少年/戦姫絶唱フェイト・シンフォギア   作:にゃはっふー

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 暗闇のようにそれは現れる。

 理性を無くしたその者、ただ命じられるがままに動く。

 これでいい、これで予定通り。

 そう、あるものは思った………


48話・敵の目的

 結論から言おう、相手が悪い。

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaa―――」

 

 黒い瘴気を放ちながら、現れたのは、

 

「バーサーカー………ランスロット」

 

 湖の騎士にして裏切りの騎士。その理性を失い、暴走した姿。

 

 理性が無くとも完璧な騎士と呼ばれる所以で、その技は冴え、丸腰のまま敵を枝で勝ったと言う逸話から、手にした物を己の宝具へと変えると言う変則宝具持ち。

 

 代わりと言えば自分の騎士剣を使えないと言う辺りだろうが、それでもスペックは高いが………

 

 相手が悪い。

 

「シッネエェェェェェェェェェェ」

 

 いま鬼の形相でセレナがぶっ飛ばしていた。

 

「苦しんで死ね無惨に死ね無様に死ね何でもいい死ねッ」

 

 そう言いながら、物凄い速さで盾を振り回し、ボコボコにしている。

 

「何も言わず死ね懺悔できずに死ね何はともかくもう呼吸せず座にも戻らず存在そのものを消して死ねッ!!」

 

 もう一度言う、相手が悪かった。

 

「………あー」

 

 ともかく、オレは、

 

「よし、ともかくマリアさんと子供達のトラウマにならないように動くか」

「無理だと思うよ?」

 

 子供はその様子にほぼ泣き、マリアさんは魂が口から出ている。

 

 そんな中、静かに、

 

「死ねごく潰しがアァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 そして黄金の粒子へと変わるが、セレナはそれでも消し去った。

 

 

 

 セレナはアーサー王の娘、もとい、そう言うことにされた王妃とあの騎士の間にできた子供、王女に身体を奪われていた時期が長すぎた。

 

 結果、ランスロットに対しては生理的に嫌悪するレベルを遥かに超えて、もはや視界にも入れたくないほど嫌っている。何してるんだ彼奴。

 

「えっと、誰に何をお願いされたのアリス」

「んっと、お友達とお茶会をした後、紹介してほしいって言われてたの。けどお茶会はしてたかったから紹介しなかったわ♪」

 

 色々怯え、あった後で、お菓子などで調子を取り戻したアリスから色々と聞く。

 

 マリアはまだ復活できていない。こちらは切歌と調、暁ちゃんと月読ちゃんに任せるしかない。

 

 先ほど見たが視界の焦点が合わず、セレナがセレナがとぶつぶつ言っていた。

 

「ええっと、それは」

「黒くて、ドロドロしてたのっ。泥人形だったわっ。けど人の形はしてた、黒い黒い人間だけど人間じゃないお人形、黒くて冷たい、泥なの」

 

 それを聞きながら、ありがとうと言い、頭をなでなでしてから、紅茶とお菓子を与え、セレナの方を見る。

 

 セレナは、

 

「………」

 

 こっちの姉を傷つけたことに傷付いて、ぼーとしてた。正直、バーサーカーランスロットを倒したことは清々しいが、それはそれこれはこれだからだ。

 

「アスカさん………私」

「まあ仕方ないさ、ランスロットだもん」

「………ですけど、こっちのマリア姉さんを傷つけました」

 

 そう言い、これもあのごく潰しが現界していた所為だと呟く辺り、根が深い。

 

 とりあえず、

 

「まあなんだ、オレができることはやるから、そう気を落とすな」

「………それじゃ、今度の食事時、料理をしたいので、手伝ってください。皆さんに食べてもらいたいので」

「ん、分かったよ」

 

 そう言って微笑む。それにセレナも嬉しそうに微笑む。

 

 セレナの方はこれでいいが、あっちは大丈夫だろうか? 仕方ない。

 

 

 

『ともかく、魔神柱らしい存在はなぜ子供達を集めようとしたか、少し分かりました』

 

 そう司令室でカルデアが報告をしていた。そこにちょうど来て、話し合いに参加する。

 

『向こうはやはりと言うか、こちらで力を手に入れようとしてます。力の元はやはり』

 

「オレ達が貯めに貯めた、悲しみか」

 

『そうなると私も入ってそうですね』

 

 それに困惑する者もいるが、説明する。

 

 簡単に言えば、

 

『大切な人が戦いに出向く、自分は何もせず見るだけ。大切な人は何を言っても無理をし続け、そして死ぬ』

 

「繰り返し繰り返し、そんなことを繰り返す。生きて帰ろうが関係なく、そんなことを永劫繰り返す。そしてできたのがあの泥か」

「つまりお前や前世含め、無茶して響達を心配させすぎた所為で生まれた力を使われてるってことか………」

 

 奏さんの言葉に、何も言えない。実際そうだ。

 

 この身が剣でできてようと、愛してくれた者達はいたのだ。

 

 両親だった。

 

 恋人だった。

 

 友人だった。

 

 それらを裏切り、己と言う魂を振るい、理想に溺れていった者達。

 

「………」

 

 記録の中にはおそらくあるだろう。愛する者を守り、死んでいった。

 

 理想、理想理想理想理想――――――――――

 

 夢の為だけに生き、全てを救いたい、守りたい助けたいと叫び続け、苦しみ続けた人生しか選ばない。

 

 愚か過ぎて笑いしか出ない。道化も通り越したなにかだ。

 

(きっとオレも下手をすれば同じだろうが)

 

 そんな気は無いが、結末があるとすればそうだろうと内心思う。

 

 誰かのために、全てを捧げ、無様に死ぬ。

 

 願望でも何でもない。

 

 それが、オレなんだから………

 

 

 

 ――???

 

 

「アスカ様?」

「………」

「仮眠中でしたか」

 

 子供の親は、ここの世界、彼らに任せて、静かに休む。

 

 清姫は少しだけ微笑みながら、少しだけおかしいと、自分がおかしいことに気づく。

 

「………ん………清姫」

「あっ、申し訳ございません。起こしてしまいましたね」

 

 いまはカルデアのバックアップで、令呪もある身。清姫はカルデアからのバックアップを受けながら顕現し、アスカは少しだけ身体を起こす。

 

「いやいいよ、なにか変わりは?」

「セレナさんと奏さんが、この世界の人達とお話しして、少し向き合うそうです。他の方はサーヴァント探索や待機しています」

「そう」

 

 そう言って、リンゴを手に取り齧る。こちらにも渡しながら、清姫は素直に受け取る。

 

 それに少し微笑む。

 

「どしたの?」

「アスカ様、アスカ様はわたくしは怖いですか?」

「うん」

 

 そう言いながら、隣に座らしている。おかしな人だと思いながら、

 

「………恐ろしいですか」

「うん」

「怖くて恐ろしいのに、どうして隣に置いているのですか? すでにバーサーカー清姫として、一線を越えるほど、恐ろしいはずですが?」

「? 気にしても仕方ないだろ。清姫は清姫だし、そりゃ、好きとか旦那様とか言われて、怖いし恐ろしいけど」

「………やはり嘘つきです」

 

 そう微笑みながら、林檎を両手で持ちながら齧る。

 

「恐ろしいと言うのに、怖いと言うのに、なぜ平気なんですか? 私は怪物、もはや物の怪と化し、蛇を超え竜。貴方の命すら狙う可能性のある、バケモノですよ?」

「ん、それは別に怖くないよ。怖いけど」

 

 そう言いながら、どうしたの?と心配するアスカ。それに清姫は少しだけ酔いしれる。

 

「貴方の言う怖いと、わたくしが言わせたい怖いが違うのですよアスカ様………」

「?」

 

 本当に分からない顔をする。それにゆっくりりんごを齧りながら、

 

「もはやこの身はか弱い少女でも、何も知らない無垢な少女でも無い。初恋に妄信するあまり人を殺した罪深き狂った獣です。一つでも貴方が嘘を、偽りを、いいえ、欲しいと言う想いのために、貴方の命を狙うのですよ? なのに、どうして信じて、そばに置くのですか?」

「………いまさらなにを言ってるんだ清姫」

 

 そう呆れながら言いながら、姿を見せる。女性服を着て、呆れながら一回ターンする。

 

 どこかの相棒が用意したのがこれらしか無かった。

 

「こんなバカな姿で、んな真面目なこと考えるか」

 

 そう言いながら、

 

「オレは君の好きには応えないよ、何度言われても拒むし、それの為に努力するのが度が超えれば怖いし、恐ろしいとはっきり言うけどね」

 

 静かに微笑みながら、

 

「女の子相手に、刃を向けるほど拒絶する気は無いよ」

 

 それに、静かにとろけそうになる。

 

(ああ………そうです、こう答えると言うのを知っていて、わたくしは)

 

 この人は自分を化け物と、清姫伝説の清姫と、バーサーカーと、愛するが故に、人をたやすく殺しと、嘘偽りは善悪問わず許さないと知りながらも、

 

(受け入れ、そしてわたくしを見る………)

 

 変えられた、私は変えられた。

 

 ただの化け物から、狂信する化け物から変えられた。

 

 理想の抑止力に触れて、変えられてしまった。

 

 結局この人も自分を選ばないと言うのに………

 

(ほんと、ずるい人達………)

 

 そう微笑みながら、静かに立ち上がり、それではと言って出ていく。

 

 その手に、彼から渡された果実を持ちながら………

 

「わたくしを招き入れたのは失敗ですよ、泥の方」

 

 そう静かに、

 

「だってこの物語は、終わりは目に見えてる物語ではないですか」

 

 そう静かに呟き、静かにかりっと、ゆっくり、愛する方がくれた林檎を味わう。

 

 

 

 ――カルデア

 

 

「おかしい」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは少しばかり首をかしげる。

 

「おかしい、なにがでしょうか?」

 

 マシュもそう聞く中で、シャーロックもまた、静かに瞑想する。

 

「今回の事件、関係性が無さすぎる。と言うところ」

 

 最初の事件、これはまずアスカと言う、当本人へ放たれた刺客である。藤丸立香は防衛手段のように眠っている。害は無いのは、

 

「グランド・セイバーたる、彼がなにかした………」

 

 そう考え込んでいる中で、扉が開く。

 

「考え込んでいるな」

 

 そう言い、現れたのは英雄王。

 

 今回ばかりイライラしながら、静かにどかっと椅子に座り、全員が驚く。

 

「やはりあれは不敬に値する存在だ。理想なんて言う、他人の力を初めから当てにし、己の力を磨かず、他人に縋る雑種どもの妄言の塊。誠に遺憾だ、反吐が出るッ」

 

 そう言いながら、蔵からワインを取り出しながら、忌々しく飲む。

 

「なにか分かるんですか?」

「無論だ、この(おれ)を誰だと心得るっ。英雄王ギルガメッシュ!! カルデアのマスターである奴は、防衛手段として一時的に魂を閉じているだけだ」

「魂………」

 

 静かに周りの視線を感じながら、このような役回りをさせている存在にイライラしながらも、渋々語りだす。

 

「奴ら理想は一つの魂で繋がっている。平行、異世界、別次元、別時間、全てが全て、無限なる夢幻の保存庫、雑種どもが勝手に語り、勝手に作り、勝手に押し付ける英雄像で作り出された幻想の空間にな」

 

「理想の抑止………」

 

「ああそうだ。理想だ、身勝手な人の業が創り出したものだ」

 

 シャーロックは静かに考える。なぜ彼はここまでそれを嫌うのか。

 

 そして………

 

「そうか、彼の力はそう言う物か」

 

「気付いたか」

 

「どういうことだい?」

 

 それについて簡単なことだと告げながら、静かに目を閉じる。

 

「彼らの使う力は、人が伝承、伝説、神話。ホラ話ですら含め、他人が歩んだ人生を語るんだ。その中に、物語の人物が抱く感情を考え、語る者は何人いる?」

「それは………」

「おそらく少ないだろうし、一番多いのは」

「身勝手な伝説か」

 

 この世には狂信者と言う者がいる。

 

 神の名を告げ、多くの虐殺をした者もいれば、思い込みでその者を悪と決めつけた者もいる。

 

 中には助けてもらいながら、自分が助かりたいから、口を紡ぐ者もいる。それに、

 

「まさに下等な雑種どもだッ。身の丈を考えず語り、いざ責務を負わされかければ他人に擦り付けるッ。目に余るッ、万死、いや、もはや死も生ぬるい!! 奴はそう言う者達が創り出した幻霊とも言えるッ」

 

 だから英雄王は理想の抑止を嫌う。なぜならば、それすら是とする、愚かなモノ。

 

 この王がイライラする、気分を害するに値する存在だ。

 

「唯一あれの利点は、抗う者を創り出すことだ。この(おれ)ですら倒す逸材、腹立たしいことだが、あれは強い。飽きは無い、ここのマスターもしかり」

 

 そして新たに酒を金の杯に注ぎ、静かに飲む。

 

「魂は分裂することは無い。保存庫にある、死者であるサーヴァントならともかく、ここにいる奴と、異世界にいる奴は生者だ。あれらは最初の干渉で繋がってしまったが故に、どちらかが閉じなければいけない状態なのだろうな」

 

「それって」

 

「保存庫が攻撃されていると言うことだ、それは異世界の錬金術師がパスを繋げた所為だがな」

 

 錬金術師キャロルが、アスカと言う保存庫と繋がったパスを使い、干渉した結果、同じく繋がっている藤丸立香。さらにそこから気づいた魔神柱が手を出した。

 

「まずこれが此度の切っ掛けよ」

 

「切っ掛け………」

 

「後は貴様ら雑種が考えよ」

 

 それを言われ、考え込む。

 

 シャーロックは………

 

「………アスカくんへの悪夢は、周りの者達が抱える不満や不安。次の事件はギャラルホルンへの襲撃。待て………」

 

 そして、

 

「………まさか、いや、あり得るか」

「?」

「となると、さすがの私もこの先は分からない。終わりか、まだ暴走するか。相手はもはや、規則性なんてものはない」

「どういうことですか!?」

「まだ仮説にすぎない、だがおそらく真実に近いだろう」

 

「ふん………」

 

 英雄王は酒を飲み帰り、シャーロックは敵の正体を知る。

 

 この二人は知っていて黙り、仮設だから黙る。

 

 だが、それは真実の時が多い………

 

 

 

 そして静かにそれは動いていた。

 

【オカシイ】

 

 なぜ集まらない? この感情、悲しみが、人間の感情が集まらない。

 

 死んだ者と会わせれば増えるはずだった。

 

 愛した者と会わせれば増えるはずだった。

 

 全部抑止力が抑えたからか? そう思いながら、静かに、

 

【フザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナフザケルナ―――――】

 

 どうしていつもあれはそうなのだ。

 

 ふざけるな。

 

【これより計画は第二段階に移行する】

 

 理想の抑止を殺す。

 

 あの卑怯者を、偽物を。

 

 許されてはいけないあれを、断罪する。

 

 そのために、いま動き出す。




セレナ「マリア、さん。少し軽めの物を作ったんですが、一緒に食べてくれませんか?」(上目遣いで
マリア「セレナ………(断れる訳ないじゃないッ)」

奏「………こっちの翼は酷い」
風鳴「し、仕方ないじゃないかっ。色々忙しく、緒川さんにも掃除を頼めないんだ。向こうの私も同じのはず」
奏「いや、向こうは全部アスカに任せてるからな~下着の種類も何もかも」
風鳴「え………?」

キャロル「来るな………」
立花「来るなの反対は来ていいってことだねキャロルちゃんっ」
キャロル「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
エルフナイン「………」

 この後エルフナインも参加し、アスカは尋問される。

 お読みいただき、ありがとうございます。

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