Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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もう滅茶苦茶な日常物語

になってれば良いなと思いつつ



Order.15 カルデアの味覚~ゲイザー~ Ⅰ

 

 

 

 

 

 

『ゴォォォォォォル!!これが決定点となり試合終了のホイッスル!素晴らしい試合でした!伝説の英雄達が魅せた技の数々、知略、連係……全てが歴史的、宗教的、魔術的に垂涎ものの圧倒的情報量!似た言葉が多く出て来てしまうくらい興奮しました!この仕事やっててこんな素晴らしいものが見れるとは!』

 

『興奮しすぎじゃないロマニ?』

 

ドクターの興奮した声で観客席も大いに盛り上がる。

今回、唐突に始まったサッカー大会はチーム『DHA』の勝利に終わりました。

圧倒的実力差と言うのは特に無く、殆どの英霊が初めての体験だった故に一進一退の勝負が主だった。

 

『優勝したチームのメンバーにはカルデアとぐだ男君が出来うる限りの要望を叶えるって話だけど、どうだい?何かあって参加したんじゃないのかな?』

 

「俺は特にねぇな。楽しけりゃそれで結構。今度は単純なスポーツ大会って事でまたやってくれや」

 

「歳食った俺と同意見だ」

 

「槍の俺には悪いが、俺はギャンブル施設が欲しいわ」

 

「私も特にはない。今回のは新たな修行になるかと思って参加したまで」

 

「私は鮭が欲しいな。無論、それらを眺められる水槽も」

 

「俺はシミュレータで女性サーヴァント相手のエロゲがしたい!」

 

各々がメモをとるダ・ヴィンチちゃんへ欲望を打ち明けていく。

先輩が忌避していたような英霊の皆さんが優勝したのではないので、結果的に万々歳なんですが……先輩のあの捨て身の頑張りは無駄になってしまったと言うことです。

 

「フォウ」

 

「そうですね。先輩の様子を見に行きましょうか」

 

自分も参加したかったと訴えるようなフォウさんを抱えてシミュレーションルームを後にする。

暫く医務室へ向かって歩いていると、先輩の部屋の前でキョロキョロしているフランさんを見付けた。

 

「フランさん?どうかしましたか?」

 

「ァウ……ウゥ……ウ」

 

「フォ?フォウフォ!ファーウ!」

 

「フランさん。先輩は自室ではなく、医務室に居ますよ。よろしければ一緒に行きませんか?」

 

「ウ!」

 

フランさん……本当はフランケンシュタインの怪物と言われる人造人間。今はバーサーカーとして現界している彼女は真名がフランケンシュタインとはなっていますが、実際の名前は無く、ただ怪物としか呼ばれていません。

その様に呼んでしまうのは嫌ですし、何より彼女自身が仮初めとも言える真名から捩ったフランと言うのを気に入っているようですので、いつの間にかそれが真名のようになっています。フリルみたいで可愛い響きですよね。

 

「フォ?」

 

「あ、メディアさん。こんにちは」

 

「ウゥッ」

 

「あら、こんにちは。貴女達もぐだ男君のお見舞いかしら?」

 

「と言うことはメディアさんも?」

 

「私は彼に頼まれてルルブレ刺してきただけよ。流石に自分のマスターがどこかの筋肉ダルマみたいになるのは嫌でしょ?今までのマスターの中で2番目に優れた彼をこんな事で再起不能にさせるのは惜しいわ」

 

「1番目は誰なんですか?」

 

「勿論、私の夫である宗一……兎に角、早く看に行ってあげなさいな」

 

メディアさんは結婚を4回しているそうですが……ソーイチという人物が居た記録は確認していません。もしかしたら座から呼び出された他の時代に?

興味はつきませんが、取り敢えず先輩が居る医務室に入る。

 

「先輩。お体の調子はどうですか?」

 

「フォウ!」

 

「ウァ!ウ……ゥ?」

 

「大丈夫だよ。それよりごめんマシュ。折角頑張ってもらったのに……」

 

「いえ。先輩の頑張りは無駄に……な、なりませんでしたよ。先輩が見せた技は他の英霊の皆さんを焚き付ける要因として充分でした」

 

お陰で試合の盛り上がり方はワールドカップのそれと負けず劣らずで熱気も凄かったです。

それにしても、このやる気を特異点探索に向けてもらうとより効率も上昇するんですが……。

 

「……ありがとうマシュ。その気遣いが身に染みるよ」

 

「フォウフォウ」

 

「そうだねフォウ君。お礼と言っちゃ何だけど今度ゲイザー食べに行こうか」

 

「フォウ!」

 

「ウ……?ウ、ウァ……」

 

「え?美味しいよゲイザー」

 

先輩はたまにゲイザーを食べたいと言うときがあります。確かに、第六特異点で食したアレは決して不味いものではありませんでしたが……かと言って好き好んで食べる代物ではありませんでした。

なのにフォウさんと先輩はとても気に入ったらしく、ゲイボルクを意気揚々と振り回して狩りに行くこともしばしば。まさか、クラス有利だから……?

 

「ウ……ウ、ウゥ」

 

「おぉ。フランも来てくれるの?ありがたいよぉ……中々ゲイザー食べたいって人が居ないからいつも俺だけで狩ってたから」

 

最近散々トレーニングを重ねたからか、先輩の戦闘力は状況込みではありますがシャドウサーヴァントのそれと匹敵するレベルまで引き上がりました。なのでやや強敵でもあるゲイザーを倒すことも可能なんです。

ですけど、幾ら何でもマスターである先輩を1人でレイシフトさせるのは危険です。

 

「じゃあ私もお供します先輩。料理は出来ませんが……」

 

「大丈夫大丈夫。料理は現地でやらないし食材集めだから」

 

しかし先輩はゲイザーのどこに美味しさを感じたんでしょうか?

殆ど眼球しかないのに……。

 

 

深夜2時。

カルデア内では職員を始め、殆どの英霊が眠りについている。

 

「……」

 

そんな人気が無くなったカルデアの医務室前で何重にもロックをかけられた扉を見る影が立っていた。

その影は2分程扉のロックを見つめた後、おもむろにしゃがんで何かをし始める。

 

「……ダイヤル式?」

 

ロックの1つはダイヤル式の南京錠。その下には普通の南京錠。

影はその2つを少し触ると短刀で傷をつけようと引っ掻く。しかし─

 

「傷1つ付かない……」

 

南京錠2つには一切の傷が付いていなかった。それもその筈。

ぐだ男が「自分の部屋で起きた時はいつも体が怠い。レイシフト先で寝泊まりする時もたまにあるけど、こっちだといつも。今まであまり気にしてこなかったけど、邪ンヌが部屋に良くない気配が残ってるって言うからここで寝かせて。お願いナイチンゲール!」と頼んだ結果、何者かの侵入を視野に入れてセキュリティの強化を実施。

その産物として、魔術と科学の超融合─ミスリル南京錠が生み出された。何よりも強度があり、剛性も素晴らしく破壊されにくい。魔術も打ち消すそれは制作者しか破壊方法を知らない。

影も一瞬驚いた様子を見せるも、すぐに短刀から針金に持ち替えて普通の南京錠をカチャカチャと弄る。すると僅か1.8秒で南京錠が硬質なカルデアの床に落ちた。

 

「この程度のセキュリティ」

 

影は針金をしまうとダイヤル式に手をつける。静かな空間に響く僅かな音に耳を澄まし、1桁ずつ攻略していく。

 

「……」

 

1個目よりはかかったが、1分と経っていない早業でダイヤル式も仕留めた。残るセキュリティは……。

 

「……生体認証?」

 

生体認証とは虹彩や指紋、行動と言った個人認証の類いだ。

即ち、キーとなるのがここの管理人であるナイチンゲール本人。彼女を連れてこない限り入室は許可されないのだ。

 

「……ぐだ男様」

 

影は一言、そう呟いて音もなくその場から立ち去った。

 

 

「ドクター!ゲイザー狩りに行ってきたいです」

 

「また?ぐだ男君も好きだねぇアレ」

 

「まぁ、確かにみてくれは万人が万人良いとは言わないですけど、好みは個人の自由ですから。取り敢えず第五特異点のアレクサンドリアに」

 

「……ボクは食べないからね?じゃあ準備して」

 

入院(?)を続けて早3日。この上ない快眠を得ることが出来た俺の体調は頗る良かった。

あの医務室には悪魔避けやら魔術避けやらの結界がモリモリ仕掛けられていたお陰か。またはあの幾重にもかけられたセキュリティのお陰か、寝起きが悪いなんて事は一切なかった。

しかし、結界に何かが触れた形跡は無く、扉のセキュリティ関係も色んなサーヴァント達が物珍しさから何度と触れられていた為に情報としては役に立たない。

都合よく監視カメラはレ……レ、ラノ……何とかオキシドールみたいな名前のアイツの爆破のせいで沈黙してるから無意味。

 

「一体何が……」

 

『ぐだ男君ー。他の皆は準備出来たみたいだよ』

 

「あ、すみません。大丈夫ですやってください」

 

何にせよ、俺の快眠を妨げる何かが存在していることは分かった。今度はそれを特定できるように罠を張ろう。

 

『気を付けてね』

 

レイシフトが開始する。

肉体と意識が乖離していくような奇妙な感覚が全身を包む。これには何度レイシフトをしても慣れることがなく、心配するばかり。このまま調整ミスやら妨害やらで1人別の所に行ってしまうか、あるいはとてつもない高さから放り出されるかいつもドキドキさせられる。

 

「─」

 

そんな心配も杞憂に終わり、レイシフトも完了した。

カルデアでの機械音とはかけ離れた自然の音。木漏れ日と鳥の囀りが心を落ち着かせてくれる。

 

「ぅー……はぁ。いつも通りの場所だね。ありがとうございますドクター」

 

『帰るときは連絡してね』

 

「はい。よぉし、行くぞフォウ君!」

 

「フォウ!」

 

やる気充分なフォウ君を頭に乗せて駆け出す。

この森は過去に何度かゲイザーを狩りに来たお陰で地形は完全に把握している。っとそうだ。

 

「っと、1人でさっさと行ってごめん皆」

 

「フォウ」

 

「大丈夫です先輩。フランさんも久々の森で興奮してるみたいですし」

 

「ウウ!」

 

「嗚呼……困ります。そんな自然に、優しくされると……」

 

今回はランサーのサーヴァント、ブリュンヒルデが同行してくれてる。

マシュとフランと俺であればゲイザーを狩るのに心配は殆どないが、実はブリュンヒルデがゲイザーの味に興味があるとの事で急遽参加。ランサーだし原初のルーン使えるし心強い。

 

「ゲイザーはこの先の水場に居ると思うからそっちから回ろう」

 

「はい」

 

200m程進めばゲイザーが居る水場。3人を連れて歩いてもすぐに着く距離だ。

 

「先輩。ゲイザーは何体倒すんですか?」

 

「んー……最近エンゲル係数を跳ね上げるアルトリア達が居なくなってるから食糧難が一時回避出来るとは言え、足りないことには変わりないから─」

 

(もしかして先輩……皆さんがゲイザーをあまり好んで食べないのを分かっていながら?でもそんな事しても大して意味がないのでは……)

 

「でも皆食べたがらないから1体2体で良いかな」

 

(あのサイズの敵なら半分以下で充分な気がしますが……)

 

そんな話を続けながら歩いていると目的の場所へ着いた。少し開けたそこは綺麗な水場になっていて森の動物達が水を求めてやってくる。

そんな動物達を邪魔するのがゲイザーだ。アイツ、殆ど眼球の癖にいっぱしに動物を食べるんだ。現地の人達もやられる事もあるらしいから心置き無く狩れるんだ。

 

「居ました。ゲイザーです先輩」

 

「サイズがやや小さめか……」

 

(小さめ?私には全く同じにしか)

 

「ウ……」

 

「いや、ソウルイーターに比べたら美味しそうな見た目だよ」

 

(美味しそうな見た目……先輩は凄いです色々と)

 

「じゃあマシュは盾役。フランはマシュと一緒に追い込んで、俺とブリュンヒルデで仕留める」

 

「はい」

 

「ウ!」

 

「分かりました」

 

岩影から飛び出してゲイボルクを構える。まだこちらに気付いていないゲイザーを横目にマシュ達とは反対方向に走る。

 

「音消しのルーンありがとう」

 

「……はい」

 

……背中に凄くゾワゾワしたものを感じるけど、振り返るのは止そう。

と、そんな時にマシュ達がゲイザーに近付いていく。流石にそちらにはゲイザーも気付いたらしく、動物を食べているのを止めて戦闘態勢に移行する。

ゲイザーの攻撃方法は基本的に光線だ。距離を取らないとアイツの真価は発揮できない。……因みに、捕食攻撃もあるんだが、そちらは後ろの触手がウネウネと相手を捕らえる。

 

「─来た!行こうブリュンヒルデ!」

 

散々ゲイザーを屠ってきたからこそ分かる。ゲイザーは強力な光線撃つ直前、動きが鈍る。そこを狙って攻撃すれば難無く倒せると言うわけだ。

そして勢いよく飛び出した俺とブリュンヒルデでこちらに僅かに注意が向きかけたゲイザーに得物を突き刺す。

 

「ハァ!」

 

「ふっ」

 

交差して刺さった2人の槍がゲイザーの命の炎を散らした。いつもは1人でやっているからか、何とも呆気ない。

 

「いやぁ、楽に終わった。ありがとう皆。ブリュンヒルデも実はゲイボルクだと細いから一撃じゃ倒せない事も良くあるから助かったよ」

 

「駄目……そんなに、優しくされると……私は……」

 

「お、落ち着いてブリュンヒルデ」(汗

 

「嗚呼、こんなに大切に想ってくれて……」

 

「ごめんちょっと手を洗ってくる!」

 

ゲイザーから素早く槍を引き抜いて水場とは真逆の森の中へ逃げ込む。心配したりお礼言ったりするとすぐあれだから少し困る。

 

「ふぅ……ブリュンヒルデも狂化入ってるんじゃないかと疑いたくなるな。まぁ、別に何とか殺されないし何だかんだ言って心配してくれるしなぁ」

 

信頼を置けるサーヴァントとしては彼女は問題ない。あのオーディンの血を引くだけあって強いし。

 

『あれ?ぐだ男君皆と離れてどうしたんだい?』

 

「ドクター?どうしたんですか?」

 

『いや、君が皆と離れてるからどうしたのかと思って。その様子だとブリュンヒルデかな?』

 

「はは……そうですね。ちょっとロマンシアされそうになったので離れたと─」

 

ゾブッと右腕に何かがに弾かれた。

反射的に腕を見ると、刺さっていた。金属質なそれは細い棒状の物で、羽が付いている。そしてそれが矢であると言うのを認識するのにかなり時間を費やした。

 

「─は?」

 

『ぐだ男君!』

 

ドクターの声で我に返る。腕に走る激痛を堪え、全く状況に追い付かない頭をフル回転させて脇の倒木に倒れ込む。

 

「──っ、ぁぁぁぁぁああああッッッ!!」

 

『ぐだ男君!!しっかりするんだぐだ男君!!』

 

「ぐッッッううぅぅあああ!!はぁ!はぁ!ひッがぁ!」

 

前に感じた痛みとは違う、意識がはっきりしているからこそ強く、より強く感じる激痛。激痛。激痛。激痛。激痛。

思考の全てが痛みと恐怖に支配されて体の芯から震えだす。

 

「痛い!いっ……!!」

 

「先輩!!」

 

痛みで泣き出したいのを堪えていると盾を前面に展開したマシュとその後ろに続くフランとブリュンヒルデが走ってくる。

ドクターがすぐに連絡したのとそんなに遠くに離れていなかったのが幸いした。

 

「ドクター敵は!」

 

『1時方向にシャドウサーヴァントの反応だ!敵は飛び道具を使うから気を付けて!』

 

「ウゥッ……ウゥゥウウ!!」

 

「あぁ……駄目……あなたはまだ、死ぬべきでは……」

 

「いでいでいででででででッ!!!ぶ、ブリュンヒルデェェェ!!腕捻らなァァァァァ!!」

 

ブリュンヒルデがハイライトを失った眼……元々無い気もするが……で俺の腕を雑巾のように捻ってくる。

 

「フォァァァアアア!!ファァァァァ!」

 

「嗚呼ッ、愛しいひと(シグルド)……あなたは私が……愛さなきゃ……殺さなきゃ!」

 

「うぎゃあああああッッ!!愛が重すぎて痛いィィィッ!」

 

「ファァァァァ!」

 

「ウウ!!アィ……ウリィィィイイ!」

 

昇天しかけたところでフランが武器を地面に叩き付ける。これによって混沌としていた場が少し落ち着いた。

ブリュンヒルデも流石に我に返って腕から手を離す。……もう腕があってはならない曲り方してるけど良かった。

 

「な、ななな何ですかそれ!?先輩!治療術式を早く!」

 

「いえ……私がルーンを使います。ごめんなさい……」

 

「……っ……ぅあ……」

 

ルーンの力で右腕の一切の感覚が阻害され、骨格、筋肉、血管、神経、皮膚……あらゆる傷が時間を巻き戻すかのように修復していく。

10秒もすれば元通りの腕になっていて感覚も戻ってくる。あれほどの痛みが突然無くなったので、やや混乱はしているが。

 

「ふぅ……ありがとうブリュンヒルデ。フランもありがとう」

 

「……はい」

 

「ウゥッ」

 

「うん。マシュ!そのまま守備を続けて!ブリュンヒルデはルーンで敵の位置を特定して、フランはブリュンヒルデが見つけ次第吹っ飛ばしてくれ!」

 

「……見付けました。方向2時、距離37」

 

「ウリィィィイイ!」

 

フランが飛び上がり、武器に全体重とエネルギーを乗せて地面を叩き付けた。そこから雷撃が迸り、周囲の木々を凪ぎ払うと姿を隠していたシャドウサーヴァントが巻き込まれるのを回避しようと跳んだのが見えた。

それを逃がすような者はここには居ない。直ぐ様ブリュンヒルデがルーンで叩き落とすと、スタンしたフランをガンド撃ちの時のように指差し、スキルを発動する。

 

「オーダーチェンジ!」

 

位置を入れ替えるスキル、オーダーチェンジで俺とフランを入れ替えた。更に瞬間強化を自身に使用してチェンジ直前に拾ったゲイボルクを握り直す。

 

「その心臓、貰い受ける─!刺し穿つ若棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

立ち上がったシャドウサーヴァントの胸、心臓目掛けて突き放ったその一撃は確かな手応えを感じた。

長らく得られなかった感覚─弱小な因果逆転の呪いがやっと発動して心の臓を貫いた感覚を。

 

「─、──」

 

サァァ……とシャドウサーヴァントが形を失い、霧散していく。

 

「先輩!お怪我はありませんか先輩!」

 

「大丈夫……かな。自信無いけど」

 

「これからは1人で離れたりするのは止めてください。もし矢がズレて刺さっていたら……」

 

「ぉう、うん……分かったから、分かったからその腕ミシミシやるの止めてください。痛いです」

 

どうやらマシュを怒らせてしまったらしい。確かに、俺の行動はマスターとして人理修復の任を背負ったものとして適切ではなかった。

何か気を落ち着かせようと無言で俯くマシュの頭を撫でてあげる。牛若丸みたいな反応は無いけど、何だか子犬みたい……そう言えばデンジャラスなあの服が犬イメージだっけ。え?違う?

 

『あ、ぐだ男君。この先に彼女達が居るんだけど、ちょっと様子を見てきてもらっても良いかな?』

 

「誰です?」

 

『アルトリア系が』

 

 

歩くこと4分。

 

「はぁ。それで私達の様子を見に来たと。ところで、何か和菓子を持ってませんかマスターさん。と言うかその顔は持っていると見ました。さぁ、遠慮なさらず渡してください」

 

「……えっちゃんさ……和菓子感知スキル持ってるでしょ」

 

「私にはそのようなスキルはありませんが。まぁ、困るものでもありませんね。兎に角、お早く」

 

「分かった分かった。……これ。塩五の村雨だけど……」

 

「流石マスターさん。良い物を隠し持っていました。ではいただきます」

 

「先輩。一体どこでその和菓子を?それよりもどこから取り出したんですか?」

 

そう言うのは良いからとぐだ男が他の皆にも村雨を配っていく。

今この場に居るのはアルトリア・オルタズの3人とぐだ男達4人を含めた7人。フォウには勿論あげられない。

ぐだ男はその人数分ピッタリ持ってきていた。尤も、人数分あるとは言えども、この上品な味をジャンクではないと食べないセイバーオルタと自分のは良いからと譲ったぐだ男の分がXオルタに行き渡っている。

 

「で、3人は食料調達で何日か居なかった訳か」

 

「他の私達も食料調達に出ている。あちらも3人だ」

 

「リリィは置いてったんだ?あれかな?やっぱり真っ白な自分に腹ペコ食いしん坊のお陰でこうなってるって知られたグガァ!」

 

「ほぉ……そうかロンゴミニアドよ。お前もこの失礼な男を貫きたいか」

 

ランサーオルタがロンゴミニアドでぐだ男の脇腹を殴る。彼女としてはロンゴミニアドを回す気満々らしいが、生憎ロンゴミニアドとしては『そんな些細な事で私を回すのは止めていただきたい。と言うよりそうなったのは自分の責任だろうに。何故そこまで食わなきゃいけないのは自分の胸に聞け』と言いたげにトゲトゲを引っ込めて回るのを断固拒否している。

宝具にまで説教されるようではいよいよ救いようが無くなってくる。

 

「な、何でだ!私は悪くないぞ!悪くないもん!」

 

「フォウフォフォウ?ファーウフォ!」(特別意訳:やたらと大きなその胸に栄養が行っちゃってオツムが少し残念で、終いには神造兵装にまで呆れられてすーぐ取り乱しちゃうポンコツオルタだね?分かるとも!)

 

「ハッキリ言うねフォウ君」

 

「な、何を言ったのだ小さき淫獣(ビースト)よ!」

 

「……ぐだ男。私は些かこのポンコツに聖剣を放ちたくて仕方がない」

 

「落ち着くんだ。今に始まったことじゃ無いでしょ?」

 

「何故こうも……私達アルトリア系サーヴァントの中で一番ポンコツ気味なのだアレは……」

 

流石のセイバーオルタもランサーオルタのポンコツ具合には同じアルトリア系としてゲンナリしている。

ランサーオルタも本人にしてボケてるつもりも不真面目でもないらしいが、実際問題こうなってしまっている以上擁護しようがない。

 

「ポンコツポンコツ言わないでくれ!」

 

「……ポンコツは、困りますね」

 

「ゥ……ポ、ン……コツ……フッ」

 

「ちょ、ちょっと皆さん……」

 

「……帰ろうか。ね?ロンとラムレイは置いて少し休もうか。ほら、ラムレイも頷いてるから」

 

「ら、ラムレイ……」

 

荷馬車を引くラムレイも哀れんだような瞳でコクリと頷く。愛馬にさえ心配されたランサーオルタも遂に折れた様子でロンゴミニアドを起き、ラムレイに後を頼んだ。

 

「後は任せたぞ」

 

「ランサーの癖に槍が無いとか追求するとアーチャーなのに弓使うのが少ないとか始まるから私は敢えて黙っておきますね。あと村雨ありがとうございました。美味しかったですマスターさん」

 

「あと半日もすればカルデアに戻る。そいつの世話は任せたぞぐだ男」

 

「……アルトリア。俺のゲイボルク貸すからゲイザー狩りで頑張ってよ」

 

鎧が頑丈な癖に精神的な鎧は脆弱な彼女の手をとって、まるで叱られた子供を連れて帰るかのような様子は何とも痛々しいものだった。

 

 


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