怪物を討つのは英雄のみ、故に我は滅びない。
英雄の振るう始まりは、怪物を倒してこそ始まる。故に絶対なる怪物殺しである。
始まりと終わりは、英雄と怪物、善と悪は必ず共にある。
だからこそ、自分はその両者。それが龍崎アスカの根源『理想』だ。
他人が考えた理想像、怪物の力も、英雄の力も、聞き、知り、語る者達が考えた思想から生まれたのが自分だと知った。
ナーサリー・ライム。アリスのように幾万の童話から生まれた英霊のように。
ジャック・ザ・リッパーのように、集まった怨霊のように。
オレ達は世界の伝承、逸話、神秘の幻想から生まれた力を使う、英霊として組み込まれた存在だと嫌々ながら、知った。
だからこそ、この世にある宝具は己の宝具と言えた。おそらく使ったのは、誰かが聞き、夢描いた物を使ったのだろう。
贋作でありながら本物の宝具なんて、恐ろしい。
しかも、はっきり分かった。あの中には本物から思い描かれた宝具でありながら、本物を超えた神秘でできた物もある。
当たり前だ、なまじ本物を知らないが故に、本物を軽く超える聖剣を幻想する一般人。それを使う、理想像を押し付けられた担い手。
無限なる夢幻の担い手とはよく言う。偽物でありながら偽物で無い矛盾。知らないとは恐ろしいことだ。
理想的な存在とは、これほど理不尽なものかと思いながら、一人寂しく飯を食う。
「………はずだった」
「えっ、いやなの? 妹二人になっていやなの?」
「一人無理矢理引きずり込んでこの母親はもう」
「離せッ、飯くらい一人で食える!!」
膝の上に乗せて、キャロルにご飯を食べさせる。その前にエルフナインと、我が道を進む母親。この人も理性が蒸発しているのだろうな。
あの後、戸籍云々の件でこの母親は司令に、
「二人ともウチで引き取れませんか?」
通った。以後エルフナインとキャロルはオレの正式な義妹である。双子で姉はキャロルで通っている。
「別に素材は同じだからね、僕はとりあえず、アインハルトがいない間の仕事頑張るよ。洸くんも頑張るようだし」
「待て、これを連れて行けっ。おいこらこっち向けッ」
「えへへへへへ………毎晩一緒に寝ましょうね二人とも」
「い、いやだっ。アスカっ」
妹が助けを求めてきて、オレはため息をつく。これが母親のやり方だと言うのに………
あえて悪者なりなんなりになり、うまく誘導する。洸さんもこれで誘導されたようなものだ。本音を言えるようにだが………
かくして、一人暮らしから三人暮らしは変わらないらしい。
指令室で、コーヒーを友里さんから受け取り、司令と飲みながら、雑談する。
「理想像を押し付けられた存在、それが君と言う抑止力の本性か………」
「自分も至って、ああそういうもんかって程度ですよ。ただ理想だけに酷いスペックですけどね」
怪物、神性、英霊、神秘。そういう、逸話ある存在を終わらす剣があるらしい。
「それって」
「どんな条件下であろうと、逸話を読み終えるようにその存在を終わらせるらしいです。怪物が英雄の一撃で終わりを告げた逸話から来た宝具ですよ」
ティアマトなど、条件下で無ければ倒せない存在を無視して、一撃で倒せるらしいのだが、なら待機しろよと思う。
まあ、簡単じゃないんだろうけど。
「もう一つは怪物を討つことで、英雄の誕生すると言う逸話から、超常的なものに対して攻撃力のある宝具とか。いま思えばもったいないな」
「気にするな、お前はお前だアスカ」
「はい、人の身にはでかすぎますからね」
苦笑して、コーヒーのお代わりをもらう。
「まったく、私としてもびっくりだよ。彼が出てきたときは」
「マーリン、テメェいい加減にしろ」
そう言いながら、冠位剣士と同じ存在の魔術師は、文句を言いながらお茶を飲む。
「彼は本来、表には絶対に出ない。主に平行世界で、もはやあり得ないとされた世界の破壊が役割だとばかり思ってた」
「平行世界の完全消滅か」
「なんだと?」
それには少し驚くが、涼し気に、
「驚くことではないよ、どんなに抗っても変わらない『結果』ってものはある。だからこそ、もはや変えようがない結果以外を斬り落とす。それが彼の役目と、私達の間ではそう思っていたんだ」
そう言いながらも、遠くを見る。
確かに、彼ほど終わりと始まりを担う存在に適した者はいない。
倒すことで物語を初め、それまでの物語を終わらす力を持つ存在。平行世界を終わらし、新たに始める役目。始まりと終わりの担い手としてこれ以上の役目はいない。
「数多の理想を押し付けられ、幻想の力を振るう、夢幻の英雄であり怪物。それが彼さ。その宝具もしかり、英雄の誕生とも言える、怪物を倒した瞬間の逸話。怪物が、英雄に討たれた瞬間の逸話。両者から生まれた最強の幻想だ」
言うなれば、対幻想宝具と対現実宝具持ちらしい。
「だってそうだろ? 彼は怪物でもある。幻想の怪物は英雄にしか討たれない、それ以外には討たれないんモノだからね」
故に最強、故に最弱。
弱点ははっきりとあるのに、誰もつけない弱点。自害以外、彼を討てるモノはいない最強と最弱の、現実と幻実、無限と夢幻の英霊。
グランド・セイバーとはそういう存在だ。
「それで得たのが、神秘殺しか」
「大切にするといいよ、君の力をね」
「当たり前だ」
そう言ってお茶を飲み終えて、歩いて帰る。
絶唱として得たのは、機械の幻獣、最強の二降りの剣。そして神秘を殺す歌。色々自分用に変化した。
それがシンフォギアとしての、自分が、龍崎アスカが得た力。まだあるかもしれないけど………
そして、
「ビーストⅣのこと言うの忘れてた」
――???
「マーリン死すべしフォウッ!!」
割と本気、次元を壊し、触れた全てを破壊する、絶対の一撃を必死に避けたマーリンに舌打ちする。アストルフォウくんこと、ビーストⅣ。
「危ないっ、危ないッ!!」
本気の一撃なので、本当に危機感持って叫ぶマーリンに、棒のアメを加えながら、見下す。
「キャスパリーグっ、君本気だなっ?! 本気で私を殺しにかかったな!?」
「当たり前だろ、お前の所為でビーストⅣとして人類悪として現界してもおかしくなかったからな。そもそももう平行世界で幼体はいるし」
本格的に目覚めていたらどうする気だったんだと文句を言いながら、次元の間で話し合うのもなんだから、グランド・セイバーの保管庫に移動する。
「来るなよッ」
「全身布存在は黙れ」
「仕方ないだろッ、俺は理想像通りの英霊で、姿形なんて無いんだっ。性別とかも召喚者相手に変わるんだ」
いまのうちにマーキングするマーリン。アヴァロンと違って、ここはここで全ての理想が集まる世界だ。薬草とか薬とかあるし、聖杯も純度の高いものがある。
「使うなよっ!! これだから他の奴とは関わりたくなかったんだッ」
「聖杯の一つや二つケチケチすんなよ」
「拾った恩を全力で変な方向で返すなッ」
「えっ、キャスパリーグを救ったのって」
怪物としての自分としての一面として、ちょうどよかったからと言う理由と、生まれたもしもと言う思いの結果らしいが、そうらしい。
それを聞き、へえと嬉しそうに微笑むと同時に、
「じゃ、殺ろうか」
「………おう」
「なん、だと」
無数の聖剣、伝説、逸話、神秘の武器達が刃を向け、ビーストⅣが目を覚ます。
「ま、待って、私がなにをッ」
「「ネットでなにしてるんだ引きこもり」」
――龍崎アスカ
「ん、駄目なグランドが散った気がする」
「なにを言ってるんだお前は」
キャロルとエルフナインとで、必要な生活用品の買い物、響達もいて、楽しそうにしているし、なにより、色々と仕事があるから帰りたいキャロル。
「仕事人間は感心しないぞ」
「るっさい」
「まあまあ」
そんな感じで何事もない。キャロルの監視役として自分が選ばれた程度だが、いまではそんなん意味は無い。
いまは家族だし、キャロルも色々思うことがあるが、もう行動はしない。聖遺物である道具一式は無論無いのだから。
「………」
だからと言ってあまりに無警戒過ぎることに逆に呆れている娘に、何を言えと言うのだろう?
そんな感じだった。
そして寝る時間、妹達の部屋に乱入すると言う幼なじみ、俺と言う男性の存在を忘れている。結果クリスを初め、多くの女子が隣部屋に、
「おい、俺もこっちがいい」
「布団は一つしか無い」
「それでいいっ、俺を彼奴、立花響に」
だが捕まった。そのままキャロルが嫌がれば嫌がるほど、部屋に連れ込まれる。もういやだこいつと言う叫びと共に、部屋の扉が閉められた。
夢を見た。
怪物の呪いをかけられる前に、海神を討ち滅ぼし、全ての神々を討ち滅ぼし、世界を混乱にしてでも、三人の女神の為に、全てを捧げたバカな男。
人を信じたいと裏返しに思う魔術師のお姫様が、神の所為で恋心をいじられる前にどうにかし、彼女の騎士として、彼女は守り通した。
白い百合の姫騎士とたまたま出会い、彼女と結ばれ、国は滅びたが、その大地は鮮血にまみれず、たった一人の騎士が全てを支え、彼女と共に守り通した。
例えそれが姿を変えて、正史の騎士王だろうと、女神と化した彼女だろうと、側にいて、救う。
結果この手が血にまみれても、全身に刃が突き刺さろうと、止まれなかった。
愛した、助けたかった、救いたかった。
その瞬間、けして偽善も何もかも理想であろうと、磔にされたように、戦い続ける道を歩く。
理想に何度溺死しても、理想に何度裏切られても、幻想に酔いしれ続ける。
正しいだけの人生、他人の為に捧げ続ける人生。
竜へ変わり果てようと、守った少年は聖女と共に過ごすように。
赤い髪の魔術使いは、黒い髪の魔術師と共に、義理の家族や友人達に囲まれる幸せな日々。
救いたいと思う人の為に戦った結果、多くの無関係な人々を死なせた時もあった。
まだまだ多くある己の記録。そんな記録を見ている。
繰り返す、世界の敵になっても、理想を捨てず、剣を取る愚か者な時。
繰り返す、世界を救う為、理想と共に、剣を取り、邪悪に挑む愚か者の時。
最後の夢だ、なぜならば、
「ここからは俺だけの物語だ」
いままで借りた、過去の自分に向かって、
「ありがとう、また」
いずれ至る己に向かって告げた。
「………だけど女に手、出し過ぎでねえ?」
気のせいか、全ての記録の自分全てが、顔を背けた気がした。
「あー疲れた………」
朝日と共に起こされた、太陽を睨む。高校生や学生、否、働く人間全ての敵と言ってもいい太陽の時間が憎い。
そう思いながら朝食を作る、母親は義理の妹達を捕獲していて、そんなのは作っている暇は無いだろう。
そう思ったが、
「あら、おはよう」
「………母さん?」
そこには朝食を作る母親がいて、少し驚くが、それにむっと、
「あんたたちの母親よ、朝食くらい、いる時作るわよ」
そう優しく微笑む。それに、僅かに苦笑する。
この人は、こういう人だった。
「うん、ありがと」
特別で、理想的な物語のキャラクターを押し付けられる魂。
だが関係ないのだろう。
龍崎アスカを初め、俺達はここにいる。
そして選ぶ、その時願った理想へ手を伸ばし、剣を握り締める。
何度でも戦おう、何度でも出会い、守ろう。
姿、魂、性格全てが変わろうとも、守ることだけは変えることはない。
この『理想』は捨てる気は無い。
――???
「………」
ただ一人、ここにいる。ここは保管庫、様々な『俺』の記録を収める場所、俺は誰かなんてわからない。
それでもいいと思う、こんな重々しいものを、他人に管理させる気は無い。
例え、見ず知らずの少女に恋した記憶があろうと、大切なかけがえのないものを得ても、それは他人の俺だけの、大切なものだ。
それでいい。俺はそういうものを求めない。
「………」
だがもし、姿も形も召喚者に求められた、能力も何もかも幻想の中でできたものでいいからと呼ばれたら………
(俺も『俺』のように、守りたいと願えるだろうか?)
そう疑問に思いながら、純粋な空間の中、姿形を持たない幻想の存在は、静かにただ、待ち続けている。
いつか、そうなる召喚者が現れるのを、静かに待ち続ける………
お読みいただきありがとうございます。