悪と言う一面はいるだけで害悪もしくば、自己犠牲により世界を救うと言う意味。
冠位剣士「まだ意味はあるけどね」
あとFGOのシナリオに触れます。最終章などのネタバレがあります。まだ謎のセイバーの真名看破の話をするので。
数日前、とある雪山、標高6000メートルの場所にて、彼は待っていた。
「
「抜かせ、英雄の王。俺とてこのような仕込み、本来したくは無い」
素肌素顔を衣類を初めとしたコートで覆い隠す、謎のサーヴァントと、雪の山だと言うのに寒さを弾く、魔力を持つ英霊が対峙する。
「して、汝は
「カルデアが龍崎アスカが滞在する世界で、如何なる神秘を感知しても関わるな。あれはもはや抑止力があるこの世の物語に非ず、魔術師どもの一切合切の手助けも何もいらぬ」
「ほう、確かにそれは理解しよう。よし許す、カルデアには
だがと、空中に無数の黄金の波紋が広がる。
「そのような雑務がために、この
「くだらないな英雄王。我が正体を知りつつ、勝てると思うか?」
無限の財宝を取り出す王相手に、それを超える神秘を纏う数の武器が現れる。
「死ねいッ」
「終われ、最古の王よ」
瞬間、轟音を感知したと共に、英雄王がやられ、カルデアに帰還すると言う事件が起きたことを、アスカ達は知らない。
――???
「戦え~装者~」
無数の乱射する攻撃の中、舌打ちと共に戦えない二人を担ぎ、その場から飛び離れる。
同時にギアを纏う切歌と調は、ミカと対峙して戦い始めた。
「お嬢ちゃんたちっ」
「!? 待て」
アルカノイズも町に放ち、それにも舌打ちしながら、
「仕方ないか」
名刀、名剣、無名の業物が大量に呼び出されると共に、空に舞い上がり、ノイズを討つ弾丸に変わる。
炎は完全に無視する訳にはいかず、剣を取り、燃えている個所のみ斬り、鎮火させながら、戦いを見た。
「連携がなっていないな」
呆れながらその様子を見た。お互いがお互いを引っ張る、その光景に落胆し、呆れていたら、
「おっと」
「ッ!?」
二人に守られていた男が駆けだした。
「………」
――暁切歌
炎と水晶みたいな弾丸、私のイガリマじゃアスカみたいに切れないデス。
イグナイトモジュールを使うしかないデスが、これをちゃんと使えるか分からない。
使うべきなのはわかっているデス。私達は、自分の罪を償わないといけないんデスから………
「切ちゃんッ」
「しまっ」
「もらったゾッ!!」
炎を纏った水晶が迫る中、私は防御の体制を取った。
だけど、
「「どっせいッ!!」」
二人の、洸さんと冬馬さんが同時に飛び出して、私を担いで直撃を避けてくれたデス。
「デ、デス!?」
そして炎が放たれたが、調が守ってくれている。そんな………
「どうして、どうして前に出るんデスかっ」
「い、いや、冬馬さんが出るのみたら、つい一緒に………」
「やっぱ僕、アスカの父親だね………彼奴に自分の身大事にしろって言えないや」
そんな暢気なことを言う二人に、
「どうしてデスかッ」
私は助けてもらったのに叫んでいた。
「私は、私達は守りたいんデスっ。もう守られてばかりは嫌なんデスっ」
「切ちゃん………」
「私は、私は」
それに静かに聞き、洸さんが頭を軽く叩いた。
「デス………」
「僕はね、一度響達を見捨てようとしたんだ」
それに驚き、調と共にその顔を見る。とても弱々しく、そしてそう思っていたことを後悔している顔で、
「響はね、ノイズの被害があった事件からの生還者で、僕は仕事場の中じゃ、助からなかった子供の大人もいたんだ。そして」
助かりたいがために、足の引っ張り合いによる二次災害が酷く、生還者達は一度、家族も含めて白い目で見られていた。
その所為で仕事先に居場所がなくなり、何より日々の悪意の中、娘よりも、妻よりも、真っ先に音を上げた。
だけど、
それを全力でぶん殴ったのは、アインハルトであり、そして完全にボコボコにして、簀巻きにして船に乗せて、旦那を監視役にして、マグロ釣りさせられた。
「いいかッ、これで本当に嫌なら文句は言わないッ。だけど少しでも響ちゃんの父親なら愚痴ぐらいは許す、音をあげるのも許す、だが逃げるのだけは許さんッ」
「ま、しばらく頭冷やそうよ。付き合うから」
そう言って一年マグロ漁船で働いた。
その間娘たちは電話なりで会話して、会話して、
「ああ………」
本当は逃げたくないんじゃないか。
「そう気づいた、俺は響の父親とか関係なく、響達を守りたいくせに、辛くて一瞬逃げ出そうとしたけど、響達を守りたいのは変わらなかった」
逃げ出そうとしたこと、それはいまでも後悔している。だから、
「だからもう逃げたくないんだ、家族のことからね。響の大事なことなら、俺もできることしたいんだ。君らもそうじゃないのかい?」
「………おなじ………」
「わたし、たちは………」
「君たちが誰かを守りたいのは、守りたいからだろ? 守られながらだって、誰かを守れるよ。君がこの子を、この子が君を。いま僕らを守ってるように、君らは誰かに守られながら、守ってる。それだけは本当だよ」
「「!?」」
それに二人は驚き、そして静かに胸のブローチに触れる。
「守りながら、守る………」
「わたし、たちは………」
そして冬馬も静かに、
「これくらいしかできないし、あれと戦えるのは君たちだ。けどそれでも君たちや子供たちを守りたいのは変わらないよ僕ら。君らもそうだろ?」
そして、
「私は」
「私達は」
お互いの顔を見て、決意するように頷きあう。
炎を吹き飛ばし、二人の前に立ち、はっきりと、
「私達は罪を償いたい、もう誰かに守られ続けるのは嫌だ」
「だけどそれだけで、それだけで守りたいんじゃないッ」
お互い手を結びながら、
「「守りたいから守るッ、イグナイトモジュール!! 抜剣っ」デスっ」
――龍崎アスカ
「忘れてた………この人はあの人の旦那だった」
「お父さん………」
念のために傷を見てもらいながら、子供たちに避難の目を向けられている父親達。洸さんも父さんもそっぽ向く。
切歌達のこともあるから、これ以上追及するのはやめよう。アップを始めた母親もいるし。
ともかく、切歌達はミカを撃退した。司令やクリスからの注意も終わり、例のサーヴァントを聞くしかない。
「オレがもう知っているだぁ?」
「そうデス、あとはびーすと? ってのがいるときに、すでに人としているから召還されることがないとかなんとか」
「ゲーティアとティアマトしか知らないぞオレッ。後は一人」
「三体もいるじゃないデスかっ」
切歌にそう言われながら、彼らの記憶を、
「あっ、対峙したマスターのサーヴァントといるじゃん」
「デデスっ!?」
というわけで、詳しい話はアタランテから聞こう。
指令室で、ナスタージャ教授やセレナ達、全員がいる中で、詳しく謎のサーヴァントの真名看破の話をするが、アタランテが果たして戦いに参加していたかなんだけど………
「ビーストに関してですが、参加は陰ながらですので知ってます」
「ですよね~」
ビースト、人類悪。人間の獣性によって生まれた七つの罪。人類の自業自得の死の要員である。
アタランテとジャックが本来契約している、天文台のマスターこと、カルデアマスター藤丸立香は、その人類悪を、三度退けた。
「人類悪とは、いい言葉ではないな」
翼がそう言い、奏さんも頷く中、まあ頭数で未来もいる。その中での話だ。
「まずオレがはっきり覚えているのは、魔術王ソロモンの亡骸を使ったビースト、ソロモンの魔神、ゲーティア」
「彼のビーストは、ナンバーⅠ、原罪は憐憫」
「れんびん?」
「相手のことをあわれに思ったり、ふびんに思うという意味ですね」
ナターシャ教授の言葉に頷き、少し間違いがあるので補足する。
「人類悪と呼ばれてるが、ビーストは『人類を滅ぼす悪』ではなく『人類が滅ぼす悪』で、自分達の罪なんだ」
「それがビーストか」
そして彼の獣は、ソロモン王の下にいて、自我を持ち、そして、
「ソロモン王の下、多くの悲劇を見続けさせられ続けた」
人類の悲しみ、悲劇、絶望、あまりに哀れな生き物たちの末路。
それを見て王に懇願したが、王は別に気に留めず、人々の過ちを正そうとせず見ていた。
己に実害が無いからね。
そんなことが正しくあってたまるかと吠えた。
それがまかり通ってしまってなるものかと吠えた。
そして王の死後、彼らは獣になった。
いまある人類史全てを燃料にし、全てが始まる前にやり直す。
死による悲しみを消すため、死そのものが無かった時代まで遡り、死を消す。
それが彼の、死の悲しみを見続けた獣が選んだ道。
「万能の王の下にいたが故に、人の死が、悲しみの連鎖が許せられなかった獣の物語だ。それでも『いま』を生きている者たちの否定につながるから、阻まれたけどね」
その話を聞き、全員が黙り込む。
生命の死に嘆き、悲しんだ獣は最後に取った行動は、全ての命を犠牲に、死が無い世界の創造だった。
「吾らがマスターはゲーティアに勝利し、世界を、人類史を守り通した」
「それがまずオレが知る獣の知識。これだとまずオレは」
「吾々のマスターである、藤丸立香ですね」
「次なんだけど、ティアマトだよな」
ビーストⅡ、原罪は『回帰』ティアマト。
全ての生命の母親、命を生み出した獣。
そして生命体、生物の形が定まったとき、子である神々に追放された母親。
あらゆる命を形作り、無限に生み出し続ける母親。
生み出し続けるが故、当時の神々は消し去るしか術は無かった。これ以上の生命体の誕生を許すことはできなかった。
彼女は再度世界に現れ、子供を産み続ける。
たとえそれで、いまある世界が塗りつぶされても………
「もう一度母として、母性愛とも言うべき感情を取り戻そうとする獣。それがティアマトだよな」
アタランテは頷き、全員が頭を痛くなりそうで、このティアマトの話は、女の子にしたくないなと思いながら、続けるしかない。
「あと、カルデアは第四の獣を打倒した」
「えっ、いつですか?!」
「………第四の獣は名前も何も伏せて説明するぞ」
災厄の獣として活動するはずだった。
人の競争と成長、妬みと悔しさを喰らい、相手より強くなる特性の獣。
だがそれではないもの、美しいものに触れ続けた第四の獣は、活動することなく、打ち取られたのだ。
天文台の魔術師、その最初のサーヴァントのおかげで。
「Ⅲではないのですか!?」
「Ⅲってだれっ!!」
「………あ、愛欲のけもの、です」
真っ赤になりながら、なんか察して、
「ああうん、それ詳しく聞きたくないっていうか。おい藤丸立香ッ、お前なに人類悪四度出会ってるのッ!? 魔術師上最も現実じゃ出合いたく無い世界レベル限界突破の事件じゃねぇかおい!!!」
初代様と花の魔術師じゃ対応できないだろそれと叫ぶ。聞こえてこない。何のビーストだったのか聞かないでおく。アタランテの顔も真っ赤で恥ずかしそうだし。
「えっ、待って、それでセイバー知ってるとかわかるかッ。たった一人で達成してるじゃねぇかッ」
その通りである。ある意味だから逃げたかと思う。
「他にあるとしたら誰だオレの前世ッ、ってかマジで働きすぎるだろオレッ。もっとちゃんとしたグランド・サーヴァントを求めるッ。座に戻ったら一斉デモしてくれよアタランテッ」
「そ、そういわれても………」
「まともなのがアサシンしかいない件が問題なんだ」
なぜ天に帰ったソロモンことロマン。お前がいなくなってグランド・キャスターがちゃらんぽらん陣営しか残っていない。まともな魔術師を、復活イベを求める。
「お、落ち着いてアスカっ」
「響、お前はマーリンの屑っぷり知らないから言えるんだっ。もう人類は終わっているって言っていいんだぞッ」
「くっ」
何も言えずアタランテは目を背ける。冠位の魔術師は滅んだんだ。もうビーストに対抗する手段が無いんだ。
とりあえず落ち着いて………
「えっ、もうセイバーが誰か分からない。藤丸立香なのはわかったけど、抑止力なんだろオレら」
「ですね、そうらしいとしか」
前世の自分など、ただのジャックロリコン学生と、藤丸立香、平行世界の白銀の騎士モードレッド、プロトアーサー? 後分からない。
詳しくはアストルフォしか分からない可能性があるが、彼奴も知らない気もする。理性が蒸発してるんだもの。
なら自分と言う抑止力はなんだ?
もうわけがわからないし、何が起きてるか分からない。
冠位からも、前世来世からも正体を暴き出そうとしてもわけがわからない。
もうそうなると他から自分の前世で導き出せられない。
「彼奴なんなんだよ、ってか俺の前世って言っても、もしも藤丸立香がいなかったらの場合で、本人じゃ無いし」
「………えっ」
その時マリアが、
「アスカ、あなたいまなんて言ったの?」
「ん、だから、藤丸立香がいなかった時の補助でオレがいるんだろって」
「………」
青ざめた顔で考え込むマリア。それにセレナも驚く。
「ね、姉さん?」
「マリアどうした、顔色が悪いぞ」
みんなが心配する中で、
「まず、ひょっとしたら前提が間違ってるのかもしれない」
そう呟く。
「藤丸立香がいないからアスカが藤丸立香としているんじゃなくって、藤丸立香がいるから、そういう事実が生まれてるとしたら、どうなの」
主人公がいなければ滅びる時代世界に、主人公を配置しておく。
だから問題ない。
それが龍崎アスカ、藤丸立香と言う、魂の役目。
「つまりあなたがいま話してるのは、別の藤丸立香がいたから、貴方が代役をしたんじゃなく、貴方で結果を得てから、平行で藤丸立香を作り出していると言うことなら………」
「………へい?」
まるで卵が先かヒヨコが先かの話である。
主人公がいなければいけない物語に、自分をぶち込み対応させ、平行世界を作る。
そうだいつからだ。
いつから自分が、誰かが作った物語をなぞっていると錯覚した?
その始まりが、最初から自分が担っていない。誰もそうはっきり言っていない。
「………マリアの仮設が正しいのなら、まず全てのビーストに主人公のオレをぶつけているのが正規の記録で、後が違う? 滅茶苦茶だッ、平行世界とか、ならオレが始まりのアーサー王とかじゃねぇかッ」
プロトアーサーがオレとして出てきた、モードレッドは違う。いや、
「この場合プロトアーサーが先なら、モードレッドの順番が違くても正しいのか」
「そもそも誰があなたの転生の順番を決めてるの? それをはっきりわかる存在なんていないんだもの。ビーストと言う存在に初めて対峙した平行世界全ての藤丸立香は貴方じゃないという証拠も何もないのよ」
「だが、セイバーは冠位であり、ビーストと最初に対峙する存在」
「ですがそれは、もう人の姿で対峙するから召還には応じられない。本来の役目でビーストと対峙するんなら、貴方がすでに人として対峙する場所に生まれるようにされていても、おかしくない」
もう本当にここからは卵かヒヨコかの次元だ。
つまり、ビースト全てと対峙したことがある魂。間違いなく自分はそれである可能性が高くなってくる。
「あの世界の魔術師にこのこと知られれば、藤丸立香、解体レベルじゃすまされないんでね?」
つい異世界にいる自分を心配する。魂の履歴がおかしい、リセットされているとはいえ、もしかすれば神話を生き、神話を変える。世界そのものの改善も改悪も何もかも分からない。ただ一つ、普通の輪廻転生ではないのは確かだ。
「その際は全ての魔術師を射殺すので問題ないですッ」
反射的にアタランテが答えた。頭痛い………
こうしてグランド・セイバーの真名看破は、諦めるしかない。そうとしか分からないが………
「もしもそうなら、そうか知ってる? いや」
血の気が一気に無くなる。当たり前だ、怖いと言うか嫌だ。
頭が痛くなる。気持ち悪い。
「逸話や伝承はともかく、その後に行われる、物語の主人公と言える人物がオレと仮設すれば、オレが知ってるって言葉は全部当てはまる………」
吐きたくなり、口元を抑える。
知っている物語の主人公は、実は自分でした。嫌だろう、いやっほーなんて思えない。どんな人生だったか、客観的に知っているんだ。どんな、どんな人生を歩いたかを知っている。
「………もう考えたくない………」
「その方がいいです………すでに、あのサーヴァントの存在は、人では理解できない。そして、本人は理解するべきではないです」
アタランテはそう言い、それに頷く。ふらつく体で出ていく。その様子に何も言わず、みんな黙って送り出す。
この時、誰もわからない。
「結局、これって」
「………色々な本で出てくる主人公、それを全部やらさせたり、代役させられたりされる人生。アスカはそういう役目、それが彼と言う抑止の仕事の一つよ」
難しい顔をして告げるマリア。何か考えが止められる。いまはここまででいいと、話を終える。
たった一人、世界、平行世界と言うありとあらゆる可能性を解体できると、
うっすらと笑う少女がいたことを………
卵か先かヒヨコが先か、シュレーディンガーの猫。
アスカくんから全身から血の気が無くなる話です。皆さんも、読んでいる物語の主人公のような人生をさせられていたり、強いられていたら、どう思いますか?
恐ろしい話です。自分はそう思うので、こうしました。
それでは、お読みいただき、ありがとうございます。