慟哭の空   作:仙儒

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戦士の覚悟

「これは何ですか? 北郷少将」

 

 アスランは目の前の人物を睨みつける。

 

「君が用意しろと言ったワンマンアーミーのライセンスだ」

 

「……、成る程。貴方もただ、私は戦士でしかないと。そう言いたいんですか?」

 

 殺気を放ちながらそう問いかける。

 

 わかっていた事だ、今更聞くまでもない。

 

 その殺気に冷や汗を流しつつ、北郷少将は口を開く。

 

「そのために銃とワンマンアーミーのライセンス、何てふざけた物を要求したんじゃないの?」

 

 北郷少将としても、此処で引き下がるわけにはいかない。

 もう軍に無理を通して、もぎ取って来たのだから。

 男の出した無理難題を。

 

 そして目の前の人物がむやみやたらにこのような態度を取らない事も知っている。

 

 試されているのだ。器を。その意義を。その真意を。

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙が続く。

 

 周りの軍人たちはアスランの放つ殺気に腰を抜かしている。

 一応銃を構えているが、手は震え、狙いが定まっていない。

 

 一緒に居会わせ、初陣を華々しく飾った北郷章香でさえ、顔は蒼白になり、手は震え、持っている刀は振るえ、カチャカチャと音を立てている。

 

 

「はぁ…、わかりました。で、何をすればいいんです?」

 

 アスランは降参だ、そう言うように両手を軽く上げた後、殺気を消して何時もの物静かな雰囲気に戻った。

 

「死ぬかと思ったわ」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、何でも」

 

 聞こえていたがあえて、聞き返したアスラン。

 これはアスランなりの気遣いでもあったが、それに気が付くほど余裕がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、否定はしないのね」

 

 北郷少将からそう口にした。

 

 タヌキが、

 

 そう思いながら俺は口を開く。

 

「もうばれているのに今更言い訳を並べても時間稼ぎにすらならない」

 

 そう言うと

 

「殊勝な心がけね、うちの旦那にもそう言う心意気を持って欲しい物だわ」

 

 そんなん知らんがな。

 

(良かったんですか?ばらしてしまって)

 

 そう念話で問いかけて来るセイバーに頷く。

 

 絶対に飲めない条件を出したつもりなんだけど、それを持って来られちゃ、しょうがない。今回は俺の完敗だ。

 

「では、アスラン・ザラ少尉は本日付で中佐へ昇進。新設第十二航空飛行隊隊長をして貰う。異論は認めないわ」

 

 いやいや、だから相変わらずおかし…くもないのか?

 カールスラント上層部の連中は准将の席用意してたことに比べれば大したことないな。

 

「な、かあs、北郷少将! 流石にそれは」

 

 理由を知らない章香からすれば、異例過ぎる対応に幾ら世界初の男軍人だと言うだけでその昇進はあり得ない。そう言おうとしているのだろう。

 俺が同じ立場だったら意を唱える所だ。

 

 それに、空も飛べもしない男が航空隊の隊長が勤まるわけがない。普通ならばな。

 

 その点、俺は普通ではない。

 

 理由を説明するよりも見せたほうが早いだろう。

 

 セイバーにセットアップを頼んでMSモードになる。

 

「なっ」

 

 真っ赤に光った後、現れたのは騎士甲冑っぽい格好に変わる。

 

「資料に乗っていた写真と同じ物ね」

 

 北郷少将が口にする。

 今はバイザーをしてないけど。

 

 あのカールスラント防衛戦から何日か後、転移魔法でカールスラント行き来して、新聞の一面に白黒ではあるが、確かにアンノウン戦闘機は人だった!と証拠写真と共にでかでかと乗っていた。

 

「え、なっ!」

 

 流石の章香もびっくりしたのか言葉にだせていない。

 

「まさか、男のウィッチが存在するなんてね。核心はしていたけど今でも信じられない。夢を見ている気分だわ」

 

 あ、そうだ。

 

 これは言っとかなきゃ。

 

「ユニットに対する研究には協力しますが、今のこの格好の技術は渡せません。それも承知して下さるなら、こちらからはもう何もありません。そちらの指示に従います」

 

「わかったわ、どうせ、技術提供をしろと言っても、あのネウロイを一掃する力の説明を受けたところで、理解できずにお手上げで終わるでしょうしね」

 

 察しが良い。流石はタヌキなだけある。

 

「そうそう、早速で悪いんだけど、明日舞鶴港で貴方に対する感謝状を贈りたいの。その姿で来て頂戴」

 

「顔は隠しても?」

 

「駄目よ。世界が欲した救世主のが男で、しかも男性初のウィッチと言う事に意味があるのよ」

 

 政治的、世論的に果たしてどれ程の影響を与えるだろうか?

 

 少なくとも扶桑皇国はこれから連合軍に対して大きな発言権を得られるだろう。

 

 ただ、相手の言う事を聞くのも癪なので何かサプライズをしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連合軍、並びに扶桑国海軍上層部と新聞記者達が集まっていた。

 

 一応名目上は完成した新型ユニットの発表会となっているが、扶桑国海軍としてはここで連合軍が欲してやまなかったアンノウン戦闘機を味方にできた事をアピールする絶好の機会でもあった。

 

「北郷少将、わかってるね」

 

 扶桑軍上層部の一人が口を開く。

 

「わかってる。大丈夫だ」

 

 そして度肝を抜いてやる、そう心の中で呟き、今から皆の反応が楽しみで仕方なかった。

 

 進行は予定通り。

 

 これで終わりと言う時に、「感謝状、並びに階級授与を行います」と言う言葉が響き、扶桑国軍上層部以外は皆頭に?を浮かべた。

 

 その時、無線機やラジオから音楽が流れ始めた。

 

 その音楽に反応したのはカールスラント軍だった。

 

「これは、この歌は…、まさか…、まさか!」

 

 カールスラント軍上層部にはこの歌の録音したものが届いていた。

 

 アンノウン戦闘機が出現した時に国中で流れた歌だ。

 

 カールスラントの国民はこれを救世主の歌と言い、カールスラントの軍人は英雄の歌と言い、人々の心を掴んだ歌だ。 

 

 

 因みに民間のラジオの者がその歌を録音していて、四六時中流しており、その民間のラジオの人気はうなぎ登り。

 レコードが発売されることもこの短い期間に決定された。

 

 そんな歌が流れだしたカールスラント軍の上層部は慌てだす。

 

 他の人々も最初は何だと思って居たら、胸を強く突き動かされる歌に、息高昇していた。

 

 特に軍上層部の者は一部を除いて元ウィッチであった者たちの集まり。

 

 そうでない者達の心を高昇させたのだ。胸に響かない訳がない。

 

 そんな中、紅き救世主は現れる。

 

 アンノウン戦闘機が現れた事による連合軍側に混乱が起こる。

 

 そして、それが人型へと変形する。

 

 まずは、その圧倒的な存在感に言葉を失う。

 

 次にその顔の美貌に心奪われる。

 

 そこには、まるで物語から出て来たと言っても過言でない完成された美が存在した。

 

 その何時もと違った凛々しさに北郷少将は後20年若ければと言う気持ちが沸々と湧き上がって来ていた。

 

 左肩には扶桑国の国旗を模した刻印が、右肩には翼をモチーフにした造りの刻印が刻まれている。

 

 銃は腰にマウントされており、一度地面に足を付け、周りを少し見回した後、ゆっくりと北郷少将に向かって歩み始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局サプライズらしいサプライズ思いつかなかったから、所属する国を現す国旗を左肩に、右肩にはフェイスバッジを模した物を。

 

 フェイスマークは、本来議長に認められた者が身に着けられる議長直属の部隊所属の証なんだが、確か他にも「忠義」「忠誠」「信頼」とかそんな意味があったような気がする。

 

 最も、この世界においてこの意味を知るものは居ないが、自分への戒めとして、扶桑国軍に対する「敬意」として、北郷少将に対する無茶を通してくれた「関心」を現すものであった。

 

 後は何をサプライズとすれば良いか悩んだところ、セイバーが私に任せろとか言うから任せたら、俺がカールスラント防衛戦で歌った歌が流れているよ。

 

 しかも、俺の声で。

 

 めっちゃ恥ずかしいやん。

 ラクスとかこの何倍以上の人達の前で歌ってたんだよな。

 

 尊敬するわ~。流石はプロだなと思いながら周りを見ながら北郷少将を探す。

 

 あ、いたいた。

 

 あの、その熱のこもった熱い視線はなんでせうか?

 

 時々章香や美緒、第十二航空飛行隊の皆がそんな目で見て来ていたな。

 

 その後の獲物を狙うような目とか。

 

 

 北郷少将の目の前に来た。

 

 そうするとハッとした表情になった後、敬礼をして

 

「此度の貴官の働きに、扶桑並びに”連合国軍”を代表して最大限の敬意を示すものである」

 

 そう言って勲章の授与が行われた。

 

 これは、連合軍に対し、扶桑軍が、軍事作戦的発言権と、政治的発言権を手に入れた歴史的瞬間とも言えよう。

 おまけに世論も此方につく、更に言うと男と言うレア中のレアが救世主(自分で言うのも何だが)だったのだ。軍の人気取りとしても十分だろう。

 

「更にこのたび、扶桑皇国は貴官の受け入れ条件を飲み、貴官を扶桑皇国海軍中佐としての階級を授与する。貴官の働きにはこれからも期待している」

 

 何か後ろの方で「北郷少将でかした!」と言って帽子ぶん投げたり、抱き合ったりして叫んでいる扶桑海軍が居る。

 無理もないか。

 

 その後、我に返った記者達の前で握手する写真を取った後、うるさくなり始めた連合国軍を置いて、飛行してその場を去った。

 面倒事は御免だ。


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