たとえ、全てに否定されようとも   作:Laziness

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初の5000文字到達!!

今回は戦闘描写に力入れたので、どうか飛ばさずにお読み頂ければ大変嬉しいです。

普通に10000文字ぐらい書ける投稿者の方って一体・・?

では、お楽しみください!


Ⅵ・第三話

「では、天城様。行って来ます。」

 

「ああ、くれぐれも安全には気をつけて。それと、冷静さを欠かないように。」

 

「ええ、天城様も落ち着いて。」

 

 2人とも、ある程度の休憩時間のお陰で、ようやく冷静さを取り戻したようだ。

 

「杏。お前の力は、まだ分かってないことが多い。本気を出すなとは言わないし、寧ろ本気で戦って欲しい。でも・・気をつけてくれ。」

 

「ええ、分かっています。天城様のその力も、同じくまだ分からないのですから、人の心配だけでなく、自分の心配もしてくださいね。」

 

 まったく、その通りだ。

 

 今回の戦いは、相手のことも自らのこともよく分かっていない。

 

 今まで経験してきた戦いとは、比べ物にならないほどの辛さだろう。

 

「では。」

 

「ああ、武運を。」

 

 杏を乗せたヘリは、支部を離れて戦場へと向かっていった。

 

 

 

 

 杏が行ってから、1時間が経過した。

 

「翔!そろそろ時間だよ!」

 

「ああ。既に準備は出来てる。」

 

 行き先は【インド帝国支部】。チャブンが殺されたところだ。

 

「作戦開始は、UTCで朝6時。WN×WRに直接声明が届いて、【我々は待とう】とか何とか言ってたらしいから、万全の準備で行こう・・・と元帥が。」

 

「了解。要するに敵は、本格的にこちらと戦う気だな。」

 

「うん・・生きて帰ってきてね。」

 

 そう呟いた彼女の顔には、僅かな不安が見られた。

 

「ああ、大丈夫だ!なんたって、WN×WRだぞ?たかが反政府組織には劣らないさ!」

 

「うん・・うん!そうだよね!がんばって、翔!」

 

「ああ、日本支部は任せたぞ。」

 

 確かに、俺も不安はある。

 

 でも、その不安に屈してはならない。チャブンのためにも、自分のためにも。

 

 

 俺を乗せたヘリは、天高く上り、西へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

《インド帝国 インディラ・ガンディー国際空港》

 

「外務総統!番外実動体、全員集結いたしました。」

 

「了解、作戦決行は6時だったな。それまで休んでいてくれ。」

 

 いろいろな方向から人を集めたせいで、なかなか個性的な集団になっている。

 

「・・・装備は?」

 

「鎧なんぞ甘えです。」

 

 こんな脳筋ばかりである。

 

 まあ、でも全員頼れる奴だ。

 

 さて・・俺も精神統一でもするか。

 

 

 

 

 

 

「外務総統、時間でございます。」

 

 始まるぞ、決戦が。

 

「外務総統、出陣前に元帥より通信が届きました。」

 

 まさか、全員ではなく俺個人ということ。

 

「はい、元帥」

 

『体調は万全かね。』

 

「ええ、それはもう」

 

 半日にも及ぶ休憩時間のお陰で、体調は万全だ。

 

「それで、用件をお願いします。」

 

『いや、一つ忠告があるんだ。』

 

 忠告・・・覚悟は出来ているつもりだが。

 

『何を見ても驚くな。冷静さを欠くな。』

 

「勿論。覚悟は既に出来ております。」

 

『そうか・・。なら、見せて貰おう。君の覚悟を・・・。」

 

 元帥はまだ何か言いたそうにしていたが、時間のため通信を切らざるを得なかった。

 

『では・・もう一度言うぞ、絶対に冷静さを欠くな!!』

 

「はい。では、行って参ります。」

 

 元帥が何故そこまで強く言ったのか、俺には分かる筈も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着しました。此処から先は徒歩で。」

 

「了解した、全員に伝えろ、作戦通りの陣形を取れと。」

 

「ええ、了解しました。」

 

 陣形を取った俺たちは、インド支部へ向かった。

 

 

「では、此処から先は分かれる。分隊aは、右回り。分隊bは、左回り。そして、俺たち本隊は、正面から向かう。」

 

 

『了解!!』

 

 

 

「驚くな・・って、まさかこの崩落した支部のことでは・・ないな。」

 

 この程度で冷静さを欠くほど、戦場に不慣れではない。

 

 

「じゃあ元帥はなんで・・?」

 

 その瞬間、瓦礫が崩壊する音が聞こえた。

 

 

「・・!敵か!」

 

 俺はすかさず、剣を抜いた。

 

 

 

 しかし、誰も現れない。

 

 

「まだ姿は見せないか。」

 

 好都合だ。こちらとしても、まだ探索はしておきたい。

 

 

 

「よし、いくぞ。お前ら。」

 

 俺は、後ろを振り向いてそう伝えようと思ったんだ・・。

 

 

 しかし・・

 

 

「ん・・?1人足りなくないか・・?」

 

「隊長、確かに1人足りません!!」

 

「おい!隣の奴はどうした!?」

 

 気付けば、後列にいたはずの1人がいなくなっていた。

 

 

「わ!分かりません!!きゅ、急に・・というか、いなくなったことにも気付けませんでした!!」

 

 

 なに・・?不審だ。

 

 報告をしている彼ではなく、この事態そのものに・・だ。

 

 

「全員!これからは、隣の奴に、十分注意して進め!!」

 

『了解!!』

 

 俺も、十分に警戒して進む。

 

 

 

「・・っ!!」

 

 また、瓦礫の崩壊した音が聞こえた。

 

 これは、攫いの合図だと考えたほうが良い。

 

「大丈夫か!!誰か減っていないか・・?」

 

 

 隣の人を警戒・・というのはあまり意味を成さない。

 

 なぜなら・・

 

 

 

 2人同時に攫われてしまっては、誰も気付かないから。

 

 

「4人・・だと!?」

 

 恐らく俺は、敵の混乱を招く作戦に、まんまとのせられている。

 

「くそっ・・!!」

 

「外務総統!気配がまだ消えていません!!」

 

 

 要するに、敵はようやく姿を表す気になったということだ。

 

 

「【テンプラチャー・テンプラチャー・テンプラチャー・ディスクリミネーション・オール・マテリアル】。」

 

 かなり高度の詠唱だ。

 

 サーモグラフィーの効果を利用し、不可視化している人間さえ見分けられる。

 

 

「いた・・。はっ!」

 

 俺は、足元にナイフを投擲した。

 

 

 どうやら、解放術を使って強化した速さのナイフは、避けられなかったようで。

 

『くっ!』

 

 敵は、瓦礫の山から落ち、行動を停止した。

 

 

「さあ、なかなか面倒くさい作戦を取ってくれたじゃないか。」

 

 

 敵は観念したように、コートのフードをゆっくりと下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もう!酷いじゃないですか、天城さん!」

 

 

 

 

 ・・は?

 

 

 フードを取った敵は、俺と大変親しみのある少女だった。

 

「な・・なんで?」

 

 

 彼女が、何故ここにいるのか、皆目見当もつかない。

 

 

「な、何でといわれると・・」

 

 

 彼女は、この世界に関係ないと思っていた。

 

 

 彼女の夢は【WN×WR】に入ることだといっていた。

 

 

「私が・・」

 

 

 嘘だと信じたかった。

 

 

 まるで、日常を否定された気分だった。

 

 

 

 

 

「TATユナイテッドワークスの人だからですね♪」

 

 

 

 何故?

 

 何故だ・・!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡月・・・里祢・・・!!」

 

 

 

 

「ふ・・・はっはっは!!予想通りの反応だ!!あ、しゃちょーに送ってやろ。」

 

 

「何で!!何でだ!!」

 

「いや、さっき言ったじゃん。1回で理解してよ、ディザスターさん。」

 

 最早、言葉を紡ぐことさえ出来ない。

 

 

「うーん、もっと驚かせたいよね。うん、呼んでおくね。」

 

 

「外務総統!」

 

 

 俺は、横から迫ってきていた魔術の光に対応できなかった。

 

 

「がはっ!」

 

 鮮血が散る。まだ生暖かい。

 

 この生暖かさが、命が散ったことを俺の心に刻み込ませた。

 

(対応・・出来なかった・・?)

 

 

「ははっ!油断してたらディザスターさんも唯の人間だねぇ!!」

 

「き・・貴様っ!!」

 

「ほら、冷静さを欠くなって。」

 

 

 彼女が腕を振り上げた瞬間・・

 

 

 

 俺の右腕が、地面に横たわっていた。

 

 

「な・・なっ!?」

 

「ほら、興奮してるから僅かな変化に気付けないんだよ?」

 

 よく見れば、設置型の術式が展開されていた。

 

 彼女は、俺が驚くことを前提にしてこの作戦を立てていたのだ。

 

 

 

 

 ならば、外務総統として、その作戦にこれ以上乗るわけにはいかない。

 

「己の身が滅する時、剣は天を切り裂き、主に神の力を与える」

 

 通常ならばこれで終わりだが、念のため強化しておく必要がある。

 

 

「神の力は神威を纏 その剣は玲瓏なりて その命は贄となりて

 

 我此処に在りて 人域たる地に神を降ろさん」

 

 

 この力を使うのは初めてだが、不思議と失敗する不安は無い。

 

 

「【己身滅時 剣天切裂 主神力与】過剰展開(オーバーゲート)

 

 

 本来白銀の剣が、赤黒く輝く。

 

 

「いいねぇ・・!!いいねぇ!!張り合いが無くちゃ困るよ!ディザスター!!」

 

 

 では行こう。全ての仇討ちだ。

 

 

「【ファンセブ・エグゾアラット】」

 

 

 まずは【ファンセブ・ジ―アラッド】の進化技で、相手の距離を詰める。

 

 

「おっと!では行こう!」

 

 彼女はしゃがみ込んでいた姿勢を止め、瓦礫の山を駆け出した。

 

 

「速度解放130%っと!」

 

 解放術。当然だ、もともと対素がある以上、魔術は使えない筈だ。

 

 

「はっ!」

 

 彼女に至り、一閃。

 

 しかし・・・否、当然というべきか。彼女は裂け、瓦礫の山は砕けた。

 

 

「おお、恐い恐い。いやでも当たりたくないねぇ。ほっ!」

 

 彼女は、先程から槍・剣・細剣を投擲してくる。

 

 

「いやぁ、武器が豊富でいいねぇ!!」

 

「ふむ・・なかなか興味深い技を。」

 

 先程から彼女は、武器に触れただけでその武器を複製している。

 

 

「ふふ・・どうだい?この国の錬金術は!!」

 

 

 やはり・・というべきか。

 

 

「錬金術を利用し、武器の材質を記憶・複製をいったところか。こちらの技術もまんまと漏れてしまったな。」

 

 もともと、インド帝国の技術を応用したそれは、我々WN×WRの技術である。

 

「だがな・・そう易々と敵の業を使うもんじゃないぞ。」

 

 

 こちらが開発した技術だ。

 

 

 

 

 弱点も知っていて当然だろう。

 

 

「ほう!じゃあ・・・」

 

 彼女は、無数の夜空煌く剣・槍・細剣・大剣を顕現させた。

 

 

「これなら・・どうだ!!」

 

 

 

 

 

 

「[アタミゼイシャン・アタミゼイシャン・タイ・アート・アラウンド・ミー】」

 

 

 自分の周りの魔術を一定時間無効化する、初歩魔術だ。

 

 

「ふん!そんな初歩魔術で・・こんな次世代の技術が破れるとでも!!」

 

 

 数多の剣が空を舞い、風を裂く。

 

 輝きと煌きが、万物を照らすようで。

 

「はっ!やったわね。」

 

 その輝きは・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間にして、無に還る。

 

 

「当然のことだろう・・?」

 

 無数の剣撃を受けた筈の男の声が、高らかに響く。

 

 

「な・・!?そんな筈は!!」

 

 

「複製したのは魔術。ならばその無数の剣の本質は【魔術】である。ならば、どんなに弱くても魔術無効化さえしてしまえば、全て消える。」

 

 俺は、一歩ずつ彼女に近づく。

 

 

「何故、自らの剣で戦場にたたない・・?」

 

「ひっ!」

 

 最早、彼女に余裕は消えていた。

 

「問おう、人殺しは楽しいか・・?」

 

 始めは攫ったのは彼女か疑っていたが、彼女のしゃがんでいた場所に人の首が転がっていたことから、最早間違いはない。

 

 

「それ・・なりに・・?」

 

 どうやら強がっているらしいが、無駄に決まっている。

 

 

「ほら・・貴様の剣で戦え、そして殺してみろ。」

 

 

 どうやら、その挑発が随分と彼女には効いた様で。

 

「くっ・・そがっ!!」

 

 

 

 彼女は細剣を構え、その一歩を踏み出した。

 

 

 

 しかし・・

 

「『ほら、興奮してるから僅かな変化に気付けないんだよ?』とでもいっておこうか?」

 

 

「きゃっ!」

 

 最早見慣れた、人の血だ。

 

「どうだ・・?効くだろう?どうせなら仕返ししてやろうと思ってな!」

 

 

 残念なのは、飛んだのが左手のこと。

 

 どうせなら、右手が飛んでくれた方が楽だった。

 

「あ・・ああ゛・・あっ!!」

 

「おや、肢体の1つが飛ぶ痛みはまだ味わったことがなかったか。」

 

「や・・やめっ!!」

 

 

 俺は、その時周りが見えなくなっていた。

 

 ただなんと言うか・・高揚感と言うかなんと言うか。

 

「すまんな、戦友の為だ。

 

 

 

 散れ、鏡月里祢。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あえてもう一度、ほら、興奮してるから僅かな変化に気付けないんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は確かに、鏡月に剣を振り下ろそうとした。

 

 

 なのに何故・・?

 

 

 

 

 

 

 剣ごと右手が散っている・・?

 

 

「ふっ・・はっはっは!!グットタイミングすぎるぜ!!フェンリル!!」

 

 先程まで恐怖に慄いていた彼女が、急に高らかに笑う。

 

 

「一体・・!!」

 

 

 

 

「おやおや、これは始めまして。私、【アルスファント・フェンリル】と申します。」

 

 

「だれ・・だ!!」

 

「TATユナイテッドワークスの代表取締役補佐をしているものです。」

 

 

 代表取締役補佐・・?

 

 聞くだけだと、なかなか中途半端な職に聞こえる。

 

 

「んで、私が潜入捜査部部長の、【鏡月里祢】です♪」

 

 

 潜入捜査部・・・部長?

 

 WN×WRで考えれば、重役の内の1つである。

 

「リーダーは・・どこだ!!」

 

 

「おや、代表取締役ですか?居りますよ。」

 

 

 

「あーはいはい。出て行くつもりだったわよ。」

 

 

 その声は随分と聞きなれていて・・。

 

 

 

「ま、さか・・?」

 

 

 

 俺が戦場でであった、穢れなき白銀の髪で。

 

 

 

「右手が無いなんて・・痛そうねー。」

 

 

 

 もう1人の、地球最後の兵器・・・。

 

 そして・・

 

 

「良かったら治療でもしてあげるわよ?

 

 

 

 

 

 

 兄さん?」

 

 

 

 

 自称、俺の妹を語る人物。

 

 【天城紫苑】その人であった。

 

 

 

 

「紫苑も・・鏡月も・・何で!!何でだよ!!」

 

 

 

 俺はその日、『日常』に否定され、

 

 

 

 

 

 

 

 『最高の人生(ハッピーエンド)』を否定した。

 

 

 

 




右手が飛ぶ・左手が飛ぶ・・と。

だいぶきついこと書いてしまいましたが・・大丈夫ですよね?

では、次回もお楽しみください!!

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