慟哭の空 作:仙儒
501部隊から芳佳とリネット・ビショップ曹長が合流。
作戦会議に参加している。
最も今回この二人は本格的な作戦には初参加。特にビショップの方は訓練では非常に優秀な成績を残していると美緒から聞いている。
だが、実戦では本来の力を発揮できずに、戦闘では役立たず。
そこで、俺は考えた。本番と訓練で何が違うのかを。美緒の話では実戦の空気そのものに気圧されている様子はないと言っていた。
彼女は今も暗い顔をしている。
可哀想に。
だが、問題の解決策は見つけている。
「芳佳、お前はビショップ曹長の土台になれ。ビショップは芳佳に指示出しだけをしろ、後は射撃に集中。危なくなってら芳佳がシールドで護るから気にするな」
その言葉にビショップは驚きの声を上げ、芳佳には出来るか? っと問いかけたところ、「守る為なら撃てます」と力強い返事が返って来た。
頼もしい限りだ。だが、今回は芳佳は撃つ必要はない。土台として動き、文字通り護ればいいだけだ。
動きながら撃てないビショップと、動けるが撃て(撃つ覚悟が)無い芳佳。良いコンビかも知れない。
最初、芳佳とビショップをよこせと言った時、501から当然のことだが、ブーイングが来た。新人二人よりも私達を使えとバルクホルンと美緒が最後まで駄々をこねていた。
あんまりにも五月蠅いんで、マルセイユと陽動をかけるアフリカ方面軍に協力させることにした。
今頃、仲良くやっていることだろう。
さて、始まりの合図を出しますかね…、
「これより本艦は作戦行動に入る。今作戦は全員の生還を持って作戦の成功とする!」
通信の向こうからウオー! と言う雄たけびが響く。
それと同時に旗艦長門にZ旗と旭日旗が掲げられる。
扶桑の国旗は旭日旗に似ているがデザインが違うから態々特注で作らせたものだ。
アレンジも加えて日の丸部分に「天照」と書いてある。
「世界のビッグセブンの力を見せつけるぞ! 砲撃、撃ちー方始め!!」
余談ではあるが、この時点では長門には世界のビッグセブンと言う異名は付いていない。このスエズ運河攻略戦を期に、「夜明けの艦隊」「無敵艦隊」「世界のビッグセブン」と広く世界に名を轟かせることになるのだが、アスランは知らない。
作戦開始時間が押している時点で現場が慌てている。
そこに、地響きがする。
的確にネウロイがはびこっている部分だけが消し飛んでいく。
「どこからの攻撃だ!」
「あれは……、バトルシップ! 旗は…、扶桑皇国です!」
魔眼使いのウィッチが声をあげる。
この作戦に参加する扶桑の艦隊は一つしかない。紅き鬼神の艦隊、ザラ艦隊だ。
あの距離からの正確な艦砲射撃…、いや、これは最早艦砲狙撃だ。紅き鬼神の艦隊はでたらめだ! そう、心の中で叫ぶ。
艦砲狙撃を目の当たりにした、作戦指揮官は艦砲射撃とは何だったのかについて考えるのをやめて、戦車隊、ウィッチ隊に指示を出す。
ネウロイをあらかた消し飛ばすと砲撃が止んだ。
海岸沿いを占拠していたネウロイは作戦開始前にその全てが砲撃の雨と轟音の中に姿を消した。
「司令、ザラ艦隊から入電です。我、戦闘ニ参加ス。各部隊ハ作戦行動ニ従順サレタシ…、だそうです。」
さっきまでの光景に冷や汗を流しつつ、司令官の女は口元を吊り上げる。
この作戦、私達の勝利だ、ネウロイ!
確証のない自信が湧いてくる。
「全軍に通達、作戦を開始する!! 今作戦では扶桑の紅き鬼神が全力でバックアップしてくれる、安心して作戦行動に励め!!」
通信機越しに「了解!」と声が返ってくる。
紅き鬼神が参加する作戦は戦死者が異様に少ないことで有名で、負傷兵の一部では「奇妙な休暇」…、何て呼ばれている。
「一体でも多くスエズ運河におびき出し、艦砲射撃の的にしろ!」
ウィッチ隊が次々と飛んで行く。
艦砲狙撃のおかげで、一時的にとは言え、前線は押し上げられている。
今は止まっている砲撃にミーナ達501部隊は息を呑む。
実力は知っているが、艦からの砲撃による狙撃など聞いたことない。
500部隊隊長は伊達ではない。
そう言って、自分の事のように胸を張る美緒をしり目に、掃討戦へと移行する。
突然の砲撃命令。
此処からの砲撃は無意味だと考えて居た。
なおも、続く指示に砲撃。
皆、疑問に思いながらの作業の中、通信兵が電報を持って走って来る。
「ザラ司令、海岸沿いのネウロイ殲滅を確認。これより掃討作戦に移行するとのことです!」
砲撃の爆音が響く中、敬礼しながら大声で報告が届く。
それにより、ザラ司令は砲撃を中止させる。
報告を聞いて驚き、一気に湧き上がる現場の空気。
「加賀、聞こえるな? 第一次攻撃隊、ウィッチ隊発艦始め!」
通信兵からインカムを受け取ったザラ司令は次の命令を下す。
教科書のお手本のように攻撃隊が発艦していく。流石は、ザラ司令直々に発着艦訓練をしていただけはある。
零戦の進む姿に乱れは一切なく、まるで、芸術のような飛行と言えた。
先頭を優雅に飛んで行くのは、一航戦加賀の中でも、選りすぐりの12人からなる精鋭中の精鋭、ザラ隊。
…、私もウィッチとしての素質は皆無だったが、パイロットならば、今からでも可能だろうか? そう思ってしまう程に美しい物だった。
「主計、ボーっとするな。ここは戦場だぞ!」
「は、はい! すいません!」
私としたことが、迂闊だった。
戦場でボーっとするなど、素人もいいところだ。
気を引き締め直す。
「艦長、参謀、ここを頼む。俺は前線に出て援護をする。命令はその都度出すからそのつもりでいてくれ!」
そう言い残すと、艦橋を後にするザラ司令。
型破りな方だとは思って居たが、司令官が直接前線に出るのはどうかと思う所はある。
そこらへんは、艦隊編成時に上官たちを集めて、会議と言う名の説得を何回もしていた。
滅多なことが無い限り、飛び出していくことは無いと言っていたが、それがいきなり破られるとは思わなかった。
まぁ、今艦隊は最も安全な場所だとも言えるので、ザラ司令が態々指揮を執る必要は無いのだが。
インカム越しにザラ司令の命令が飛び交う。
これでは、動く司令部だな……。
出撃してすぐに、此方に向かって来る大型ネウロイをジャスティスが感知した。
それだけならば、他の奴らに任せようと思ったのだが、数が多い。
流石に大規模な反攻作戦をネウロイが嗅ぎつけたらしい。
そう考えているうちに、出撃した零戦隊やウィッチ隊を追い越してしまったらしい。
まぁ、深く考えるのはよそう。
それよりも一体でも多くネウロイを倒そう。そうすれば、必然的に死人が少なくなる。
前線に出張って来た意味はそこにある。
ビームブーメランをシールドから抜き、大きく振りかぶって投げる。
大型ネウロイが二体ほど真っ二つになり、消失する。後は任せてしまっても大丈夫か。
今更ながら思う。魔道徹甲弾や、魔道三式弾の開発。この開発、運用はウィッチ達にとって悪だ。
歴史を紐解けば、必ず引き離せないものがある。
魔法力だ。それを行使できるものは大きな権力を持つことができる。では、持てなかった者は? 常に付きまとう確執の差…、と言うべきなのだろうか。
コーディネーターとナチュラル程ではないが、その差を決定的にしてしまった事件があった。
ネウロイの出現だ。
ネウロイと言う怪異は人類史に名を強く残すほどの存在となった。地上の多くの都市が、大陸が蹂躙され、ネウロイを倒すために、弱点を探すために数え切れない多くの血が流れた。
その結果、得られたのは、ストライカーユニットと魔法力を持つ者の攻撃が極めて有効だという事だ。
地球規模で襲い掛かったこの事件に、軍部も民もウィッチ達に全てを託すしかなかった。
その結果、ウィッチ達に急激に権力が集中してしまう。
女社会の中で、生まれた魔力を持つ者と持たない者。同じ女なのに何故自分は魔力を持たないのか…、そんな連中がブルーコスモスのロゴスのように徒党を組んでいるのだ。
勿論、全員と言うわけでは無い。ごく一部の軍人と政治家のみだ。そんな中に、ウィッチ達と同等の力が得られるとしたらどうなるか?
ある意味、世界が注目している点ではある。現場のウィッチ達の負担は減るが、反ウィッチ派の声を大きくさせるのも事実だ。それをわかったうえで尚、その兵器の開発をしたのは、現場で散る命を天秤にかけた結果である。アスラン・ザラは戦士ではあるが、現実主義者でもあり、また、理想主義者でもある。そのせいで板挟みになり、やりきれない思いと、理想と現実の違いに一番頭を悩ませていた。
そのアスラン・ザラが出した答えは犠牲は少ないに越したことは無い、と言う考えに負けたのだ。
辛い決断だった。新兵器が増えることは、新たな火種が増えることと同義なのだ。楽観視して生み出した兵器の重みに途中で気付き、何度破棄しようと考えた事か…、だが、何度考えても新兵器が必要であった。そこまで、戦況は逼迫していたのだ。核ミサイルを造らなかっただけマシだと自分に言い聞かせて。そうでもしなければやっていられなかった。
アスランが如何に強大な力を持っていようと所詮は人なのだ。できることにも制限がある。
それに、アスラン自身、自分の最後は既に定めてある。
最後のネウロイの巣に突っ込んで自爆……
これ以上ない位に自分に似合った幕引きだろうとアスランは思って居た。それが、この世界にとって一番ベストと自負している。それは、新たな争いの火種となり得る自分が生き残るよりも、最後の戦いで勝利と引き換えに命を落とした悲劇の英雄の方が世界のためだと思ったからだ。
政治的にも軍事的にも大きなプロパガンダとして役立つだろう。
まぁ、それは、まだまだ先の話になりそうだが…。
ジャスティスのコアが点滅していることに気が付かないまま、大型のネウロイを葬り去り、制空権を確保する。
本当はミーティアで一掃したかったのだが、ジャスティスから調整中と告げられてはしょうがない。
久々にマルチロックオンシステム使いたかったのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
戦況の悪さに溜息をはいた。