……すみません、前回更新からだいぶ時間が開いた上にこの即興感のある短い更新で本当に申し訳ない。
後を追おうか少しだけ迷ったけど、焦れる気持ちとは裏腹にあたしの足は動くどころか立ち上がろうとさえしてくれない。こんな時に自分で大事だとわかっていることよりも小さな羞恥心が勝ってしまう自分は、みんなが思っているほど強い人間ではないんだと思い知る。
「あ、あはは。ヒッキーとさがみん、どうしちゃったんだろうね」
「……まあ、相模さんの様子からすると俺達が心配することじゃないと思うよ」
「けどよー、実際放っといて大丈夫なん? ゆーてもヒキタニくんと相模さんっしょ、あんま仲良しなイメージもない感じじゃん?」
由比ヶ浜たちが呆気にとられた様子で相模と比企谷が出ていった戸口を見つめている。……ってことは、由比ヶ浜も知らなかったんだ。まぁ、そうだよね。仮に依頼、というか奉仕部絡みだったとして、あんなやり方を由比ヶ浜と雪ノ下が認めるわけないと思うし。
でも、それなら尚更追うべきだったのかもしれない。ほんと、つくづくあたしは大事な時に尻込みしてしまうダメな女だ。
比企谷と出会ったのが由比ヶ浜や雪ノ下より先だったら、何か変わったんだろうか。多分なにも変わらない、その結論はとっくの昔に出ていたけれど、それでも時々考えてしまう。あたしよりも比企谷とは遠かったはずの相模の、あんな姿を見せられたら、なおのことだ。
『うっさいって言ってんの! いいから黙れ、このっ、ばあああああかっ!』
あの相模が、衆目の中であんなことを言うようになるなんて、一体誰が予想しただろう。
あたしは相模の変化に気づけなかった。きっと由比ヶ浜も比企谷も、クラスの誰もが、きっと相模自身でさえも。こんな変化を知っていた者はいなかったと思う。
でも由比ヶ浜も葉山もわかっているんだろう。あの相模が変わったのは間違いなく比企谷の影響だってこと。
比企谷には多分、人を成長させる力がある。あいつなりのひねくれた言い方に添うなら、反面教師ってヤツだろうか。比企谷が間違ってるって意味ではないんだけど、あいつの在り方を知れば知るほど誰もが影響を受けて変わっていく。
由比ヶ浜も、葉山も、相模も。比企谷の影響で変わっている。あたしに言わせればだけど、多分、いい方向にだ。
……じゃあ、あたしは?
あたしは比企谷と出会って変わったんだろうか。きっと、おそらく、色んな影響は受けている。あたしは少なからず教室で比企谷を気にかけている。クラスの他の誰を見るよりも、視界の隅でこっそりあいつを追っている時間は長い。まぁ、それは他の連中には興味がないってのもあるんだけど。
文化祭以降はクラスの連中とも多少話はしている。海老名あたりは向こうからやたら絡んでくるときもあるし。
それでもあたしが見ているのは比企谷だ。
……そりゃ、なんていうか、あ、憧れ? みたいなものが、無いとは言わない。家族を除けば、あんな風に自分の身の上話をした男なんて始めてだし、あ、愛してるとか言われて、気にするなって方が無理。
でも、そういう柄でもない想いと一緒に沸き起こってくるのは自己嫌悪。
由比ヶ浜は少しだけ強くなった。
葉山は少しだけ仮面を外した。
相模は……多分だけど、自分を見つめ直し始めた。
だけどあたしは。
比企谷に一方的に助けられて、それだけ。比企谷を助けることも、自分を変えることもできず、いまでも些細な意地と気恥ずかしさだけのために足を踏み出すことを躊躇ってしまうようなあたしのまま。
「……はぁ」
ため息が癖になったのはいつからだろう。
幸せが逃げるなんて信じてないけど、溜息が癖になってからのあたしはどこか自分に閉塞感を覚えている。
ねぇ比企谷。
あたしは何を見て、どこへ向かえばいいの?
あんたは傷つき続けて、どこへ向かうの?
……なんて、またあんたに助けを求めたがってしまうのも、あたしの弱さ、なのかな。
「――さん、川崎さん」
ふと名前を呼ばれて窓の外に向けていた視線を引き戻すと、見知ったクラスメイトが遠慮がちな微笑みとともに立っていた。
「……ああ、戸塚か。なに、あたしに何か用?」
珍しい。戸塚とは文化祭の時に衣装合わせで少し話したけど、普段から仲良くお喋りをするような仲じゃない。そもそもそんな風に個人的に親しい人間はクラスには……まぁ、海老名はちょっとアレだけど。
「えっとさ、あの、八幡のこと、なんだけど」
「比企谷の?」
「うん」
少しの驚きと、納得。戸塚彩加というこの可愛らしいクラスメイトとあたしを結びつける何かがあるとすればそれは比企谷の存在を置いて他にない。
「比企谷が、なに?」
「その、相模さんのお陰でさっきはうやむやになったけどさ。八幡って、ああいうところがあるでしょ? その、困ってる音があっても、一人で全部やろうとしちゃうっていうか……」
「……そうかもね」
「うん、それで僕も八幡の力になりたいなって思ってるんだけど」
「それは……難しいんじゃない。あいつ、人を頼ったりしないでしょ」
そう言いながら、内心ではあたしだって、と思っている自分に気づいている。あたしだって、助けられるばかりじゃなく比企谷の助けになりたい。そうしなければ、あたしは比企谷の隣には……。
「あはは。うん、そうなんだけどね。でも、困ったら頼ってって八幡に言ったら、その時は頼むって言ってくれたんだ」
戸塚は嬉しそうに話す。
もちろん、あいつが言葉通りに頼ってくると思ってのことではないんだろう。それでも、たとえ言葉だけだとしても、頼ると言ってもらえただけで、戸塚はとても喜んでいるのだ。
少しだけ、あたしにもその気持ちはわかる。
でも、あたしは戸塚とは違う。比企谷との距離も、比企谷に一方的に助けられる立場であることも。
「それで、もし八幡が困ってる時は川崎さんも助けてあげて欲しいなって思うんだ」
「……あたしより先に、比企谷が頼るべき相手がいるんじゃない」
「それでもだよ。八幡は、誰かを頼るのが得意じゃないから」
……なるほど、そういうことか。
奉仕部は互いに寄せる信頼とともに意地やプライドのぶつけ合いの側面があるように思う。それは、比企谷と雪ノ下の正確からすれば無理もない。だから戸塚は、力を貸すとかそういう言い方ではなく「助けてあげて」と言ったんだろう。
比企谷が手をのばすのを待つのではなくて、こちらから手を差し伸べて欲しいと、戸塚はそう言っている。
それなら、あたしの答えは決まっている。
「気が向いたらね」
「うん、ありがとう」
戸塚はあたしの気持ちまで見透かしたように戸塚は微笑む。気恥ずかしいけど、悪い気はしない。
もしも比企谷のために、あたしに出来ることがあるなら。そんなの、迷う理由なんてあるはずもない。比企谷の力になりたいのはもちろん、比企谷の力になれたらそれが、あたしの閉塞感を溶かしてくれる気がするから。
ねぇ比企谷。
あたしがあんたを助けたいって言ったら、あんたは受け入れてくれるの?
正直すまんかった(更新遅れと極短更新について)。
一応、前回予告していたもう一つの要素、拙作の主要キャラクター候補の川崎と戸塚のお話です。川崎難しいですね、作者のうじうじした性格はさがみんを書くにはいいのですが川崎には向かないかも…。
修学旅行の内容に入ってしまう前に八南が出ていったあとの教室のことも少し書きたかったので、この機会にちょっとだけですが書かせて頂きました。
次回こそは本当に修学旅行、とべっちと海老名さんのお話に入っていきたいと思います。
以下、内容に関係ない話(更新遅れた言い訳など)
更新が遅れた件についてですが……ちゃうんや、忘れてたわけじゃないねん! PS4の『LET IT DIE』が面白すぎるのがアカンねん! いやほんと、別に言い訳しようっていうんじゃないんですけどアレほんと時間泥棒ですよね。やめ時が見つからない。
本当なら前回から時間が開いた分キチンと修学旅行編の導入を書いて更新しようと思ったんですが、ぶっちゃけますと明日には『NieR:Automata』も発売でしばらくゲームしちゃうと思ったので今日のうちに更新したかったんです。BlackBoxを発表直後に予約してた人間にゲーム我慢する自制心はありません(断言
ということで次回更新も少し遅めになってしまうかと思いますが、そこはご容赦願います。
今後も更新ペースは遅めだと思いますが、完結させる意思はありますのでよければ思い出したときにでも読んでもらえたら嬉しいです。
……実際SSなんて完結してから読まないとやってらんn(略