Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
うわー、フォウ君星4出たんか。うーん、50個ずつかぁ。今回幾つ貰えるんだろー?
ダメ報
3つずつ……だと……!?
『迷子のお知らせです。ネロ・クラウディスさん。迷子のネロ・クラウディスさん。保護者様が市役所にてお待ちです。また、お気付きになられた方がいらっしゃいましたら、市役所までお電話をお願い致します。繰り返します。迷子の──』
閑静な住宅街に響く迷子のお知らせ。探している相手は当然のことながらネロだ。
そう、俺は究極の選択として市役所に駆け込み、市内に放送で迷子のお知らせを頼んだのだ。
「本当に居るのかなぁ……」
「いるっ。さーばんとのけはいする!」
「それって聖杯戦争してるここのじゃないの?」
「いるの!」
「ぉ、おぅ……ごめんごめん」
プンスカと擬音が付きそうな仕草でティマトが抗議してきたので頭を撫でてあげる。
サラサラの髪を優しく撫でると、ティマトは眼をつむって擽ったげにそれを受け入れる。
……可愛いなおい!!
と、しまった。良く考えるんだぐだ男。姿が変わったとは言え、ティマトは原初の母だ。こんな扱い方で後で大丈夫なのだろうか……。
ゲーティア?そっちは良いよもう。
「ふぅへぇへへへ。俺のサングラスもイカすだろう!?」
何がだ。
どこで拾ったのか、真っ黒なレイバンサングラス(トップガンで有名なあれ)を付けて己を親指で指している。中身が違うだろう中身が。
「元気なお子さんですね」
「知り合いの子ですけどね。やんちゃで困ってますよ」
──って待ってくれ。お子さん?どこをどう見たらこれが子供に見えると言うんだ。どう見てもマスコットキャラか何かにしか見えないだろう。
受付のおばさん。この逆三角が果たして子供に見えるだろうか?胸にアークリアクター擬きが付いている子供が居るだろうか?方やデッカイ巻き角が伸びた子供が居るだろうか?
「ぐだ男さーん。お連れの方を保護している方がご連絡を下さいましたよ」
「へぇ見付かるもんだな。ありがとうございます」
誰かがネロを保護しているらしく、市役所に電話がかかってきたようだ。受付のおばさんの奥のおばさん曰く、知らない人に住所を教えるのは怖いと言うことで、その人の指定する場所で引き渡すとのことだ。
確かに、住所を教えるのは抵抗あるよね。
◇
「……はい。ではお願いします。失礼致します」
「どうかな?」
「来るに決まってるだろバーサーカー。声からして俺の嫌いな人間の匂いを感じたよ。誰かの為に命懸けられる奴の匂いだ。あぁ~……うぜぇな」
「それは結構」
「ぬぅ!貴様!もしやぐだ男を呼んだのか!」
「ぐだ男?それがお前のマスターの名前か?セイバー、ネロ・クラウディス」
カビ臭く、じめじめした地下室。そこの壁に手足を拘束され、半裸にされたネロの姿があった。
全身には傷があり、顔にも殴られたようなアザが見られる。
「今まで散々拷問してマスターの名前を吐かなかった癖に、電話で呼んだらすぐに言うとは。余程大切な奴らしいなぁ?」
「ぐっ……殺せ!ぐだ男を危険に晒すなら余は命を絶つ!」
「はははははは!!コイツは傑作だよ!サーヴァントがマスターの為に折角の召喚を無駄にするってよ!」
「……」
「殺せ!今すぐ殺せ!」
「まぁ、そう言うなって。まだお楽しみはこれからじゃねぇか。えぇ?」
下卑た笑みが張り付いた男がナイフ片手にネロに近寄る。血がベッタリと付いたそれは完全に男の手に馴染んでおり、愛用していることがネロにも判っていた。
それの刃先をネロのはだけた胸元からゆっくりと這わせるように首筋へと持っていき、頸動脈を切らないギリギリまでネロの肌を裂いていく。
「ぃッ──!」
「あぁ……ッ、たまらないよ。もしアンタをそのぐだ男って奴の目の前で犯したら、どんな顔するかなぁ」
散々痛め付けられたネロだが、まだ“そういった”事はされていない。男はぐだ男の目の前で、最後の仕上げをするつもりなのだ。
「やれやれ。君もどうしようもないな」
「あぁ?サーヴァントの癖してマスターに文句垂れてんじゃねぇよ。自害させるぞ」
「これは失礼した」
バーサーカーのサーヴァントは紳士的にそう振る舞う。
「……余とて、それくらいの知識はある……。もし貴様がぐだ男を殺そうならば、余が貴様の慰みものにも何でもなろう。だから、ぐだ男だけは……」
「──うぜぇ。てめぇに口出しできる権利はねぇだろうが。黙ってろ」
パァンッ!ネロの頭が横に降られる。
ただでさえアザが出来ている顔に、更に赤い張り手の後が追加される。
「…………ッ!!屑めがッッッ!」
「ほざいてろ。てめぇの前でマスターの心臓抉り出すとこ見せてやるからよ」
「……つまらない。全くもってつまらないな……」
そんなやり取りを見ていたバーサーカーは、小声でそう呟き、心底つまらなさそうに溜め息をついた。
◇
「ここか」
市役所から歩いて20分。川沿いの公園で俺はカワザキのエンジンを切った。ゲイボルクもマウントさせたまま、ちんちくりん共に待っているよう言い付ける。
「良いぜ」
「いってっしゃい」
市役所では可愛いと言われていたけど、他の人が見たらどうなるか分からない。それにただ
「……何か寂れた公園だなぁ」
遊具は比較的古びた感じもなく、さっき市役所で確認したとき今日は日曜日なのに子供1人も居ない。変な街だ。
何て考えながら歩いていると、不意に滑り台の上から声が降ってきた。
「あ!貴方がぐだ男さんですか?」
「そうですけど、じゃあ貴方が?」
にこやかな男性はそうですと丁寧な返事をすると滑り台を滑ってくる。何で滑り台なんかにと思っていると、突然握手を求めてくる。
「私の名前は佐藤太郎」
「改めましてぐだ男です。ご丁寧にどうも」
「ネロさんでしたよね。彼女は具合が悪いとかであそこの橋の下で休んでるのでそちらに場所を変えましょう」
「わざわざすみません。バイクは置いていっても大丈夫ですか?」
「あぁ、ここら辺人が全然来ないんで大丈夫ですよ」
言われ、確かに周りを見て納得すると、佐藤さんに連れられて橋の下に行く。
本当にすぐそこの橋の下で、日陰のそ──
「──ネロ!!」
「……」
彼女だ。ネロ・クラウディス。確かにあの時にコクピットで寝てたネロに違いない。だが、どうして……!
「佐藤さん!ネロはどうしたんですか!」
「サーヴァントに襲われて、ひどい怪我を……」
「サーヴァントに……!?」
ふと、違和感につっかえる。何か良くない違和感だ。そう、良くないやつなのに、ハッキリとそれが何なのか掴めない。
俺がそれに思考していると、ネロの目が開いた。
「ぐだ男……」
「ネロ!大丈夫か!?誰にやられた!?」
「に……げろ、逃げ、ろ……」
「──え」
「感動の再会なんて泣けるねぇ!下らなさすぎてさぁぁぁぁ!!!」
全身が総毛立った。その瞬間に俺はネロを抱き、地面に頭を打つのも躊躇わず背後から迫っているであろう何かを避けるべく倒れた。
案の定側頭部を強打し、視界がチカチカしかけたが危機は去っていないと全身の至るところから警告され、何とかしてネロを抱いたまま自前の脚力でスライディングをかます。
「ちっ。勘が鋭いやつだなぁ……バーサーカー!」
「ここにいるさ」
「つぁ……!」
「いやぁ、しかし……身をていしてサーヴァントを守るなんて……胸糞悪いことするじゃない?」
「お前か……!お前がネロをこんな目に会わせたのか!?」
「ご名答!」
自慢げにそう答えた男……佐藤にえも言えぬ感情が沸き上がってくる。
今まで戦ってきた敵とは根本的に違うもの。世界を守るため、人の未来を潰えさせないため……それが敵を倒す大前提だった。けれど今回のコイツは……コイツには初めて、それらとは別の目的が生まれていた。感情が生まれていた。
コイツを──殺したいと。明確な殺意が芽生えた。
「何だよてめぇ。何生意気な顔してんだよ。ま、良いや。どうせサーヴァント無しじゃ何も出来ないマスターだろ?バーサーカー、お前の好きなように
「……は、はは。はははは!」
「あん?」
笑いが止まらない。殺したくて仕方がない。
でも人なんて殺したことは1度もない。殺すつもりもないし、怖い。けど、サーヴァントは何騎も倒してきた。それも立派な人殺しではないのだろうか?
……そうだ。今さら臆する必要はない。このままだと俺もネロも殺される。もう人理の為に戦うことは無くなったから俺が死んでも大丈夫なのかも知れない。だけど、死にたくない。だったら殺すしかない。
「……ふむ」
「どうしたバーサーカー!やれよ!そんなマスター相手にビビってんのかよ!?」
「いや、君が危ないのではないかと思ってね」
「何──?」
ドルルルンッ!!バーサーカーが佐藤にそう言った瞬間、佐藤は全身の骨が折れる音を聞きながら10m以上先に飛ばされていた。
すると轢かれた佐藤を尻目に、バーサーカーは心底面白そうに笑い始める。
「成る程!それは宝具か!意志ある宝具だな!」
「な……がぶっ……!ゴホッ、──!イッッッ!!がぁぁぁ!!」
カワザキが俺の元に走ってくる。
俺は……もしかして俺が殺したいなんて思ったからカワザキが応えて──
「どうやらここまでのようだな」
「……、ぃ、バーサ……やれ……ッ」
「──何の権限があってかな」
バーサーカーがマスターである筈の佐藤の命令を無視して佐藤の右腕を掴む。すると次の瞬間、バーサーカーは上腕を踏んで肘の関節から右腕を引き千切っていた。
バーサーカー故の膂力で踏み潰され、握られた腕の骨が鈍い音で砕かれるのと形容したくもない、筋肉の引き千切れる音。そして佐藤の悲鳴。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッ!!!!!??」
「もう君はおしまいだ。もう君は死ぬだろう」
「……お前は──」
言葉が続かなかった。
サーヴァントもマスターを見限る事はある。カルデアではそんな事は無いけど、本来の聖杯戦争ならサーヴァントによる所謂「マスター殺し」は良くあることらしい。
契約したサーヴァントが突如として敵に回ることがある。その現実は、真っ当な聖杯戦争を知らない俺に強い衝撃を与えた。
「おい!起きろぐだ男!逃げるぞ!どのみちアイツらはもう脱落だ!」
「……あ、あぁ」
ネロを抱え、カワザキに跨がる。ちんちくりん共は俺の肩に乗り、運転をカワザキに完全に任せて俺はネロにスキルで応急処置を施す。
「……」
どんどん遠ざかっていくバーサーカー達。こうみると、辺りに人が居なかったのは人避けの魔術が使われていたのだろう。
兎に角、ネロの回復を最優先にしよう。
全身に渡って付けられた傷はとても痛々しく、相当手酷くやられたのが伺える。
「……ぐだ男……余は、頑張ったぞ。お前の為の……貞操も守……たぞ」
「な、な何いってんだよネロッ?」
「でもな……やはり、怖かった……余がお前を失うのも……余がお前を残して消え、るのも……どちらも嫌だ」
「ネロ……」
サーヴァントであろうと、皇帝であろうとも、彼女は間違いなく女の子であることに変わり無い。こんな酷い拷問を受ければ怖いに決まってる。
そんなネロは漸く得た安息に涙を流し、俺の体を強く抱き締めてきた。
そうだ。サーヴァントとマスターは間違いなく信頼しあえる。佐藤がああして自分のサーヴァントに殺されるのは、信頼しあえなかったからだ。
「……自業自得だ、佐藤」
◇
「逃げたか。まぁ良い」
「て、めっ……バーサー……カフッ!」
「安心したまえ。私は少し特殊でね。最悪、マスターが居なくても実は現界し続ける事が可能なんだ。私のスキルは非常に、魂(人)喰いと相性が良い。だから人を食べれば食べるだけ、私は現界を続けられる」
バーサーカーはそう言うと懐からナイフを取りだし、マスターである佐藤の腹に突き刺した。
そのまま腹を裂き、臓物が流れて出てくる。白目を剥き、最早死ぬ寸前の佐藤。バーサーカーは佐藤が排泄物を垂れ流し、数度の痙攣を鬱陶しくしながらもナイフを腹の中へと進めていく。
そしてポケットに入っていた袋に幾つかの内臓をしまい、いよいよお目当ての臓器を摘出した。
「本来なら外でなんかで捌きたくはないが……そう言えば、私は心臓も食べたことはあったが──魂と言うのは食べたことがないな」
バーサーカーは興味深そうに心臓を袋にしまってから解体に使ったゴム手袋を外し、佐藤だった人型の肉にポイと捨てると令呪が残る右腕を内臓とは別で布にくるむ。
「安心したまえ。私は美食家でもあってね。料理して美味しく頂くよ」
バーサーカーは自然な笑顔でそう死体へ投げ掛けた。
◇
逃げること10分。橋の下から6kmは離れた電波塔の天辺で自身の上着に寝かせたネロにぐだ男が寄り添っていた。
「具合はどうネロ?」
「うむ!良くなったぞ!流石余の伴侶だな!」
「元気みたいで良かった。暫くは大人しくすること。俺はもう一度カルデアと連絡が取れないか試してくる」
「ま、待ってくれ!余を置いていかないでくれ……」
「まだ駄目だって。魔力パスも繋がってないし、傷は治したけど体力が無いでしょ」
「けどぉ……うぅっ。余は、余は泣くぞぉ……!泣いてしまうからな!?」
「……分かったよ。どのみち場所を変えるつもりだったし一緒に降りるか」
ぐだ男が折れ、ネロを担いで梯子を降りていく。
流石に人1人分背負って梯子を下るなど、余程の筋力と体力が必要だが……戦いとは人を強くする。
「霊体化が出来ないとはねぇ……兎に角、ネロもそれだと目立つから着替えようよ」
「余は
「古い言いかたするね……よいしょ。兎に角、ボロボロの服を何とかしないと。暫くは俺の上着を羽織ってて」
「うむ!」
高さ20m以上の電波塔を42kg背負って降りたのだ。流石に疲労が見られるかと思いきやそんな事は一切無く、出来て当たり前だから気にする訳でもない。
そんなぐだ男はアサシンから逃げた森で着替えた魔術礼装カルデアの上着をネロに渡す。
万が一の為にとコクピットスーツに仕込まれていた量子化収納から取り出した魔術礼装カルデアだが、実際はただの服。なんの魔術効果は無かった。
「はぁ……余は幸せ者だ」
「大袈裟な……兎に角寝床を手に入れよう。空き家くらいならどこかにあるでしょ」
「しかし、どうやって探すのだ?」
「さっき市役所で図書館があるのを見た。そこならパソコンが使えるんだ」
「ほぉ。カルデアと似たようなものだな」
次の目的地は、寝る場所確保のためネットワークによる空き家ないし廃墟の情報。そしてそれを調べるために図書館へ向かう。
(ネロも辛い筈だ。早く楽にしてあげないと……)
(むぅ、やはり体が重い……魔力が欲しいぞ……。魔力供給、してもらいたいな)
ぐだ男から上着を受け取り、それに袖を通していくネロは彼から魔力供給をしてもらえるかどうか考える。
契約している筈なのに、パスが通っていない。霊体化も出来ず、お金が無いため代わりの食事も出来ない。それこそ最悪誰かを喰らえば解決にはなるだろうが、それはネロもぐだ男も許さない。しかし、ぐだ男も似たようなものだ。食事は出来ず、ゲーティアとティマトに魔力を割き続けている為に疲労感が増していく一方。
そんな彼に頼んでも良いのだろうか?ネロはその問題に頭を悩ませる。と、そんな彼女の両肩にポンッと小さなネロが現れる。
『ぐだ男から魔力供給をしてもらうぞ!』
『いいや、待つのだ。ぐだ男も辛い筈。ここは良妻になる為に我慢が大事なのではないか?』
「お、お主達は良き余と……良き余か」
どっちも同じ花嫁ネロだった。どちらが善悪か見分けのつかないネロはこの奇妙な現象に興味を持ちつつも未だ続ける2人の会話に耳を傾ける。
『その良妻になるためにも余は生き残らねばならぬ。ならば、魔力を分けて貰うしかあるまい』
『それではぐだ男が生き残れなくなってしまうではないか』
『いざとなれば鳩を食べれば良いではないか。それよりも、魔力供給と言えばどうする?』
『どうする?ってそれは勿論キスとか──っは!?まさか余は天才か!』
『そう!余は天才だ!魔力供給をしてもらいつつ、余はぐだ男と唇を重ねる……つまり夫婦の契りを交わすのだ!』
『「余は天才だな!」』
『うむ!それでもって余は更なる愛を手にし、この訳の分からぬ世界から脱出するのだ!しかしぐだ男は疲れている。故に、寝込みに実行する。そうすれば眠って体力を回復しつつ余も回復できる!』
『「うむ!流石だな!」』
いつのまにか意見が揃ったネロは今夜魔力供給をして貰うことを計画し、高鳴る鼓動を押さえるので必死だった。
◇
「──!先輩が危ない気がします!」
「そうなのかい?こっちは何も掴めずだよ……」
一方のカルデア。
ゲーティア達と共に行くことは出来なかったマシュが必死でぐだ男の捜索に当たる管制室でタイピングしながらそう声を出した。
「えぇ。わたくしもですわ。こう、主に夜的な意味で」
「夜的!?それって遂にぐだ男君の正妻戦争が終結するって事かな!?」
「あちらへ吸い込まれたのはネロさんだけ。これは火生三昧事案です!!」
「──ぁぁぁああ!!クッッッッッッソムカつくわ!!そんなんしたらアイツの秘密トゥイッターに書き込んでやるぁ!」
「ほぅ?そんなにアイツが心配か?復讐者は余程嫉妬も熱く燃えていると見た。よし。私も貴様のその様子をトゥイッターに上げてやろう。何、安心しろ。嘘偽りなくな。『邪ンヌ嫉妬なう』」
「しぃぃぃねぇぇぇぇ!!」
「ふむ。これはまた別ベクトルの戦争の予感だナ」
「それはめでたい。結婚式は是非私の教会で」
「収集つかなくなってきたぁ!ぐだ男君ーー!早く戻ってきてくれぇ!いや、でも戻ったら戻ったで大変だ!うわぁぁぁ!!」
チロチロと口から火を吐き始めた清姫やケンカを始める邪ンヌとアルトリア(セイバーオルタ)、その他多数のサーヴァントが騒ぎだして管制室はいよいよカオスと化す。
と、そこであるサーヴァントが閃いたように呟いた。
「残ってる聖杯とか英雄王の蔵の物で何とか出来ないのかな?……まぁ、ボクは歩いて行けるけどね」
最後の方は誰にも聞こえないように囁いたのだろう。
聖杯と英雄王、その2つのワードを聞いたサーヴァント達が目の色を変えて管制室を出ていき、あるいは同じ管制室でぐだ男の捜索に当たるレオナルドを締め上げんと宝具の解放をし始める。
「待ちたまえ。そんな暴力を私に振るわなくても聖杯は渡すつもりさ。それよりも、そう簡単には渡しそうにない英雄王の方に行った方が良いんじゃないかな?」
レオナルドは見事な誘導で暴走するサーヴァントたちを全て、英雄王ギルガメッシュへと矛先転回をさせる。
その数秒後、カルデアを英雄王(弓)の悲鳴と宝具が震わせたのは言うまでもない。
◇
夜。
手頃な心霊スポットとやらを見付けた余達はそこで夜を明かすことにした。
病院だった建物らしく、県内最恐と言われているそうだ……。い、いや、余は怖がってなんてないぞ!?
「ふぅん。雨も大丈夫そうだね。1つ心配があるとすれば虫かな」
「いや、そこは“出ること”じゃないのか?」
「?別にそれはどうでも良いんじゃない?どうせ何も起きないでしょ。カルデアだといつも誰かに見られてる気がするし変な夢ばかり見るし起きたら体のどこかに手痕とかあるし苦しいし、ちゃんと寝れてないけど、ここなら別に“何か居る”だけでしょ?カルデアより快適よ」
「──」
流石のゲーティアも絶句。
「ぱぱ、ねんね」
「お?眠いか。じゃあネロは悪いけど俺の上着で何とかしてくれ。ちんちくりん共は悪いんだけと俺を枕にして」
余はぐだ男の上着を丸めて枕にし、ゲーティアとティマトはぐだ男の腹や腕を枕にして寝る。そしてぐだ男はそのまま何も敷いたりせずに寝始める。
慣れているものだな。余はぐだ男のようには出来ぬ……ズボン(魔術礼装カルデア)まで脱いでそれをちんちくりんの掛け布団とし、コクピットスーツも同様にちんちくりんの敷き布団に。それでは、ぐだ男の身に纏うものはコクピットスーツの下と下着シャツだけではないか。
やはり、良き男だ。やはり迷惑をかける事にはならぬのだろうか……。
「……今さら何を。夫婦とは互いに迷惑を掛け合ってこそであろうて」
余は決心したのだ。大丈夫だ。魔力供給のやり方はクロエや本を見て会得している。余はやるぞ!!
「ネロうちゃい。しっ」
「怖いのかネロ?」
「こ、ここ怖くなんか無いぞ!?ただ少しだけ、寒いだけだ!?」
「……分かった。じゃあこっち来て皆で上着を布団にしようよ。正直俺も寒い」
「ぅ、うむ。分かった……」
余は全然怖くなんて無いが、ぐだ男が言うなら仕方がない。うむ!しかたがないな!
「お休み」
「……」
「おぁしみ」
「良い夢見ろよ!」
「うちゃい」
余は結局、ぐだ男の腕枕だけで満足してしまった。だが、それでよかったのかもしれないな。
まったく……それにしてもどこまでも余を焦らすのが巧いな。だがそのお陰で変な足音や声等が気にならなくて済んだぞ!
◇
「バーサーカーのマスターが死んだ?」
「そのようだ」
「どこのマスターがやった?」
「いや、それは正しくない。バーサーカー自身がマスターを殺した。確かに、他のマスターの攻撃は受けたが、トドメを刺したのはバーサーカーだ」
「マスター殺しか……どのみちバーサーカーは脱落だな。他は?」
「アサシン、ランサーは確認した。バーサーカーと交戦したのはどのサーヴァントか分からない」
「聖杯戦争が始まって2日。早くもバーサーカーは脱落か……俺も出る。アーチャーお前は今までと変わらず他のサーヴァントとマスターを偵察して、全員把握したら得意の狙撃でマスターでもサーヴァントでも倒してくれ。俺は非力だから餌にしかなれないけど」
「大丈夫だ」
小柄なサーヴァントがスナイパーライフルを担ぎ、マスターを置いて早々に窓から跳び出していく。
「俺は勝つ。待っててリミちゃん」
マスターはチェックの服を纏い、眼鏡とアニメキャラクターのプリントされたスマホを手に立ち上がった。
バーサーカーのキーワードは
「美食家」「男」「人肉を食べる」
アーチャーは
「スナイパーライフル」「男」「小柄」
バーサーカーは流石に簡単すぎですかね。