慟哭の空   作:仙儒

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戦士の帰還

 ドイ…、カールスラントの軍令部、俺をどうしてもカールスラント軍人にしたかったらしく、しつこかった。

 

 結局、話としては准将の椅子を用意するから我が軍に入って、お願い! と泣きつかれた。階級もそうだけど、俺を軍に入れたいのならワンマンアーミーのライセンス用意しろと言って突っぱねた。

 

 この時代に置いて、ワンマンアーミーと言うのがどれだけ異例で破格な願いかはわかっているつもりだ。

 

 ワンマンアーミー…、詰まりたった一人の軍隊。軍に所属しているが、判断、行動は此方の好きな方向で勝手にできる。それが命令無視だとしても。大まかな命令方針にさえ逆らわなければ、許される。

 

 俺の場合、ネウロイ殲滅と言う大義名分に沿って居ればこちらの勝手で作戦の拒否、或は一人で作戦実行ができるのだ。

 

 一応カールスラント軍所属と言う肩書だけの自由人。幾ら現最高司令官でも、この申し出を今すぐに、はい良いですよとは言えない。それを見越しての俺の返事に言葉を詰まらせていた。

 

 それでも、そのライセンスさえよこせば、一応、表向きはカールスラント軍人となり、政治的、人類連合軍での発言権は強くなるし、世論を味方にできる。

 

 まぁ、プライドを選ぶか、それともプライドを捨ててチャンスを無駄にしないか…、答えはわかりきっている。

 

 カールスラントはプライドを取ると。元々階級さえ与えれば言う事を聞くと思うこと自体俺にとって不利益なのだ。

 

 金と名誉が欲しくてネウロイと戦っているわけでは無いのだ。俺は。

 

 この世界に呼ばれた意味を忘れてはいない。

 

 助けに来たのだ。

 

 それがどれほど孤独な戦いになろうと。

 どれ程人々に憎まれ、嫌われても、それでも戦うと、戦わなくちゃならない状況なのはわかっている。

 幸い、この世界は人間を撃つわけでも無く、撃つのはネウロイと言う未知の存在だ。

 ネウロイがどこから来て、どういう意思を持っているのか。

 ネウロイの殲滅か、或はネウロイとの和解か。

 

 そのどちらかが終わるまで俺はこの世界で戦い続けるだろう。例え数えきれない年月が過ぎようとも。俺の事を先生と呼んでいた少女が何百年と戦い続けていたように。

 

 俺の体は不老不死、戦いにおいて負けると言う事は存在しない。正に究極の戦士。

 

 どの世界も俺に求めるのは戦士なのだなと大きなため息を吐く。

 

 不老不死は肉体に限った話であって、精神までは護ってはくれない。

 何て残酷なのだろうか。

 

 しかも、使えるだけ使って事が済んだのならポイッ、だもんな。恐らくは。

 

(マスター、私だけはいついかなる状況下でもマスターの味方です。どんな手段を使ってでもマスターを御守りいたします)

 

 沈んだ顔をしていたのか、セイバーから声がかけられる。

 

 励ましてくれているのだろう。その言葉がありがたくもあり、痛かった。

 

 だが、これ以上悩んでいても出る答えではない。

 

 それよりも早く家に帰ろう。これ以上はまた怪しまれる。

 

 そう思いながら舞鶴の甘味処を後にする。

 どうでもいいが、貞操が本当に逆転してるんだな。

 街を歩いていると殆ど女性しかいなくて、一人で歩いている俺に周りの視線がもし、質量を持っていたら、間違いなく体中風穴だらけだなと思う程見られている。

 

 動物園のパンダとかこんな気持ちなのだろうか?

 

 家に帰ったらお手伝いさんが出迎えてくれた。

 甘味処から買って帰ってきた土産を差し出して、「休憩時間にでも他のお手伝いさんと食べてくれと」渡した。

 

 幾らお手伝いさんでも一日中働きづくめと言うのはよくないと思い、交代制で休憩や休みを取れるようにと徹底している。

 子供の居る者は剣道場に入ると言う名ばかり条件で、実質無償の託児所をやっている。そのためのお手伝いさんも雇っている。

 

 そんなこの時代にしては破格な条件でお手伝いさんを募集したため、男の主と言うのもあって、競争率が高く、お手伝い長さんが頭を抱えていたりするのはまた別の話だ。

 

「海軍の北郷様が来ております、他にも軍関係者が何人か」

 

「そうか、人数分の夕食の用意をお願いします」

 

 そう言うと苦笑いしながらもうできています。そう返って来て申し訳ないと頭を下げる。

 

「頭をお上げくださいご主人様。此方こそこんな形でしか恩返しができないですから」

 

 恩返し? 何の事だ? と思いながら首を傾げる。

 

「あ、お兄ちゃん帰って来たんだ! 何処に行ってたの?」

 

 ぞろぞろと小さな女の子たちがまとわりついてくる。

 

「ちょっと街までな」

 

 そうすると「ずるい」とか、「お土産は?」 何て言ってくる子供たちの期待の目に苦笑いしながら「すまない」と言うと「えーっ」とブーイングの声が返って来る。

 

 それどころじゃなかったんで、勘弁してくれないかな? 何て思ってるとお手伝いさんが優しく声をかける。

 

「こら、ご主人様を困らせないの」

 

 そうすると、目に見えて落ち込んでしまう子供達。この顔に弱いな~。

 

「そうだ、おやつの時間に外国の美味しいお菓子が手に入ったんだ。それで勘弁してくれないか?」

 

 そうすると、一瞬で女の子たちが笑顔になる。

 

「もう、ご主人様は子供達に甘いんですから」

 

 甘い分、厳しくもあるつもりなんだけどななんて思いながら「じゃあ、お兄さん仕事があるから」と言って章香達の居るであろう居間に向かう。

 

「失礼します。本郷少佐、わざわざ家に何の様でしょうか?」

 

 そう居間に入り敬礼しながら問う。

 

「別にアスランの家なんだから気を使うことないぞ、それに少佐殿はやめてくれ、いつも通り、章香と呼んでくれ」

 

「そう言われましても軍紀であります北郷少佐」

 

 敬礼をしたまま、そう告げる。一応扶桑国海軍少尉の肩書を持っている以上、章香は上官に当たるため、失礼な態度は取れない。

 

「じゃあ命令だ、普段通り接しろ」

 

 ……、そうきたか。ハイネの事を思い出す。あいつも階級による縛りが嫌いな人物だったな、と。

 

「……、だったら、勝手に、しかも騙すように軍に入れるのやめて貰えないか」

 

 そう呆れながら言うと

 

「母様が勝手にやったことだ、私だって知らなかったんだ!」

 

 そう必死に弁明している姿に、本当に知らなかったのだなと思いながら他に海軍の軍服を着た人物がいるが、章香の母親でも親族でも無ければ、階級は俺よりも下の子だ。

 立ち上がり、直立不動で敬礼している姿に流石にいたたまれなさを感じた。

 

「敬礼をやめてくれ、俺は宣伝塔として担がれた身だ。君が気を遣う程優れた人間ではないよ」

 

 その後章香と同じ流れの会話をし、命令で普通に接するように言った所、

 

「ハハハ、流石は私の旦那だな」

 

 そう言いだした章香に再び、

 

「結婚した覚えはない」

 

 そう返すのであった。


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