Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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どういう事だ……?
病院でヤツが出たぞ……!物体X──いや!物体G(THE THING)が!

そして患者である俺が始末をせねばならないと……なんでさ。



Order.36 THE THING

 

カルデアにはいっぱい住人が居る。

ただの人から神まで多様な人種(?)が住んでいるのだ。

ただでさえ常識には収まらないのが殆どなので困ることが多い。

 

「カルデアが汚い!」

 

「はい……確かに汚れがたまっているように見えます」

 

「フ汚ゥ!」

 

「フォウ君器用だね」

 

困ることの1つと言えば今のような衛生環境の悪いところ。

召喚時に現代の知識を得るとは言え、やっぱり産まれも育ちも変わっているわけではない。そのサーヴァントの常識等がどうしてもカルデアに合わない事もあってこうして散らかったり壊れたりする。ローテーションで掃除当番を決めていた筈だが……これだけ広いとやっぱりね。

古参サーヴァントは全く問題ないが、最近短期間に結構増えたからまた発生してきたみたいだ。

仕方がない。

 

「マシュ。今日はモノポリ出来なさそうだ」

 

「そのようですね。残念ですが、カルデアの環境が悪ければサーヴァントの皆さんのみならずスタッフの士気にも関わります。早急に解決すべきかと」

 

「うん」

 

となれば先ずは放送室だ。そこで皆に連絡しよう。

 

「今日は忙しくなるぞー」

 

 

「──という訳で、今日は大掃除の時間です。各自自分の部屋を掃除し終えたらカルデア内大掃除部隊に合流して進めていきます。ここまでで何か質問は?」

 

「スタッフの方はどうなっている?」

 

「スタッフはスタッフでダ・ヴィンチちゃんとドクターが指揮してるから、サーヴァントの指揮は俺。何か問題が起きたらこっちに連絡するように」

 

「すまないが、ゴミの集積場所はどこになるのか教えてくれないか。今更の質問ですまない」

 

「ぁあ、ごめん。言うのを忘れてた。えー、取り敢えずゴミはドアの横に出しておいて。後で俺が回収しに行くから」

 

「ぐだ男様。ぐだ男様は大掃除部隊に入ると言うことですが、ご自身のお部屋はどうするんですか?」

 

そう。今回俺は最初からカルデア内(自室を除く場所全て)を大掃除する部隊に配属されている。と言うことは静謐の言うとおり俺の部屋はどうなるのか。

まぁ、そんなに散らかってないなら後でやるようだな。

 

「いえ。それではぐだ男様の手間が増えるだけ。だから私がぐだ男様の部屋を掃除します」

 

そう来たか……。

 

「静謐のハサン。ぐだ男とて男だ。隠しておきたい物もあるだろうし、手加減してやってくれ」

 

「何もないよ!?エミヤでも静謐でも誰が隅々まで見ても良いけど何か怖いから遠慮するよ!」

 

「えぇ~、本当にござるかぁ?」

 

「怪しいわね。敢えて見ても良いと言いつつ自然な流れで断る。怪しい……今正直に謝罪すれば神も許してくれる筈よ」

 

「……誰でも良いよ俺の部屋引っくり返して」

 

あらぬ疑いを掛けられたが、部屋を掃除すれば分かるだろう。もう任せる。

 

「我が子の部屋を掃除するのは母の役目!」

 

「それなら夫婦であるわたくしの方が適任です。何しろ夫婦ですから」

 

「……余計なことを言ってしまったな。すまない」

 

「もう良いよ……どうせこうなっただろうし。よし!じゃあ指示通り始めよう!繰り返し言うけど、宝具の使用は禁止!GOGO!」

 

女神だろうが英雄だろうが王様だろうが、住む所くらい綺麗にしてもらいたい。今と昔では違うのだ。今はカルデアに住む1人の住人として協力してもらう。

 

 

袖を捲って気合いを入れた俺はまだその時は気付く筈もなかった。この後起こる災厄(最悪)の事態を。

 

 

「流石旦那様(ますたぁ)。何もないと言うのに偽りは無かったですわ」

 

「母もいかがわしい物を持っていなくて安心です」

 

「私は寧ろあった方がそれはそれで……」

 

「ぐだ男がそんなの持てるような玉かよ」

 

「そう言いながらも実は警戒していたのは黙っていた方が宜しいか?」

 

「言ってるじゃねぇか!」

 

「キャット殿。モードレッド殿をからかうのは止めてくだされ。取り敢えずぐだ男殿の部屋が終わったのであれば大掃除部隊に合流していただけませんかな?あちらも手こずってましてな」

 

「呪腕様。いつからそこに?」

 

「丁度この辺りを担当していたら静謐らの声が聞こえたのでな」

 

わらわらとぐだ男の部屋から出てきたサーヴァント達に大掃除部隊に合流するように促す呪腕。

現在進行で掃除が進められているのだが、如何せんカルデアは(最近になってから更に)広い。開始から1時間は経ったのに4%程しか終わってないレベルだ。

 

「大分掛かかりそうだな」

 

「しかし槍の騎士王(オルタ)殿。それもこれも、我等サーヴァントが増えたからにも原因がありますな。故にきちんと整理整頓を心掛けるべきでした」

 

「ハサンのおっさんはちゃんとしてたぜ?ほら、最近ワンコとかも増えたじゃねぇか。あれだろ。な、父上」

 

「そう気を落とすなハサン。私も王であったが故こんな経験は無かった。それが経験出来るならばとても有意義なことだ」

 

「チッキショー!」

 

モードレッドが恒例のスルーをされて恒例の反応をして他のメンバーに宥められる。

そろそろキャスターの父上辺りが実装されてオレとちゃんと話してくれねーかなー、と思いつつ視線をカルデアの硬質な床に下げていく。と──

 

「──ん?」

 

……カサカサッ。

 

「んん?」

 

……カサカサカサカサ、カサササッ。

 

「んんんんん!!??」

 

「どうしましたモードレッドさん?」

 

それは漆黒。

まるで漆で塗り潰されたかのように黒く、艶がある。

 

それは神出鬼没。

現代の忍者が如く闇に紛れ、光を厭いし闇の世界に住まうもの。

 

それは驚異。

何でも喰らい、異常なまでの生命力で爆発的に数を増やす。

 

それは──

 

「あ……あれは……」

 

それは──

 

「あれって……!」

 

それは──

 

「コイツは──まさか!!」

 

それは──正しく人類悪なり。

 

 

「いやぁ、それにしても改めてカルデアの広さを思い知った次第よ。我々の住む所を綺麗にせねばと馳せ参じたが、これでは手が足りぬな」

 

「そうだねぇ……でも今日中に終わらせないと明日からGWだし、カルデアの保有するビーチに行って常夏を味わいたいからね」

 

「然り」

 

「ムスコ!ぱぱだっこにして」

 

「うむ、待たれよ母上。済まないが抱っこしてくれんかぐだ男」

 

「良いよ。どうしたティアマト?実の息子に抱っこされて恥ずかしかった?」

 

「ムスコだっこヘタ!」

 

「あの……ラフムさん。暫く見ない間に日本語堪能過ぎでは……」

 

マシュが疑問するのも無理はない。

何しろ久々の登場でいきなり口調がメタモルフォーゼしきったラフムが俺と話しているんだから。

 

「マシュ殿。因にだが某は真の名を『根岸 一之丸』と申す故。今後はそちらで呼んでは貰えないだろうか?」

 

「ぁ、す、すみません。根岸……さん」

 

「……!ぱぱ、こえきこえた」

 

「ん?声?」

 

ティアマトが頭の上にしがみついて周りをキョロキョロと見回し始める。ティアマトは俺達より耳などの器官が優れているから、よく遠くの音を感知して遊んでいる。

今回のもそれなんだろうな。

 

『──緊急事態発生。緊急事態発生』

 

「わっ!?何だ!?」

 

『カルデア内にて戦闘発生。敵侵入の可能性あり』

 

「カルデアのエマージェンシー放送だ……でも敵がカルデア内に?」

 

『ぐだ男!聞こえているか!?』

 

と、不意のアラートに驚いていると頭の中に直接声が響いてくる。

実はサーヴァントとマスターは遠距離でもやり取りできるように「念話」なるものが本来は使える。が、カルデアの契約だと特殊なのが災いしてグループチャットしているように皆が聞こえてしまうのだ。そうなると情報のやり取りが混乱するからしないんだけど……。

 

「聞こえてるよアタランテ。敵が出たってカルデアのアラートが鳴ってるけど、何か知ってる?」

 

『知って『助けてマスター!』るも『うわわわ『来たぁ!怖えええ!』わ!』なにも交戦『トナカイ(マスター)さん怖いです!』中だ!『おのれおのれおのれ!』

 

「混線してるぅ!?て言うか一部掛け声とかわざわざ念話しないで!で、何が居るんだ!?」

 

『『『『『『『ゴキブリだ!!』』』』』』』

 

「……なん、だと……!」

 

ゴキブリ。それは人類が発生するよりも遥か……遥か以前よりこの地球に存在していた生命体。

今より凡そ3億年前の時代、石炭期に発生し、未だに形態が変わらず行き長らえている生きた化石(黒い悪魔)だ。

しかし、コイツらは意外にも寒さに弱いのは知っているだろう。だからカルデアにはそもそもこの標高に来れる筈がない。

 

「だが……現にゴキブリがカルデアに侵入している……どこかの特異点からくっついてきたのか……?」

 

「先輩。ゴキブリと言うとやはりあの……」

 

「うん。潰れた楕円の黒いヤツだ」

 

『悠長に話してないで助けてくださいましマスター!玉藻かなりキツいんですけど!』

 

「今行く!場所は?」

 

しかし妙だ。ゴキブリが嫌いな人は多いと思うけど、こんなに皆が手こずるものか?確かに俺もゴキブリを退治するときビビって大きな声を出したりとかしちゃうけど……まさか幻想種だったりして。……まさか、な……?

兎に角、玉藻が言った場所へ向かうと掃除していた筈の廊下には瓦礫や焦げ跡等、掃除する前よりも更に酷い状況になっていた。

 

「皆!」

 

「来たかぐだ男!アレを見ろ!」

 

アタランテが俺の頭を掴んで無理矢理首を曲げる。

痛いと抗議する暇もなく、俺の脳は飛び込んできた視覚情報の処理を開始する。

上がる火の手。崩れる天井や壁。そして1騎のサーヴァントと瓦礫の上を這う黒い物体。間違いない……ヤツだ。本当にヤツがカルデアに侵入して来たんだ!!

 

「秘剣・燕返し!」

 

カサササッ!

 

小次郎の魔剣、燕返しだ。全く同時に3連続の剣撃がヤツ……生命体Gを襲う。セイバーと言えば彼女であるあのアルトリアでも無傷では避けられない(曰く、前よりも強くなっているそう)それならば最早積んだもの。

 

サヒュッ──!

 

「!?」

 

燕返しが当たる直前。コンマ01秒すら遅く感じるほどの刹那の世界で生命体Gは剣撃を捉えていた。更に体に当たらないギリギリで避け、その場から動いていないような機動を見せる。

 

「ぐほぉあっ!」

 

「馬鹿な……あれがゴキブリだって言うのかよ……ッ!」

 

おかあさん(マスター)あれ怖すぎるよ……」

 

「……ドクター!アレが何か分かりますか!?」

 

『どう見てもゴキブリだけど魔力反応もある。幾らなんでも無いとは思っていたけど……それは幻想種とみて間違いないだろうね。多分、ウルク辺りからついてきちゃったのかも』

 

「幻想種!?いや甘いよドクター!これは人類悪だって!」

 

あれ(まじんちゅう)とおなじやつ!」

 

『兎も角、そのゴキブリにはサーヴァントという概念を拒絶する性質があるみたいだ』

 

「概念を拒絶……?つまりアイツが攻撃を避けられ続けるのはサーヴァントという概念から繰り出される攻撃も概念から伸びた枝だから拒絶出来ると?」

 

『?説明のしかたは良く分からないけど、恐らくね。となるとサーヴァントからの攻撃は石ころ投げでさえ効かないだろうね。カルデアにはゴキジェットはないし……』

 

「エミヤ!ゴキジェットを投影だ!」

 

「それでは駄目だと言われたばかりだろう……私が投影してはそれは今言った概念に抵触する。私達は手出しを出来ない。あぁ、因にだがゴキブリはラテン語で『ルキフィガ』と言って、意味は『光を厭うもの』なのだが──」

 

「す、凄く格好いいです!光を厭うもの(ルキフィガ)……!」

 

ゴキジェットが無い。サーヴァントでは対抗できない。概念を拒絶する……つまり磁石のように弾いてしまう。ともなれば師匠と兄貴に作ってもらったゲイボルクもマシン系もえっちゃんに頼んだ邪星剣ネクロカリバー mk.IVも使えない。

 

「ぱぱ。ちーしたい」

 

「ちょっと待ってね。根岸居る?」

 

「此処に。母上の厠ですな?承知致し申した。さ、母上此方へ」

 

「ムスコ!おぶんへた!」

 

「彼も大分おかしな日本語だな……で、どうするぐだ男。私達はエミヤの言うとおり何も出来ないが」

 

「大丈夫。まだ手がある」

 

幸いにも、あのゴキブリはサーヴァントという概念は拒絶するが神秘を拒絶するわけではない。なら現状有効な攻撃を出来るのは人間である俺だけだ。あ。根岸も有効だけど……ティアマトのお世話中だから暫く帰ってこれないだろう。ゲーティアはどうしたゲーティアは。

 

『応援してるぞ!』

 

「お前そこかよ!まぁ良いや。丁度試してみたかったんだ。俺の新・ガンドを」

 

「新・ガンド?」

 

「私が説明してあげる。ぐだ男のガンドもとい眼ドは特殊な加護がなければ確実にスタンを与えられるデタラメなモノよ。それこそ、アーチャーの投影みたいにね。でもそれだけじゃ駄目。いずれ壁にぶち当たるわ」

 

「イシュタルさん、壁とは?」

 

「良く分からないけどきっと当たるわ」

 

イシュタルは時々何を言っているのか分からない事がある。

 

「そこで、わざわざスタンさせてから攻撃なんて面倒じゃない。だから、ここ最近で攻撃力を一気に高めたわ。もし倒しきれなくてもスタンさせられる。一石二鳥じゃない」

 

「確かに……最近の先輩のガンドは攻撃力が飛躍的に上がっていました。先の新宿でもチンピラを一撃でした」

 

「そ。これで益々人外じみてきたけど型月主人公なんだし少し位良いじゃない?ね、アーチャー。後輩なんだからちゃんと教えてあげなさいよ?ルート間違えるとヒロインにですら殺されるとか」

 

「止めてくれないか……」

 

「何だか触れてはいけない部分を知ってしまった気がします」

 

「まぁ、兎に角!やっちゃいなさいぐだ男!」

 

「応ッ!」

 

瞑目。聴覚で敵の発する音を察知しつつ己の魔力の流れに意識を集中させる。

令呪を三画。ここで一気に使う。最近令呪を使う機会がどうもしようもない事ばかりに思えてくるが、気にしてはいけない。

 

「──」

 

真っ暗な視界に光が走る。

己の魔術回路が眼球を走っていく。

 

「──真のマスターは眼で殺す!ハアッ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

撃つ。

撃つ。

撃つ!

 

「ちゃんと相手を視なさい!ただ撃っても当たらないわよ!」

 

「……ッ!」

 

分かっている。分かってはいるのだが、相手が速すぎる。この距離なら着弾までの時間はほぼ零に等しい。なのに、敵はこちらの弾道を読みきっている。まさか……俺の敵意を察知しているのか!

 

「……最近先輩が普通じゃないのではないかと思い始めました」

 

「安心しろ嬢ちゃん。──最初からだ」

 

速すぎる!このままじゃ俺が時間切れになる!このまま……逃がすものかぁ!!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

「ちょ──」

 

このまま撃ってても埒があかない。なら、確実に当たる距離に詰めるまで!

瞬間強化で自分をパワーアップさせ、跳び出す。ゴキブリもそれに反応して間合いを取るが……遅い!

 

「先輩がゴキブリと格闘を始めました!」

 

『見えてるよ!彼遂に幻想──え?人類悪?どうだって良いけど、殴りあいを始めたよ!え?オレと前にもやってる?』

 

「いけぐだ男!もっと腰落とせ!」

 

「何やってるのよ!そんなパンチじゃヘナチョコよ!もっと捻りなさい!あぁんもう!やっぱりマジカル八極拳教えておくんだったわ」

 

「この前教えた通りに殴るの!私の舎弟として恥ずかしい姿見せんじゃないわよ!」

 

外野も熱狂してくる。無論、俺とゴキブリの戦いも激しさを加速度的に増していく。

拳が当たったかと思えば、ゴキブリの姿が揺らいで残像が散る。ゴキブリも壁や瓦礫を蹴って小さいながらも破壊力抜群な一撃を俺の脇腹に叩き込む。

叩き込むと言っても、奴の攻撃手段は体当たりでしかなく、必ず俺にアタックした直後は隙となる。俺はその瞬間に筋肉を膨張させ、その衝撃で跳ねたゴキブリに顔面が地面に当たる位まで上半身を捻り下ろした全力の拳を叩き付ける。

指に伝わる感触……当たった!

 

「──っらぁ!!」

 

ドゴォッ!!

カルデアの床を亀裂が走る。床に埋まった俺の拳の先にはまだ奴の感触が残っている。零距離で魔術を何かしら使えば或いは──

そう思った瞬間、奴は俺の拳と瓦礫の間を瞬く間にすり抜け、床を破壊しながら俺の鳩尾に体当たりを仕掛ける。

全身が浮いて意識も跳びかけるが、メキメキと悲鳴を上げる体に鞭打って四股を踏むように踏ん張った。流石のコイツもそれには驚いたか、すぐさま距離をとって対峙する。

 

「眼を使え契約者よ」

 

「ぬぅん!」

 

休む暇など与えないし、与えられない。俺はすぐに眼ドを発射し、奴の動きについていく。

殴り、殴られ、血ヘドを吐きながら振り向き様に眼ド。宙に浮いた奴を叩き落とすために壁を蹴り、3回ほど宙で体を捻らせて遠心力フルパワーの回し蹴りを食らわせる。

流石のコイツも疲労の色が見え始めたのか、それとも脆弱な飛行能力のせいか、成す術なく再び床へと叩き付けられる。まだだ!

俺は有り余る回転エネルギーと位置エネルギーを新たな運動エネルギーへと変換すべく頭を下にして回転落下する。その運動エネルギーをそのままに動き出そうとするゴキブリへ拳一閃。マルタの鉄拳制裁もかくやと、辺りを破壊が支配した。

 

「はぁ!はぁ!はぁ!うっ……ぐ!」

 

「す、凄すぎます先輩……」

 

「もうアイツは普通の世の中じゃ生きていけねぇな。しっかり面倒見てやってくれ嬢ちゃん」

 

『まだ生きているぞ!トドメをさせぐだ男!』

 

『無理だ!もう彼のバイタルは危険レベルを突っ切っているんだぞ!』

 

「確かに先輩の目から煙が……」

 

畜生……あと少しだって言うのに体が動かない……。目も見えない。

 

──カサカサ……。

 

こ、コイツ……あれだけ戦ってもまだ動けるか!だ、誰か……誰かコイツを倒してくれ!じゃないとカルデアが……カルデアが闇に呑まれる!

 

「ぱぱー。ちーしてきたぉ」

 

「母上ー!そちらは危険に御座りまする!どうかお戻りを!」

 

「ぱぱー」

 

「ティアマト……?」

 

俺の真正面、ゴキブリの背後からペタペタと幼い足音が近付いてくる。まずい!いくらティアマトでもこのゴキブリに攻撃されたらひとたまりも──

 

「ぁうっ」コテッ

 

ブチャッ。

 

「──およ?」

 

「ぅえ~、ばっちい!ぱぱ、むししゃんばっちい」

 

「母上ー!そのような汚物をぐだ男に近付けてはなりませぬ!傷から菌が!」

 

「あー……あのちんちくりんもいけたのか。にしてもアレを一撃の攻撃力とかヤバイな」

 

『終わったのかい!?ボクには転んだティアマトに潰されたように見えたんだけど!』

 

「その通りですドクター。先輩の奮闘のお陰なのか、又はティアマトさんの攻撃力が遥かに高かったからなのか、一瞬で終わりました。一体何と先輩に声を掛ければ良いのか……」

 

心配するなマシュ。俺は充分にやったと思う。自分で言うのも何だけど、今回は滅茶苦茶頑張ったと思う。今までに無いくらい跳び回って殴って、戦ったよ。

けどさ、ティアマトが始めからやってればこんなことにはならなかったと思ってる自分も居るんだ。だけどさ、ティアマトとは言っても今は本当に小さい子供と同じだからそんな事させるのも良くないしアタランテも許さないし……もしかしたら根岸でも一撃とかなんじゃないの?ねぇ、俺は充分にやったよね?頑張ったよね?こんな小さい娘が出来たことも出来なくて、恥ずかしくないよね……?

 

「先輩、確りしてください先輩。戦いは終わりました。治療して今日は休んでください。掃除は私達が何とかします」

 

「うん……俺頑張ったよね?ティアマトとは言え、ちんちくりんの子供に出来たことが出来なくても恥ずかしくないよね?相手は強かったんだよね?なんか呆気なさ過ぎる終わりかただけど、泥沼の戦いをしていたわけじゃないよね……?」

 

「大丈夫です先輩!最近かなり基準とかおかしくなっていますが、普通あんなに戦えません!先輩は素晴らしいです!いっそこのまま自信を失って普通のマスターのように前線に出ないのも良いかと!」

 

「普通のマスター……俺普通じゃないのかぁ……」

 

「あ、いえ!その……!か、型月主人公ならこれくらい普通ですよ先輩!やっぱりこのまま強くなった方がいいかもしれません!ですよねエミヤ先輩!」

 

「う、うむ?そうだな……何なら俺──私が投影魔術位なら教えよう」

 

「何言ってるのよアーチャー。ぐだ男はこのままガンドを極めてガンドの英霊になるのよ。ガンダーのサーヴァントを新設したいわ」

 

「ガンダーラと聞こえたが余の話か?」

 

「いや、征服王が侵攻したそこではない」

 

「……兎に角、休みましょう先輩。ゴールデンウィークはきっと大丈夫ですから」

 

「……うん」

 

こうして俺の戦いは幕を下ろした。

明日からのゴールデンウィーク……滅多にないゆっくり出来る日を味あわずに終わるのか、或いはまたいつもみたいにサーヴァント達の騒ぎに巻き込まれるのか……どっちみち今の俺にはどうでも良かった。

マシュにお姫さま抱っこされて羞恥心とか感じる前に、死んだように気を失っていたから。

 





──ここがカルデアか。素晴らしい。

冠位時間神殿ソロモンが崩壊し、ぐだ男が一命をとりとめてから約2時間後。カルデアには侵入者が居た。
魔神柱アガレス。あの激しい採集決戦の最中、自分の中から溢れた感情で激しい矛盾を起こし、事故崩壊した魔神柱だ。
そんな魔神柱が何故カルデアに流れ着いたのか?それは彼の激しい感情によるものだった。

──解説といこう。私はあの戦いの中、見てしまったのだ。華奢でありながら強く、可憐(ロリ)な英霊の姿を。私達にとって英霊なぞただ邪魔であり異物。英霊如きが何を偉そうにと思っていた。倒すべきものであった。だが、私は己の中からとてつもない感情が沸き上がった。それを何と言えば良いのか分からぬ。ただハッキリと分かるのは──あの英霊をとてつもなく可愛いと思った。

彼に害意は無い。寧ろこのまま誰にも見つからずあのサーヴァントを見ていたい。彼はそれだけでこのカルデアへと泳いできた(・・・・・)のだ。

──しかし、このままでは私も自然消滅しかねない。何か容れ物を探さねば……ん?

そんな彼に俺を使えと言わんばかりのタイミングで現れる黒い物体。それは先の第七特異点からたまたま引っ付いてきた虫。
醜悪過ぎる見た目に彼はかなり躊躇したが、時間もなく遂にそれへと憑依した。虫ゆえに脳なるものはなく、自我もない。全てを自分に書き換えるのは容易だ。
後は魔神柱の成れの果てとて自己改造くらいは使えるので何とか作り替えていけばよい。何しろ、この体なら髪の毛でも食べて生けるのだから。

──よし。これでコソコソしていればバレまい。さぁ……君を今一度我が目に!ジャックたん!

それから暫くの後彼は発見され、やむ無く抵抗して最期はあまりにも呆気なさ過ぎる一撃でこの世を去った。


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ゴキブリはラテン語でルキフィガなのは本当です。
光を厭うもの の意味なのも本当です。

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