慟哭の空   作:仙儒

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501部隊―ストライクウィッチーズ―

 戦闘が終わり、美緒と芳佳は501部隊と合流した。

 

 戦場となった海域には空母を護衛していたであろう駆逐艦2隻が大破炎上している。

 

 それを複雑な思いで見つめるアスラン。

 

 乗組員は脱出したのか生命反応は無かった。

 

 そう、生命反応は…

 

 アスランの良い目は艦に取り残された無数の人影を捉えていた。

 もうみんな生きてはいない。

 

 なんだかなぁ。

 

 普通なら敬礼して沈むのを見届けるんだろうけど、そんなことはできなかった。

 

 サーチャーを飛ばし、艦内部をくまなくサーチする。

 生きている人はもういないけど、せめて、遺体だけでも収容できればと思っての行動だ。

 

 不幸中の幸いとでも言えば良いのか、2隻とも弾薬庫には火の手は回っていない。

 

 誘爆しないうちに、弾薬、魚雷を全て転移魔法で海に捨てる。

 

 

 一人で行う消火作業。

 

 もう、生きている人間がいないためか虚無感が体を支配している。

 

 

 消火活動は30分位で終了した。

 

 

 一隻は主砲に楯から伸ばしたワイヤーアンカーを引っかけて、二隻目はチェーンバインドで縛って牽引する。

 

 どうでもいいけど、サイズが変わってもモビルスーツと同じ馬力が出せて助かった。

 転移魔法で遺体だけ持ち帰るのも考えたけど、身元確認もあるし、芳佳に遺体だけ見せて発狂されても困るからな。

 

 ああ、芳佳たちを先に飛んで行かせればいいのに今更気が付いたわ。

 

「501は帰投しろ、艦隊の護衛は俺が引き継ぐ」

 

 美緒と、何故か芳佳がごねたが、命令だと言ったら大人しくなった。

 

 

 

 ……で、

 

「何でここにいるんだ、美緒」

 

 艦隊に合流した時に、何故か艦隊の直上警備してる美緒。

 

「命令違反です」

 

 開き直り胸を張る美緒。

 こうも堂々と開き直られると清々しさすら感じるな。

 

「芳佳たちは?」

 

「バルクホルンに任せて帰らせました」

 

 あれ? 少し機嫌悪いか? いや、不機嫌なのは俺もだけどさ。

 

 もー、なんなのさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の大師匠はやたらと宮藤のことばかり口にしている。

 どうして、宮藤が居ることがわかったのかは知らないが、今はそんなことどうでもいい。

 確かめたいことは大師匠と宮藤の仲だ。

 宮藤は大師匠のお嫁さんを自称していたが、まさか本当なのだろうか?

 大師匠は大師匠でやたらと宮藤の事を気にかけていたし。

 大師匠はああいう娘が好みなのだろうか。それを勇気を出して聞いてみる。

 

「芳佳との仲? 宮藤博士経由で何回か会って面倒を見ただけだが?」

 

 その割には随分と親しい様に聞こえる。下の名前で呼んでるし。

 

「…民間人が艦隊に居るのに気にしないのは無理だろう。それに、あれを芳佳に見せることはできない」

 

 厳密には宮藤は民間人ではない。それを大師匠が知るはずもなく…、

 そう言って指さされた方を見てみると、遺体を前に泣いている艦隊の乗組員の姿が見えた。

 

 その光景に私は何も言えなくなってしまう。

 

 確かに軍に入った以上、この光景を目の当たりにするのは時間の問題だが、宮藤に見せるのは速い気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は501と言われた人たちと一緒にブリタニアに飛んでいる。

 

 アスランさんに久しぶりに会えると思って、駄々をこねていたが「命令だ」と言われてしまうと、一方的に通信を切られてしまう。

 何度か呼びかけるが反応は無かった。

 

 アスランさんのあんな冷たい言葉、初めて聞いたな。

 

 何時もあんなに優しかったのに。

 

 坂本さんは「ここは任せてお前は501部隊……、ストライクウィッチーズに行け。バルクホルン、宮藤の事は頼んだぞ」と言ってバルクホルンさん? に引っ張られて、お城みたいな所に着いた。

 

 そのお城の中を案内され、ある部屋に通された。

 

「お疲れ様、大変だったみたいね」

 

 赤毛の女の人が入ってきてそう言うと持っていた紅茶を差し出してくる。

 

 誰だろう? 凄い綺麗な人。

 

 見とれていたら、「どうかした?」と首を傾げられてしまい、それを誤魔化すように紅茶を口にする。

 

「…、美味しい」

 

「そう? それは良かったわ」

 

 芳佳は紅茶と言うのは知っていたが、口にするのは初めてだ。

 飲んだと同時に鼻を抜ける香。緑茶のように苦くない。

 

 それにしても、坂本さん、アスランさんのこと大師匠って言っていたけど、何のお師匠様なんだろう?

 坂本さんのあの時の顔を見ると、何となくだけど、ただの師弟関係ではないような気がするし。

 坂本さんもアスランさんの事が好きなのかな?

 

「後で自己紹介すると思うけど、先に名乗っとくわね。私はミーナ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。この501部隊、通称ストライクウィッチーズの隊長をやっているわ。よろしくね、宮藤さん」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 つい、返事を返してしまったが、これでよかったのだろうか?

 これではまるで…、

 

 私はあくまで、お父さんとアスランさんに会いに来たのだ。軍隊に入るつもりは無い。

 

 ないつもりなのだ。

 

 なのに―――

 

 脳裏によぎるのは、あの時のアスランさんの悲しそうな顔…、目を離すと居なくなってしまいそうで怖いのだ。

 

 みんなを護らないと。

 お父さんとの約束もそうだが、それだけではない。

 

 アスランさんの受け売りでもあるのだ。

 

 戦争は嫌いだ。軍も嫌いだ。でも―――

 

 戦わなければ護れないものがある。それは人としての形だったり、誇り、穏やかな暮らし…、それらを奪われるから。できるだけ多くを敵から奪い続けるしかない。

 

 幼いころに聞かされたアスランの本音。

 今なら少しはわかる気がするから。

 

 何だ、答えは出ているではないか。

 

 お父さんもアスランさんも私が護る。坂本さんの誘いを断ったけど、もう一度話してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 考えに考えた末、結局美緒に対するおとがめは無し。

 

 戦術的なめんから見てもそれ程間違った判断をしたというわけでもないし。

 

 ただ、疲労もあるだろうから、今は赤城にて休んでいる…、というわけでも無く、包帯やなんかを集めさせている。

 俺は休むのも仕事の内だと言ったのだが、「大師匠が働いているのに自分だけ休めません!」の一点張りなので、しょうがなく、美緒でもできる応急処置と、包帯集めをしろと言ったのだ。

 因みに俺は言わなくても分かるだろうが、回復魔法を使って怪我人の治療をしている。

 

 もう少しでブリタニアに着くので、衛生兵の待機とドックを開けておくように通信で言っておいた。

 

 それにしても居心地が悪い。

 衛生兵と最低限の士官を除いて、艦長まで降りて来て、直立不動で敬礼を続けている。

 

 俺ってそんなに上下関係に厳しいと思われているのか? 

 

 基本的に下士官に「お前」呼ばわりされない限り何か言ったりすることはしないんだけどな。

 

 まぁ、上官にお前呼ばわりする程の大物下士官何て居ないとおもうけど。

 

 治療が終わって、立てる者はそちらに加わり、敬礼してるし。

 敬礼何てしなくていいから、安静にしてろ。

 

 立ち上がれない人も、意識があれば寝たまま敬礼しているし。

 

 頼むから普段通りにしてくれって。マジで。

 

 

 

 

 その願いが届いたのか、ブリタニアに艦隊が着いた。

 

 そのまま、後の事は任せて美緒を連れてトン面した。

 

 美緒は芳佳の事があるので、早々に分かれたが。

 

 

 

 

 帰りながら、改めてこの世界の事を考えてみた。

 この世界、空母はウィッチを運ぶための艦としての意味合いが大きい。

 ネウロイに対しては、やはり、戦艦級の砲撃が効果的だ。

 一昔前とは違い、魔道徹甲弾や、魔道三式弾もあるし。

 

 っというか、軍縮条約が無いのにどうして、赤城は戦艦では無く空母になっているのだろうか? 不思議である。

 

「ああ、帰って来たのか。随分と遅かったじゃないか」

 

 章香が話しかけて来る。

 近い近い。

 

 そう言えば、章香には今後の事を聞いていなかったな。

 

「お前は500部隊が解散して扶桑に戻ったら、どうするつもりだ?」

 

「何だ? 藪から棒に…、そうだな、前線から離れるのもいいかも知れない」

 

 意外な答えを聞いた気がした。

 章香のことだから、てっきり前線で戦い続ける物だとばかり思って居たよ。

 

「アスランはどうなんだ?」

 

「ネウロイ達の出方にもよるが、提督でもやろうと思って居る」

 

 イザークもやっていたし、俺にもできんじゃなかろうか? その為には勉強しなきゃならないんだけど。

 

「ほう、これまた意外だな」

 

 章香程意外ではないと思うんだけど。

 

「まぁ、せっかく海軍に入ったわけだしな」

 

 それを陰から聞き耳を立ててる人物が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは提督になりたいらしい。

 珍しいというか、物好きと言うか。

 今に始まった話ではないか。

 しかし、良い事を聞いた。

 500部隊解散後、扶桑に戻るつもりらしい。

 本国に対する召喚命令を何度か蹴っているアスランの態度からして、アスランは扶桑をやめてカールスラント軍に入るのではないかと、本国は気が気では無かったわけだし。

 

 その事を扶桑に打電しておこう。

 指揮能力も申し分ないし、アスランの願いは通るだろう。

 

 

 

 

 後日、北郷章香大佐の電報を受けた本国はアスラン・ザラ少将に長門を中心とする幾つかの艦隊を預けることを決定した。

 

 幾ら歴史に疎いアスランでも長門が扶桑皇国海軍の象徴であることぐらいは知っているので、本国に対して頭可笑しいんじゃないか? と辞退したが、扶桑皇国はアスランも扶桑国を象徴する人物であることをイメージ付けたかったために、これを無理やり通し、最後にはアスランが折れる形で了承した。

 

 また、新編ザラ艦隊結成に伴い、志願者が続出したため人事部が頭を抱え、訓練でついてこれた者だけが配属されることとなり、鬼の長門と呼ばれるのはまた別の話。

 

 因みにカールスラントからもビスマルクを中心とした軍艦を何隻か、ロマーニャからはイタリア、ザラを渡したいと申し出があったが、アスランは丁重に断った。


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