Fate/Grand Order 「マシュ。聖杯ってよく拾うけど全部願望器として機能してるの?」「勿論ですよ先輩」「じゃあソロンモさんを永み─」「先輩!」 作:第2類医薬品
まだだ……今はまだ聖晶石は貯めておくんだ……!
「食料の調達に行きましょう」
英霊反乱事件より一週間。カルデアでは物資の不足に頭を悩ませていた。特に食料……これの消費は凄まじい。
聡明なカルデアマスター諸君であれば誰がカルデアのエンゲル係数を爆発的に引き上げているのかは想像に難くない筈だ。
ぐだ男もカルデア料理人も物資管理係もそれに対しては特に力を入れてきた筈だが、ここ1ヵ月の間で良く食べるサーヴァントが増えたのが計算外だった。
エミヤは自分の料理系スキルが足りなかったのかと落ち込んでしまい、ぐだ男もサーヴァントの管理がしっかり出来ていなかったと責任を感じて元気を無くしていた。
そんな彼らを見るに見かねて立ち上がったのが、最近また増えたアルトリア系サーヴァント達だ。
「私も同感だ。確かに、私達が残りをあまり考えずに夕食を大量に頂いてしまったのが良くなかったのでしょう」
夕食に限らず、食べると言う行為に対してアルトリア系サーヴァント達は度が過ぎているのだが、本人達はそんな認識の違いを感じることは無い。
カルデア滞在が一番長いアルトリアとして青セイバーが発言したそれに皆一様に同意していると、4日前に新しく召喚されたバーサーカー、謎のヒロインX〔オルタ〕がみたらし団子を見つめながら挙手をする。
「最早完全に私とルーツが違うバーサーカーの私ですか。もう意味がわかりませんね」
「それには強く同意する。所でバーサーカーの私よ。どうした?」
「……その食料の調達に和菓子は含まれますか?」
「材料さえ入手できればシロウ……サーヴァントバトラーが作ってくれます」
「なら行きます」
それなりに関わってきたから彼女だからこそ、言える冗談だと言えれば良いのだが……生憎新規のサーヴァントにはアーチャーとして戦っている姿よりも家事をしている方が圧倒的に見る機会が多い。それ故に家事のサーヴァント、バトラーとまで言われてしまうのだ。
まぁ、意外にも本人が嫌がっていないのもあるが。
「まぁ、えっちゃんは狩りをした事が無いでしょうけど、セイバーの私がアーチャーになれば余裕なんで宜しく!」
「……円卓の騎士達はどうしましょうか?」
「ガウェイン卿は連れていっても根菜しか見付けられないので除外です。トリスタンは要らん物しか持ってこないので使えません」
「ランスロット卿も駄目ですね。バーサーカーの方が動物を捕まえるのが上手いほどですから」
「ベディヴィエール卿ならそつなくこなせるだろうが、私達が食料を集めに行くという前提が無意味になってしまうだろう」
黒セイバーの意見はもっとも過ぎる。
そもそもこの会議は彼女らアルトリア系サーヴァントが「自分達が食べ過ぎたので、全員分は無理ですがせめて自分達の分だけは調達してきます」と言う反省なのだ。それは部下は勿論、マスターにも言っていない事。自分達だけでやると言う気合いが伺える。
「では何を狩って、何を採取しましょう」
「肉です」
「魚介類か」
「小麦だな」
「芋ですよここは!」
「砂糖」
上乳上、下乳上、黒セイバー、X、Xオルタが意外にもバラバラな食材を挙げる。青セイバーも後から自分も肉と挙げ、どれを集めるべきかと今度は頭を捻る。
(しかし、槍の私と意見が合うとは。やはり正当な青だからこそ成せる事なのですね。そうです!王は肉です!)
「ではこうしよう。我々オルタ3人が野菜、穀物などを集める。そちらは肉や魚を頼んだ」
「分かりました。そのチーム分けで大丈夫でしょう。他に何か意見がある者は?」
反対や意見するアルトリアは居らず、この会議の纏め役である青セイバーを見ている。
その青セイバーもまた、何人とも増えた自分を見回した後に会議を終了させる。
皆が今回の会議に使用したのはカルデアの会議室。部屋の真ん中に大きな円卓がある事から、つい懐かしく思えてこの場所を選んだ。
「無事に任務を終えてきましょう」
◇
「はぁ……
廊下を疲れた様子で歩くライダーのメドゥーサ。今しがた姉達のお使いを終わらせた彼女が目指すのはマイルーム。そこで本を読んで落ち着きたい。
そう思い、廊下のガラス板(カルデア内での会話とかで良く出る背景の3字みたいな形した奴。あれの出っ張ってる尖った所)に古き時代の処刑方法を彷彿とさせる、ボッコボコにされたとある男海賊が吊り下げて晒されていても、いつものように最低限視界に入れることはせずに完全に空気のようにスルーする。
当然、その海賊は本当に処刑された訳ではない。死んではいないが、一週間前の事件の元凶であり、カルデア内を混乱に陥れた罪は深い。更に一週間という期間逃げていたものだからこうなる運命を辿ってしまった。
「……タス……ケ……」
「ん?何ですかなこれは。……ふぅむ……これは芸術性に欠けておりますな」
「グロォォォォオオオ!」
「何をしているのですか!下がって!すぐに治療を開始します!」
自分の後ろで治療とは思えない音がするが全く気にしない。
ぐだ男が女体化した時は偉く興奮して、それこそ少しはいい仕事をしたではないかとほんの僅かに感心した。でも基本的にどうしようもない奴なので嫌っている。
そんなメドゥーサが何を読んでゆっくりするか迷った時、己の耳にとても興味のある音が微かに届いた。
「これは……」
連続的に聞こえる低い音。時折その音は急激に大きくなって、又、連続する音の間隔がとても短くなる。
現代社会において耳にしたことが無いと言う人はそうそう居ないであろうこの音に、メドゥーサはいつの間にか引かれて歩いていた。
そして着いたのは理系サーヴァントがよく使うラボ。
「間違いなくエンジン音」
ここは本来の姿のラボには非ず。
理系サーヴァント達の手によってある意味の魔窟へ劇的リフォームを遂げたそこでは日夜作業が行われていて、一度中に入れば理系サーヴァントが3日は作業に夢中になって出てこないと有名だ。特に直流と交流。
『うぉぉぉ!完璧だよエジソン!ニコラ!これは最早魔術礼装の枠を越えて宝具!ありがとう!』
「マスター?一体何を……」
どういう技術で作られたのか分からない硬質な扉に触れる。メドゥーサに反応した扉は音もなく両側へと開いて彼女を招き入れる。
唖然とした。カルデアの技術力の高さは現代に召喚されたこともあるメドゥーサだから分かる。人がここまで科学を進歩させたのかと……かつて自分が“あの島”で暮らしてた時からは絶対に想像できなかった。
その驚きを更に上回るラボの中は一目見ただけでは─否、例えじっくり見てじっくり説明を聴いたとしても分からないであろう様々な物体が転がっていたり
「む?メドゥーサ君かね?」
「メドゥーサ?どうしたの?」
油等でかなり汚れたグレーのつなぎを着たぐだ男が作業用グローブを外しながら歩み寄ってくる。
初めて見た己のマスターの服装に若干戸惑いつつも、メドゥーサは訪れた理由を話す。
「あー。結構聞こえてたか。実はさ─」
話しは一週間前の黒髭特異点作成事件に遡る。
「先輩!」
「お、女になった!?」
ほぼ体にフィットしていたダビデの服を押し上げんとする、膨らんだ胸。黒いスパッツのようなピッチリとしたズボンが形の良い尻と太股をより一層色っぽく見せている。
間違いない。ぐだ男は黒髭の聖杯の最後の願いを受けて女へと変わってしまった。
「置き土産渡されたの?残念ね」
「エウリュアレさん……何か方法は……」
「さぁ?私には分からないわ」
「そんな……」
「……正直言って悪くは無いわね」
「ねぇ。そんな事よりもこのバイクは貰って良いわけ?貰って良いわよね!?」
マルタがぐだ男の女体化現象を二の次にする程興奮する物が部屋の隅に置いてあった。
メアリーが乗っていたライムグリーンのバイクだ。ライダーとしてなのかレディース時代の血が騒ぐのか……どちらでも同じ事だがマルタはそれに跨がって早速スロットルを全開に吹かす。
「……良い!これ持って帰ればマスターも喜ぶわよ!えぇ!」
「─となって、サーヴァントの無理な操縦にも対応できるように改造してたんだ。マルタには悪いけど、これは聖杯が俺の記憶から作成した紛れもない俺のバイクだからあげられない」
「成る程。ところで、それにはもう乗れるんですか?」
「今その作業が終わったとこだから大丈夫だよ。乗る?」
「はい!」
その言葉を待っていましたと言わんばかりの応答の早さ。
メドゥーサの騎乗ランクはA+。免許や知識がない彼女でも完璧に乗りこなすことが出来る。
マスターからの許可が降りた彼女は早速長い髪の毛をまとめて跨がる。触れた瞬間に分かる、このバイクのスペック、操縦方法、電装系統の状態etc……。
「凄い……」
初めて乗ったバイクの感想は凄いの一言だった。
以前、召喚された時に移動手段としてチャリンコを使用していた彼女。その時はチャリンコのスペックでは満足出来ず、とある女性の原付を狙ってたりもした。遂に乗ることは叶わなかったが─
「こうして乗れるとは……ありがとうございますマスター!少しばかりお借りします」
「ん?良いけどシュミレーt」
エンジンが唸る。複数の天才により魔術礼装から宝具へと魔改造されたそれのアクセルが捻られ、マフラーを震わす。
そこまでの爆音が出ない設計なのは知っているが、突然響いたそれに驚いたぐだ男の横を通り過ぎ、凄まじいドリフトを組まして廊下を疾走していくメドゥーサ。
いくら何でも屋内で宝具を走らせるのは不味いだろう。
「はぁ……何してるんだか……」
事故はしないとは思うが迷惑にはなるだろうと、ぐだ男は嘆息しながら完全に回復した三画の内、一画の令呪を用いた。
◇
「お!大将もバイク持ってんのか!」
「そそ。この前魔術礼装化してたのを持って帰ってきて宝具に魔改造した。だから金時とツーリングしたいなぁって」
「最高にゴールデンクールじゃんよ大将!良いぜ良いぜすぐに行こうぜ!なんなら他のライダーも呼んでくか!」
「他に
「おう。ちょっくら呼ぶわ」
ポケットからスマホを取り出した金時が何人かに電話をかける。見慣れた光景になってるけど、サーヴァントが普通にスマホとかパソコン使ってるのを見ると何か凄いなと思う。
特にヘラクレスがあのデカい指で器用にキーボード打ってるの見たときはガンド撃たれたかと思った。
「どのくらい来そう?」
「ざっと5人か?」
「おお。そんなに居たのか」
意外だった。でもライダークラスだと他に運転しそうなのは……んー……イメージ出来ないなぁ。
「おいおい大将。準備しなくて良いのか?」
金時に促されて俺も準備に向かう。
宝具となった我がバイクは転倒防止:Aや風避けの加護(偽):Cスキルが付与されたりするから基本的にはノーヘルでも問題はない。
実を言うとヘルメット無しで走りたい願望があったから今回はノーヘルで行こう。服装は……
そして今まで数多くの英霊達が普通にやっているそれを見て疑問に感じることは無かっただろうか?そう!英霊の武器ないし宝具はどこから取り出しているのだろうか。詳しいことは専門用語とかでてんで理解できなかったが、要するに召喚の一種らしい。
で、宝具となったバイクはそれの再現をするべく様々な手を打った。結果どうなったかと言うと
「……宝具かぁ」
宝具と言うのは本来、生前の英霊の伝説等が形となった“物質化した奇跡”だ。よって、宝具は英霊の分身と言っても過言ではない。この
で、何故俺の体に刻まれたのか?それは第一に、このバイクに俺が持ち主だと記憶されていたからだ。
第二に、宝具は“物質化した奇跡”であり英霊の分身なのに俺は精々ガンドが使える魔術師で英霊ではない。そこでエラーを起こした結果が魔術刻印と言うわけだ。しかしお尻に刻まれた理由は誰も知らない。
「ヤバイな。よくよく考えたら俺その内英霊になりそうだぞ?」
マーリンに聞かれたら英雄作成スキルとか使われそうだ。
◇
十数分後。レイシフト管制室に多様なライダーが終結していた。
ある者は何の飾りっ気の無い魔術礼装。俺だ。
ある者は肩のスパイクと黄色いストライプが目を引く、黒いライダージャケット。大変格好いい。
ある者は真っ白で背中に『神聖なる旗に集いて吼えよ』と刺繍された特効服。大変異様である。
ある者は艶のある黒が基調、白いラインが括れを強調させるライダースーツ。大変エロい。
ある者は可愛らしい白いチューブトップにデニムのホットパンツ。凄いな。
ある者は白いシャツが見えるように前を開けた黒いライダースーツ。大変普通である。
ある者はただの黒い祭服。なのに背中に『双腕』の刺繍。いや駄目だろ。
「……何か、物凄く意外な人達が集ったものだね」
「マスターもバイク乗れんのか?」
「当然。じゃなかったらここに居ないよ」
モーさんは確かにライダーにクラスチェンジ出来るけど、それは水の上だけではなかったのか。
まぁ、乗り物なんて免許があればね。スキルとかクラスとか関係無いか。
「ところで免許あるの?」
「「「勿論」」」
金時のは知っているが、他の皆は知らない。モーさんから順繰りに見せてもらうと……。
「オレは大型も行ける」
モーさんは二輪は大型もオッケー。そして普通車MTも運転できるようだ。
「
自慢気に免許を見せてくる弓の方の英雄王は現代の免許証では無かった。ナニコレ原典ですか?免許証の原典もあるのか?
「私のはこれです」
次はセイバーの方のジル。名刺のように渡された免許証はモーさんと同じ現代のちゃんとしたそれ。
「はいこれ」
邪ンヌの免許証もマトモな物。特筆すべきはほぼ全ての車両を運転できると言う驚愕の事実。しかも交付日がカルデアに召喚される前……正確にはあのクリスマスから約一週間後の12月31日。さてはサンタに張り合ったな!?
「私は残念ながら普通ですよ」
こちらの心情を見透かしたような笑いと共に渡されたそれは普通である。
何だか免許証確認するだけで疲れたぞ!
「皆(1名除く)ちゃんと免許証持ってたんだね……。取り合えず行こうか」
「そうだな。オレっちもベアー号も
「行こうぜー!」
「皆興奮するのは良いけど、地形を変えるとか無しだからね?そこらへん気を付けてよ?」
「任せとけってドク!んじゃ、一丁頼むわ!」
「はいはい。気を付けてね」
ドクターのやや緊張感の抜けた見送りでレイシフトを開始する。
向かうは第五特異点。完全な修復はまだ終わっていない、広大な大地だ。
すまない……そんなに内容が無い話ですまない……
ぐだ男のステータスが更新されました ▼
宝具
前回特異点にてマルタが拾ってきたカワザキのKenja400Rがカルデアの天才達によって魔改造を遂げて宝具へと昇華した姿。
元々はただのバイクで、人理焼却と共に燃えた。だが、黒髭の聖杯の力でぐだ男の記憶その通りに再現された結果、魔術礼装となった。
色々、兎に角色々複雑難解な事になっており、宝具とは言っても魔眼や魔術刻印と似た扱いになる。よって、上手くいけば他の誰かに譲渡が可能。
乗っている間は、転倒防止:Aと風避けの加護(偽):Cの以上2つスキルが付与されてそうそう怪我はしない。
─因みにコイツは