慟哭の空 作:仙儒
セイバーからの報告後、数日後には連合国軍と思われる艦船が次々に舞鶴港へと集結しつつある。
これから飛行して行くのは慎重にならざる終えないか…。
一度ここを留守にするか? 連中もまさかアンノウン戦闘機が男だとは思うまい。
多少強引だが、この世界には魔法を使える男と言うのが存在しないので、怪しまれることはあるかもしれないが、重要参考人になる可能性は低い。
後はどう言い訳をしてここを留守にするかだ。章香も美緒も感が良いので、下手な事を言うと嘘だとばれる可能性が高い。
特に章香には俺が介入した戦闘場とネウロイの扶桑進行ルートの予想が記された世界地図を見られているからな。下手に言い訳をしたり焦ったりすれば感づかれるので、それ以来見られた地図は燃やして処分した。
幸いなことに、扶桑国に連合の情報が入っていなかったからなのか、それとも別の理由だかは知らないが、章香から強く追及されることは無かった。
で、だ。
何で外国の士官やウィッチ達が俺の家に集合しているのかね?
確かに軍学校としての敷地使用に対する許可は出したよ?
でもさ、限度ってものがあるじゃん。
あまつさえ、軍の会議を俺の家でやるとか頭が可笑しすぎる。
しかも、「内容漏れたら貴方のせいね、処罰しなければならないわ」と舌なめずりしながら股間辺りをじろじろ見て「フフフ」とか言われた時はマジで冷や汗が止まらなかった。
他にも俺自身扶桑国人では無いために、「我が軍にどうだね? 階級と報酬は要相談だ、何、悪いようにはしないさ」と勧誘されたのも一度や二度ではない。
その原因が俺が承知したわけでも無いのに、軍の育成官として勝手に軍属の扱いになっていたのだ。しかも、階級少尉とか頭が可笑しいとかそんなの吹っ飛ばしてる。
精々あって軍曹辺りだろう、そう思ったが、そもそも根本が可笑しい。
何でそんなんなってんだ! と問い詰めたところ、ちゃんとサインと了承を得ているとか抜かしたから、どこにそんな物があるんだよと言ったら家を使わせる時の許可証の紙を出された。
確かにそんなのあってサインしたっけ? と思ったらピラリと裏面に軍属となる事、それに伴い、階級を授与することが書かれていた。
しまった。章香の親族に嵌められた。これでは流石に撤回はできない。
俺の不注意によるもの扱いだし、これ書いてからだいぶ時間たっちゃってるし!
何でこんなことになったのかと言うと想像がつく。宣伝とうだ。
常に人手不足な軍が人材を集めたくて軍に男が居る事で、憧れを誘導し、志願者を集っていたのだ。ぶん殴って豚箱に入るのならいいが、殴った場合、俺の貞操が危うい。
想像してほしい。若いかわいい子達ならウェルカムだが、軍のお偉いさんとなるとオバサンばっかだ。しかも、元ウィッチで最前線でネウロイと戦っていた猛者ばかり。
危険な場所に居た分性欲は、子孫を残そうという欲は何倍にも膨れ上がっている者ばかり。しかも、婚期と引き換えに第一次ネウロイ対戦を生き抜いた人達だ。
おれ、虎やライオンの檻の中に居たんだな。
一応世界共通で男を保護する対象で軍人であれ男に勝手に手を出したら軍法会議という事が無ければどうなっていた事か。
それでも破るウィッチや軍上層部の連中(未婚者)が後を絶たないのだとか。
今セクハラを受けていないだけ幸運と呼ぶべきなのだろう。
「彼は立派な扶桑国軍人なのだから他国に易々と渡す訳にはいかないわ」
「しかし、彼は扶桑国人ではないではないか。それにさっきのやり取りを見ると騙したとも取れるではないか。それに我々の方が良い席と金を支払えるぞ?」
今回わざわざ、扶桑国まで出向いた本題を忘れてアスラン・ザラの取り合いへと話がすり替わっている。
とは言え、それで良かったと内心胸を撫で下ろしている。
本来彼を軍に入れたのは彼の監視のためだ。
彼が用意した経歴書を確認したがおかしな点は無かった。そう、不自然すぎる程に無かったのだ。
それにウィッチ派遣計画の元凶となったアンノウン戦闘機の出現と彼の扶桑の地に出現しているのが一致している。
理由としては二つある。娘の章香との剣術勝負と娘の証言だ。
立ち会ったからわかる。あれは最前線と言う鉄火場を踏んだ者が出す雰囲気だった。二つ目に、軍のトップシークレットであるアンノウン戦闘機とネウロイとの戦闘を示した地図と同じ物を章香が彼の家、つまり此処で見たと言うのだ。
更に、その地図には今回の扶桑国の危機と言える物のネウロイが出てきている大元と思われる場所の大まかな予想位置まで書き込まれていたのだと言う。
間違いなく彼はアンノウン戦闘機と接点があると見て、首輪を付けさせて貰ったのだ。そうじゃなくても宣伝塔としての効果は大きいし、教官としての腕前は上場だと聞いているし、作戦指揮官としての能力も大だ。
それは章香との手合わせの時に章香にアドバイスしながら戦った事にある。
最も、殆ど歌を歌って戦っていただけだが、悪い意味でも、良い意味でも、戦意を掻き立てるような歌。おかげで最後の方なんか章香純粋に剣戟の応酬を楽しんでいたし。
取り敢えず、どちらにしろ手強いカードになる。
もしかすると、もしかするかも知れない。
……、やべぇよ・・・やべぇよ・・・。
ほぼ確信に近い考えが読めたよ。
会議の中、部屋から出て透明になる魔法使って章香の母親の頭の中をちょいと査察させてもらって、びっくりだよ。
余り女性に使うのは気が引けたが、使って正解だった。
まさか、この世界の常識が覆るような事があり得ると、しかも、半ば確信してるし。
あの階級は首輪でもあったのか。ならば、納得。
いや、いきなりこんな高い階級なのはおかしいと思ったんだよ。
それがきっかけで査察する決心がついたんだけど、何度も言うがやってよかった。
俺の存在を半ば確信しているからこその扶桑国海軍軍人。これでしっぽがつかめれば海軍がでかい顔をできる上に、俺の所属する国と言う事で、人類連合軍並びに政治的発言力がかなり大きくなるからな。
それに対してある程度高い階級を与え、俺の正体がわかったら、更に上の階級をよこして俺をキープする。
その功績により章香の母親の階級も昇進するだろう。
それにより自身がより強い発言力と権力を得る。
別に章香の母親は昇進による権力と発言力を得る欲のためにそうしたわけでは無い事は査察中に読み取れたし、性格上からもない。
ただ、昇進してやりたいことは、娘の婿になる俺をある程度自由にさせるためだ。
章香の婿にまだしようとしてたのね…、まぁ、なる気は無いけど。
彼女に対して、否、他の女性に対してもだが、俺以外の男と言うのを知らないだけだ。それを恋心と思い違いをしているだけ。
世間を知らないだけだ。
まだまだ、恋愛結婚よりも、お見合い結婚が主流の時代だ。親が言ったから彼女も俺の事を旦那と言っているだけだろうしな。
そこには彼女の思いは無い。他意もない。
あるのはこの人と結婚すると言う決意と使命感だけだ。
さて、話を戻そう。家を留守にするのは最早自分が世界で暴れまわっているアンノウン戦闘機だと言っているような物だ。
今後、上手く立ち回るにはどうしたら良いか…、今一度考える必要がありそうだ。
章香の母親が内心で胸を撫で下ろしたのは、話の主導権を握りたかったのと、アスランが連合軍が血眼になって探しているアンノウン戦闘機と彼が関係ある可能性が漏れていない事に安堵したから。