少年/戦姫絶唱フェイト・シンフォギア   作:にゃはっふー

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59話・星と霊長と理想

 朝は早く、学校は休み、身体の調子を見たりする。

 

「最近傷の治りが遅いな」

 

 病室から出て、司令室で休む。友里さんからあったかいものをもらいながら、静かに首を鳴らし、少しぼーとする。

 

「敵はレイラインを使って、地のオリオン座を門に見立てたレイラインから、神の力を作り出す。可能性はやっぱり高いよな」

「まあな、けん玉の錬金術師が高速道路移動してたけど、向かってた先に例の神社がある」

 

「となると、要石。レイラインの構造がカギを握りますね」

 

「ああ」

 

 そう言いながら腕を組む司令。キャロルが眠そうな顔にコーヒーを飲みながら、

 

「風鳴弦十郎、要石によるレイライン妨害の準備はいいか」

 

「キャロルくんか、ああ。そちらは風鳴機関に任せてくれ」

 

「要石によるレイライン妨害は、俺の計画でも絶対に避けたい事態。必ず効果はある。奴らが俺の万象黙示録を利用しているのなら、必ずレイラインを利用する」

 

 そう言う話をしながら、頬をかく。それにキャロルは不機嫌そうに、

 

「お前、まだ頬の傷も首の傷も治ってないのか」

「ん? 全然。痕くっきり」

「チィッ」

 

 舌打ちをしてコーヒーを一気に流し込む。

 

「ともかく俺とエルフナインはギアの調整に取り掛かる。神の力対抗策は、いまのところ神殺しに逸話にかかっている」

「あたしのロンの槍、アスカの無限なる夢幻、それと響か」

「立花響については今現在不明だがな。だがロンの槍とアスカの武器には神殺しは必ず付加されている」

「問題ないさ、また神を殺すだけだし」

 

 そう言いながら、キャロルは僅かに眉を上げ、こちらに近づく。

 

「また? なにを言ってるアスカ」

「またって、すでに神を殺した武器を取り出すだけだよ。そう言うこと」

 

 それに僅かに考え込むが、そうかと言ってコーヒーを、

 

「空か」

「いま淹れるわね」

「すまないな友里あおい」

 

 そのやり取りを見ながら、静かに、

 

「ともかく、響の誕生日が近いんだ。早く問題解決しなければ、オレは女装、キャロルは自分の身を渡さないといけなくなる」

「それはそれで嫌な話だ」

 

 苦笑する司令室。そんな中首をさする。

 

(傷口がうずくな………)

 

 そんなことを考えながら、ミーティングまで時間を潰す。

 

 

 

 ――???

 

 

 星と霊長は龍崎アスカを聖杯へと変換させ、英霊の座に登録して永遠に使用しようとしている。それを知るのはごくわずかであり、誰も本人に伝えることはできない。

 

「いいのかい、君はここで」

 

 蒼穹の世界、聖杯を見つめる理想は、フォウにそう言われるが、

 

「俺が元来動ける立場じゃないから、今回の回りくどい事が起きてる。もとよりヒントは言った」

「それはアスカを理想の聖杯に換える気ってとこだけで、装者達を元に利用していることだけだ。このままじゃ、龍崎アスカは理想の聖杯として、英霊の座に強制登録される。その先にあるのは」

「無限に在り続けるカウンターガーディアンだろうな」

 

 魂の無いそれは、人形以下として動く。そう知りながらも、

 

「だからと言って、俺もお前もここから動けば、花の魔術師の思うつぼだ」

 

 

 

「はあ、後二人。撃槍・ガングニールと獄鎌・イガリマによって、完成してしまう」

「ん~それはいけないですな~」

 

 シェイクスピアはそう髭を撫でながら、静かに考え込む。

 

 正直言って、彼らは星と霊長に言われた通り、完成させる気は無い。

 

 だからと言って、無視だのなんだのもしない。ちゃんとは働いている。

 

「いい加減にさ、理想の聖杯に執着するのやめればいいのにね。まあ、如何なるモノであろうと、終わらせ始めさせる力は魅力的さ。だけど結局、彼は意味なんて無い」

「全くだ、このような三門芝居に付き合わされる身にもなってもらいたい」

 

 アンゼルセンは書物を書きながら、静かに物語を書く。

 

 交代制でまさに書いてる途中、だが休みも必要だ。やる気も無し故に。

 

 彼らのシナリオは、六人の歌姫による涙から、龍崎アスカを器と中身に換えて、幻霊英雄を生み出すことだ。

 

 それは可能のところまで来てしまっている。

 

「シンフォギアが愛、彼ら理想が最も原動力にするエネルギーと密接しているところから、こんな事態になってしまって」

「装者達の愛が、一人の少年を最強にして最弱の幻霊英雄へと変えてしまう。あーいやだいやだ」

「我々からしてもそのような物書きは、少しばかり面白みは無いですな~」

「ひねりが無い」

「全く」

 

 そう言いながら、二人の作者は己の宝具にて、物事の流れを書き上げている。

 

 いまのところ、大作になる気配すら無い物語を書いている。

 

「アサシン達もあの空間に閉じ込めながらだし、私はもう限界だよ………ああ、お寿司の皿は返しちゃだめだからね」

「おっとそうでしたそうでした」

「トロを頼むとしよう、だがここの金は問題ないのか」

「あの組織に頼むから」

 

 そう言いながら100円寿司を堪能している。来たるべき時が来るまで………

 

 

 

 そして時が来る。

 

「!」

 

 バイクを走らせ、連絡を受けた場所に来る。ヘリポートで切歌と響、セレナと奏と共に、異変が起きた場所へ急ぐ。

 

「やっぱオリオン座を元に、神の力を引きずり出す気か」

「ならやっぱり、要石か」

「それに賭けるしかない」

「見るデスよ、凄いことになっているデスっ」

 

 ヘリの外、それは鏡映しの神の門。

 

 パヴァリア光明結社が神の力を得る為の儀式。

 

「このままじゃ、神の力を得るか」

「いや、旦那たちを信じるぞッ」

 

 そう奏が言った瞬間、大地から一転へと向かうレイラインの力が遮断された。

 

「成功かっ」

「行くぞ全員ッ」

 

 

 

 ヘリから飛び降り、ギアを纏い来ると、サンジェルマンがそこにいて、反射的に奏以外がアスカの目を潰しかける。

 

 儀式の為か、裸だったサンジェルマンだが、アスカをかばう奏。

 

「いましている暇はねぇッ」

「そうでしたっ」

「ごめんデス、つい反射的に」

「オレも終わる覚悟した………」

 

 だがすぐにローブを纏うサンジェルマン。すぐに全員が戦闘に入る。

 

 切歌と響のユニゾンを軸に、イグナイトモジュールで押し出すが、たった一人。サンジェルマンはけして折れず、こちらの攻撃に反撃する。

 

「信念の重さ無き者に、神の力をもってして、月遺跡管理者権限を掌握するッ! これにより、パラルの呪詛より人類を開放し、支配の歴史に終止符を打つッ」

 

「だとしてもッ!! 誰かを犠牲にするやり方はッ」

 

「そうッ、32831の生贄と40977の犠牲!!」

 

 左右から奏の槍とセレナの盾が迫るが、地面を銃で撃つと黄金のように岩が現れ、防がれる。

 

「背負った罪とその重さ………心変わりなどもはや許されないッ」

 

 銃弾が響に放たれたが、空間を飛び、別の方角から放たれ、それを受けた瞬間、接近され、刃を突き立てられたが、

 

「!?」

 

 鎖がそれを掴み、刃を砕く。

 

「行けっ、響切歌!!」

 

 二人のユニゾンの歌が響く。

 

 すぐそばで待機する奏とセレナ。だが、

 

「!」

 

 響と切歌のギアが歌を歌うと、アスカのギアが僅かに感電したような瞬間を、奏は見た。

 

「アスカ?」

 

 そして二人のユニゾンの一撃が、サンジェルマンを穿って、奏は後回しにし、土煙立つ中、武器を構える。

 

 

 

「まだ終わってない」

 

 イグナイトが解けている二人の前に立ち、サンジェルマンを睨む。

 

 サンジェルマンはユニゾンによる一撃を受けながらも、なお立とうとしている。

 

「まだ立つつもりですか」

 

「この星の明日の為………誰の胸にも二度とッ、あのような辱めを刻まないために、私は支配を、革命する!!」

 

 そう言う中、その時、響が側によって、手を伸ばす。

 

「私もずっと正義を信じて握りしめてきた。だけど、拳ばかりが変えられないことを知っている。だから、握った拳を開くことを恐れない」

 

 そう言ってサンジェルマンに手を伸ばす。

 

 何も言わず、ただ側にいるだけにする。奏達に目線を送り、刀剣を消して側による。奏たちはそれを静かに見守る。

 

「あんたは支配から人を開放すると言うが、人は支配から解放されない。例え神の力をもってしても………」

 

「なん、だと………」

 

 それは静かに、分かる故に、静かに、

 

「オレは龍崎アスカと言う存在に縛られている。人がいまさら統一言語を取り戻そうと、あんたらが神の力で制御しようとしても。人の支配はあんたらに変わるだけだ」

 

「月遺跡による、パラルの呪詛が無ければ、人は統一言語を失わなかった。永劫に分かり合えたはずだ………」

 

「それは分からないことを分からないと言う意味だ」

 

「なに………」

 

 驚愕し、こちらを見るサンジェルマン。それに静かに、

 

「オレはいろんな人を知っている。だからこそ、ならばこそ、それ故に、オレは声高らかに、はっきり言える」

 

 分かるか? 数年の命で、大切な者を守る偽りの人間が駆けた瞬く時間の思いの重さ。

 

 分かるか? 愛する者を犠牲に、世界を救うと決めた。正義の味方になろうとした者の願いを。

 

 分かるか? 殺すことしか世界を救えない男の歩みを。

 

「オレならキレるね、たかが言語一つで、オレらの半生を、あの歩みの半生を理解されたと言われること。理解できないだろ、理解されたくもない人生。あんたも、あんたが背負った人生を、言語一つで、理解されると、そんな軽いものか?」

 

「お前………」

 

「オレには、オレ達にはきっと、理解できない苦難の中で、いまの選択を取ったんだろ? それを言語、神の力程度で、あんたの歩みを全て理解できない。イカサマすんなよ錬金術師」

 

 静かに、響の伸ばす手に乗せるように、

 

「神の力なんか頼らず、ほんの少しだけの繋がりで、支配に叛逆しろ。人は人のまま、支え合って世界を替えられる。オレはそれを知っているし、こいつはそれを信じている」

「アスカ………」

 

 微笑む響はサンジェルマンを見て、静かに見つめる二人に、サンジェルマンは静かに見つめる。

 

「『だとしても』………いつだって何かを変えていく力は、『だとしても』と言う不撓不屈の想いなのかもしれない」

 

「オレらは諦めないぞ、犠牲による世界を変えるなんて」

 

「………」

 

 静かにそれを聞き、その手を取ろうとした時、

 

「誰だッ」

 

 アスカは振り返りながら、ハットが回転して炎を纏い来るため、魔剣をすぐに振り返りざま取り出し、弾く。

 

 二人をかばうようにし、切歌達も武器を構える。

 

「茶番はそこまでにしてもらうよ」

 

「ローランリスペクト野郎ッ」

 

「アダムっ」

 

 その問いかけに、星空のオリオン座が光り輝く。

 

「あれって」

「なにが起きてるデスかッ!?」

「星のレイラインッ、しまっ。天のオリオン座から神出門を作り出したかッ」

 

 巨大なエネルギーがまたこの地に降り立ち、それに全員が身構える。

 

「教えてください統制局長ッ、この力で本当に、人類は支配の軛より解放されるのですか!!?」

 

「できる、んじゃないかなぁ? ただ僕にはそうするつもりはないのさ、初めからね」

 

 それに驚愕し、怒りをあらわにする。

 

「謀ったのかっ、カリオストロも、プレラーティも………革命の礎になった全ての命をッ!!」

 

 それに対して、

 

「! セレナ盾ッ」

 

「用済みだね、君も」

 

 エネルギーの柱の中にいる人形から、レーザーが放たれ、巨大な城壁を張るが、

 

「ッ!?」

 

熾天覆う七つの花園(ロー・アイアス・ガーデン)!!」

 

「ロンの槍ッ」

 

 

 

 爆炎が自分達を飲み込む中、三人が手を前に出し防ぐ。

 

「奏さんッ、セレナちゃんッ、アスカッ!!」

「お前達ッ」

「喋るなッ、まずいまずいまずいッ、投擲ならともかくッ、すでに何枚も砕け散ったッ!! ロンの槍の塔はッ」

「砕け散ったッ、チャージ不足だクッソおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「任せてくださいッ、円卓の盾で防ぎ切りますッ」

 

 弾かれたロンの槍、奏は膝を突き、炎がいまだ飲み込む。

 

 バリンバリンと盾が砕ける音と共に、全員より前に出ているセレナが後ろに押され出す。

 

「くうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

「一か八かッ、高エネルギー攻撃の軌道をそら、せねぇぇぇぇぇぇぇぇ。町中だこんちくしょうッ!!」

 

 二人がそんな風に抑えていると、歌が聞こえる。

 

「!」

 

 切歌が二人の横をすれ違う。

 

 その時、

 

(血………いやッ、首筋のそれは)

 

 何か所か、薬の投与箇所が見えた。

 

 そしてこの歌は、

 

(絶唱ッ!!)

 

 それに気づき、

 

 

 

「キィィイイリィィィィィィィィィカアアァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 

 

 その時、絶唱で全員より前に出る歌姫。

 

 よりも前に出る。

 

「アスカッ」

 

「アスカさん!?」

 

「アスカッ!!」

 

「ダメデスアスカッ」

 

「お前ッ」

 

 全員が叫ぶ瞬間、

 

 その時、遠くにいる一人の魔術師は、

 

「………完成するのかい? 理想の幻霊」

 

 そう問いかけた。

 

 

 

 流れる。

 

 手のひらからこぼれていく。

 

 嫌だ。

 

 それだけは認められない。

 

 意味はいらない。

 

 生きる意味なんていらない。

 

 だから………

 

 救える力。

 

 助ける力。

 

 守る力を………

 

 オレに寄こせ。

 

 ただの『人』なのは分かっている。

 

 けど違うと言うのなら、寄こせ。

 

 代価はオレの………

 

 

 

 フォニックゲインの波長をした紋章が囲む中、そんな歌を聞いた切歌から、イガリマが消えて、リンカーの力も消えた。

 

 そして、

 

 一人の少年は、

 

「あす………かぁ?」

 

 

 

 無数の鮮血を巻き上げながら、片腕でエネルギーを掴み、空へと反射した。

 

 

 

「アスカ………」

 

【………】

 

 その瞬間、血は流れ出て、翼と成り、剣が握られる。

 

【安心しろ響、切歌、奏さん、セレナ】

 

 そして少年は、

 

【オレは幻想に溺死し続ける、無限の現実………】

 

 そう言った途端、それは笑い出し、無数の武器が身体から生え、イガリマの鎌を持ち、鮮血が刃を伝う。

 

【オれのモンに、手ぇェ出すンだ。終焉を、きサまにやろう】

 

 全なる一はそう呟き、駆けだした。

 

 歌姫達の叫び声が聞こえず………

 

 ただ前しか見えなかった………




切歌を救うため、聖杯の中身を取り出し、抑止達の希望通り、聖杯の力を吐き出すモノになる。

まだアスカが壊れる前に、助け出せるのか。

お読みいただき、ありがとうございます。

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