なんかもう、何を書いているのか自分でもよくわかりません。

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PとPとAとP そして しぶりん

 これは罠だ――一目見て、しぶりんはそう直感した。

 そもそも、あのプロデューサが打ち合わせに遅れること自体が極めて珍しい。

 今から三〇分の間、このミーティングスペースで待機していろという。

 だが、机の上に置かれているのは――

 ペンが二本。

 リンゴが一個。

 そして、パイナップル。

 明らかに、狙われている。

 必ず、近くにカメラが隠されており、

 今の自分はVに収められている――

 少なくとも、その前提で動かなくてはならない。

 もしこの状況下で、迂闊にペンを一本拾い上げようものならば――

 たったそれだけのことで、いわゆる第一節――俗にいう『I have a pen.』が成立してしまう。

 きっと、字幕入りで煽られることだろう。

 BGMまで流されて。

 しぶりんは、それを恐れた。

 今まで築き上げてきたキャラクターが崩れることを。

 変に気取ることなく、素の自分でいられたからこそ、何とかやってこれたのである。

 ここで妙なキャラ付けを強いられては、もうアイドルを続けてはいけない。

 彼女は、二人の親友のことを思い出す。

 卯月なら、可愛らしく、

 未央なら、ノリノリで、

 この局面を乗り切ることができるだろう。

 しかし、彼女は――しぶりんである。

 どう繕っても、噛み合わない。

 キャラに合わない。

 ゆえに、こうして仕掛けられたのだろう。

 そのギャップに期待して。

 ただ――

 このまま本当に何もしなければ、自分のカットが使われることはない。

 アイドルならば、少しでも露出の機会を増やさなくては――それは、しぶりんも理解している。

 ゆえに、悩む。

 何とか自分らしく、

 視聴者にもウケが良い――

 そんな、最大公約数的な解を求めて。

 今、自分の一挙一動が、注目されている。

 自分のすべてに、コメントが入る。

 それを意識した上で――しぶりんは手を伸ばした。

 彼女から見て、左側にリンゴとペンが一セット。

 右側にパイナップルとペンが一セット。

 まさに、刺してくれと言わんばかりに誂えられている。

 だが、彼女の選択は――

 両者同時。

 She has two pens――

 それにより、露骨になぞることを、辛うじて回避。

 しかし、後続の難易度も格段に跳ね上がる。

 片方ずつ刺していっては、結局何も変わらない。

 Apple-Pen であり、 Pineapple-Pen となってしまう。

 彼女は、それを望まない。

 例え、訪れる結末は同じだったとしても。

 カメラの向こう側の思い通りにはさせない――!

 両手で流れるようにクルクルとペンを回し――ピタリ、とその切っ先を真下に向けて握り込む。

 各々がまとまって――離れて配置されていたのが幸いした。

 すぅ……と息を溜めて――

 

“神技・繚華地雷衝――!!”

 

 と、心の中で叫ぶと同時に振り下ろされる握り拳。

 そして、Two pens.

 二振りの得物は 目標(ターゲット)の中心を外すことなく貫いていた。

 ふわりとたなびく長い黒髪。

 我ながらスタイリッシュだった――としぶりんは閉ざした瞳の奥で勝ち誇る。

 だが、決して表情に出すことはなく。

 淡々と、

 自分らしく――

 片端に重みが刺さっているのを感じさせないペン回し。

 指先だけで器用に、それは、チアのバトンのように。

 旋回しながら舞い上がる二つの果実は、彼女の頭上でピタリと止まった。

 これで――この間抜けた騒動に幕を引こう――!

 

“――――滅ッッッ!!!”

 

 渾身の一撃。

 頭上で交差する両手は、さながら楽団を統べる指揮者のように。

 だが――

 

 やりすぎた……ッ!

 

 先程の二果両実突きが思いの外上手くいったことで、少し舞い上がっていたようだ。

 有り余る勢いで全力の衝突させられたApple及びPineappleは――あえなく粉砕。

 芳醇な果汁を撒き散らしながら、しぶりんの頭上へと降り注ぐ。

 失敗は認めよう。

 だが、狼狽えるわけにはいかない。

 すべては計算通り――そう思い込もう。

 打ち合わせに不要なものを片付けただけだ――と。

 これで、余計な果物はない。

 ミーティングに必要なのは、メモを記すペンだけだ。

 ゆえに、これでいい。

 これでいいのだ――

 

 そこにプロデューサがやってくる。

 ちひろさんを引き連れて。

 きっと、ネタ明かしを用意しているものだと、しぶりんは確信していた。

 しかし――

 彼は仕掛け人ではない。

 プロデューサもしぶりんと同じ――被害者側だったのである。

 仕掛け人と共謀していたのは後ろに仕えるアシスタントのみ。

 ここに来るまで無線で連絡を受けながら、のらりくらりとプロデューサを足止めしていた。

 そして、今が一番面白い――その合図を受けて背中を押したのである。

 ゆえに、プロデューサの目に浮かぶのは笑みではなく驚愕。

 本気で、心配している。

 というより、引いている。

 果汁まみれの、担当アイドルに。

 その蔑むような視線に、しぶりんは耐えられず――

 握り込んだままの凶器をプロデューサと、

 背後に控えていたちひろさんをも巻き込んで……ッ!

 

  Pen(ペン)- Producer(プロデューサ)- Assistant(アッシー)- Pen(ペン)...!!

 

 彼女は高々と掲げる。

 ペン先にぶら下がる二人の男女を。

 これが私のPPAPだ……と誇らしげに。

 だが――

 彼女は気づかなかった。

 自分らしくありたいと願うばかりに、

 傍から見て、どう思われていたか。

 自分らしく動いた結果なのだから、自分らしく映ったはず――

 それは、彼女が思う――

 彼女だけが思うしぶりんだった。

 もはや、彼女は今までのしぶりんではない。

 

 クールタイプから、

 ただ一人のダークタイプへ。

 

 暗黒女帝・しぶりん誕生の瞬間である。

 



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