慟哭の空 作:仙儒
美緒が茶碗持ったまま寝てる。
無論、反対の手には箸が握られている。良くその状態で眠れるよな。呆れて良いやら感心して良いやら。
行儀的には褒められたものでは無いが、それだけ疲れていると言う事だろう。
訓練するのは良い事だが、ここまですると、緊急時に使い物にならない、何て落ちにならないかね?
俺としてはそこが心配なんだが。
他のえ~と、陸軍の子達も美緒同様の姿でテーブルに突っ伏してるけど、皆、食おうと言う執念だけは立派と言うべきか、恐ろしいと言うべきか…。食べ物の恨みは怖いとは言った物だ。
テーブルに突っ伏している連中に毛布をかけてやる。
後で、目を覚ました時のために、握り飯でも作っといてやるか?
どうせ腹減って目を覚ますだろうし。
でも、どうせ、食うこと以外に楽しみが無いのだから、ご飯も温かいの作ってやった方が良いよな~。
冷めたご飯食う時ほど孤独を感じることは無いだろう。
こいつらの志気にも関わる。
……、電子レンジ作るか。そうすれば冷えた物を温めなおす事ができるし。
この時代の物でも電子レンジ位なら作れそうだしな。
幸い物作りはアスランの得意分野だ。
で、だ。
それにしても、何でこうなった?
数日前ネウロイが扶桑国近海で出現して以降、扶桑国も対ネウロイ戦特化の部隊を創ろう何て事になって、陸軍、海軍共に優秀なウィッチ達が数名集められたのだが、流石に訓練場所は違えど、合宿場として家を勝手に使わないでくれるかな?
確かに部屋は有り余っているけどさ。風呂場も広いけどさ。
それが理由で勝手に決めるのやめてくんない?
家、託児所もやってるし、海軍学校の士官生の面倒も見てやってるねんで?
いい加減、怒っても良い頃だと思うんだが……、おい、そこ! 金積めば良いってことじゃないから。
おかげで、舞鶴に集まっている連合軍のウィッチ達や上官の人達が家に押しかけて来そうになっているんだぞ。
しかも、連合軍側から見れば協力してやってんだからその位いいじゃないか、とか、わけのわからん言い分に弱腰でいる。お国柄と言うのもあるだろうが、戦場になっていない扶桑国はやはり発言力が弱い。
目的はアンノウン戦闘機を自軍に入れたいと言う物だけど、名目上は一応扶桑国に迫るネウロイの討伐協力のウィッチ隊派遣だ。
まぁ、その事を防いでくれただけでも良しとするか。
……、元々軍に入れられなければこんな目に合わなくてもよかった気がする。
ますます、ネウロイ殲滅に介入しずらくなった。
前々回のカールスラント防衛戦をして、少し、見張りが薄くなると思って居たんだが、段々と俺への監視が強くなっているような気がする。
章香の母親の
次からネウロイと戦う時には
これで、完全なアリバイができる。
本当は軍をやめてしまった方が楽なんだが、今やめると余計に監視の目が付けられそうだし。
扶桑国を含めた連合軍が慌てていた。
カールスラント軍がアンノウン戦闘機に接触成功したと言う電報を受けたからだ。
「カールスラント上層部によるとアンノウン戦闘機は人間で間違いないそうです」
「無論、我がカールスラント軍に入ってくれたんだよね?」
准将の椅子を用意させたんだし、と自慢げに胸を張るカールスラント軍最高司令官が言うが、報告に来た士官は言葉を濁した。
「…、交渉は決裂に終わっています。階級では無くワンマンアーミーのライセンスを要求しています」
「な、何!!准将がだめなら少将までなら私の権限で用意できる。それにワンマンアーミーとは何だ!!」
腕を組んで自慢げな態度でいたのが一転、愕然とした顔をして声を荒げて、席を立つ。
「言葉の通りです。たった一人の軍隊。階級は要らないから我を軍に入れたければライセンスをよこせと。アンノウン戦闘機の言うワンマンアーミーのライセンス権限は此方になっております」
そう言って報告書が連合軍上層部、並びに扶桑国軍上層部に配られ、それに食い入るように目を通す双方。
その中には北郷少将の姿も混じっていた。
やがて、上層部連中は顔を怒りで真っ赤に染め、
「こんなふざけた内容が通ると思って居るのか!」
話にならん、と息を切らして報告書を机に叩きつける。
そんな中に更に
「通らないのは承知で出している。だが、此方の言い分を飲んでくれる軍があれば、ネウロイ殲滅の名のもとに協力を惜しまないつもりである。ライセンスを許可して貰えるならば貴官らに優先しネウロイの排除を行うものとする、だそうです」
ぐうの音も出ない。
アンノウン戦闘機は政治的、世論的観点からも揺さぶりをかけて来ている。
かつて、ネウロイと戦い続けて来たが、後手後手に周り、勝利と呼べる勝利を収められず、局地的勝利により、何とかここまでつないできたが、侵略される速度を緩やかにすることしかできていない。
そこにアンノウン戦闘機は颯爽と現れて、連合軍が何とか維持していた戦況をたった一人で覆して見せたのだ。
正直、喉から手が出る程欲しい存在である。
が、軍としてこの了承はしかねる物である。今の軍としての在り方を覆してしまうことになるのだから。
幸い、アンノウン戦闘機はネウロイ殲滅と言う大義名分を掲げ、それを態度で示しているため、放置しておいても、ネウロイが現れれば勝手に介入し、殲滅してくれるだろう。
そんな奴にわざわざ高い階級と報酬を出すこともない。精々良い様に利用してやると言うのが落としどころだろう。
他の国も同意見なのか、無理を飲む必要はない。
「くくくっ、ハハハ、全く無茶な内容をよこしたものね、しかも階級は要らないと来た。強欲なのか、無欲だかわかりゃしない」
からからした笑い声が会議室に響く。
北郷少将だ。
何事だといぶかしむ視線が集まると北郷少将はいや、失礼と言うと今度は声を殺して笑い出した。
「まさかとは思うが条件を飲むつもりかね?」
「まさか、そんなつもりではない。ただ、華が無いと思っただけのこと」
その言葉に連合軍上層部が頭に?を浮かべる。
そう華が無いのだ。
「報告は以上かね? だったら、精々利用しようじゃありませんか、皆さん」
言葉の真意を読めない連合軍上層部はこれ以上いても意味もないと思い、それぞれが解散していく。
北郷少将は会議室に最後まで残り、誰も居なくなったところで、出されていたお茶を一気に飲み干す。
「軍令部に通達、アンノウン戦闘機は我が軍が貰い受けるわ、ライセンスの用意もお願い。責任一切を私が取ります。どれだけ速くできるかが勝負よ。通らない場合は軍をやめてやろうじゃない」
「しょ、北郷少将!」
慌てる部下を見て再びハハハ、と高笑いしだす。
「言ったでしょ今回は速さが勝負だと」
「しかし、相手との接触が無いと」
「大丈夫よ言ったでしょ? 女ばかりで華が無いと」
「は、はぁ」
さぁ、行きましょう。
北郷の女は噛みついたら離さないのよ?
北郷少将は既婚者(勝ち組)です。
婿と言うのは娘の章香の婿と言う意味です。
娘の章香がアスランに恋心を持っているのに気が付かないわけでは無いのです。
意地でも娘のためにアスランと章香をくっつけるつもりです。