慟哭の空   作:仙儒

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紅き英雄

「此方ウィッチ隊、本部応答願います! 残弾なし、負傷者増加中、これ以上戦線を維持できません! 撤退命令を!」

 

「撤退許可はできない。まだ市民の非難が完了していない。前線維持に努めろ」

 

 

 何処の国も終わりの見えない戦いで疲弊しきっていた。

 

 カールスラントもネウロイと言う人類の理解を超えた未知の力で次々に蹂躙されている。

 

 国土は破壊され、その四分の三をネウロイに奪われていた。

 

 今ウィッチ隊が戦っているのが最終防衛ラインだ。

 

 軍司令部にはさっきから同じ内容の通信による前線のウィッチ隊の悲鳴混じりの声と司令部内での怒号のやり取りが続いている。

 

「第三ウィッチ中隊壊滅、ネウロイ、絶対防衛戦を突破!」

 

「っくぅ!」

 

 最高司令官が唇を強く噛む。

 

 そこからは血が流れている。

 

「!!!緊急伝受信。読み上げます。此方セイバー、我、戦闘ニ参加ス! 繰り返します! 此方セイバー、我、戦闘ニ参加ス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空に幾つもの閃光が走り、その全てが複数のネウロイを捕えて撃破する。

 

「何事だ!」

 

「わかりません!」

 

 そうすると先程まで前線に居たウィッチ隊に向けられていた攻撃が一斉に閃光が来た場所に集中する。

 

「なんだ! ネウロイ(奴ら)でも恐れる何かが来たのか!」

 

 ふと、思い出した戦場伝説。ガリアの戦場を絶望から救った赤羽のアンノウン戦闘機の噂。

 

「ま、まさか……」

 

 そこには噂と変わらない、アンノウン戦闘機が凄まじい速度接近し、でネウロイの第一陣を吹き飛ばした。

 

 そこで信じられない光景を目撃する。

 

 アンノウン戦闘機が変形したのだ。人型に。

 

 唖然としている中、その人型が接近してくる。もう弾の入っていない銃を構える。

 

 それにも動じずに居る人型、否顔は黒い仮面のような物で隠れているが、間違いなく人間であった。

 

 銃を持っている手が震える。ニンゲンを撃てない。でもアンノウンだ。

 

 距離があっという間に縮まっていた。

 

 相手は持っていた銃らしきものを腰にマウントした状態だ。

 

 此方に向いた手が光ると緑色の風が私に向かって吹いてくる。

 

 避ける暇すらなく緑色の風に当たると、まるで母親に優しく包まれたかのような感覚と共に魔法力が戻る。

 体が軽くなり怪我も治っている。

 

「君が、君達が願った物がなくなるって思った。だから護るよ…それが俺達の戦いだから」

 

 優しく、小さい子に言い聞かすような声音でそう言うと、また戦闘機に変形し凄まじい速度で移動しながら前線を立て直していく。

 

「バルクホルン、大丈夫か!」

 

「はい、私は。それよりも今はウィッチ隊の体制を立て直してください。私は本部に連絡を」

 

「わかった、任せるわ」

 

 そう言って飛んで行く上官のウィッチ。

 

 そう言いながらさっきの人物が飛んで行った所を確認する。恐ろしいスピードでネウロイを片っ端から片付けていく。

 

 

「本部応答を願います、本部応答を。赤羽のアンノウン戦闘機介入、現在ネウロイと交戦、前線を押し上げてます」

 

「何!ではやはり……、動けるウィッチは皆アンノウン戦闘機に接触を試みよ。間違っても攻撃はするな! 全軍に徹底し…い…い」

 

「本部!応答を!……、これは歌?」

 

 ノイズが酷く、本部との通信が切れたと思ったら聞こえて来たのは、確かに歌だった。

 あれは幻では無く、あのアンノウン戦闘機は間違いなく人間であったことを証明していた。

 

 その歌は戦意を高昇させる。なくしていた戦意を呼び戻す。ウィッチ達に訴えかけている。

 飛べと、声を高らかに進めと。限りない戦いに、俺が(希望)に成ると。

 

 戦場を離れていた者たちが立ち上がる。

 

 そして空を目指す。

 

 何時かなんてない、今を生きているのだろう?そう問いかけて来る。

 

 そうだ、まだ、生きている。ネウロイなんぞにこの国は、家族が居、家族が、自分が愛したこの(場所)をくれてなんぞやるものか!

 

 そうだ!、それが私の生きる意味であり、役割だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドイツでネウロイ戦か」

 

 この世界には転移魔法が存在しない。

 

 そのため、ちょっと出かけて来ると言って家を後にした。

 

 これで2,3時間で戻れば少し長いがドイツから扶桑国に往復で現れるのは事実上不可能なのでアンノウン戦闘機と俺との関係は皆無だと証明できる。

 

 転移魔法様々だな。

 

(訂正を、この世界ではドイツでは無くカールスラントです)

 

 成る程。カール叔父さんのふるさとか。首都はおらが村で決定だな。

 

 何て馬鹿な事を考えるのはお終いだ。

 

 無線を傍受して、流石におふざけをしている場合ではないと分かった。

 

「セイバー、現場はどうなっている? ウィッチ隊や地上防衛隊は?」

 

(7割が壊滅、絶対防衛線突破されました)

 

 7割壊滅とか、大敗北とかレベルじゃない。

 最早軍としての組織立った行動は不可能だ。

 

 前線のウィッチ隊にも撤退許さずとか、死ねと言っているのと同じだぞ。

 

 しかも、前線に補給物資が届いてないとか…、ああ、くそ、この世界の今の戦線を支えているのは若き平均20歳に満たない少女達だ。

 

 ああ、前の世界の魔女の事とインキュベーターの事を思い出した。胸糞目覚め悪いじゃないか!

 

「セイバー! 今回の軍の指揮してる場所は?」

 

(既に把握しています。…、よろしいのですか?こんなことしては…、)

 

「既に人間の意志を理解してることはばれている。だったら明確にネウロイでは無く、ネウロイに敵対する”人間”だと分からせた方が後々厄介が少ない。少なくとも無暗に攻撃されることは減るだろう」

 

 それに、男だとばらすわけでは無い。

 

(わかりました。送信します)

 

「すまないな、セイバー」

 

 さて介入しますか。まずは前線を押し上げ、ウィッチ隊の安全を図る。

 

 敵と接触する前に先制攻撃で数を減らし、絶対防衛線を回復させる。

 

 さて、始めようか!

 

 MA-BAR70 高エネルギービームライフルにM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲、MA-7B スーパーフォルティスビーム砲と連射性能を重視している全ての砲門が火を噴く。

 

 フリーダムみたいにできないのがちょっと難関だが、アスランの技量はそれをカバーして有り余る。

 

 特にMA-7B スーパーフォルティスビーム砲は連射性能を重視しているため、ターゲットに当てると言うよりは、それを避けさせて主砲であるMA-BAR70 高エネルギービームライフルにM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲で止めを刺すと言うえげつない方法を戦法とするが、アスランはそれすら別々の的のど真ん中に命中させる。

 

 アニメでもそうだったしね。

 

 コアを破壊されて消え去る時だけやけに綺麗な演出なんだよな。

 

 っと、あの前線に居る子供、ボロボロじゃないか。

 

 幸い先制攻撃の連射攻撃でここいらの敵は粗方片付いた。

 

 戦闘機から人型のMSモードになる。

 

 戦場であえて変形することで人間アピールをする。

 

 無論、顔は真黒なバイザーで隠しているが手やなんかは出てる。

 

 こっちの姿は相手には騎士甲冑のように映るだろう。

 

 敵意を見せずに人としてコミュニケーションを取ることができることを示すために誰かウィッチ隊の誰かと接触する予定だったが、丁度いい。

 

 セイバーに治療魔法をかけるように頼むが、相手が震えながら、銃口を此方に向けているのが気に食わなかったのか、最初は拒否して来た。

 

 弾は入っていないのをセイバーが解析していないはずがない。

 

 もし入っていたとしてもVPS事、ヴァリアブルフェイズシフト装甲を抜くことは叶わない。

 この世界にはこの装甲を抜き得る物は存在しない。まぁ、それに胡坐書いて慢心はしないけど。

 

 最終的に俺の頼むの真剣なお願いにセイバーが折れて回復魔法をかけてくれた。

 

 ついでに魔力も分け与える。魔法体系こそ違うが使うのは同じ魔力なのだ。

 その辺の解析もセイバーが章香くを通して確認してくれていた。理論的には何の問題もない。

 

 此処で俺の戦う理由を話しておく。どんな事があってもまた平和を取り戻す。それこそが俺がこの世界に呼ばれた理由だと思うから。

 

 そう言えばファフナーでも似たようなシーンあったな。再びマークザインに乗った一騎が真矢に祝福を告げるシーン。

 

 流石にこれが俺の祝福だ(キラーン☆ 何て言わないけど。

 

 不謹慎なのは重々承知だが思い出したからにはあれを歌わないといけないだろう。

 

 と言うか、歌いたい。こっちにはカラオケないし、前の世界にはあったけど、俺の好きな歌の殆どが存在しなかったからな。

 

 それに、歌ってても最前線を一人で片付けるわけだから、誰にも聞かれないだろう。

 

 

 

 思いっきり歌って居る歌がセイバーによりオープンチャンネルで軍司令部やウィッチ隊、果てにはラジオもジャックして流されてるとも知らないで……、


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