慟哭の空 作:仙儒
セイバーから緊急伝が入った。
何でも戦場を渡り歩いていたせいか、人類連合軍が人類側に味方してくれないかと、交渉するために扶桑国にウィッチ達が集う事が決定した。
俺の居場所がバレたわけでは無いが、目の付け所は良い。
だが、交渉については余り思わしくない。
此方にどんな利があり、どのような不利益があるかわからない。
それに利益についてはどうせ階級だろう。この場合ネウロイに対抗できる武器を提供したところで、或はネウロイとの戦争が終わった後に暗殺、悲劇の英雄にでもする可能性が高い。特にネウロイと言う脅威が去った後は人類の脅威になりかねない。人類VS俺と言う構造しか思いつかない。
まぁ、毒殺、暗殺共に叶わない身だが。この身は既に時間と言う概念からの干渉がなされていない。死ぬ、と言う一種の時間停止行為が許されないのだ。
ネウロイとの戦闘がすべて終了すれば、この世界からはじき出される可能性が高いから人類VS俺までには発展しないか。
となると、やっぱり技術協力が問題だ。俺の知る粒子理論、魔法体系の違い、単純なる技術の基礎の土台的な壁。
此方は既に宇宙に進出しているだけの技術があるが、此方は人工衛星すらない状態。
ネット環境すらないし、レーダーの類も無い。どちらにしろ理解されるのも、実行されるのも時間がかかりすぎる。
それに、そんな予算を此方に回すよりも、一つでも兵器を作る方が建設的だ。
それらを総合的に考えると、やっぱり対話に応じずに孤高で戦った方が気楽なんだが。
最大の理由は自分が男であることが理由だが。この世界、男は魔法使えないんだよな~。
だが、いずれにせよ此方が知能を持っているという事は理解されているし、戦闘機型モビルアーマーから人型になれるのは見せたほうが良いかも知れない。
ある程度人類側に理解されて、かつ、自由にできるご都合主義的な事になんないかね?
まぁ、今までの戦闘で悪意には悪意で返すことは示したつもりだし、後はなるようにしかならないか。
北郷章香は連合からウィッチ達が派遣されるという破格の条件の記された電報を読み、可笑しく思い、調べてみれば、協力とは名ばかりの内容に少々、否、かなり内心良い心地では無かった。
「師匠でもそんな顔するんですね」
眼鏡をかけた坂本美緒が心配そうな顔でそう口にする。
「ハハハ、私とて人間だからな、思う所があればこうもなるさ」
何時ものようにからからと笑いかけて安心させようとするが、美緒の顔は晴れない。
いかんな、そう思いながら、どうしたものかと考えるが、答えはすでに出ていた。
アスランの所に行こうと。
章香の中では、短い付き合いだが、それ程にアスランの存在と言うのは大きくなっていた。
はっきり言おう、一目惚れだ。
この世界では男と言うのは傲慢で我儘で理屈バカばかりだ。
女に対して険悪感を隠そうともしない。
だが、アスランは違った。女だからと言って邪険にしない。視野も広く軍学校の生徒たちの事も真剣に考えて、相談に乗ったりもしている。
男は国に守られているが、それに胡坐をかかずに居る。
何よりもあの剣術。どの剣術にも該当しない我流の剣術だが免許皆伝で二刀流になった私を止めうる人物などいなかった。
だが、アスランはそんな私の全力を軽くいなして見せた。手は抜いていないが、本気では無かった。
それが悔しくなかった、と言ったら噓になる。だが、それについて見下すわけでも引くわけでも驕ることもなく、真っ直ぐに此方を見ていた瞳に惹かれた。
とにかく、接していて清々しさすら感じる男、否、漢だ。
そんな女の理想が形になったような男は世界広しと言えど二人と存在しないだろう。
アスランの事を考えるとどうも私の中の女がうずいてしまう。
今までのアスランへの不意打ちは実のところ照れ隠しが理由だったりする。
それでも、呆れながらも付き合ってくれるアスランが好きだ。