黒子のバスケ~白銀の軌跡~   作:ZEKUT@GRAND

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4Q

 キセキの世代を要する海常高校との練習試合当日、誠凛高校一同は焦燥と憤りに駆られていた。

 

 

「伊月、あいつから連絡は?」

 

 

「したけど返信が返ってこないな」

 

 

「もうっ!何してるのよ!」

 

 

 その原因は白銀の不在にあった。

 試合会場となる海常高校は神奈川県にあり、東京から電車で来なくてはならない。大勢で電車に乗るとなると、朝の通勤ラッシュで邪魔になりかねないという事で、各自現地集合と言う形で集まることとなった。

 日向や伊月、選手らは電車で、監督であるリコは父親である景虎に車で送ってもらうと言ったように、各々別の交通手段で集まった。

 それが原因で発生した白銀の遅刻。

 白銀の実力を未だ把握していない一年生はまだしも、二年生らの動揺は少なくない。

 

 

「あ、返信きたぞ!」

 

 

 そんな緊迫とした空気の中、小金井の携帯に一通のメールが受信される。

 

 

「内容は何だ。事故とかじゃないだろうな?」

 

 

「ちょっと待って……えっと、あ、うん。マジで?」

 

 

 メールの内容を心の中で読み上げる小金井。その内容を読み、『えっ、これ俺が言わなきゃいけないの?』みたいな内容に思わず額に汗が浮かび上がる。白銀の遅刻に監督であるリコは勿論、主将である日向も若干苛立っていた。そんな爆発間近の二人に、爆発不可避なガソリンを注ぐことは、楽観的な彼でも躊躇いが湧く。なにより、その怒りの矛先が自分に向くことが一番恐ろしかった。

 

 

「どうした?マジで事故とかじゃないよな?」

 

 

 そこに伊月が怪訝な表情で問いかける。

 彼の言葉が白銀を心配してのことだという事はわかる。だが、その心配は今してほしくなかった。そんな発言をされれば、この内容を伝えた時の怒りの反動が大きくなる。

 しかし、これ以上言い淀めば他のメンバーにもいらぬ不安を与えかねない。

 小金井は意を決して内容を伝える。

 

 

「えっと、電車乗り間違えたから少し遅れるって」

 

 

 その瞬間、ブチッっと言う不快な音が聞こえた気がした。

 心なしか、監督や主将の機嫌がみるみる悪くなっている気がする。

 

 

「あ、あんの今畜生が!今日が練習試合だったからよかったものを!これが公式試合だったらどうするつもりだったんじゃ!ふざけてんのか?ふざけてんだよな!バスケが多少うまいからって何しても許されると思ってんじゃねえぞあのスカしヤロウが!?」

 

 

「ふ、ふふふっ。流石の私も堪忍袋の緒が切れたわ。確かに序盤からは出場させないって言ったけど、まさか遅刻をするなんてね。帰ったらフットワークを倍に、いえ、三倍やってもらおうじゃない。途中出場なんだから体力は有り余ってるはずよね?だったら普段の三倍程度、試合が終わった後にできるわよね?てかやらせる」

 

 

 試合が始まってもいないにもかかわらず、二人のフラストレーションは最高潮まで昇る。余りの怒り様に二人の背後から般若のようなものが見える。

 そして、その般若は選手たちを恫喝するかのように睨め付けた。

 

 

「おい、白銀が来ても出番なんか与えねえつもりで試合に挑むぞ!あいつに出番与えることになったらもれなく全員、次の日のフットワーク三倍だ!それが嫌なら死に物狂いで海常倒すぞ!」

 

 

 まさかの飛び火である。

 錯乱の末、自分自身も巻き込んだ盛大な飛び火が誠凛一同に降りかかった。

 誠凛高校の練習メニューは決して軽くはない。それこそ、全国区の練習メニューと大差ない程の質と量を兼ね備えている。それが三倍だ。確実に屍になることは避けられない。

 主将の言葉に反論しようとする伊月と小金井だが、それをギリギリの所で呑み込む。ここで反論することは、自分達だけでは海常に勝てないと口にすることに等しい。二年生は冬の大会を通して、自分達が如何に白銀に依存しているのか理解しているつもりだ。だからこそ、此処で自分たちが奮起し、少しでも白銀の負担を減らし、安心させてやらなければいけない。

 

 

「勝つぞ!」

 

 

『おう!』

 

 

 相手は全国区のチーム、いずれ全国に出場するのなら尾の力を体験しておくに早いことはない。

 それぞれが闘志を燃やし、モチベーションを高めていく。

 

 

「あれ、滅茶苦茶話かけづらいんっスけど」

 

 

 話しかけるタイミングを逃した黄色は、如何に自然にあの輪へ入り込むか思案するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃

 

 

「やはり電車は苦手だ」

 

 

 ようやく海常高校の最寄り駅に辿り着いた白銀は、片手でボールを遊ばせながらゆっくりとした足取りで、目的地に向かう。

 

 

「現状、うちの弱点は中に切り込むスラッシャーの不足、ゴール下の制空権を確保するリバウンダー、DFの連携不足、それと選手層の薄さ、挙げればきりがないが、それでもスタメンの実力はそこそこある。時代遅れだが確実性のあるピュアシューター、3Pが撃てないが堅実なガード、パワーはないが器用に立ち回る技巧派フォワード、未経験で欠けている物が多いが幅広くこなせるフォワードに、同じく未経験でゴールした以外は特にプレーできないリバウンダー。これだけ見れば前半だけでダブルスコアになることは必定だが、そこに変幻自在のパスと天賦の才を持つ奴が加われば、前半だけはどうにかなるだろう」

 

 あくまで前半だけだが、と呟く。

 事実、火神や黒子が出場することによって、多少の戦力差は埋めることができるだろうが、それでもジリ貧だ。黒子のミスディレクションは試合中常に発動できず、火神単体ではキセキの世代を相手にするのは困難、更に日向達と黒子ならまだしも、火神は連携をとることすら難しい。

 前半は騙し騙しでどうにか有耶無耶にできるだろうが、後半からはその隙を突いたプレーが重点的に行われるだろう。そうなれば、連携も碌に取れず、チームは空中分解するだけだ。

 

 

「まあ、大雑把な推測だが大きく間違ってはいないだろう。それほど戦力差は明確だ」

 

 

 と予想をたてているうちに海常高校に到着する。

 今更ながら、遅刻したことを怒られないかと考えるが、試合には間に合ったのだからいいだろうと、結論を付ける。

 もしもこの場に、二年生が居れば、『それはおかしい』と揃って口にする事だろう。

 

 

「おっ、意外に競った試合になってるな」

 

 

 誠凛37-海常35

 

 白銀の予想を上回り、誠凛高校は海常高校を相手に、僅差ながらもリードを保っていた。

 だが

 

 

「序盤から飛ばし過ぎたな。このままじゃ4Q前半辺りで失速する」

 

 

 白銀の推測通り、誠凛は海常に対抗するために最初から全力で試合に臨んでいた。更にそれに拍車をかける様に、『キセキの世代』黄瀬涼太対火神、黒子のぶつかり合いで攻守の切り替えが異常に加速していた。

 

 

「俊も熱くなり過ぎだ。司令塔が他の奴と同じ視点でものを見るのは良くないだろ。状況を理解して、俯瞰して、先を見て、今何が必要か見極めないと。せっかくの眼が見る影もない」

 

 

 ぶつくさと駄目出しをしながら、暫く試合を傍観する白銀。

 本来ならすぐにでもベンチに駆けつけるべきなのだが、あえてギャラリーに混じり試合を観戦する。その眼は、一挙一動たりとも見逃さんばかりにゲームの流れを記録している。その中で一つ図抜けたポテンシャルを発揮している人物が一人、白銀の目に留まる。

 

 

「あれが噂の、正直期待外れだな。一見洗練された動きに見えるが、センスに任せた荒削りのプレー。上手く模倣しているようだが、所詮二番煎じ、一つ一つに癖と無駄がある」

 

 

 天才と謳われ、恐れられているキセキの世代の一人に対し、随分と辛辣な言葉を零す。

 上から目線で傲慢にも取れる言葉だが、白銀からしたら当然の評価だった。

 相手のスキルを見ることで模倣し、自らの糧にする。なるほど、確かに脅威だ。だが、所詮はそれだけだ。所詮本物を真似た模造品。黄瀬の技は、確かに上手いが、それだけ。

 白銀には、黄瀬の模倣した技には先が見えなかった。本来の使い手は試行錯誤の上、この技を生み出したのだろう。そこに至るまでに、何度壁にぶつかったことだろうか。そう言った苦難を乗り越えて昇華させた技には、いくつもの先が見える。それこそ、試合の流れを変えるほどの技に変貌するかもしれない。だが、ただ模倣しただけの黄瀬の技にはその先が無い。

 だからこそ、白銀は黄瀬に対して警戒は持っても、脅威は抱かない。何故なら、それ以上の進化が無いのだから。

 

 

「レフリータイム!」

 

 

 頭の中で全体の採点を終え、2Qの中盤に差し掛かろうとしたところに、アクシデントが起きる。

 黒子の負傷だ。

 試合は止まり、今まで忙しく動いていた選手の足も止まる。

 そして試合が止まったことによって、今までの溜まりに溜まった疲労が降りかかる。そこに黒子の離脱、これは今の誠凛には痛すぎる痛手だった。

 今まで何とか喰いつき、リードを保つことができたのは一重に黒子の助けがあったからに他ならない。確かに日向や伊月、水戸部らも奮戦していたが、ポテンシャルで負けている相手にできることは少なく、火神は黄瀬の相手に精一杯。対する黒子は黄瀬封じに、OFの機転、目立つことはなかったが、要所要所で妨害を繰り返していた。それだけに、黒子の負傷は戦意を低下させるには十分だった。

 海常も不本意ながら、これで試合は決着が付いたと断じる。事実、今まで海常が優位に攻めることができなかったのは、神出鬼没な黒子のスティールを恐れていたからだ。一人抜いたと思えば、そこから音も無くボールが弾き飛ばされる。そこからの速攻の脅威は、知らず知らずのうちに海常のOFに躊躇いを植え付けていた。それが無くなれば、後は元の木阿弥。ゆっくりと点差が開いて行くだけだ。

 彼がいなければ

 

 

「リコ、大変そうだな」

 

 

「白銀君!?」

 

 

「おま、今まで何してた!」

 

 

「試合を見てた」

 

 

 まさかの発言に開いた口が塞がらない一同。それもそうだろう。すでに着いていたにもかかわらず、優雅に試合を観戦していたと言われて、驚くなと言う方が無茶だ。

 

 

「黒子、アイシングとタブレット。少し休め。後は俺に任せろ」

 

 

「すみません、お願いします」

 

 

 白銀はバッグから取り出したタブレットを黒子の口に放り込み、ユニフォームに着替えはじめる。

 

 

「リコ、黒子の代わりに出るぞ」

 

 

「ちょ!言いたいことは色々あるけど、準備運動は!?」

 

 

「来るまでボールを弄ってた。ある程度は問題ない。それよりも―――――」

 

 

 白銀は呆れたように周囲のメンバーを見渡す。

 

 

「順平、主将ならもう少し流れを読め。俊にゲームメイクを丸投げするな。俊はもう少しクレバーになれ。司令塔が頭に血を昇らせてどうする。凛はもう少し自己主張しろ。お前の美徳は裏方に徹するところだが、裏に固執し過ぎだ。そこの赤頭は動きが単調すぎる。わざわざ相手にブロックしてくれって言ってるようなシュートばっか打ちやがって。高さに頼り過ぎだ」

 

 

 ただでさえ意気消沈しているチームの士気を根元から折りに行くような駄目出し。罵詈雑言にも聞こえかねない発言に、一年生は呆然とする。

 

 

「リコ、そこの赤頭は慎二と交代だ。一度頭を冷やす必要がある」

 

 

「はっ!?ちょっと待てよ!」

 

 

 突然の交代指示に異議を申し立てる火神。

 だが、そんな言葉に耳を貸すことなく、白銀は淡々と指示を繰り出す。

 

 

「DFは1-3-1に変更。トップのガードを俺が抑え、黄色にボールが行かないように妨害する。OFはが指示を出す。外と中とで相手の呼吸を乱す。俊は眼で全体のバランス維持、慎二は空いたスペースに飛び込め。起点は言うまでも無く順平と凛だ。できるな?」

 

 

「遅れてきた奴が偉そうに言うな、ダァホ」

 

 

「全くだ。これで負けたらフットワークは三倍だぞ?」

 

 

「ま、白銀がいるなら大丈夫っしょ」

 

 

「(コクっ)」

 

 

 何やかんや文句を言いながらも白銀の指示に従う二年生。

 その姿には先程までの悲壮感はなく、むしろ試合が始まる前の様に戦意で満ち溢れている。

 

 

「もうっ!私に意見の一つもなしに勝手に決めて!」

 

 

「何だ、不服か?」

 

 

「悔しいけど、白銀君の作戦で問題ないのよね……でも、出るからには圧倒しなさい。それで遅刻は目を瞑るわ」

 

 

「了解した、監督」

 

 

 白10OUT 18IN

  11OUT 6IN

 

 

 天災がコートに舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 バスケが始まらない……
 そして黒子の言葉が圧倒的に少ない!
 どうしよ~

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