ただ一つ言えるのは、龍崎アスカは正義の味方ではない。
ただいるだけの存在。
分かるはずがない、それは理解することをしなかった残滓である。
だから、故に、これは必然であり、当たり前であった。
それは唐突だった。
影のようなそれらが突如現れ、都市部は大混乱の中、装者達が動き回る。
「これ速いですねっ」
立花はそう言いながら、ヒポグリフを飛翔させる。どうも、無差別と言う訳ではないが、地脈を利用した場所に、シャドーサーヴァントや、魔神柱らしい物を創り出した。
まさかここで最終決戦? とことん壊れているなと思いながら、アスカとアストルフォは操る。
「これってどゆことなの? 計画性とか、そゆの」
「いや、そもそも計画性があるような存在なのかも疑問だからな」
デオンの言葉に、シャーロックが連絡を入れて、それを肯定する。
『呼び出した英霊も素直に制御もできていない、これはただの残滓だ。知能も計画性も何もない、ただの悪あがきだよ』
「だがどうしていまここまで力を引きずり出せた? いくらなんでもおかしいだろ?」
『それについては少しばかり推測できる。だが憶測で話す気は無い』
『いま一番反応が大きいところを確認しましたっ、アスカさんはそこに出向いてください。他の方は、別の場所の魔神柱を撃破をお願いします』
「となるとそろそろ分かれるか」
「デスっ」
「任せてっ」
そう言って、バイクで出た風鳴や奏と違うルートで、雪音、暁、月読も外れ、アストルフォから、立花達も外れる様子を見る。
「令呪を通してサーヴァントに命ずるッ、被害を抑え、魔神柱を討てッ」
それに全サーヴァントは頷いた。
「こちら藤尭、アリスちゃん聞こえますか?」
『聞こえるわ聞こえるわ』
「それじゃ、指示したように固有結界を作って、一般人の誘導、保護を頼むよ」
『任せてだわっ♪』
「こちら友里、デオンくんとアストルフォくん。もうすぐシャドーサーヴァントと接触します。クリスちゃん、切歌ちゃん、調ちゃんが来るまで足止めを」
『分かりました』
「キャロル、地脈の力は僕達で。バックアップは任せてくださいっ」
『分かっている、とはいえ平行世界だ。違いがある場合は的確に指示しろっ。奴らのエネルギー源を絶つぞエルフナイン!!』
「はひっ!!」
一番巨大なエネルギーが集まる場所、泥が流れる柱、それは魔神柱なのか分からないほど、自分からすれば形状が変わりすぎていた。
だがそこから人のような何かが生まれ、町へと放たれたりする。
「これが?」
『どの魔神柱にも属さない、魔神柱………これは』
『やはり、か………この魔神柱は逆だ』
『逆って?』
別の場所にいる立花が首をかしげると、シャーロックは静かに、
『利用された。我々は魔神柱が利用していると推測をしていたが、真実はその逆、利用されていたんだ』
その時、悲鳴のような泣き声が響き渡る。愛する者、大切な人、仲間、家族。
失った叫び声を響かせ、アスカを、見た。
【何故お前は救わない?】
そう呟き、そして叫ぶ。
【お前は全てを救う存在だ】
【なのになんで助けてくれなかったッ!?】
【自分のことだけを救いやがってッ】
【自分だけ助かってッ】
【許さない許さない許さない許さないッ!!】
そう、全てを救うアスカにそう叫び、それに全員が唖然に、
「んなこと言われても、万能じゃねぇしな」
ならなかった。
別に彼は全てを救う気や正義の味方になぞ興味は一切ない。
ただ、そうだと言うだけなのだ。文句を言われてもだから?としか疑問に思わない。
【貴様………】
「お前は勘違いしている、オレは怪物でもあるんだ。正義? まさかだと思うが、オレがこの世界を救いに来たと思っているのか?」
そう言いながら、白と黒の剣を持ち、静かに睨む。
「オレはただ、俺達が背負う悲しみを利用されたことに腹立てて来てるだけだッ。大事な、オレと言う存在が、オレらと言う存在が背負うべき罪を利用した。それがテメェらと戦う理由だッ」
【身勝手なッ】
「自分達が救われなかったからって、平行の、しかも無関係な世界を巻き込む貴様らよりかはマシだッ」
【うるさいッ】
【私達は何もしてなかったッ、殺される理由なんてないッ】
【なのに救わなかった、助けなかった、守られなかったッ】
【許さないッ、お前を、奇跡を許さないッ】
「………お前は魔神柱達が救いたかった人類ですら無い。ここで必ず、斬るッ」
『結局、魔神柱は利用された』
シャーロックは静かに語る。
『確かに元として選ばれたのは、彼と言う抑止が貯めた悲しみだろう。だが、それだけではない。彼らが救えなかったものも混じっていた』
船の事件、ここで違和感を感じた。それは元の存在は、彼を大切に思う存在なのだ。他人を犠牲を望むような存在ではない。
なのに、犠牲にして養分にしようとした。それは魔神柱がさせていたと思われると言えばそこまでだが、そこまで知識があるか?
『それはアリスと言う、親の愛情に飢えていた子供達の件で消えた。知識はある、だが詰めが甘い。清姫と言う彼女や、アストルフォ。またはデオンなど、関係性も無ければ、なにも無い。知性なんて無い、だが行動には目的はあるように動く。そう、子供は何者かに攫われていればよかったんだ。大人達が『自分の所為では無い』と思うと言う、自分がどうして責められなければいけないと言う思考に陥ればよかった』
だがそれはアスカの行動で薄くなる。
船は観客はそう思えばよかったが防がれた。
そしていまは無差別行動もまた、もう目的は達している。
ただ、なぜ悪くない自分達が酷い目に遭わなければいけないと言う思考にたどり着けばいい。
「それだけのために、このようなことをするのか」
「!? 司令ッ、何かが」
『! 司令室へサーヴァント反応ッ、この反応は』
その時、陸地の司令室へ雄たけびが響き渡り、それが現れた。
圧倒的理不尽、メガロスが現れる。
『彼らは理不尽な出来事への悪意を求めている。やはり襲い掛かったか』
「そのようだ」
司令室は無事だが、目の前に現れたそれに、
「ここまでは計画通りか」
Yシャツを脱ぎ、静かに構える男。風鳴弦十郎。
「し、司令っ!?」
「お、おいまさかッ」
キャロルが驚くが、構えながら、静かに睨む。
「おうともッ、こいつの相手は俺だッ!!!」
そう言い放ち、暴風のような大剣が振り下ろされたが、一撃の拳で吹き飛ばす。
「お前達が理不尽な暴力で、未来ある若者を傷つけようとするのならいいだろう」
そう言って、静かに、
「その前に、この俺を倒してみろッ。理性を失ったギリシャの大英雄ッ」
雄たけびと共に、それを消し去るような雄たけびが、風鳴弦十郎から放たれた。
【なんで思い通りにいかないッ】
【酷いッ、なんでこんなッ】
【死んだはずの妹や友、友人に成れなかった娘に会えば、もっと集まると思ったのに】
【俺達は何も悪く】
最初の事件はもう一つの元の力である、彼を心配する嘆きの声。それがあの悪夢の正体であるが、その後の事件はこの意思が起こした。
ギャラルホルンでのサーヴァントは、単純に奏達と会わせるだけだった。
船は同じ境遇の人間を作り、力を得る気つもり。
アリスは子供たちを取り込み、親の身勝手な思いを取り込むつもり。
だがそう言った事件は全て空振り、もしくば少量だ。
だから、
「異世界の人間を巻き込みッ、祝福の歌を聞きに来た者達を欺きッ、そのために多くの人を殺した貴様らはもう加害者だッ!!」
【成りたくてなったんじゃないッ】
【お前が救わなかったからだッ】
【お前が俺達を救わないから、この世界はいまこうなったッ!!】
その言葉をインカム越しに聞く者達は思う。ふざけるなと。
その泥の一撃は、あらゆるものを終わらす剣撃。その攻撃を防ぐために、ビルを倒して、潰そうとするが、
「させません」
そう言って、赤いリボンが締め壊し、清姫が静かに舞い降りた。
【何故お前は平然なんだ!?】
【目の前にいるのにッ、なんで………】
「それはいずれアスカ様の心も魂も手に入れるためです」
迷いなく言う。
「どうやら貴方達は、やりすぎたのです。この清姫、清姫伝説の清姫として見逃し、呼んだ気でいたようですが、アスカ様のことを知っているわたくしを呼んだのが、誤算の始まりです」
「わたくしはもう迷いません」
「化け物であろうと、妄信する女であろうと」
「怖いと言われようと、怯えられようと」
「それでも、この清姫と言う全てを受け入れる彼の人。そしてわたくしの愛を、たった一人の女性として見て、答える彼のお方。この思いやり………わたくしは狂わされたのです、もうだめです」
「恐れられていても、怖がられていても」
「それでも正直に言い、嘘も偽りもなく、受け止める」
「もうだめです、わたくしはもうだめです………」
「この輝きに、化け物だろうと………」
一つの攻撃が清姫に迫る。だがアスカが剣で防ぎ、片腕を腰に回し、場所を移動する。
「平気か清姫」
「はい、ありがとうございます………」
そう言いながら、清姫の頬は赤く、喜びに満ちる。
「このお方は、私を見捨てることだけはしない………化け物として、切り捨てればいいものを、利用するだけにとどめればいいものを、優しくすればどうなるか分かっていながらも、お優しくして頂けるこの人を愛しているのですッ!!」
「清姫、オレは」
「分かっていますッ、この清姫!! 何度でも叫びます、魂の器? 超えて見せますッ、そして貴方様と永遠の愛を誓い奉りますッ!!!」
その時、セレナ、キャロルが不愉快な顔をした。なにげに胸元に顔を押し付ける清姫に、イラッとしている。アストルフォは大きな声で不満を叫ぶ。
「必ずアスカ様、いいえ、来世も何もかも超えてみせますッ」
「怖いよ」
「大丈夫ですッ、貴方様は静かに空を見ていればよいのですよ………」
「怖いよッ」
いま全力でこの世界の姉を無視して、一人の少女は敵を蹴散らして、向かってくる。
それを感じ取り、清姫は炎を纏い、竜へと変わった。
「貴方様方の言葉はもう紙のように薄いもの………無関係な人々を利用した時点で、もう刃を向ける躊躇いはありません」
「それに関してはそうだ」
彼らはなんなのかはわかった。それは理不尽に殺された人々だ。
自分と言う、理想がいる時だったのに、助けられることが無かった人達。
その不満をぶつけるために、こんな事件を引き起こす。それは人を憐れみ、救おうとした魔神柱ですら利用されている。
自分と言う愚か者を大切に思う者達の思いすら利用して………
「悪いが、だからなんだ」
だが彼は、彼らは正義の味方でも、万能なる存在でもない。
ただそう言うモノとして役目を押し付けられた存在だ。
龍崎アスカは、そこまで善人でも、正義の味方でもない。
「オレは、龍崎アスカってのは偽善者でね………」
彼の中にあるのは、怒り。
そのような言い分で、無関係な世界や、魔神柱、そして過去の自分に向けられた思いを利用されて、彼らに抱くのは、怒りしかない。
【くっ】
その時、一番強いサーヴァントのように、ある少女が現れた。それがより、彼の逆鱗に振れると考えずに………
【あ・す・かぁぁぁ】
「………」
泥にまみれ、赤い眼光の、痛々しく、それでも人々を助けたいと歌う歌姫だった。
それに、静かに、
「お前達は救われたかっただけだろう、助けられたかった、生きたかっただけだろう………」
その時、剣が爆発するように輝く。
「だが」
始まりの白、終わりの黒。神秘殺しが輝き、清姫は後ろに下がる。
「そいつの思いを弄ぶのなら、お前らは」
オレの、敵だッ!!!
奏でられるは偽善に満ちた己の道。
歌われるは自分のことしか考えない、剣士の歌。
綺麗ではない奇跡が調べる歌は、翼を持ち飛翔し、乱舞する。
「真名解放」
【や、やめ】
【私達はただッ】
【すく】
月と太陽、狭間の世界が生み出され、竜と化す剣士は剣を振るう。
自分が救われたいが故に、自分以外を犠牲にしようとした者達を断罪する。
「悪いが、テメェらを俺は許せない」
悲鳴すら消す輝きの中、大切な者達を利用したそれらを消す。
例え悪と言われようと、
「俺達の背負う罪を利用した罪、俺達はけして許せない」
竜の瞳と共に、剣を鞘に入れて、全てを終わらせた。
「アスカ様」
「清姫、だいじょうぶ?」
「はい♪ この清姫、傷一つありません♪♪」
そして静かに近づき、優しく微笑む。
「ありがとう、清姫」
ああホント、ずるい人………
「いいえ、大丈夫ですアスカ様………」
恐れ、怖がっているというのに、そのように微笑まれては………
(いずれ貴方様の御許へ参り、永劫御傍に………覚悟してもらいます、わたくしに、本当に誰かを好きになる、それを教えた代価を)
そう言いながら、静かにまた抱き着く。この程度ならと、少し頭をなでる。
こうして、魔神柱の残骸は消え去った。
「………いい汗をかいた」
「倒したのか………」
『あの人は英霊ですか!?』
「違います」
そんなことが裏であった。
一人の王は、この事件を見ながら、静かに思案する。
彼は善であり悪、悪であり善。必ず両方で現れる、睨み合う幻想の魂。
理想、ただそんな根も葉もない存在にさせられた魂の者。
やるべき事は悪鬼邪神を討ち、罪無き命の蹂躙。
「だが何者も考えない。理想なぞただの妄言だ、だからこそ不愉快だ」
意味も無い自信、根拠もない期待。成そうとする気概すら無い、ただの妄言。
そしてできなければ非難するしか能が無い存在。それがあれだ。
運が悪い、そう思うしかない。
時代が悪い、たまたま、それすら彼の者の所為にする。
だが無論、彼の者はそんなものなぞ考えない。
「貴様はやはり不愉快だ、何者でもあり何者でもない。何がしたいと聞けば」
なにも無い。
それに勝手に憤慨する者達、そして意味も無く有るそれ。
気に入らない、視界に入ることすら不愉快なそれら。
「此度は錬金術師か、少しばかりお灸を」
だが、一つだけ確かなのは、
『キャロルに手を出せば貴様を滅する』
どこからともなく、森羅万象を滅ぼし、如何なる存在に終わりを告げ、新たな始まりを告げる英霊からの殺意を感じ、黄金の鎧を纏う。
「………くはっ」
それだけは認めよう。
人間よ、まさしく卑しい人間よ。
自分の為に神や世界すら殺す人間。
「異世界か………彼の世界は厄介な災いと奇跡を招き入れたものだ」
そう言いながら、静かにワインを飲み直す………