Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

17 / 82
遅くなりました。
これからは忙しくなってかなりのローペースになってしまいます。
なるべく早めに出していくつもりですが、あまり期待はしないでください……

あと、この話で本当にソロモン倒したんですが、書いている内に最初のぐだぐだ粒子が薄れてきて急に真面目にやりはじめてしまいました。なのでハッキリいって自分でもよく分からないことになってますw
そんな駄作でも、読んで頂けたらとても光栄です。

所々都合よく解釈や設定しているので実際の方とはあまり比較して読まない方が良いと思います。



Order.17 終局特異点 冠位時間神殿ソロモン

 

 

翌日。

今日のカルデアの朝は非常に早かった。何故こんなに早いのかは先程の緊急会議に遡る─

 

「皆。突然の会議でごめん。実は終局特異点についての話をしたいと思って集合をかけたんだ」

 

カルデアで一番広く、100を越える英霊達が収まる場所……食堂で集合したカルデア内全英霊と職員。そしてマスターであるぐだ男が皆の視線を受けながら椅子の上で声を張っていた。

 

「第七特異点を攻略して暫く経ったけど……忘れていないかソロンモの存在を!」

 

「ソロンモ?」

 

「誰だ?」

 

「アレだろ。旨い肉の」

 

「それはホルモンだな!」

 

「……ソロモンじゃね?」

 

「ソロモンか!」

 

「あー……居たなそんなの」

 

「そいつがどうかしたのかマスター」

 

ザワザワと賑やかになってきた皆を静かにして、ぐだ男が再び声を張る。

 

「そのソロンモがどうやら俺に呪いをかけたらしい。このまま放置しておくと死ぬ危険があるとマーリンにも言われた。そうなったら人類は今度こそ終わるかも知れない……だから!今日そのソロンモにカチコミをかける!」

 

「急に呼んだと思ったらそんな事か。下らねぇ」

 

「オルタニキ……」

 

「俺は寝る。戦いに行く時になったら呼べ」

 

「─あぁ。頼りにしてるよ」

 

1人食堂を後にするバーサーカー、クー・フーリン〔オルタ〕。いつものようにぶっきらぼうな男だが、その言葉には彼なりのぐだ男への優しさと闘志が宿っていた。

無論それを分からない皆ではない。その中でもぐだ男もまたそれをより強く感じていた。

 

「……これから向かう戦いは危険なものだ。もしかしたらカルデアに戻ってこれない事もあるかも知れない。そしてそれは俺も同じ事だ」

 

終局特異点 冠位時間神殿ソロモン。それは今までになく危険で不明。混沌とした場所である。

 

「俺はカルデアのお陰で皆と契約できている。俺1人だったらマシュとでさえ契約できなかったのではないかと思う程に弱い人間だ。それだから恥ずかしい事に、皆の力が無かったらここまで来るなんて到底無理だった……きっとこれからも」

 

「先輩……」

 

「本当に今更だけど、あのソロモンを倒すために皆の力を貸して欲しい」

 

「おいおいマスター!ちょーっと違うんじゃね?オレ達は力を貸してるけどさー、命も預けちゃってるのと同義な訳よ。何しろオレ達はマスターあってのサーヴァントだし?運命共同体だからさ。その意味を分かっちゃいないオレ達じゃないぜ?」

 

「そうですねアンリマユ。私達は貴方に力を貸しても良い。貴方に力を貸したいと思ったからこそ、召喚に応じているんです。その事に関しては皆さんここに来る前にとっくに理解してますよ。それとも、私達は貴方のサーヴァントとしては力不足ですか?」

 

「そんな事はないよ時貞っ。寧ろ物凄く頼もしい!勿論皆も」

 

「オレは最弱だけどな」

 

「フハハハ!最弱のサーヴァントである貴様が出張るチャンスなぞ無いであろう」

 

「だからオレは最弱だって言ったじゃん!?」

 

「最弱全敗の英霊(サーヴァント)ワロタw」

 

誰も彼もがぐだ男への助力を惜しまない様子で己の気合いを言葉に表している。

これから向かう場所は先に述べられたように誰にでも危険が迫る。それを怖くないと言えば嘘になる。だが、こんなにも心強く、背中を任せられる仲間達が居る。

全員が来るわけでは無いが、それでも気持ちは一緒だろう。伊達にこの多くの英霊達を絆で繋ぎ止めてきたこの(人類最後のマスター)ではない。

 

「じゃあ私から話をさせてもらうよ。えー、終局特異点には数字に表すのが嫌になる程の魔神柱の反応がある。これが意味するのは苦戦なんてレベルじゃない」

 

「それにその特異点に行くとぐだ男君の魔力だけでは皆を現界させ続ける事は出来ない。魔力が尽きたらここに戻ってきてしまうから気を付けてくれ」

 

終局特異点へは今から1時間後となる。それまで各自が行くか否かを決め、決戦を目指す。

 

「ぐだ男様の安眠を妨害……」

 

「まったくもって許せませんわ」

 

「えぇ。この母も怒りました」

 

((((あ……ソロモン今回無実だ……))))

 

 

ソロンモ「……悪寒?」

 

バルバトス「えぇ、まぁ」

 

フラウロス「私もだ」

 

ソロンモ「何を恐れているのか知らないが、何百万と削られなければお前達には何も問題ないだろう」

 

バル・フラ「でも……」

 

フォルネウス「分かるぞその気持ち。私も特に今日は背筋にずっと氷が当てられているような寒気だ」

 

ソロンモ「背中など無いだろう。兎に角いつカルデアの者達が来ても良いように準備をしておけ」

 

この時、この3柱の予感があんな形で的中してしまうとは誰も思っていなかった。

 

 

「ぐだ男君。レオナルドが今忙しすぎて手を離せないからボクからこれを渡すよ」

 

「はい。……これは?」

 

「カルデア戦闘服 弐ノ型。なんでも、これその物に反応的強化の魔術が仕込まれてるあるから最高5回はヘラクレスの攻撃を耐えられるみたいだよ」

 

管制室でドクターがカルデア戦闘服を渡してきた。

従来の物とは少し変わってガードが増えており、色もやや黒みがかっている。

それを受け取ってすぐに着替える。体のフィット感も前と殆ど変わらない。

 

「良いかい?あくまで最高5回だ。何が言いたいかと言うと、もしヘラクレス以上の攻撃力だった場合はそれに限らないってことだ。もしかしたら一撃で全て剥がされてしまうかも知れない。だからそこまでの過信は禁物だよ」

 

「分かりました」

 

「あと……他のサーヴァントとのレイシフトが出来ない状態になった。辛うじて1人くらいだったら行けるんだけど……ソロモン側に勘づかれたからだ。このカルデアも終局特異点に取り込まれつつあるから、機器の調整とかは間に合わない……本当に残酷な事を言っているのは分かる。だけど、君だけが本当に最後の希望なんだ。だから、言わせてもらいたい……ぐだ男君1人終局特異点へとレイシフトし、ソロモンを倒してきてくれ」

 

「……そう、なりますよね……大丈夫です。分かってた事ですよ。まさかここまでの縛りとは思いませんでしたが、それ位の覚悟はしていました。正直倒せる自信は毛頭無いですけど……もし俺が行って時間を少しでも稼げたりしたら良いかな?」

 

「だ、駄目です先輩!!そんな事は自殺以外の何でもありません!ドクターも考え直して下さい!」

 

「ボクもぐだ男君1人で行かせたくない!だけど他に方法が無いんだ!このままソロモンの妨害を掻い潜ろうとしてもカルデアが終わる……どうしようもないんだ!」

 

「そんな……」

 

「だけど手が無いわけじゃないぜロマニ。ウチで回収した聖杯を使えば何とかなるかも知れない。でもそれだけじゃ時間が足りない。かと言って聖杯全部を使っても間に合わない。だったら、ぐだ男に1つ聖杯を持たせて時間を稼いで貰うしかない」

 

「ダ・ヴィンチちゃんまで……!先輩が死んでしまったら何もかもおしまいなんですよ!その聖杯の1つで私を何とか先輩と一緒にレイシフト出来る筈です!」

 

マシュも感情的になって声を荒げている。それも仕方がない。何しろ神風よろしく特攻を仕掛けてくるのと同じだ。しかも敵は数えきれない戦力でこちらは俺1人。聖杯込みでも絶望的だろう。

 

「……確かにそれなら出来るかも知れないけど、安全が保証できないよマシュ。それでも─」

 

「それでも!何もせずにここで先輩1人を送るより遥かに有益と判断します!ドクターロマン、レオナルド・ダ・ヴィンチ……お願いします!」

 

「……分かったよマシュ。もう時間もないからすぐに始める。ロマニ、暫く私の代わりに他のスタッフの面倒を見てやってくれ」

 

ダ・ヴィンチちゃんはこうなる事が分かっていたのか、はたまた準備の良さなのか既に保管していた全聖杯を持っていた。その内、1つがマシュへと渡される。

コフィンへ向かうと、ここまでの僅かな間にドクターから聞いたのか、大勢のサーヴァント達が周りに集まっていた。

 

「ぐだ男!聞いたぞ!余達を置いて1人でそろんもを倒しに行くそうだな!余は認めんぞ!そんな事をしたら貴さバァッ!?」

 

「落ち着いてください私が知らない方のネロさん!」

 

「な、何をしたキャス狐!もう1人の余にドロップキックをしたように見えたのたが!コノヤロー!」

 

「みこーん!?鋭い一撃が私の延髄にィ!」

 

「おたくら黙ってる事が出来ないのか……」

 

「悪いねぐだ男。コイツらいつも五月蝿くてさ。アタシにもお手上げさね」

 

「マスター。貴方は素晴らしい人だ。だからここでそう簡単に死ぬ人ではないと確信しています」

 

「そうだな青セイバーよ!貴様はやはりそうでなくては余の伴侶としてはちと物足りぬからな!だからさっきの言葉は忘れろ」

 

サーヴァント達が各々の思いを打ち明けて、俺の事を心配してくれたり鼓舞してくれたり。中には魔術やルーンで加護をモリモリ付けてくれるのも居た。

そして誰もが、最終的に俺が還ってくると信じてくれている。

 

「俺も死ぬつもりはないよ。皆も後で来てよ? 流石に辛いし」

 

「おうよ大将!必ず後から行くぜ」

 

「ぐだ男君!そろそろお願いできるかな」

 

「分かりました」

 

レイシフトが開始する。恐らくこれが最後のレイシフト。勝っても負けても俺がこうしてコフィンの中で得も言われぬ恐怖に体を震わすことも……。それが何だか寂しくて、嬉しく思っている。

 

「レイシフト開始!」

 

視界が真っ白に染まったのはその声が聞こえた直後だった。

 

 

ナベリウス()「……何故こうなった……」

 

バルバトス『な、鍋ぇ!!助けてくれ!心臓が!私の心臓がもう二百万も……ぐぉあああああ!?止せ!止すんだぐだ男!わ、分かったから!分かったから攻撃をほぉぉぉっ!?ソコほじっちゃ──アアアアアアアア!!』

 

『もっとだ……もっと寄越せバルバトス!!』

 

『貴様に朝日は拝ませねぇ!!』

 

バルバトス『フラウロス!応援寄越してくれ下さいお願いィィィ!!歯車とか頁とかがががががががが!!おふぅん……』

 

鍋「どう言うことだ!バルバトスが数分保たずに死んだぞ!」

 

バアル『フラウロスも危篤状態になった!敵は計算外の……う、ウグアガァァァァアアア!!こんなふざけた事があってたまるか!従えるか!死ねるか!容認してたまるかぁぁぁ!!』

 

鍋「アモン!末端が死にかけているぞ!しっかりしろ!」

 

アモン『ハァ///ハァ///』

 

他魔神柱「え?」

 

『勲章寄越せやぁぁ!!』

 

『鎖を出せぃ!』

 

アモン『ンギモヂィィィィィィ!!』

 

バアル『もう駄目だぁ!こんな茶番に付き合ってられん!逃げるからな!』

 

鍋……ナベリウスは混乱していた。

何しろ、ぐだ男達が現れて数分で相対していたフラウロスが半殺しにされ、それから更に十数分後には召喚阻止していた筈のカルデア英霊達が次々と現れて片っ端から魔神柱を潰していくではないか。

しかもどいつもこいつも魔神柱を嬲っては中身を抉り出しては雄叫びを上げている。中には魔神柱より遥かに強いラフムまでカルデアに加わって魔神柱を喰らっており、ティアマトの眷属かの如く力を振るっている。

ぐだ男に至っては半狂乱で魔神柱から心臓を抉り出してケタケタと笑っている。いや、嗤っているか。

その様子はかつての特異点でラフムが人々を殺していた様子を思わせる。

 

ゼパル・フェニクス・ウラム『我も』

 

鍋「あっ、お前ら!」

 

魔神柱のどれかA『ウォォォオオオ!!ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィ・ランサーたんカワユス!何事も頑張る姿は論理的に歓喜なり!』

 

魔神柱のどれかB『ウォォォオオオ!!ジャックたんカワユス!おパンツ丸出しロリッ娘は正義なり!』

 

魔神柱のどれかC『ウォォォオオオ!!ナーサリーたんカワユス!ゴスロリとお茶会こそ至福なり!』

 

魔神柱のどれかABC『ロリッ娘を守る事こそ人理なり!!』

 

鍋「馬鹿かお前ら!!!!!!」

 

各所からくる報告や悟りや阿鼻叫喚に無い耳を塞ぎたくなるようなナベリウスの目の前にも複数のサーヴァントが現れる。

 

鍋「ハッ!?き、貴様ら何用だ!?」

 

「何用か?決まっています。私達はサーヴァント。マスターの手助け以外にここに来る理由がありますか?」

 

鍋「お、おおっ……大有りだ旗の聖処女!!もしや人理修復よりも素材目的になっておらんか!?」

 

「口を挟んですまない。俺達は決して心臓や逆鱗が欲しくて奮起している訳ではない。お前達を滅ぼすついでに素材が出てきているだけだ。ありがとう。本当にありがとう」

 

鍋「お、おおっ……お礼とかヤメロ!!」

 

「ねーねー。早いとここのキショイのも殺っちゃいましょうよ。子イヌも素材なら何でも嬉しいって言ってたし」

 

「えぇ。ますたぁの為ならこの清姫、幾らでも犬のように……あぁっでもどうせならますたぁだけの牝犬でも……」

 

鍋「ふざけてるだろ貴様ら!?」

 

いい加減に最終決戦という……普通であれば誰もが緊張や恐怖、闘志を秘めた命のやり取りの場であるのにキメてしまったのかと疑いたくなるような戦場全体の空気。それに堪えかねてナベリウスが激怒する。

一番怒りたいのは何を隠そう玉座のソロモンだが、立場や順序(ストーリー)の関係上出てくることは出来ない。それの代わりもと言わんばかりの怒濤の怒りも相まってナベリウスのただでさえ飛び出てる多くの眼が更に飛び出した。

 

「うっさ……五月蝿いですね。貴方であればこれ位の数串刺しに出来るのではありませんか?」

 

「余の二万の杭をもってしても数がさして変わらぬ。そこのサムライであれば一柱ずつ確実に屠る事も可能であろう」

 

「流石の拙者も相手がワイバーンでは無いのが辛いで御座るなぁ。武蔵殿であればその“すたんど”なるものを顕現させて斬れば捗りそうだが?」

 

「私のはスタンドじゃないわよ小次郎」

 

「えぇ~、本当に御座るかぁ?」

 

「本当よ!大天象!」

 

鍋達「ぐぉぉぉぉぉ!!」

 

ナベリウスの怒りも大して気にされず、武蔵の宝具ビームを食らう。

何柱か一部が蒸発して修復を行う中、遂にナベリウスがぶちギレた。

 

鍋「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇ!!」

 

怒りで頭の中が焼却式したナベリウスが敵味方構わず無差別攻撃を開始した。修復途中の魔神柱もサーヴァントも関係無い。今のナベリウスの眼(複数)には生きているものが全て敵である。

流石にこれにはサーヴァント側も退避して様子見に徹する。

 

「こちらも終わりですね。私達はそちらへ行けそうにありませんが……マスター、貴方なら勝てると信じています」

 

 

アンドロマリウス「何故だ。何故貴様らがここに来ることが出来たのだ。例え聖杯を使っても、カルデアがこちらで半ば取り込んでいた結果召喚は不可能だった筈。何故だ?何が貴様らに力を与えたのだ」

 

「五月蝿いですよ安藤!問答とか疲れるので結構ですし、早いとこ素材を渡してくれれば良いんです」

 

「Xさん五月蝿いです」

 

「なにおー!」

 

「クハハハハハ!この程度か!この程度であの男を止められるとでも思っていたか、愚かな魔神柱!」

 

「アンタもうっさいのよ!その笑い声何とかなさいよ!もうちょっとアヴェンジャーのサーヴァントとして自覚もってんの?」

 

「いや、アンタこそ同じアヴェ鯖としてたまにする恋する乙女的な反応とか何とかしろよなー。大先輩のアヴェ鯖として俺が忠告しておくぜ」

 

「ルーラーの私からすれば何だかんだ貴方達復讐者が基本常識と礼儀を弁えてる時点でアヴェンジャーの自覚を持ててるか気になりますけどね」

 

「確かにお主ら普段他の鯖と比べても問題を自発的に起こさないし常識をちゃんと持っておるよな。やれドラクルやれデブとは大違いじゃ」

 

「はいはい。分かったので退いてください。どうせ種子島も特効刺さらないんですから」

 

「残念じゃな沖田!生憎この種子島は最近改良を重ねてアンマテ(anti‐material)になったのじゃ!」

 

「それは本当に種子島なのかと!」

 

信長が召喚した種子島はどれもバレルが延長されていてマズルブレーキも追加されている。種子島と言いつつ実態はサーヴァントにも特効抜きでも物理で刺さ(穿つ)る対物ライフルである。

 

アンドロマリウス(安藤)「ヌグォッ!!」

 

「うわー。特効とか関係無く威力高いのチートっぽいですね」

 

「なぁにが廃棄孔だ。これから廃棄されるのはお前だと言うのにな」

 

「何だか悪役っぽいです先輩!」

 

安藤「くっう……」

 

「クハハハハハ!お前は何をドロップしてくれるのかなぁ……アンドロマリウス」

 

弱ったアンドロマリウスにゲイボルクを器用に回すぐだ男が接近する。身を守る為に向かってくる触手は一撃で斬り伏せられ、眼からのガンドで動きを止められる。

最早動きが人ではない。マシュは思った。これが需要と供給の釣り合いが取れていない世界で遂に壊れてしまった人間の末路なのだと。

 

安藤「ぐぉぉぉぉぉ!!」

 

「クハハハハハ!さぁ泣け!鳴け!哭け!惨たらしく絶命しろ!」

 

「先輩が壊れてしまいました!」

 

『無理もないよね。安眠妨害は完全に身内問題だったのに気付かずにソロモンのせいになって、しかも魔神柱からはまさかのレアドロップ三昧。流石のぐだ男君もこれには色々と来たと思うよ……うん』

 

『まぁ、仕方無いよね。うち(カルデア)も問題ばかりだし中々精神的に休める機会もねぇ。マシュもお察しの通り問題英霊の世話で駆け回ってるからこうなってる訳さ』

 

「しかし……このままでは先輩が後で自己嫌悪で倒れてしまいます」

 

ザクザクとアンドロマリウスを突き刺しては切り開き、臓物(ドロップアイテム)を奪っていくぐだ男。この余りの逞しさには流石に何人か引いた。

 

「石を割れ!リンゴを食らえ!狩りはまだまだ始まったばかりだ!野郎共!この戦いの目的は何だ!」

 

「「「「殺せ!殺せ!殺せ!」」」」

 

「俺達は心臓を愛しているか!レアドロップを愛しているかぁ!」

 

「「「「ガンホー!ガンホー!ガンホォォォォォ!!」」」」

 

大気を震わす英霊達の咆哮。至る所で眼を血走らせた英霊達が一様に武器を掲げ、略奪した物を掲げる。

人類悪の虐殺……これも悲しいかな、1つの正義の形なのだ。とある弓兵は語る。「別に、レアドロを奪い尽くしても構わんのだろう?」

 

「血涙流してみせろぉ!」

 

 

「馬鹿な……」

 

カルデアによる冠位時間神殿ソロモン攻略戦が開始されてから凡そ50分後。一部魔神柱を除いて全てが根こそぎ刈り取られた。無論、カルデア側にもダメージはあった。

最初から最後まで優勢だったとはいえ、流石は魔神柱。全サーヴァントの三分の一を退去させていた。

 

「ここまでだソロモン。ロンドンでの奇襲、監獄塔、俺の安眠妨害……もう頭に来たからな」

 

「安眠妨害?何だそれは」

 

「とぼけてられるのも今の内だ。マシュ、行くぞ!」

 

「はい!」

 

ぐだ男が玉座へ到着したのは魔神柱の現状全滅したのと同時。

玉座へ魔力を回せなくなった事でソロモンの力は確実に弱まっていた。しかし、ぐだ男もサーヴァント達の現界限界により、頼れるのはマシュだけ。力の差は歴然だ。

 

「例え弱まっていようとも、お前達人間如きに敗れる私ではない!」

 

「とでも思ったか!魔改造された俺のバイク(スーパーカスタム・カワザキ)!」

 

「グボァッ!?」

 

刹那的にライムグリーンのマシンが召喚され、ゼロヒャクコンマ3秒でソロモンが轢かれた。何の構えもしていなかった腹にやや鋭くなったフロントカウルが鋭角にえずかせる入る。しかもクラス適性的にもキャスターであるソロモンにライダー宝具はかなりダメージが大きい。

 

「……っ、な、ぜ……!」

 

「世の中、黒髭単騎でソロモン倒したりケツコでワンパンする猛者が居るんだ。だったら、眼からガンドが撃てる俺が出来ない道理がない」

 

「!!」

 

『ぅえ!?ちょ、待つんだぐだ男君!そのまま倒せるなら倒した方が良いけど、そうするとボクの出番が完全になくn』ゴッ!

 

『気にしないで続けてくれたまえ』

 

「くっ、ウォォォオオオ!!」

 

「なんだ!?」

 

「先輩……ソロモンが……!」

 

「くっふふ……良いぞ人類最後のマスターぐだ男。良いぞ良いぞ!……そうでなくてはなぁ?」

 

「姿が……」

 

「変わっていく!?」

 

轢かれたまま四つん這いになっていたソロモンの姿が変わっていく。全身が二回りほど肥大化し、体の各所から異質すぎるオーラが溢れてくる。

一目で分かるラスボス感が流石のぐだ男も震わせる。

 

「ソロモン……なのか……」

 

『ぐだ男君!そいつはソロモンなんかじゃない!そいつは─』

 

「─我が名はゲーティア!人理焼却式、魔神王(・・・)ゲーティアである!」

 

「ソロモン変質……!ゲーティアと名乗っています!」

 

「ゲーティアってなんだ!?ソロモンじゃないの!?」

 

ゲーティアと名乗った元ソロモンがさっきとはうって変わって堂々たる態度で立ち上がった。

巨大化した腕とその腕から覗く大量の眼が見るものに恐怖と圧力を与えて正常な思考を奪う。ぐだ男もマシュも例外ではなかった。

 

「ゲーティア……それでは─」

 

「今までの認識を改めよう、七つの特異点を越え、ここまで来た最後のマスターぐだ男。だが、貴様の偉業はここで終わる。いや……貴様と言うより貴様らだったな」

 

「何を言って……」

 

「ではお見せしよう。貴様等の旅の終わり。この星をやり直す、人類史の終焉。我が大業成就の瞬間を!第三宝具、展開。 誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの。─そう、芥のように燃え尽きよ!生誕の時きたれり。其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロニモス)

 

「な───」

 

「先輩!!」

 

今までの空に浮いていた巨大な光帯の膨大すぎるエネルギーがぐだ男達を─人理を焼却する熱線となって全てを焼き払う。

光を目にしただけで眼球の水分も蒸発してしまいそうなそれに呆然と、明確に死を感じ取ったぐだ男の前に、この場たった1人のサーヴァント。ここに至るまで、全ての特異点を共にしてきたマシュが盾を構えて宝具を発動する。

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)!」

 

轟音と光があらゆる知覚を攻撃する。そんな中でも、ぐだ男の耳には彼女の声がハッキリと聞こえていた。

 

「……良かった。これなら何とかなりそうです、マスター。今まで、ありがとうございました。先輩がくれたものを、せめて少しでも返したくて、弱気を押し殺して、旅を続けてきましたが──ここまで来られて、私は、私の人生を意義あるものだったと実感しました。……ドレイク船長の言った通り。最期の時に、私は、私の望みを知ったのです。……でも、ちょっと悔しいです。私は、守られてばかりだったから──最後に一度ぐらいは、先輩のお役に、立ちたかった」

 

「マシュ──!」

 

手を伸ばせばすぐ届く距離……すぐそこにマシュが居るのに、だんだんと光で姿を見失っていく。唐突に感じる喪失感と恐怖にぐだ男は訳も分からずマシュに手を伸ばす。

しかし、その手が触れることは無かった。

 

「──」

 

「みたことか。だが、その勇気を讃えよう。彼女は貴様の盾となり、見事貴様に傷1つ付けることなく護りきったのだ。──己の命を犠牲にしてな」

 

全てが終わったとき、ぐだ男の目の前にはマシュの盾だけが佇んでいた。

情報の処理が追い付かないぐだ男を置いて、ゲーティアは素直にマシュの盾──心の強さを評価しながら続ける。

 

「この宝具を上回る熱量は地球には存在しない。何故ならこれは貴様ら人類の歴史……人類史を熱量に変換したものだからだ。実に3000年分、貴様ら人間共を滅ぼすのは自分達の営んできた歴史そのものだったわけだ。防げるはずもあるまい。だが、彼女の宝具は特殊だ。あれは物理的な強さではなく、心の強さを示す宝具だ。彼女自身は熱に耐えきれず、蒸発したが……彼女の貴様だけは絶対に護るという意志がこれを成し遂げた。こればかりは誉めてやろう」

 

「……そん、な……」

 

「さぁ、これで頼れるものは消えた。ここまでの健闘──実に健気だった」

 

もうぐだ男を殺すのに素手で充分だろうと、拳が降り下ろされる。項垂れるぐだ男の頭に真っ直ぐ向かう拳がゆっくりと感じられる。

 

(俺は……死ぬのか……)

 

死の間際に感じる感覚の長大化だろうか、止まったように見えるゲーティアの拳を目にしたあと、ふと視界の端にマシュが遺した盾が再び入った。

 

(──いや!)

 

「まだだ!!」

 

数mmで拳をかわしたぐだ男の眼は死んではいなかった。

飛んでくる岩石から身を守りつつ転がり、マシュの盾を持ち上げると、かつてとあるスパルタキングから教えてもらったファランクスのようにゲイボルクと共に構えた。

 

「重たい……っ!こんなもの振り回してたのかマシュ!」

 

「むぅ!」

 

最早ゲーティア相手に受け止めるなんて馬鹿な真似は出来ない。

ファランクス(のような体勢)でそのまま突進してゲーティアの脇腹に肉薄した。ゲイボルクを短めに持ち直し、令呪からの魔力供給を受けた状態で一気に貫き放った。

 

刺し穿つ────死棘の槍(ゲイ──────ボルク)ゥゥ!!」

 

二画分の魔力が上乗せされた一撃。それは心臓を貫く事は余りの実力差で叶わずとも、左脇腹から左肩辺りまでを刺し穿った。

 

「小癪小癪小癪小癪小癪ゥゥゥ!!」

 

「ぁぐっ!!」

 

しかしゲーティアは自由のきく右腕で盾ごとぐだ男を殴り飛ばす。

盾を持っていた左腕の筋肉、骨、血管……全てが悲鳴を上げて遂には破壊される。皮膚は裂けて血が吹き出し、骨は粉砕して筋肉は繊維1本1本がブチブチと千切れた。だが、辛うじて繋がっているそれの痛みを感じる余裕すら今は無い。

まだ残る右手で重たい盾を再び構え、駆け出した。

 

「何故貴様は戦う!何故我々わたしに屈しない!何故、何故──何故、ここまで戦えたのかを──!」

 

「生きる為だ!!」

 

「──生きる、為──ただ自分が、生きる為、だと……?──そう、か。人理を守ってさえ、いなかったとは。……確かに、我々の間違いだ。過大評価にも程があった。生存を願いながら死を恐れ、死を恐れながら、永遠を目指した我々を打倒した。なんという──救いようのない愚かさ。救う必要のない頑なさだろう。手に負えぬ、とはまさにこの事だ。は──はは──ははははははははははははははははははははははははははは!」

 

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

まだゲイボルクは抜けていない。肩から穂先が僅かに飛び出しているのを見逃さなかったぐだ男が左脇腹から出てる石突きに盾をぶつけた。

 

「ぐぉあっ!!」

 

ぐだ男へと振り向いていたゲーティアの左目にゲイボルクの穂先が食い込んだ。だが、ぐだ男はそれで終わりにはしなかった。最後の令呪を弾けさせながら右拳でもう一度石突きに殴る。

肉を突き破る音と共にゲーティアの後頭部から朱の槍が伸びた。

 

「な……ぜだ……何故……貴様、にこ……んな……」

 

「魔術が……ルーンが……呪術が……想いが……絆が……俺を、生かしてくれた……沢山の英霊達、力を貸してくれ……た……。大切な後輩が……こん、な俺……を、命をかけて護っ……負けられ……」

 

「……誰の声も──聞こえぬ」

 

本来だったら全ての魔神柱と繋がり、強大な力を有していた筈のゲーティアも、完全に刈られ、或いは逃げ出した魔神柱が居たためにその力は限定されたものだった。

それでも、敵う道理など無かった筈だった。ゲーティアの計算ミスがなければ。

 

「愚か、な人間同士が……互いに協力しあう……など……」

 

──絆。これこそがゲーティアが負けた最大の要因。

 

「──っ」

 

意識を失いかけていたぐだ男がゲイボルクを引き抜いて急ぎ、治療術式を使用する。

左腕は損傷が激しい為、簡易的な治療術式では止血程度しか役に立たない。それでも、ぐだ男の体を動かすのには充分な措置だ。

 

「勝てた……のか」

 

倒れたゲーティアをハッキリとした意識で再確認して漸く自分が勝ち、生を勝ち取ったのだと理解する。

これもこのカルデア戦闘服の防御機能5回分のお陰でもある。

 

「はぁ……はぁ……」

 

『ぐだ男君!生きているね!』

 

「はい……何とか……」

 

『良いかいぐだ男!そこはもうじき消滅する!何しろそこはソロ──ゲーティアの宝具だからだ!こちらからはどうしようも出来ない!はやくしたまえ!』

 

ドクターとダ・ヴィンチに急かされるが、走ることは出来ない。神殿は確かに崩壊が始まっている為に足場が悪いし疲労等で動かない。それに─

 

「帰ろう、マシュ……」

 

マシュの盾も引き摺っている。間に合わない。そう思いつつも、何としてもこの盾だけはとぐだ男はまた一歩、踏み出す。

 

 

「───」

 

「───」

 

「───良かった。まだ残っていたね、マシュ。君は完全に消滅した。命の終りに辿り着いた。それでも、意志がこの虚無に残っている。それでも、君の成すべき事がまだ残っている。だから“お疲れ様”とは言わないよ。“バイバイ”と、お別れは言うけどね」

 

「───」

 

「時間も無いし率直に言うと、君を生き返らせようと思う。僕は“比較”の理を受け持っていた。人間同士の競争と成長、妬みや悔しさを糧とし、“相手より強くなる”特徴を持つ獣だ。災厄の獣キャスパリーグ。違う世界では霊長の殺人者(プライミッツ・マーダー)、とも呼ばれたね。ボクは人間社会に居なければ無害な動物だ。だから人のいない孤島に閉じ籠っていた。けれど、ボクの世話をしていた魔術師は酷い奴でね。快適だった幽閉塔からボクを追い出して、放ってしまったんだよ。……でも、そのお陰でボクはカルデアに辿り着いた。そこで君と、ぐだ男を発見した」

 

「──あな、たは──」

 

「君は迷惑に思うかな。でもまあ、善意とは基本、押し売りするものだと魔術師は言っていた。それに倣うとしよう。数百年溜め込んだ魔力を使って、魔法ですら到達しえない奇蹟をここに起こす。『死者の完全な蘇生』とはいえ、時間神殿での死は現実にはカウントされない。ボクがこれからするのは運命力の譲渡だ。君の僅かな、あと3日とない寿命を塗り潰すほどの。ただし、ボクはまだ成長してなかったから君の寿命を人並みのものにしか出来ない。これによってボクはただの獣になる。知性も特性も無くなるからね。今までは君たちの会話に意味のある合いの手を入れていたけど、これから先はただの鳴き声になるだろう。別に気にした事ではないさ。君達にとっては何も変わらないのだから。でもまぁ、寂しい気持ちも本当だ。だから最後に、君だけにはお別れを言いたかった。さようなら。マシュ・キリエライト。君達との旅は、僕にとって清々しいものだった。たいてい醜悪な姿に変わっていたボクが、最後までずっと、この姿のままでいられた程に」

 

「待っ、て──フォウ、さん──フォウさん──!」

 

「……かつて魔術師はこう言ってキャスパリーグを送り出した。“美しいものに触れてきなさい”と。──そうだ。私は本当に、美しいものを見た。刃を交えずとも倒せる悪があり、血を流さなかったからこそ、辿り着ける答えがあった。おめでとう。カルデアの善き人々。第四の獣は、君達によって倒された」

 

 

『急げ!あと500m先でレイシフト地点だ!』

 

「───」

 

『!?なんだこの反応……!?突然現れた、いや、そこで待っていたのか!』

 

「……そう簡単には逃がさない、よな」

 

『気を付けろぐだ男!君のめ──は、──!』

 

「───その通りだ。ようやく共通の見解を持てたな、ぐだ男。おまえを生かしては返さない。ここで、私と共に滅びるがいい」

 

あと少し先のレイシフト地点。そこへ向かう途中に男が立ち塞がった。

半身が崩れ、既に形を保っているのが限界に見える男……ゲーティア。

 

「……私の計画は失敗に終わった。まさか全ての魔神柱を倒され、私も倒されるとはな。最早消え行くのみだった私だが、あそこであのまま倒れているだけなのは許せなかった。しかし、ここで何をしようと結果は覆らない。こんな……意味のない事を、以前の私であれば決してしなかっただろう。だが──」

 

「……戦う理由はある、んだろう?俺がお前でも同じ事をするよ」

 

「──そうだとも。私にも意地がある。いや、意地ができた。私は今、君たち人間の精神性を理解した。限りある命を得て、ようやく。……長い、長い旅路だった。3000年もの間、ここに引きこもっていただけだがね。私は私の譲れないものの為に君を止める。君は君の生還のために、一秒でも早く私を止める。──言葉にするべき敬意は以上だ。それでは、この探索の終わりを始めよう。人理焼却を巡るグランドオーダー。七つの特異点、七つの世界を越えてきたマスターよ。我が名はゲーティア。人理を以て人理を滅ぼし、その先を目指したもの。誰もいない極点。……誰も望まない虚空の希望を目指し続けたもの。私はいま生まれ、いま滅びる。何の成果も、何の報酬もないとしてもこの全霊命をかけて、お前を打ち砕く。──我が怨敵。我が憎悪。我が運命よ。どうか見届けてほしい。この僅かな時間が、私に与えられた物語。この僅かな、されど、あまりにも愛おしい時間が、ゲーティアと名乗ったものに与えられた、本当の人生だ。多くの魔神は燃え尽き、神殿は崩壊した。我が消滅を以て、人理焼却も消滅する。──だが……最後の勝ちまでは譲れない。始めよう、カルデアのマスター。お前の勝ちを、私の手で焼却する……!」

 

「──来い!ゲーティア!」

 

瀕死でありながらも人としてぐだ男に挑むゲーティアと、特異点が消えるまで残る数分とない互いの命。

両者は2度、ぶつかり合う。

ぐだ男は残る力でゲイボルクを振るい、ゲーティアはその場から殆ど動くことはなく、遠距離から何らかの魔術で攻撃をする。

その様子は、並みのサーヴァントであっても余裕で勝てるような戦い。しかし、ただ力がぶつかり合っているのではない。それこそ、この2人は何人も入る余地のない意地でぶつかり合っている。

ゲーティアが拳を握るとぐだ男の足元が小爆発する。回避がまともに出来ないぐだ男は爆発に足が巻き込まれながらも前進し、ゲイボルクの間合いに入ろうとする。

しかし、そう簡単には懐に入り込ませる筈もなく、ぐだ男の眼前で爆発が起こる。

 

「ガッアアアアア!!!」

 

「まだだ……あと少し、付き合ってもらうぞ」

 

顔面が焼け、視界を半分失った。だが、ゲーティアも顔面が半分無いのは同じ。片腕も、残る力もお互いに無い。まるで鏡写しのようだ。

 

「ゲーティアァァァァァアアアッッッ!!!」

 

「ぐだ男ォォォォォォオオオッッッ!!!」

 

爆発の衝撃で仰け反っていたぐだ男だったが、すぐに体勢を立て直して咆哮。震える左足を踏み込ませ、腰の捻りに乗せて渾身の右拳を突き出す。

ゲーティアもまた、魔術での攻撃を止めて、左拳で上から殴る。

お互いの頬にめり込んだ拳で、遂に決着がついた。

 

「───いや、まったく。……不自然なほど短く、不思議なほど、面白いな。人の、人生というヤツは───」

 

「……お互い様だろ……人王(・・)ゲーティア──」

 

最期、ゲーティアは吹っ切れたように、笑いながら消えた。

 

『──よし!映像が繋がった!もう何があったとか後回しで良いから!早く走れぐだ男!』

 

「……ぃっ!」

 

返事にもならない返事をして駆け出す。

優先度の高いもの。つまり、ゲイボルクを投げ捨ててマシュの盾を担いでもう僅かしかない足場を伝ってレイシフト地点に向かう。

 

「……早く!」

 

あと半分。

 

「………早く!」

 

脚の感覚が死に始めた。視界も安定せず、足場が悪いからなのか自分が駄目なのか分からない。

 

「……………早く!」

 

あと本当に少し。飛べば届きそうな所で、不意に体が下に引っ張られ始めた。

 

「……ははっ」

 

思わず笑いがこぼれた。何故だかは本人も分かっていなかった。

 

「──ちぇっ。あと少し、だったんだけどな……」

 

──終わった。

殆ど生きていない全身の感覚でも感じる落下感覚。それを感じながら目を閉じ、初めてカルデアに来た頃からを思い出そうとした。その時だった。

 

「まだです、手を伸ばして──!先輩、手を──!」

 

「──、ああ……!」

 

 

もう感じない筈の手だったけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

差し出されたその手は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とても温かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう──マシュ」

 

 

 




かなり駆け足で書いてしまったので変です。
今更ながら、最後ぐだ男が死んだっぽい演出になってました(汗

因みにこちらの次元のカルデアではロマン生存√です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。