我が学園の学園祭が始まる。
一人の少年、ピンク色だと言うのに、男性であり、ショートの彼、龍崎アスカは静かに委員長達の話を聞く。
「龍崎さん、いままでお休みの間で、我がクラスは劇になりました。龍崎さんはどんな役がいいでしょうか?」
そう、女子委員長に言われたため、
「オレは休みが多いですから、みんなが迷惑関わらない役でいいです。文句言う資格は無いで」
「皆の衆ッ、龍崎さんが人魚姫OKだそうよッ!!!」
『ーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!』
声にならない歓喜の悲鳴が轟き、アスカはえっと言う顔になる。
――とあるファンクラブ会長
龍崎アスカ、男の娘。我が校の有名な学生で、休みが多く、そんなイメージ故、病弱な美少女と言うイメージが固まりつつあるが、中学剣道部であり、大会は出ないものの、指導された後輩は多くの大会で、連覇などの、成績を残す。
もうすぐこのファンクラブも代替わりになる中で、このイベントはなんとしても成功させなくてはいけない。
いま我々はクラス、学年の枠組みを外れて、全ての熱意をこれらのイベントに納めるために暗躍している。
「それではそなたのクラスで、アスカ様を人魚姫にすることはできるのですか?」
覆面をつけた女子生徒が尋ねてくるため、私は静かに頷いた。
「すでにこれを………」
テーブルに、キャミソールと短パンだけの彼の写真(貴重な資料写真です)が何枚も置かれ、全員が歓喜に満ちるが、大人しくさせる。
「こ、これで男なんて………あり得ない………」
「生足………生足………」
「すべすべと言う情報が入っているぞ、残念だがドレス姿を優先するため、それらは封印するしかない」
「己教師めぇぇぇぇぇぇ」
全く、彼はこの程度ならいいやと平気で肌を見せるが、これは危険すぎる。全く、自覚が足りない。これは我々のネットワーク内でしっかり管理しなければいけない。
ともかく、これで彼は抵抗無く、人魚姫をやることは決定した。それに多くの同胞は歓喜し、隠しカメラやビデオなど、映像を残すために動く。
彼の男性制服もいい。大きくなることを考えた故か、少しぶかぶかで、袖が手を少し隠すなど、もういい。
中には彼に告白する男子がいるため、色々後始末に手間取るが仕方ない。
「ドレスと人魚姫、楽しみにしなさい」
「楽しみと言えば、翼様も来るんですよね、ウチの学園祭」
「ああ、姫と姫の競演………いい………」
こうして時間だけが過ぎていく。
――龍崎アスカ
いま土下座してます。
「い、いきなり部屋に来て掃除して、なんだと言うんだアスカ!?」
「今度オレの学園の学祭に来るので、学祭のことを響達に秘密にしてください」
もうね、あの姿を見られたら、それを映像なりなんなりに残されたらね、死ぬよ。
下半身は人魚で、上はキャミソールでへそだし、肩を出した薄着。アクセサリーで可愛く仕上げられた自分見て、あれ?と思ったよ。
ドレスもまた気合いが入りすぎてるけど、文句言う資格は無いんだ。学業ガン無視していたから、仕方ないんだ。
「というわけでお願い、翼さんは無理なのは分かるけど、せめて奏さん達は」
「………分かった、いいだろう」
「本当ですか?」
「………ただな」
少しだけむすっと言う顔で、頬を赤くする。
「ただ、私のことを翼と呼べ。いい加減、他人行事みたいに話さないで欲しい」
「………それは」
「いいだろ? それとも、雪音のように嫌なのか?」
そんなことを言う翼さんは珍しい。
なら………
「分かったよ翼、これからお願いします」
「………ああ」
こうして軽い食べ物を用意してから帰る。それにしばらくしてから、
「これでどうにかなる………」
――風鳴翼
今日の仕事は学園祭、多くの場所を廻り、歌を届けると言う内容で活動中だ。
その活動の中で、学祭にも出る。その中に、まさかアスカが通う学園があるとは、楽しみだ。
アスカには悪いが、彼の人魚姫は気になる。
「翼さん、これがアスカさんの学祭のパンフレットです」
「ありがとうございます」
緒川さんと共に車での移動中、内容を見る。どうやら、男女交代の人魚姫。なら王子は女性がやるのかと思いながら、大きくアスカの写真が貼られている。
「………」
それをしばらく確認してから、うん………
「………女性にしか見えないな………月読はよく気づいたな」
「そう言えば、僕らの方も、メディカルチェックしてもらうまで、女性装者として登録しようとしてましたもんね………」
この話はアスカには絶対に言えないな、彼は少し気にしている。
正直、私も奏に「女なら、もう少し部屋を片づけろ」と言われたり、歌い手としての活動の際も、バイクの趣味のことを女性らしくないからと、伏せるべきか会議された時は、少し落ち込んだからな。
私くらい、アスカのことを男性と見てやらなければ、最近剣の試合相手をしてもらっている。
長い年月、剣を振るった武士故に、彼には一度も勝てないのが悔しい。
「あっ、もうすぐ着きます」
「はい、分かりました」
そして彼の学園へとたどり着いた。
楽屋裏で私はアーティストの衣装を纏い、少しだけ劇などが見られるようにされていた楽屋に、少し感謝している。
学生の方々に一度礼を言ったら「風鳴さんにも、自分らの学祭を楽しんでもらいたいですから」と返してもらった。
こういうのを、平和と言うんだなと思いながら、学祭の様子を見る。以外とカメラ切り替えがうまいなと、緒川さんも感心していた。
「と、そろそろアスカの出番か」
時折緒川さんが控えているが、女性の生徒が私の面倒を見に来てくれるため、気を付けながらだが、アスカの名前を言う。
そして………
「……………………………………………………………………」
なんだろう、この敗北感。
アスカは始めから最後まで、声を出さずに、動きだけの演技力で動いていた。
海面から、豪華な宴をする船をのぞき込む仕草、その後、王子を助け出す様子は、まるで本当の可憐な美少女だった。
しばらくして、海の底で王子を思い耽る様子もまた観客を劇に入れ込ませ、魔女の元に必死に出向く様もまた合っている。
声が無くなり、ぎくしゃくしながら、陸の仕事をする町娘の様子まで、完璧であり、その表情は勉強になると、不覚にも思ってしまう。
最後には、声の主に扮した魔女より、王子は健気な人魚姫を愛して、彼女とハッピーエンド。最後には真珠色に近い、ウェディングドレスと、卑怯にもほどがある。
それを着て、王子が着た際のはにかみは、可愛かった。
「ま、まさか全てを捨てて、成りきるとああも化けるとは………恐ろしい人です、アスカさん」
「ああ………」
私はこの後、歌わないといけないのか?
これに勝てるのか?
自信は………
「ハッ、無くしてどうするッ」
高らかに立ち上がり、向こうが静でのエンターテイメントなら、こっちは動で対抗するしかないではないか!!
「翼」
そして、ウェディング姿のアスカが流れてきた。
「楽屋で聞いてるよ翼、楽しみに」
「楽しみにしててくれアスカッ、私は負けないッ」
「……………えっ?」
そして、風鳴翼、いざ飛翔するッ
――龍崎アスカ
「………」
バックに炎を背負った翼が去っていく。
「なんか、炎背負ってたな」
「………アスカさん」
静かに肩を掴み、そして、
「アイドルデビューする気は無いですか?」
「なに言ってるんですか?」
「大丈夫、始めから男性だと公表すればいいだけです」
「なんの話!!?」
なんか知らないけど、もの凄く断った。ってか、翼の歌聞き終えたら着替えるんだよ。こんなんいつまでも着てられるか。
その時、大人のスタッフが駆け込んできた。
「た、大変です緒川さんっ」
「どうしましたか!?」
なんでも翼のスタッフ側のミスで、もう一つの会場の方に、もう一曲の衣装などの道具を運んでいる。それに緒川は驚き、まずいと頭を悩ます。
「学園側には二曲で話を通して、時間も組んでます。学園祭とは言え、我々の都合で変える訳にはいきません」
「ですけど、どうしますか? 歌はともかく、衣装はいまのしか無いですよ」
「…………………………一つ、手があります。学園の責任者の方に交渉を」
「………………………………………………………………」
なんだろう、もの凄く嫌な予感しかしない。
――ファンクラブ会長
「……………」
私はいま、ドリィィィィムを見ている。
風鳴翼と、我らがアイドル、龍崎アスカの夢のコラボ。
お互いがお互い、その場あわせだが衣装を作り合わせたデュエット。
もう私は………
「満足だ………………」
「会長ッ、まだ終わるのは早いですっ」
「まだやることは山盛りですよッ」
あっ、ちなみに私がこの学園の会長です。
――風鳴翼
歌唱力、演技力、そして素材。
防人としても歌い手としても、私は彼には一歩及ばないと思う。
だがそれで諦める風鳴翼ではない。
「いずれ、この屈辱を晴らすぞ、アスカっ」
「………………………ごめん、その話は無しにして………黒歴史だから」
そして緒川さんや学園に、アスカアイドルデビューの話がたびたび来るらしい。無論、男性でもいいからと。
アスカの目から光が無くなった気がするが、私はいずれアスカに勝つ。
競い合う仲間と言う者もいいものだ。そう思い日であった。
仲間交流回です。
この後めっちゃジャックを甘やかして、アタランテさんに怒られましたアスカ。
次回は空白期での騒動。すまない、また地獄が待っているよアスカ。
アスカ「ジャック、今日も一緒に寝るか? おかあさんは疲れたよ………」
ジャック「うんっ♪♪」
お読みいただきありがとうございます。