少年/戦姫絶唱フェイト・シンフォギア   作:にゃはっふー

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30話・血の歌姫と共に歩くために

 無数のノイズ、アルカノイズはその矢にて穿たれ、ジャックは解体する。

 

「響さん達は後ろに下がっていてください」

 

 青い人形、ガリィは盛大に舌打ちする。

 

「私達の目的は装者だ、そこをどけっ」

 

「悪いが、マスター命令で彼女達を守るのが任なんでな」

 

 彼女はわざと(・・・)、先手を許し、この攻撃へ矢を撃つ。

 

 それにイライラしている向こうだが、その中に、またキョロキョロと辺りを見る。

 

「?」

 

 守られている響達は分からない顔をするが、いま彼女の認識から、ジャックが消えた(・・・・・・)のだ。

 

 サーヴァントの戦いの中、アスカが彼女達に頼むのは、特性、スキルを戦いの始まりから切り捨てること。

 

 歌姫とサーヴァントの戦い方は違い過ぎて、お互いの能力を下げる恐れがある。これは司令官である弦十郎も知る行為であり、本人らも納得している。

 

 元々アスカは本格的なマスターとして、彼女達を使えないし、歌姫達の戦い方と組み合わせるより、もともとないものとして動いた方がいい。そうしていたがいまは違う。

 

 アタランテの、追い込みの美学と言うスキルで、相手の行動を読み対処し、ジャックのスキル、気配遮断にて追い込む。

 

「ちっ、まだまだいるんだよっ!!」

 

 そう言ってアルカノイズがまだ出てくる。

 

 それに響が迷うが、

 

「迷うなら出るな」

 

「!?」

 

 アタランテはそう言い、矢を構えながら、それを見据える。一閃で何体も貫き、水の攻撃を避けながら、彼女達、未来達も守る。

 

「これは自分の願いでもある………子供が戦場を駆けるのは、自分としてもイヤだからな」

 

「アタランテさん………」

 

 ジャックが静かに構えながら、メスとナイフを構える。

 

「吾々は戻れない」

 

 ジャックは戦うことに躊躇いはなく、自分は戦う、この矢はすでに血で濡れている。

 

 だが、彼女達は違う。

 

「自分が聖杯に願うのは一つ、例え叶わなくても永劫に願う………『この世全ての子供が愛される世界』………」

 

「アタランテさん………」

 

「迷う子供を守るのは、自分のつとめだッ」

 

 それに激流が放たれるが、

 

 

 

「それは違うよアタランテ………」

 

 

 

 水を、切れぬはずの水を切り、吹き飛ばす剣撃あり、

 

 半竜人と化した、英霊に近いマスターが現れた。

 

 その手には、燦然と輝く銀の王剣と、邪竜の血で濡れた魔剣が握られ、人工の雷鳴を纏う、偉大な英霊と同じ姿のマスターが言う。

 

 

 

 自分が心奪われたマスターと同じ言葉で………

 

 

 

「『できればそれは、契約している俺達の勤めって言って欲しいな、俺もそんな世界がいいからね』」

 

 

 

 その言葉にジャックも止まり、アタランテは驚き、すぐに納得する。

 

 輪廻の輪にいくら戻ろうと変わらない、根本の魂に誓いを立てて、矢を構え直す。

 

「分かりましたマスター」

「頑張るよっ、おかあさん」

「うしっ、行くか」

 

 

 

「次から次へとッ、ガリィちゃんはあんたじゃない装者に用があるのにぃ~」

 

「知るかボケッ、話があるのなら親玉のキャロルをゴスロリファッションに可愛くしてから武装解除して来てもらおうか!!」

「それもそれでいかがでしょうかマスター………」

 

 呆れながら矢を放つ、雷鳴が放たれると共に滑空して滑る。向こうも水の上で滑るように動き回りながら、対処する。

 

「こっち来るな女装癖変質者兼ロリコン装者ッ」

「ロリコンだけは受け入れてやるッ」

 

 その時、身体を思いっきり後ろに倒し、ガリィは冷や汗を流した。

 

 明らかにバチバチと、何かが込められた矢を持ち、弦を引くアタランテの姿を見たのだから、

 

「『宝具解放』」

 

天穹の弓(タウロポロス)ッ』

 

 弦を限界ギリギリまで引き延ばし、放たれた矢に驚き、避けようとするが、その余波だけで吹き飛ぶ。

 

 華麗に滑りながら、体制を戻して、三人と合流する。

 

「アスカ」

「響達は下がってろ」

 

 直撃はと目線で聞くが、アタランテは首を振る。

 

 瓦礫の中に埋まってはいるが、すぐに出てきた。

 

「うぅ~もう酷い~ガリィちゃんの相手違うって言ってるのにッ。キャラかぶりだし、変質者だしっ」

 

 そんなこと言いながら、薬瓶を出して逃げ出す。

 

 引き上げていく様子に、いまは捨て置くとジャック達に言う。

 

 

 

 しばらくしてマリアが来るが、ガングニールを持つというのに戦わなかった響に文句を言うが、それにはアタランテが止めたりと、話し合う。

 

 マリアもこの前のことで、こちら側で活動していた方がいいとなり、日本にいる中、やはりと言うか………

 

「オレやアタランテ達しか対応できないか………」

 

 少し悩みものだが、少し引っかかる。

 

 確かに正式な組織として活動するに辺り、装者情報はある程度表側(と言っても国家機関など)に出回っているが、それでも情報は目を光らせている。

 

 なのに、響を狙った行動に、その友達と共にいる時を狙ったことだ。

 

 いざとなればすぐに動けるアタランテ達を護衛に回して良かったが、

 

「マスター」

「分かってるよ」

 

 もしもこれが、現在シンフォギア使用不可の翼、クリス。その他の施設や機関などに回れば手が足りない。

 

 いまだって、セレナと奏さんをどこに置くかで、裏で司令が頭痛めているらしい。

 

「だがそこは任せるしかないか」

「分かりました………そろそろ人が増えているので霊体になります」

「ああ、あっ、ジャック。今日はアップルパイな」

「うんっ♪♪」

 

 嬉しそうにして消えるジャックに、少し耳と尻尾を動かすアタランテも続く。

 

 

 

 色々ある中で、少しだけ時間が過ぎる。

 

 響の言いたいことが分かっている。守る為に使う力を、争う為に使う。矛盾している話だが、仕方ないと思う。

 

 それでいいのか?

 

「………」

 

 抑止力と言う立場、そう言うものが本当であり、それであると知る自分からすれば、回避できるなら回避して欲しいと思う。

 

 自分は、いやと首を振ると、

 

「アスカさん?」

 

 そこに、少しだけ休憩のためか、研究室から出てきたエルフナインと出会う。

 

 考え込むオレを見て、首を傾げながらとてとてと近づいてくる。その姿は、あの子、錬金術師、キャロルと全然違う。

 

 だが正直に言えば、何かが引っかかる。

 

「………なあエルフナイン」

「? はい」

「キャロル・マールス・ディーンハイム。彼女のことを話してくれないかな?」

 

 そう尋ねた。

 

 エルフナインはそれを聞き、少しふさぎ込むが、静かに語る。

 

 彼女は元々、イザークと言う父親と共に旅をしていたらしい。

 

 彼は錬金術を用いて、世界の全てを知り、人々が分かり合える世界を目指していた。自分の持つ錬金術に誇りを持ち、多くの人々を救った。

 

 だがその全てを奇跡の一言で片づけられ、あまつ、その力を恐れられ、異端者と言う言葉で火あぶりにされた。

 

「キャロルは僕を始めとしたホムンクルスを作り、記憶の転写をし続けた存在で、彼女の目的は」

「万象黙示録の完遂か………」

 

 それを止めるため、キャロルから廃棄処分された自分がここに来た。その鍵と成るドヴェルグ=ダインの遺産である、ダインスレイフの欠片を持って逃亡した。

 

 聞いたとおりの話を聞きながら、考え込む。

 

「? アスカさん?」

「………いや、少し、魂が思い出しただけだよ」

 

 そう、引っかかる何か、それにエルフナインが首を傾げた。

 

「魂、ですか?」

「………オレは」

 

 その瞬間、フラッシュバックする。

 

 おかしな話だ、そのようなシーンはテレビで見たかと言われれば、見てないかもと言えるはずなのに、あったかすら分からないそれを思い出す。

 

 錬鉄の英雄と、青臭い若造の会話。

 

 殺し尽くした。必要と言われ、必要だから、だから殺した。

 

 善悪問わず、ただ『掃除』した。霊長が人類存続のために必要と、万何人を救うため、数百の個を犠牲にした。

 

 そんな『自分』に、こう答えた。

 

 例え偽善に満ちあふれた人生でも………

 

『俺は、正義の味方を張り続けるッ!!』

 

 ただ正しいだけのもの、それだけのバカげた理想論。

 

 結果、何を見た?

 

「その人はなにを見たんですか………」

 

 どこかの誰か、偽善を歩く誰かの話に、尋ねられた。

 

 物語は、彼らの聖杯戦争はそこで終わりを告げて、その後なんて知らない。

 

「………偽善に満ちあふれた人生だよ」

 

 だが、答えられる。

 

「抑止力と守護者になる契約はせず、錬鉄の、もう一人の英雄である自分に成らず、かと言って、結局偽善に満ちあふれた、自己満足の人生を歩んだよ」

 

 愚かな人生を歩んだと答えられる。

 

「………その人は」

「幸せかどうかなんて、その時の『俺』じゃなきゃ分からない。決めるのは『オレ』じゃないからね」

 

 ただ言えるのは、ただ正しいだけ、偽善に満ちあふれた、正義の味方を目指して生き抜いたことだけだろう。

 

 それだけは、はっきり言える。

 

「………嫌になる」

「アスカさん」

「いや、本当にオレは龍崎アスカかと言われれば、どうなんだろうと思って」

「えっ………」

 

 あまりに多くの記録と記憶を持つため、前もだが、龍崎アスカとはなんと言う人間を言うか分からなくなる。

 

 姿はアストルフォ、性格は前世の大学生。力は数多くの自分と縁がある、英霊の力である。

 

 そこにオレはいる?

 

「………いや、あるか」

 

 立花響、小日向未来、風鳴翼、雪音クリス、天羽奏、暁切歌、月読調、マリアとセレナと言う、血の歌姫。

 

 彼女達と同じ、シンフォギア、まあ形を変えた異物として使う。彼女達の仲間の一人と言う自分は、龍崎アスカと言うのは自分だけじゃないか。

 

「馬鹿馬鹿しいこと考えた、初代様に首切り落とされるところだった」

 

 セーフであることを祈ろう。少しばかりバカになればいいんだ。

 

「響に言わないといけないことができた」

 

 本来、考えすぎているときは未来が支えてくれているが、これにはオレも関わって良いだろうと、そう思いながらアラーム音が鳴り響く。

 

 

 

 ――???

 

 

 廃屋の中、迷いを振り切り、拳を放つ響。

 

 アタランテとジャックは未来をノイズから守っていたとき、

 

「!?」

 

 アタランテは気づいた、赤い自動人形、新たな敵の出現に驚き、反応が後れた。

 

「それは幻影だ!!」

 

 そう言われたとき、水が舞い上がり、それに驚き、赤い人形は満面の笑みを見せた。

 

(まずいッ)

 

 アタランテはすでに矢を構えるが、大きな一撃が、響へと放たれる様子しか分からない。

 

 ジャックは律儀に未来を守ることだけ考えていたため、反応が後れていた。アタランテは自分の失敗を悔やんでいたが、

 

 

 

 ヒポグリフが空間を跳んで、響をくわえて防いだ。

 

 

 

「なっ、あれは使えなくなってるんじゃないのかよ!?」

 

 ガリィは爪をかじりながら睨み、それに赤い人形、ミカが距離を取る。

 

「ギリギリか」

 

「アスカっ」

 

「ん? お前ミカ知ってる、邪魔な奴~」

 

 ギアを纏う響を見ながら、それに笑う。

 

「決意はついたか、未来は凄いな………」

「えへへ………ごめん、遅くなっちゃった」

 

 ヒポグリフは姿を消していく。その姿はやはり無理したせいか、響は消えるまでその身体を撫でてあげ、ゆっくりと休ませるように、ギアの中に眠らせる。

 

「響が答えを出したんなら、オレの答えもいいか」

「アスカの答え?」

 

 アルカノイズの群れが現れ、構えるアスカ。それに距離などを見る。響のギアは、少しでも触れればいけないのだ。

 

「こたえ?」

「戦う力、守るための力で誰かを傷付ける、答えを言いたかったようだけど。その様子じゃ杞憂だった。ま、未来が側にいてくれればそうなるもんな」

 

 元々この物語、自分はいない。

 

 だがいまはいるんだ。

 

「バカな男を思いだした、もう一人の俺。ただ正しいだけの自分を」

「正しいだけの自分?」

 

「ミカを無視するなだゾッ!!」

 

 無数の六角水晶のようなものが放たれるが、二振りの剣が吹き飛ばす。

 

 余波だけでアルカノイズも吹き飛ばすが、

 

「えっ………」

 

 

 

 その手にあるのは王剣と魔剣ではなく、黒と白の巨大な刀だった。

 

 

 

 比翼のような黒白の剣を構えながら、アタランテとジャックも驚く。

 

「アームドギアではない!?」

「おかあさんのほうぐ?」

 

 いままでの剣はアームドギアの形を借りた宝具に近い何かだが、これは事実上、宝具と言っていい。まさしく、神秘の塊だ。

 

「あるバカな男の宝具。正義の味方に成るために、ただ正しいだけのバカな男。理想だけを進み、馬鹿正直に誰かを救うことしか考えなかった、身勝手で、子供のようなことしか言わなかった。誰かを救うために誰かと戦い続けた矛盾だらけの人生を歩いた、もう一人の俺の力」

 

 自身の力なんてもん持ち合わせられないのなら、貸してもらうぞ。

 

「響、お前もそんな人生になるかもな。まあそれでもいいさ、悩め、苦しめ、そして答えを出せ。未来がお前を支えてくれてる間、オレは無様でも身勝手でも、時間を稼ぐぐらいはしてやるさ」

 

 構える剣から微かにある男が笑った。

 

 皮肉か何かは知らない、だが、

 

「オレも、キャロルを止める。争うだけの力で、守るために」

「………うんっ」

 

 拳を握りしめ、背を合わせる響。なんとなく、自分の答えと同じ答え。そう感じて、背中を合わせた。

 

 

 

 アタランテとジャックは絶句する。

 

「魔力、凄い………」

「そ、そうなのジャックちゃん………」

「人間じゃない」

 

 ジャックの言葉に、アタランテは首を振る。

 

「いや違う、これが彼だ」

 

 アルカノイズは自分達も取り囲むが、二人は隙を見せず、それを見る。

 

 あれこそが、龍崎アスカ。数多くの自分と縁から力を借り、守る少年の力。

 

 その中に、自分達のマスターがいると感じながら、

 

(まだいる………何かが、いや違うなんだ)

 

 彼女は気づき始める。変わり始める少年を見ながら、悪寒が走る。

 

 そのままでいいのか?と考えてしまう。その先は、人か分からない。

 

「大丈夫です」

 

 そう後ろから、未来が話しかけた。

 

「私も響も、みんないます」

「………貴方は強いですね」

 

 そう微笑み、そして、

 

 剣を構え、一歩踏み込んだ。

 

 

 

「!? 不味いミカ引くぞッ」

 

 

 

 瞬間、投げられた剣は無数に現れ、三千世界のように、無数の剣が全てを切り裂く。それと共に爆発する。

 

 こうして彼女たちを退けたが、また少し、ナニかに近づいた。

 

 

 

 バンッと本を閉じる。

 

 頭を痛める。ああ痛いさ。

 

「………どんどん近づいてる」

 

 そう思いながら、静かに、

 

「知らないぞ、ああ知らないぞ」

 

 だが、

 

「覚悟があるなら来ればいい、覚悟がなければ殺してやる」

 

 そう思うしかない。

 

「さあ、お前の物語を始めよう。血の歌姫達と共に」

 

 自分へ向かって、そう宣言するしかなく、本をまた開いた………




何かが目覚め出す主人公、その先は地獄か平穏か。

シンフォギアの四期、楽しみです。それと共にきよひーを出したい作者です。

四期は五期は展開が分からないから、やりたくても怖いですね。もう出てくる人からどんな物語になるか分からないぜ、男から女って、アスカある意味やばいですよね?!

なぜ私の世界のきよひーは、固有結界破壊や、次元空間行き来や、ついに白蛇から白竜へと進化してる?

それでは、お読みいただきありがとうございます。

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