Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」   作:第2類医薬品

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アーサーが出て来ましたねぇ。
そう言えばアーサーに対してはモーさんの特効はやっぱりつかないらしいですね。



Order.13 スポーツ!Ⅰ

 

 

サッカー。それは世界において、最も知名度があると言っても過言ではないスポーツ。

国と国とが自国の精鋭を送り出し、定められた舞台で空気の入った球を蹴り、転がし、得点と己の技能を競いあう。最早それは、代理戦争と言ってもおかしくない。それ程、このサッカーというスポーツは世界に根付いている。

その歴史はとても長い。長い故に起源が何処から、誰が、いつからか確立した情報が無い(一応起源はイングランドとはなっているが、人類歴史が始まった時からある種のフットボールは存在していた可能性の記述もある)。だがはっきり言ってそんな事はどうでも良いのだ。

サッカーが200を越える国と地域で、世界で愛されている。それをプレイして楽しんでいる者達が居る。見て元気を貰う者達が居る……その事実がある限り、始まりが何だろうがサッカーという競技形態に異常が出るわけでもなし。

我々は長い歴史によって積み重ねられ、作り上げられた“今のサッカー”を必要としている。ただそれだけで良いのだ。

 

「ォラアッ!」

 

だが理解せよ。

スポーツとて安全が保証されている訳ではない。サッカー、野球、テニス、バスケットボールetc……全てにおいて“人”という要素が絡んでこそのスポーツ。

危険を少しでも無くす為に“ルール”と呼ばれる絶対条件が存在するのは言うまでもない。それでも、不確定要素によって人は怪我をする。

 

「ぐぼぁっ!?」

 

怪我をして当然なのがスポーツだ。

怪我をしないでするものなど、それはスポーツではなく遊びだ。

そしてスポーツは……時に本当の戦争にも変わる。

 

「シャァッ!」

 

「おぶぐっ!!??」

 

「衛生へぇぇぇぇぇぇぇい!!」

 

仮に……仮にだ。サーヴァント達がサッカーを興じたりしよう。何が想像できる?

 

「くっ!ディフェンス頼む!」

 

「■■■■■■■!!」

 

「ヘラクレスか!面白れぇ!」

 

そしてそこに大して強くもないマスターが混ざっている。英霊になるやつらは大概どうかしてる。そんなやつらが「あはは」「うふふ」「そぉーれ」なんて綺麗なスポーツが出来るものか。否!断じて否!

 

「食らいやがれ!刺し穿つ公式の球(ゲイ・ボルク)!!」

 

「■■■■■■■!!」

 

蹴られた公式球が赤いオーラを帯びて立ち塞がるヘラクレスへと刺さった!……のはイメージで、分厚い胸板に弾かれたそれは、すぐに隣のマスター、ぐだ男に優しくパスされる。

 

「……落ち着こう。俺はマスター。ただの貧弱魔術師だ」

 

「それがどうした契約者よ。汝は既に我らが敵……覚悟を決めるがよい」

 

「嗚呼……鐘の音が聴こえる……」

 

「球を出せぃ!」

 

正しくそこは戦場。サッカーと言う名の戦争がここにあった。

 

 

当時の俺は何て思慮の浅い男だったのだろうか……。

 

「サッカー?モーさん出来るの?」

 

「まあな。ツーリングも良いんだけど、やっぱり体を動かしたくなるし」

 

「成る程……あまりスポーツしないもんね。よし!じゃあ今度ポスター作るから応募でやってみようか」

 

ツーリングも終わって、ただスピードだけを求めていた当時の俺。ハイテンションのまま閃いたそれを、もっと何で考えずに実行してしまったのか。

 

「楽しみだなぁ。俺もそんなにサッカー詳しいじゃないけど、どんな英霊の試合が見れるかなぁ」

 

そうだ。優勝チームにはメンバー1人1人の要望を何でも叶える特典にしよう。聖杯こそ使わないが、不満等を解決していくには最適だろう。

そう、思っていた矢先、思いの外集まったサーヴァントの中から「コンサートしたい」「マスターとサーヴァントの関係を入れ換えたい」「マスターと相部屋に」「魔術用に心臓が50個欲しい」と言った、断るのも難しく且つ、叶えるのに嫌な予感しかしない要望がポンポン出てくるではないか。

しかもサッカーできるサーヴァントであるアルトリア系が揃って外出中……一度要望を何でも叶えると謳って集めた以上、変えると混乱や不満が発生してしまう。それは今後の信頼関係や戦闘にも支障を来す。だから俺は考えた。

 

─逆に考えるんだ。勝っちゃえば良いさと考えるんだ。

 

 

「うぉあああああ!」

 

気付けば俺は宙を舞っていた。

何かキングハサン(じぃじ)から攻撃をされた訳でもなく、ただの気迫に負けた。何て強いんだ……!

 

「マスター!にゃろう!」

 

「騎士王の息子よ。汝にはあの鐘の音が聞こえるか?」

 

「はっ!なんも聞こえ─」

 

ゆっくりとボールを転がしてゴールへと向かうキングハサンの前に立ちはだかるはフォワードでありながら、ほぼ最後部まで走ってきたモーさん。

彼女ならあるいは……と思った矢先、モーさんの眼から光が消えた。キングハサンの顔を見上げたまま、瞬き一つせずに立ち尽くしている。

ザワザワとざわめく観客の声の中、俺はモーさんがどうなったか予想がついていた。

 

「そうか、聞こえたか。ならば進ませてもらう」

 

モーさんは聞いたのだ。鐘の音を。死を告げる鐘の音を!

 

「モードレッドさん!っ、この気迫……何て強大な……」

 

「行け(じい)さん!」

 

「晩鐘は汝の背(ゴール)を指し示した……」

 

キングハサンが一歩踏み出しただけで黒い靄が辺りを包む。二歩目は光を遮り、三歩目は完全な静寂と闇がフィールドを支配した。

 

「シャアッ!」

 

闇にキングハサンの眼が光ったと思うと某少年サッカー漫画を彷彿とさせるシュート。

ゴールキーパーであるマシュに真っ直ぐ飛んで行く。

 

「シールドエフェクト、発揮します!」

 

スキルで防御ステータスを上昇させたマシュが両掌を突き出す。刹那、大気が揺れて闇が晴れる。

 

「マシュ!」

 

「くっうぅ……!」

 

ボールがマシュの掌に着弾(・・)してから数秒が経過した。それなのにボールは回転摩擦で煙を吐き出しながら止まることを知らない。

 

「っ!はぁっ!」

 

驚異の運動エネルギーを見せたそのボールを上に弾いて何とかやり過ごすマシュ。

 

「こ、これが……キャプテン(おきな)……!?」

 

「キャプテンは私だが、またそれも当然の実力!もう私の親指かむかむ戦略もりもり(フィンタン・フィネガス)も出してしまおうか!」

 

「勝てる手段があるなら先に出しておいた方が良いぞ。あちらはマスターが率いていると言う事を忘れるな」

 

マシュが驚愕しているとフィンがスカサハに言われて親指を噛む。

く……!あっちにDHAマン(フィン)って状況把握が優れたゲームメーカーがいる以上勝てる気がしない!

 

「審判!そこのアズラれたモーさんを下げてくれ!クレオパトラ来てくれ!」

 

「私が出るんですの?しかし、こんな柔い球で大丈夫かしら?」

 

真っ先に出てきた言葉がそれとは……流石は近接戦闘型ファラオ。彼女の素早い蹴りならば幾ら戦略がもりもり出てきてもそうそう捉えられまい。

しかし……。

 

「フォワードは変わらず3人か……キングハサンと兄貴と師匠……プレッシャーで死にそうだ」

 

そもそもチーム分けを説明していなかった。

先ず、今回の対戦相手……『DHA』はリーダー、フィンを筆頭にキングハサン、師匠、兄貴、プロトニキ、キャスニキ、叔父貴、ディルムッド、レオニダス、カルナ、ヘクトールと大分ランサーないしケルトなチーム。複数人超強いサーヴァントが居るが、ことサッカーに於いてでなら大差は無いだろう。

……と、さっきまでそう思っていた。やってみたらどうだ?師匠は殺気全開でボール奪いに。兄貴は見事なドリブルとボールの扱いで支配力を高める。キングハサンはただボールを軽く蹴って転がしているだけで鐘の音が鳴る。死屍累々は避けられん。

対してこちらは急遽俺がリーダーを務めることとなった『グダーズ』。リーダーの俺。マシュ、嫁王、モーさん、アーラシュ、子ギル、ジャンヌ・サンタ・リリィ、牛若丸、クレオパトラ、ヘラクレス、キャット、ゴルゴーン。

試合は既に15分経過していて、『DHA』が得点3。こちらが得点1だ。

 

「先輩……これ以上シュートを受けるのは難しいです!」

 

「ごめんマシュ!もうちょっと耐えてくれ!クレオパトラはヘラクレスとツートップ!」

 

「■■■■■!」

 

「よくてよ!」

 

「マシュはアーラシュにパスしてくれ!アーラシュはゴールに長距離シュート(ステラ)を頼む!」

 

「はい!」

 

「任せな!」

 

このサッカーは確かに戦争だ。だけど、俺は知っている。どんな殺人シュートだろうがステラだろうが、決して死なない。何故なら─

 

「こんなギャグ補正でそうそう死者なんか出るわけないよな!いくぜぇ……流星一球(ステラ)ァァァアアア!!」

 

「やはりそう来たか!」

 

アーラシュがトラップしたボールをノーバウンドで蹴る。

爆発的なエネルギーがアーラシュからボールへと注がれ、輝かしい真っ白な光の軌跡を描いて敵ゴールへと飛んで行く。

 

「レオニダス殿!」

 

「お任せ下さい!ムンヌァ!!」

 

敵ゴールキーパーはレオニダス。その隆々とした胸板で受けとめるようにボールをホールドし、地面にうつ伏せになる事でエネルギーの分散を計る。しかし─

 

「くっ!こ、これは……私の計算外ッ……!?」

 

ステラのエネルギーを殺しきる事は叶わず、グラウンドとレオニダスのユニフォームを焼き払って尚もゴールへと押し込んで行く。

必死に抵抗するレオニダスだが、遂には体が地面から離れてボールと一緒にゴールネットへ押し込まれる。

 

『おぉー!流石大英雄の一蹴り。あの盾サー随一の実力を誇るレオニダス選手の防御をハネ退けるとは』

 

『でもステラすると死んじゃうんじゃ─あ』

 

何処からか実況するダ・ヴィンチちゃんとドクター。そのドクターがアーラシュの心配をするが何かに気付いた様で、間の抜けた声を出した。

 

「おーヤバかったなマスター。流石にあのレオニダスともなれば防がれるんじゃないかと肝を冷やしたが……俺のステラも鈍ってなくて良かったぜ」

 

アーラシュが俺に笑顔を向けてくれる。

自分がどうなっても、この戦いを終わらせる為にその技を出す姿に俺はアーラシュという大英雄()の生き様を見た。

 

『あ、アーラシュ選手が……全裸に!?』

 

ステラを放ったアーラシュは体が爆散するわけでもなく、霊基がズタズタになった訳でもない。ただ単純に身に纏っていた衣服が全て弾けたのだ。

 

『これは?おっとイエローカードかな?アーラシュ選手にイエローカードが出されたね。これはやはり威力とかではなくて露出行為によるものでしょう。それにしても然るべき箇所に謎の力が働いて見えないのがレッドカードを免れた理由か。これをどう見るロマニ?』

 

『どう見るも何も、それじゃないの?』

 

「悪いなマスター。もうステラは出来ないみたいだ」

 

「いやいや。これ以上アーラシュを社会的に殺すような事はさせるわけにはいかない。死なないとは分かってたけどそっちの意味で死んで良いわけじゃないし」

 

ユニフォームを着終えたアーラシュを元のディフェンスポジションに下げ、他のメンバーを一瞥する。

敵味方問わず動揺しているが、俺の頭はグルグルと勝つために回転していた。敵は目まぐるしく変わっていく状況を整理し、思考し、最適な解を導き出せる。それは凡そ平均的な頭脳の俺では到底及ばない領域。

しかし、俺とDHAマンの違いは思考能力ではない。サーヴァントとのコミュニケーション能力だ。アイツにヘラクレスとアイコンタクトと親指グッ上げだけで会話ができるか?牛若丸に「ボール()取ってきて」と一言言うだけで見事すぎるインターセプトやスライディングをさせることが出来るか?

 

『試合再開!』

 

ディフェンスのプロトとキャスターの兄貴2人が互いにボールをパスしながら上がってくる。

 

「主殿!私はいつ首を取りに行けば!?」

 

「まだ。なぁに。心配しなくてもボール()はあっちから来るさ」

 

「先輩が邪悪な笑みを浮かべています!」

 

「ちぃっ。牛若の嬢ちゃん相手に俺らじゃキツい。スカサハに任せるか」

 

「とっとと渡さんか馬鹿者」

 

キャスニキが師匠にパス。今にも飛び付きそうな牛若丸をステイさせて俺がボールを片足で受け取った師匠の前に立ち塞がる。

 

「……ほぅ。前よりも更に良い目をするようになったな。しかし、眼力では私は止められんぞ?」

 

師匠から発せられる殺気が増大する。しかし、そんな事は事前に俺とて覚悟はしていた。

さっきのキングハサンとはまた別の圧力を持つプレッシャーに膝を付きたくなるが、震えながら確りと立ち、師匠から一瞬たりとも目を離さない。

 

「何やってんだよスカサハ!早くマスターを抜いてゴールに向かえって!」

 

「黙っておれ馬鹿弟子(槍)。貴様の心臓からもう一本槍を生やし(に槍を刺され)たいか?」

 

「ケッコウデス」

 

「さてマスター。お主はどれだけ出来るかな?」

 

師匠が俺を試すようにボールを動かし始める。割りとサッカー楽しんでる様子の師匠に意外と思いつつも、感じるプレッシャーは変わらない。

兎に角今は落ち着いてボールと師匠の動きを見て機会を伺う。

 

「……」

 

「……」

 

師匠の動きは素人目にもプロサッカー選手以上だと分かる。正直ケルト組はみんなそんな感じがするが、師匠は別格だ。

 

「よもやあの眼からのガンド狙いか?止めておけ。例え令呪を使用したとは言えそれは私に当たらん」

 

「……っ」

 

『眼ド』です。

 

(しかし何だこの違和感は。マスター相手なら一瞬で抜けられるが……何かが─)

 

俺だって何も考えず相対した訳じゃない。ただ師匠が果たして思惑通りに動いてくれるか……。

 

「……マスター。お主は私を止められると思っているのか?」

 

「まさか。止められないけど─ボールを奪うことは出来る」

 

(この自信は何だ?何を企んでいるお主は)

 

「凡そ私からボールを奪える者は存在しない」

 

「うへ」

 

俺の自信に警戒してか、スキル『魔境の智慧』を使用した。何だ?千里眼か?それとも……。

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

「ハッ。雄叫びを上げても取れるとは限らんぞマスター!」

 

「!いけない!御子殿、彼女を止め─」

 

親指を噛んでいたDHAマンが俺の作戦に感付いたようだが、時既に遅し。

師匠が超高速のドリブルで。俺が散々鍛えた脚力と瞬間強化スキルで底上げした膂力で互いに交差する。

僅か1秒足らずの攻防。静まり返った直後に声を出したのは俺の後ろの師匠だった。

 

「……まさか、この私からボールを奪うとは」

 

「─ハァッ!はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」

 

師匠の言う通り、俺はボールをあの短時間に見事奪取することに成功した。

全身総毛立つ殺意と相対したのはほんの少しの時間だったが、まるで1分……いや、10分を一瞬に圧縮したような感覚は立っているのが限界と言わんばかりに脚から全身を震わせる。だがそれで終わるわけにはいかない。

残る力を振り絞って斜め後ろにいた牛若丸にパス。宝具サインを出した。

 

「感謝します主殿!壇ノ浦・八艘蹴!」

 

最早無理矢理押し込んだとしか思えない宝具名で牛若丸が駆ける。敵のディフェンスを瞬間移動と間違えるほどのスピードで掻い潜り、何処からともなく現れた舟を足場にゴールまでボールを運んだ。

 

「く!速すぎて見えませんでした」

 

「ふぅ。やりましたよ主殿!」

 

駆け寄ってきた牛若丸の頭を撫でて上げるとくすぐったそうに目を瞑る。しかし、ユニフォームの着方が良しくない。少し動けばポロリは必至の着方は何とかならないものか……。

 

「……けど、これで3対3」

 

ノリで始めたとは言え、参加者達は一部を除いて本気だ。

勝たなければ……何としても!

 

 


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