇
午前7時半。今日も食堂ではサーヴァントの皆さんが会話に華を咲かせて和気藹々と朝食を摂っています。
ただ、今日の賑わいは少しいつもとは違っていました。
「マシュ。ぼくお腹減ってないよ?」
「駄目ですよ先輩。朝食は確り摂らないと1日のスタートがとても辛いことになってしまいます。無理に食べてはいけませんが、少し位はお腹に入れておくのが良いですよ」
「わかった。いただきまーす」
「フォウ!」
「フォウくんおいでー。よーし、いい子いい子」
「フォウッ♪」
フォウさんを膝に乗せて、一緒に朝食を食べる男の子。背丈は大体目測で120cmも無いでしょう。喋り方や語彙を見る限り、恐らくは6歳前後……幼稚園児程でしょうか?髪は黒く、ウニのようにツンツンした髪型。そんな幼い少年が私の隣に居る。
「これがぐだ男だと?随分幼くなったな」
そう。この少年は先輩。私が朝起こしに行ったら既にこの姿でした。
私達をちゃんと認識出来ているようなのですが、どうやら記憶の改竄もされているらしく、産まれたときからここでカルデア、サーヴァントの皆さんと暮らしていると思い込んでいるようで……。
「スカサハおねぇちゃんおはよー。……クー
「──!ぐ、ぐだ男……すまないが良く聞こえなかった。もう一度良いか?」
「え……いいけど、クー兄じらいふんだの?スカサハおねぇちゃん」
「はぅぁッ!!……っく、くく……まさかこれ程とはな……ぐだ男。後で私の部屋に来ないか?お菓子をたんと用意してあるぞ?」
「いいの?やった!」
「おいヤベェぞ!今の師匠の顔完全に襲う気だぜ!つーかお姉ちゃんじゃなくておb」
どこからともなく現れたキャスターのクー・フーリンさんが何かを言いかけてスカサハさんに締め上げられる。筋力値が低いキャスターでは抵抗が許されず、ものの数秒でクー・フーリンさんの生命活動は停止してしまいました。
で、今のように純粋無垢な子供に精神もなっているのです。
「と、
「あ、ジャンタねぇちゃん。おはよー」
「わ、私がお姉ちゃん……はぅッ!?」パタッ
「
「まぁ!とっても新鮮な気分ねジャック!」
幼くなったな先輩の食事スピードが遅いのもあって、食事を終えた皆さんが次々と集まって先輩と話していく。
中々進まない食事。時折フォウさんが促す事はありますが、どうにも終わる気配がありません。
それにしても清姫さん達が見当たらないのが珍しい。こんな状況で飛び付いてこないとなると静まるのを狙っているのでしょうか?
「皆さん。先輩のお食事が終わらないので、一度落ち着いてもらってもよろしいですか?」
「おぉ、すまぬな。ほら、どかんかセタンタ」
スカサハさんが屍となったクー・フーリンさんの首根っこを持って下がると皆さんも近くの席に座って先輩が豆腐を箸で必死に食べようと悪戦苦闘している様子を見守っている。特に子持ちのブーディカさんは今すぐ飛び出して食べさせてあげたいと母性を抑えるので必死そうです。
「ごちそーさまでした!よいしょ」
「あ、持ちますよ先輩」
「だいじょうぶ。マシュもごちそーさました?」
「ぁわ、忘れてました。ご馳走さまです」
「お母さんごちそーさまでした。エミヤ兄とキャットちゃんもごちそーさまでした」
「お、お母さん……!可愛い!!」
「お粗末様でした。残さず食べて偉いなぐだ男。頑張る子にはプリンをおまけだ」
お母さんとはどうやらブーディカさんの事の様です。
エミヤ先輩は何だかとても対応が自然すぎて怪しく見えるレベルですが、実際それで先輩が喜んでますし子供の扱いとしてはベストかと。流石バトラーのサーヴァント、エミヤ先輩!
「しかし妙だな。何故彼が子供に……」
「魔術によるものだから、私の
「難しい、と?」
「えぇ。よしんば宝具で解除したとしても、記憶や肉体への影響が大きいと判断したのよ。貴方は飲んだ薬を取り出すために肉体を全て物質毎に分解する?」
「いや、しないな」
「そう言うことよ。もう体に溶けてるのは時間の経過で遣り過ごすしかないわ。逆位相の魔術をぶつけたくても彼を分解しないことにはね……単純なものほど読み解くのは難しいのよ」
「神代の魔女が言うなら仕方がないな。ま、彼なら何とか戻るだろうしな」
メディアさんでもお手上げとは……。しかし誰が先輩にそんな薬を盛れるのでしょうか?そもそもそんな物を作れる人物から探していくのがベストでしょう。
やはり怪しさで言えばあの方が──
◇
「アタランテねぇ?」
「……な、何だこの可愛い生き物は……!」
「ぐだ男ですよアーチャー。今日は起きたときからこのような状況らしいです」
「きょうもお耳としっぽがかわいいよ」
「はぁうッ!もう駄目だ、結婚するぞ」
「落ち着いてくださいアーチャー。彼はまだ子供ですよ!」
「止めてくれるなルーラー。もう我慢できん。長い間……どれだけこの天然鯖たらしに悶々としていたことか!年齢が足りぬのなら適齢まで私が育て、結婚する!その間に子供も出来ていれば何人も邪魔は出来んさ!」
「アタランテねぇなに言ってるか分かんないや。でもアタランテねぇとけっこんしても良いよ?ぼくもアタランテねぇ好きだよ?」
「ぁぁぁぁぁあああ!可愛い!!可愛すぎるぞ!!」
やはり噂を嗅ぎ付けたアタランテがぐだ男と会話してマトモでいられるわけが無かった。
日頃抑え込んでいた鬱憤や悶々としたものを吐き出し、これ以上とない狩人の顔つきでぐだ男を狙い始めた。流石のジャンヌもアタランテの変わり様に驚きつつもぐだ男を守るために立ちはだかる。
「五月蝿いぞ雑種共!そんなに騒いではコヤツも状況が掴めんだろう!子供に気を遣わせてどうする!」
「王さまー!」
「英雄王……貴様も私の邪魔立てをするか?」
「ハッ!子は国の財宝だ。それを愚かな大人共に摘まれてはコヤツが不憫だと言うだけのことよ。その先は、言わなくても解るだろう?なればこちらへ来いぐだ男。最近流行りのハンドスピナ○の原典をやろう」
「やった!」
「成る程……。現代の子供の流行りはそれですか」
「感心している場合かルーラー!このままでは
「賢王としての彼ならちゃんとぐだ男を教育出来ると思いますよ?」
「フハハハ!そう言う事だ狩人。ほれ、ついでにこの杖もやろう。アバダ・ケダブラと唱えると相手に即死が入るぞ」
「そくしってなに?」
木の枝をそのまま折って少し削っただけのような宝具を渡されたぐだ男。即死の意味が分からない年頃だが、取り敢えず言われた通り呪文を唱えてみることに。
ターゲットはギルガメッシュが指差すキャスターの自分を心臓マッサージするクー・フーリン(ランサー)。
「あばだけだヴら!」
何故か綺麗なVの撥音が入った呪文を杖は認識。杖先から緑白い光を一筋伸ばし、クー・フーリンに直撃した。刹那、断末魔か分からない呻き声をあげてキャスターの自分に覆い被さるように絶命した。
「クー兄ねちゃった」
「
「おじぎをするのだー!」
その様子を見ていた黒髭はとある卿の
「英雄王。幾らぐだ男とは言え、まだ子供だぞ。変なことを吹き込むな」
「そうよ。もし眼からガンドじゃなくて闇の魔術が出るのは嫌よ」
「いや、ガンドも呪いだし闇の類いであろう」
そう言う話ではないとエミヤがギルガメッシュとイシュタルに呆れる。
と、興奮から立て直したのかアタランテが鼻血付きの真顔で問う。
「それはそれとして、ぐだ男。今日は周回に行くのか?」
「いくよ。アタランテねえもいく?」
「ああ!」
やや食い気味に即答するアタランテ。だがそれに待ったをかけた人物が。
「御待ちくだされアタランテ殿。ぐだ男殿はご覧の通り幼子……そんな彼を簡単な周回とはいえ戦いの場には出せませんぞ。万が一があっては大変ですぞ」
「安心しろハサン・サッバーハ。今の私の眼ならぐだ男に近付く埃も見える。あのアキレウスですら捉えてみせるとも」
「……」
あ、もう駄目だ。コイツにはいくら言っても駄目だと確信した呪腕のハサンの表情が何とも言えない。
何とかして(色々と)危険な状況から守らないとと思考を巡らせているとBBとそのアルターエゴ一同がやって来た。
「わっ!本当にセンパイちっちゃくなっちゃんですね!余りにも無垢でBBちゃん、どう弄れば良いか分かりません」
「今は自重しなさいよBB。で、ぐだ男は戻るの?」
「さぁ……我等にも皆目見当つきませんな」
「でも、小さいぐだ男さんも可愛いよメルト?」
「メルトおねぇちゃんもリップおねぇちゃんもおはよ。みんなと仲よくできてる?」
「……まぁ、確かに可愛いじゃない」
「え?センパイ私は無視ですか?」
「自重せよキャンサー」
「何でですかぁ!」
BBには当たりがキツめのぐだ男は何故かその言葉しか返さない。
このゴールデンウィーク、彼女が全ての元凶な訳ではないが、少々自分の欲望を出しすぎたり仕方がないとは言え、面倒事ばかり押し付けてきたのが巡って潰されているのが影響していた。
BBもカルデアに来てから比較的大人しいが、隙あらば掻き乱そうとする辺り大分警戒されているようだ。ある意味とあるアラフィフアーチャーよりも厄介な相手だ。
「仕方がないでしょ。アンタ隙あらば掻き乱そうとしてるんだから」
「えぇー!私少しだけしか企んでませんよ!?ちょっとセンパイのマスタープロフィールを弄くって女の子にしてから色々しようと思ってた位ですよ!」
「充分過ぎです!確かに自重して下さいおか──BB!」
「確かに自重なされよBB殿。ところでお二方はお時間有りますかな?ぐだ男殿が周回に行きたがって仕方がないのですが、護衛をお願い出来ませんかな?あぁ、BB殿はそこで挙手をなさらなくて結構ですぞ」
「皆さん本当に私に酷くありませんか!?良いですよじゃあ!本当の諸悪の根源が誰か、教えてあげますからね!」
プンスカと擬音付きでBBが去ると、メルトリリスがBBの捨て台詞に悪寒を覚える。すぐに止めないと恐らく大変面倒臭い事になる、と踵を返した。
「あれ?メルト行かないの?」
「ぐだ男は任せたわよリップ。私はちょっと気になることがあるから行かないわ」
「……分かった。じゃあ私がぐだ男さんを守るね」
「お願い」
「呪腕の。
「心得た」
英雄王ギルガメッシュが苦手な呪腕のハサンでも、キャスターの方はどうやら普通に会話が出来るらしい。
他を雑種と呼んだりするのは変わらないがギルガメッシュも相手の話を聞き、会話がちゃんと成立している辺りが嫌われない大きな理由だろう。あのエミヤですら嫌がらないあたりが良い標本だ。
「私もお供しますけど、他に誰か誘いますか?」
「そうですな。アテがあれば是非とも」
「はい。じゃあ──」
◇
「私のタコの如く海魔が敵を蹂躙しましょう!!」
「
「ジルが子供の相手に最適だと思ったんです」
「タコだぁぁぁ!!おいしそう!」
「彼が適しているのは少し違う場面のような気がするぞルーラー……」
「大丈夫です。たまに興奮して眼が更に出てきちゃったり暴走しかけますが、ちゃんと押し込んであげれば落ち着くので」
「ちっとも美味しそうじゃ無いです……」
海魔が地面から生える腕達を一掃する。無論、タコには全く見えないがぐだ男はひたすら美味しそうだと興奮していた。
既に周回を始めてから5分。ジルのテンションとぐだ男のテンションとその他の上がりきらないテンションで妙な空気しか漂っていないこんな状況でも、腕は何も言わずただただ倒され、種火を落として逝く。
そんなハイテンションなジルも、かつては最高にCOOOOOOOLな
が、どうであれ生前の行い的にもアタランテは気が気ではない、と警戒しながらぐだ男の姿をその眼に焼き付けていた。
「いかがですかな?」
「さいこうにクールだよ!もっとやって!もっとやって!」
「よろしい!では、おきに召すまでこのジル・ド・レェ、宝具を打ちましょう!」
「あの、ジルさん。そんなに前に出るとぐだ男さんが危ないんじゃ……」
「前?──あぁ、これは失礼をッ。不肖ジル・ド・レェ、危うく役目を忘れるところでした」
「いや、既に忘れていましたぞ」
「ごめんねジル……おこられちゃった?」
「違いますよぐだ男。ジルは少し興奮しすぎたので落ち着いてもらうだけです。貴方はちっとも悪くありませんよ」
ぐだ男の目線に合わしてしゃがみ、自分に責任を感じたぐだ男を撫でるジャンヌ。子供の扱いになれている訳ではない筈だが、流石は聖女と言ったところか。
『ぐだ男君。ぐだ男君。居るかい?』
「ドクター?」
『良かった無事か。ちょっと訊きたいことがあるんだけど、良いかな?』
「ん」
『昨晩誰が君の部屋に入ってきたかとか、何か薬とか呪いを受けたとかはないかい?何でも良いんだけど』
「?ふつーにねてたよ」
『だよね……分かった。取り敢えず気を付けてね。シミュレーションとは言え、危ないから』
「大丈夫ですよロマニさん。ぐだ男さんは私達で絶対に守りますから」
『君の戦力はそのメンバーの中でも大きいからね。ぐだ男君を頼むよパッションリップ』
「はい!頑張ります!」
パッションリップが意気込んでガッツポーズをすると思いの外近くにあった木を薙ぎ倒してしまう。
その衝撃にパッションリップはビックリして尻餅をつき、倒れた木は海魔と戯れるぐだ男へと迫る。当然ながらパッションリップはそれに気付かず、アタランテは戯れるぐだ男を注視していて気付かず、ジルはまだ残る腕に芸術性を感じていて気付かず……辺りを警戒していた呪腕のハサンとパッションリップの行動を見ていたジャンヌだけがぐだ男を守るために駆け出していた。
「ぐだ男殿ォォォ!!」
「くっ!間に合わない!」
今まさにぐだ男へと覆い被さらんと迫る木。あと数cmとまで来たその時、ぐだ男が首を90度、折れそうな早さで回転させて双眸から閃光を放って木を逆再生よろしく跳ね返す──まではいかなかったが反らして直撃を回避した。
子供ながらにしてこの反射速度と自己防衛能力。そして眼ド。いよいよ「数合わせの一般人」が行方不明になっていた。
「……これは良いのでしょうか?もう世に放ったらまずい気がしてきましたけど」
「そもそもぐだ男殿は戦いが終わった後に以前の生活に戻れるのでしょうか?彼は世界の秘密を多く知ってしまった。今までの生活からは感じることのない神秘と脅威。そして彼自身の我らサーヴァントを繋ぎ止める力……と明らかに人外のガンド。協会達がそのまま放置など有り得ませんな。一時は心配されていた抗争も巻き込まれずに済みそうですが、生きた資料としてはいつか協会本部に呼ばれたり等もありそうです。どのみち、大多数の魔術師からすればただの一般人如きがと嫌われるでしょうな。まだ暗殺などの可能性もある。せめて……命の危険が無くなるその日まで、我らが傍でお守りしなければ」
「えぇ。彼が守った筈の世界に殺される……そんな、悲しいことはあってはいけません」
「よごれた」
「ご、ごめんなさい!私ビックリして……その……」
「きにしない。きにしない。おフロに入ればだいじょうぶだから」
埃を叩いてあげたいが、自分の手ではどうしようも出来ないとパッションリップは分かっている。でも咄嗟に出して行き場の失ったそれらはどうするべきかと体は迷っていた。
そんなパッションリップの心情を知ってか知らないでか、ぐだ男は巨大な爪を触る。無論、パッションリップは普段気を付けていても危険なものには変わらない。抜き身の刀をぶら下げているようなものだ。
しかしぐだ男はその爪を何の気なしに触って笑顔を見せる。
「リップおねぇちゃんはいつも気をつけてるから、つかれるよね。でもだいじょうぶだよ。ぼくはそれっぽっちじゃケガしないし、リップおねぇちゃんがすっごくやさしくさわってくれるから!」
小さなぐだ男なりの、励まし。ややあやふやな説明だが、それでも精一杯の気持ちを表していた。
パッションリップはその言葉で目頭が熱くなり、思わず泣いているのを悟られまいと天を仰いだ。
「メルトも……嬉し泣きしちゃえば良いのに」
ボソッと呟いた彼女の言葉は今ここには居ない、メルトリリスへと向けられていた。
◇
一方その頃。
カルデアではメルトリリスが怪しげな行動をするBBを追っていた。
「……何を考えてるのかしらあの女は……」
そう言葉を漏らしたが、悲しいかな自分のオリジナル。何をしようとしているのかは先程の捨て台詞で薄々勘づいていた。
出所不明の聖晶石を持ち、途中何かに気が付いたアンデルセンを無力化してこっそり侵入する召喚室。何を呼び出すつもりなのか、触媒はアンデルセンそのもの。
「……
「──とか思っているのは丸分かりですよメルト!今回の元凶は誰なのか、ハッキリさせてあげますとも!」
「ちぃっ!バレてたならしょうがないわね。まとめてゼリーにしてあげるわ!」
「あっははは!無駄です!てゆーか元々まとめてゼリーにするつもりだったでしょう貴女!私だってこんなことはしたくないんです!」
じゃあやらなきゃ良いだろう。と言っても無駄なのは分かりきっている。だからメルトリリスは即座に宝具を解放。召喚サークルの真ん中に投げられたアンデルセンを消し飛ばそうとする。だが──
「おっとそうはさせません!」
BBが自ら応戦する。
過去に“自分”が行ったチート程の力は無いが、それでも充分過ぎる力はあるBB。電脳空間ではなくてもシェイプシフターを呼び出して壁とし、FGO世界準拠のダメージ値へと置き換わったさくらビームで床ごと焼き払う。
「やっぱり
「今回は本気を出しちゃうとムーンセルとは勝手が違うので
「本当っ、メタな発言──ね!」
「だってぇ、本当は私がガチャ限定の鯖になる予定だったのに、どこかの誰かが配布にしようなんて良い始めて。何で貴女がヒロイン飾って☆5なのか!Fateのラスボス系後輩は代々桜顔って決まってるんですよ!?」
「それを言うなら私もリップも入るでしょ!」
「……っくぅ……俺は何を……?」
どうしようもないやり取りがなされている最中、鈍い頭の痛みで覚醒したアンデルセンが上体を起こす。
眼鏡をかけ直し、状況の確認。召喚サークルの真ん中に無造作に投げられた自分と『5月配布分』と書かれた袋に聖晶石が2つ。何をするにも重たい今の頭でも目の前の超級問題児が何をしようとしているのか予測がつく。
だからこそアンデルセンは
(どういう事だ?この馬鹿が俺を使って召喚しようとする奴は英霊になれる筈のない人類悪だろうに。いや、そもそもはぐらかされているがコイツらとぐだ男はどうやって知り合った?コイツら自信も喚ばれる筈が無いだろう。何が──いや、
「うふふ。もうその答えには辿り着いたのではないですか?」
「このドデカいメロン峠に響いた牛のような女の声……!?まさか!」
「酷い……そこまで言わなくても良いでしょうに、アンデルセン?」
「何て事してくれたんだこの
「まぁ、アンデルセン。私だってサーヴァントとして召喚された身。アルターエゴとして使えている以上、契約が切れるまでは禁欲すると己に誓ってこの度参上したのですよ?」
「何が禁欲するだ馬鹿め。どうせお前の事だ。ただ大人しくしているのではなく、いつ終わるか分からない禁欲プレイを愉しんでいるだけだろう。それも誰彼構わずやらかさないだけで、ぐだ男に対してはいつでもウェルカムなのが言葉の端々から読み取れて気に食わん。マーラか?」
矢継ぎ早に攻撃するアンデルセンとそれをいなす新たなサーヴァント──
「漸く来ましたね殺生院キアラさん!」
「よくもこんな怪物を呼んでくれたわねBB!」
「怪物だなんて。これからは仲間として戦うわけですから、
「ははぁ?成る程。先の事、か。おいBB。この間お前がカルデアに突然現れる前、何があって何をした?得意のチートか?」
「どうせ何をしてナニがあったか大体予想ついてるでしょうに。まぁ、でも良いですよ。お話ししてあげます。事の発端と結末を」
それにしてもネガ・セイヴァーのスキルでルーラーにも有利とれるって最早ビーストなのでは……?
それと幼女じゃなくてごめんなさいね!