慟哭の空   作:仙儒

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鬼の長門

 北郷長官自らの電報で召喚命令がきたので、ただごとではないと思い、召喚命令に従い本国に出頭していた。

 

 大本営からは艦隊を預けたいという事で、しばらく内海待機命令を受けた。

 

 俺、カールスラントで500部隊の隊長やんなきゃいけないんだけど。

 

 章香に後で殺されそう。

 

 瀬戸内海を長門の艦橋から眺める。

 

 長門は仮想敵に向かって砲撃訓練を行っている。

 

 訓練訓練、また訓練とは、鬼の水雷戦隊だっただろうか?

 

 何か若い娘が多い気がする。

 その為か砲撃が中々的に当たらない。

 

 的のど真ん中に当たらねば休憩なしという鬼教官からのお達しで、既に3時間ぶっ通しで砲撃訓練が続いている。

 そろそろ限界の者も出始めている。

 

 見るに見かねて、角度修正の指示を出す。

 

 的のど真ん中に命中するとハイタッチをした後にその場に全員がへたり込む。

 

「よろしいのですか?」

 

 鬼教官が話しかけて来る。

 

 章香にも言った事だが、全てが気合でどうにかなるわけではない。

 重要な時に仕えないでは話にならないのだ。

 

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かず。

 話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。

 やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば人は実らず」

 

 そう言う。

 なんだか海軍の偉い人がそんなことを言っていた気がする。要は飴と鞭大事ということだ。どちらもこの世界にある言葉かは知らないけど。

 だから、スパルタや気合論だけじゃ無理なのだ。

 

「?」

 

 鬼教官は少し考える素振りをした後、 

 

「まぁ、司令がそうおしゃるのなら」と引き下がってくれた。

 

 長門の他にも姉妹艦である陸奥も近くに居る。

 

 今でも思うけど、この二隻を俺によこすのは間違っている。

 

 仮にもこの国の象徴だぞ? それを二隻よこすとか頭が可笑しい。

 

 可笑しいついでに、何も長門で砲撃練習せんでも比叡で練習できるよね? まだ戦艦復帰しないで練習巡洋艦のままだし。

 

 

 

……しかし、なんだな。俺以外若い女の子しかいないせいか、ハイスクールなんちゃらを思い出した。

 何の因果か知らないけど駆逐艦晴風もザラ艦隊に編成されてるし。

 

 違いがあるとすれば、あっちは戦争しないために女の子中心で船乗りやってるくらいか。

 

 こっちは戦争のためだもんな~。

 なんかやるせない気持ちになって来るよ。

 

 この世界、軍の需要が凄いからな。一部を除き、取り敢えず、軍に入れば食いっぱぐれることは無い。

 

 嫌な時代だと思わないか?

 

 恐らくだが、ネウロイを全て倒すなり、和解するなりできたとして、新たな怪異がまた立ちふさがるだろう。

 その時に俺がこの世界に居るのかは別として。

 

 よし、暗い話はここまで。

 明日は加賀にザラ艦隊の皆を集めてバーベキューでもしよう。艦種にもよるが、基本下っ端は缶詰にご飯と食事が味気ない。

 偶には皆を労ってやるのも上官の務めだしな。バーベキューならばアスランの経験でやったことがあるので安心だ。

 

 因みに何故加賀でバーベキューするかって?

 

 それは…、

 

 

 

 

 

 

 ザラ艦隊に加賀も編成されてるからさっ!!

 

 もう何も言わねーし、ツッコまねーよ。一航戦のやべー方が艦隊に加わっています。何がやべーのかわかんねーけど。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリタニアについて、坂本さんにお父さんに会わせて貰って、そこで私は自分の覚悟を、軍に入ることを打ち明けた。

 お父さんは複雑そうな顔をしていたけれど、「芳佳が決めたことならば」そう言って応援してくれた。

 

 本当はアスランさんにも言いたかったけど、アスランさんは扶桑へと戻っているらしい。

 

 入隊時にストライクウィッチーズの皆の前で拳銃を渡されたが、どうしてもそれだけは受け取ることができずに返してしまった。

 坂本さんが大声で笑って「変な奴だな」と言われたが、そんなに変なことだったのだろうか?

 

 後で聞いた話だと、坂本さんも拳銃は持っていないらしい。

 なんでも、その代わりに刀を持ち歩いているのだとか。

 

 その日から朝練として腕立て伏せ100回、腹筋100回、素振り1000回のメニューで訓練が始まった。

 

 しんどくてしょうがなかったが、アスランさんはこれの数倍の数を軽くこなしていたと聞いたので頑張った。

 

 他にも、ストライクウィッチーズ内では交代で誰かがご飯を作っていたが、外国の食事は余り私の口には合わなかった。人によっては、あからさまに食べ物ではない何かを作って出す人も居たので、自分が一番下っ端なのと何かの役に立ちたいという思いから料理を引き受けた。

 扶桑料理はおいしくて健康にも良いとアスランさんが言っていたがその通りだったらしい。料理は皆に絶賛された。

 料理当番が私の中に組み込まれた。

 

「宮藤、お前は料理している時は何時も楽しそうというか、生き生きしてるな」

 

 いきなり声をかけられて、ビクッ、となってしまう。

 そうするとそのことを察したのか「すまない」と謝って来る坂本さん。

 

「しかし、さっきまで訓練でグロッキーだったお前も料理となるとすぐに切り替えができるんだな…もう少し訓練メニューを増やしてもいいか?」

 

 最後の方にぼそりと恐ろしい言葉が聞こえた気がするが、

 言いたいことは何となくわかった。

 

「どんなに大変でもしんどくても、お母さんは毎日ご飯を作ってくれましたから」

 

 そんな母親を尊敬していた。

 

「母親思いなんだな」

 

 そう言葉を返して、笑う坂本さん。

 

「それだけじゃないんです。アスランさんが食べて、美味しいって褒めてくれて、良いお嫁さんになるって言ってくれたから」

 

 そうなのだ。

 きっかけはそうだった。

 憧れの人がお父さんを連れて帰って来てくれた時。自分も何かアピールできないかとお母さんと一緒に料理を作って出した。

 不格好だったそれを迷わずに箸で掴んで食べてくれたアスランさん。不安で一杯だった私に「芳佳は将来、良いお嫁さんになるな」と褒めて撫でてくれた。以来、毎日お母さんから料理を教わり、腕を磨いて来た。

 

「ちょっと待て、大師匠がそう言ったんだな」

 

 あの頃から腕はかなり上達した。

 また、あの時のように褒めてくれるかな? などと考えて居たら、坂本さんが凄い顔で睨みながら肩を掴んで来た。

 い、痛い、痛いです。指が肩に食い込んでいる。

 ついでに言うと顔も近いし怖いです。

 

「どうなんだ、宮藤」

 

 嘘は許さんと坂本さんの目が訴えかけている。

 

「は、はい! そうです!」

 

 迫力に負けて大声でそう答える。

 

 すると、掴まれていた両肩をはなして、何かを考える素振りを見せる。

 少しして

 

「宮藤!」

 

「はい!」

 

 大声で呼ばれて大声で返事をしてしまう。

 

「恥を忍んでお前に頼みがある」

 

 今度は真剣な顔で此方を見つめて来た。

 

「私に料理を教えてくれ、頼む!」

 

 その日から坂本さんへの料理の師事も私の予定に組み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にっしっし、良いこと聞いちゃった~」

 

「トゥルーデに教えてやろうっと」

 

 厨房の入口に二人の少女の影があったことに誰も気が付かない。

 

 その日から空いた時間があれば誰かしらが厨房に入って料理の腕を磨きはじめ、食糧庫が枯渇寸前まで行って、料理をする時は隊長であるミーナに申し出なくてはいけなくなったのに芳佳は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは扶桑に戻っている。

 

 あの女狐の話だと内海待機でしばらく戻ってこれないらしい。

 ドヤ顔がうざかったので、思わずに銃を向けて撃った私は悪くない。

 

 まぁ、容易く刀で弾かれたが。

 

 此方も此方で上層部から艦隊を分捕って来たのだが…、ふられてしまった。

 

 本当に難攻不落だな。今に始まった話ではないが。

 

 頻繁にアスランの好みの紅茶を差し入れたり、その紅茶に合う洋菓子を選んで距離を少しずつ詰めて来たと思ったのだが…、本当に罪づくりな男だ。

 

「いい加減、諦めたらどうだ? 今回の事でわかっただろう、あいつは扶桑の軍人だ」

 

「いいや、諦めないね。アスランは律儀な性格だから扶桑にいるだけさ。それにお前の男になった訳でもないだろう?」

 

 そう言うと、さっきまでのドヤ顔はどこえいったのやら、凄い形相で睨んでくる。

 おう、怖い怖い。

 

「知ってるんだぞ、アスランはお前との縁談を何度も断っているらしいじゃないか。もう脈無しだ、そっちこそ早々に諦めたらどうだい?」

 

「あれはあいつが母様が無理やり私とくっつけようとしてると勘違いして、私のために断ってくれているんだ。貴様とは違う!」

 

 そう吠える北郷章香。

 

 そこに通信が入る。

 

 此処に居るアドルフィーネと章香、二人しか持っていない、未知のテクノロジーで作られた端末だ。アスランにこれを渡されたのが自分達しかいないと言われたのが二人の自慢だったりする。

 

 アドルフィーネと章香は通信端末を開く。

 

 空中に映し出されるアスランの顔。

 

「ちょうど良かった、二人ともそろっているな?」

 

 通信越しにアスランが言う。

 

「なんだい? 私とアスランの仲だ。もっと頻繁に連絡をくれても良いんだが…」

 

「こいつの戯言に付き合う必要はないぞ。何かようがあるんだろう?」

 

 

 私の言葉をスルーして内容を話し始めるアスラン。

 ようやくすると内海待機を命じられて、しばらく此方に帰れないと報告のために態々連絡してくれたらしい。

 その事に女狐は知っていると素っ気なく返した。

 

「…そうか、私は知らなかったよ。態々ありがとう。アスランのそう言う所、好きだよ」

 

 あえて知らないふりをする。

 

 女狐が刀に手を伸ばしているが気にしない。

 

 アスランは「そうか」と短く答えると

 

「二人とも何か欲しい物は無いか? 土産に買ってくが?」

 

 その言葉に私と女狐が反応する。

 これは、出張する夫から家で待つ妻へ手見上げは何が欲しいかと聞かれる、女が一度は憧れるシチュエーションなのではないだろうか? そう思うと心が躍った。

 

「私はそうだな…、扶桑にある着物、ジュウニヒトエ…、とか言ったか? それを着させてくれれば何もないな。いや、ウエディングドレスでも良いんだぞ?」

 

 そう言った瞬間に私は頭を横にずらす。

 

 先程まで私の頭があった場所には刀がある。

 

「貴様!! さっきから黙っていれば良くものけのけと!」

 

 女狐が刀で突きをして来たのだ。

 それを特に気にした様子もなく、アスランは

 

「…、着物が欲しいんだな? 章香は何が良いんだ?」

 

 そう返してくる。

 

 

 

 因みにアスランはアドルフィーネが扶桑の着物のことを全て十二単だと思って居ると判断をした。その為、真意には気が付いていない。

 

 

「私も、その、なんだ…、じゅ、十二単が良い」

 

「お前も着物が欲しいのか…、珍しいな」

 

 女狐が顔を真っ赤にして「ち、違う」と言いかけたところで通信は切れた。

 

 この時ばかりは、流石の私も女狐に同情して肩に手をそっと置いた。


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