慟哭の空   作:仙儒

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事後処理

 スエズ運河攻略戦、或は、奪還戦は異例のスピードで進み、四、五ヶ月かかると思われていた作戦だが、一ヶ月とちょっとと言う異例の速さでスエズ運河の制海権と制空権が、完全に確保された。

 

 その中には501部隊を含めたウィッチ達の功績もさることながら、ある艦隊もその功績を新兵器と一緒に世界へとその名を轟かせた。

 艦隊は扶桑が誇る紅き鬼神、ザラ少将率いるザラ艦隊であった。

 

 その新型魔道徹甲弾と、魔道三式弾の効き目は抜群。

 

 世界は新型兵器の効き目に目を奪われた。

 

 そして、

 

 アスランの懸念していた反ウィッチ派が大きく勢いづく結果に落ち着いてしまう。

 不幸中の幸いは、前線のウィッチ達にこのことが公になっていないことだ。

 

 取り敢えず、特許は扶桑に在り、その製造法は北郷長官の手にある。いずれ、世界にばれようとも、それなりの打つ手を設ける時間は稼げるだろう。

 

 反ウィッチ派も馬鹿ではない。いきなり行動に移すのではなく、真綿で首を締めるように、少しづつ、戦場からウィッチ達を減らしていく方向で、ウィッチ達に集中しつつある権力をそぎ落としていくだろう。

 

 そんな中、アスランはトレヴァー・マロニーの足跡を追っていた。

 

 腐ってもブリタニア空軍大将。打つ手なく行動するとは思えなかったからだ。そんな人物が艦隊に忍び込んでウィッチ達で構成された囮部隊を狙ったり、直接爆弾で吹き飛ばそうとしたりするとは思えない。

 つまり、ネウロイに対する抵抗手段を手にしている、或はそれを、そう遠くないうちに手にする算段があることを示していた。

 

 アスランからの報告書に目を通していた北郷長官は深い溜息をはく。一体一度の戦闘で武功だけでなく、これほどまでの情報を持って来れるんだと。

 書類の中には、扶桑海軍の反ウィッチ派の暗躍リストと証拠がずらりと並んでいる。到底言い逃れできる物では無い。失脚させるには十分すぎる物だった。

 

 扶桑事変の時もハプニングこそあって、おじゃんになったウィッチごと砲撃によりネウロイを倒すという計画があったと、娘の章香から聞いている。その計画もアスランにより阻まれていることも。

 その事に対しては感謝してもし足りない。速く章香とくっつかないかしら? 章香も章香で何をやっているんだか…普段は豪快な性格の癖に奥手と言うか、初心というか。あれは誰に似たのかしら?

 

 頭が良く、性格も極めて良好。誰にでも分け隔てなく接する、女が思う理想が具現化して歩いているような存在。私が後30年若かったら、絶対に離しはしないと言うのに。

 

 しかし、アスランも人の子、っというわけだ。頭は良いが専門家ではない。特に、政治面に関して、と言うよりも自分自身に対する評価がとても低い。もう少し、自分がどれだけの価値を持っているのかを理解してほしいところなのだが…、無理だろうな。変な所で頭が固いし。

 まぁ、それが彼の魅力の一つなのも承知しているが。

 

 そんなわけで、政治面に関しては私を通して行動するように彼はしている。

 

 それと、毎度のことだが、昇進命令蹴っ飛ばして帰っていった。そんなに、カールスラントは居心地が良いのかね? 彼から裏切ることは無いと頭では理解していてもやはり、心配は心配だ。他国もあの手この手を使って彼を手に入れようと必死だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰って来て早々に大本営からラヴコール。今回の出来事を北郷長官に報告するために報告書とは別に資料を作成した。反ウィッチ派が勢いづいてひと悶着あるかと思ったが、目につく限り、そう言ったもめごとはないらしい。

 予想はしていたけど、今回の武功で昇進命令が下りて来た。これで何回目だろうか? 10回を超えてから数えるのを止めたから正確な数字はわからない。こちとら万年少将だよ。って言うか、まだ俺を縛り付けたいかね?

 反ウィッチ派の勢いづいた中では、俺を昇進させることは、そろそろリスクの方がでかい気がする。

 それはそうと、作戦が終わり、乗組員総員の休暇を勝ち取って、俺も京都によって、ガランドと章香の着物買ってから我が家へと本当に久々に帰って来た。

 玄関からチャイムをならし、家へ入る。久々の家の中は埃一つ落ちてなく、こまめに手入れされているのが伺えた。

 

「はいはい、どちらさ…、旦那様!」

 

 驚きの声をあげる家政婦長さん。

 その驚きの声に釣られてちびっ子たちがわらわらと寄って来る。あっと言う間に人間アスレチックの出来上がり。流石に知っている子はもういないけど…、俺が長期間放置している間もちゃんと機能しているのが伺えた。

 

「お帰りになられるなら、そうと連絡してくださればお出迎えいたしましたのに」

 

「急に決まったことですから…」

 

 連絡入れるって言っても、この世界まだ、電話が普及してないから必然的に手紙でのやり取りだけに限定される。そうすると、必然的にニ、三日のタイムラグがしょうじる。転移魔法か、空を飛ぶ移動法を使った方が速いのだ。電話があるのは学校か、軍か、交番か、郵便局か、富裕層のごく一部だけだからな。

 家にも電話つけるか。

 そう考えているうちにもちびっ子たちは俺にまとわりつきながら「このおにいちゃんだれ?」とか、「おとこのひとだ~」とか言っている。うん、予想はできてたけど、男の子は一人もいない。全員女の子だ。

 やっぱり、男の子は家で大事に育てられるのかね。それにしても、パワフルである。少し…、いや、かなり痛い。無理やり登らないで、軍服破けちゃうから。

 

「こ~ら、旦那様から離れなさい。旦那様が困っているでしょ」

 

 このやり取りも久しぶりだ。この後、しょんぼりしちゃうんだよな、子供達。しかし、そこまでは読めていた俺は美味いと評判の店で甘味を大量購入して来た。今回は洋菓子では無く、和菓子だが。

 

 案の定予想通りにしょんぼりして俺から離れる子供達。

 

「…、お土産があるんだ。美味しいお菓子が手に入った。みんなで食べなさい」

 

 そう言うとわ~! とさっきの空気が嘘のようにまた、騒がしくなる。

 

「相変わらず、子供達に甘いんですから、旦那様は」

 

 ふ、そうかもしれない。

 だが、

 

「俺は世間では英雄と呼ばれているらしい。俺はそうは思っていないんだが…、だが、英雄と言われるからには、未来に生きる子供達は誰であれ、英雄にとっては宝だ。少なくとも、俺はこの子達と言う未来のために戦ってきた」

 

 そして、その戦いはこれからも…。まぁ、正確にはこの世界のためなのだが、未来を担う者無くして未来は来ない。ならばそれもまたこの世界のためだろう。

 施しの英雄の言葉が自然と出た。辿り着いた答えが同じだったことに少し驚いたが、彼となら馬が合うのかも知れない。

 

「そうですか。そうだったんですね。旦那様の志は立派だと思います」

 

 家政婦長さんが若干涙目でいるが、目に埃でも入ったのだろうか?

 

 今思った。流石にクサイセリフ過ぎただろうか? 恥ずかしさから俺はどんどんと家の中へ入って行く。

 家政婦長さんが何か言っているが元々俺の家なので気にしなくていいだろう。

 

 俺の部屋に入り、人払いの結界を部屋に張ると、空中にウィンドが開く。

 

 映り出すのはブリタニアのとある研究所の光景。エリアサーチでトレヴァー・マロニーをずーっとつけていたのだ。このおばさん、中々尻尾を出さなかったので苦労した。部下にも場所を教えてないとか用意周到すぎだろ。いや、まぁ、これくらいしなきゃいけないんだろうけどさ。ばれないために。

 

 そこには、ネウロイのあらゆるデータが収集されていた。コアの事とか、ネウロイの仕組みとか。どれもこれも、ジャスティスが知っているものなので、余り新しい発見は無かったが、ジャスティス(チートデバイス)なしでここまで辿り着けたことに関心、反面、どれだけのウィッチがデータのために消費されたのかが気がかりだった。こいつら反ウィッチ派のくせに、データなどはウィッチのを普通に使うからな。

 

 しかし、こいつらが必死こいて集めたデータを約20年前には全て持ってるジャスティスは一体何者なんだ? 少なくともこの世界に一緒に来たはずだよね? なぞは深まるばかりである。


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