慟哭の空   作:仙儒

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受け継がれた意志

 つかの間の平穏の中、アスランはガリアのとある研究所を訪れていた。

 

 通された部屋で待っていると、研究服を身に着けた少女が入って来た。何か501に同じ顔が居たような気がする。流石に同一人物だとは思えないため、その子の姉妹だろうと推測する。

 

「あの、これをどうぞ」

 

 そう言って紅茶の入ったカップを差し出してくる。

 心なしか差し出されたカップがカチャカチャと震えている。男慣れしていなくて緊張しているのか? しかし、研究所の研究員であるならば、男と接する機会は幾らでもあるし、今着てる研究服に下げられているプレートに書かれているのは間違いなく、宮藤博士直属の研究員だ。少なくとも宮藤博士には接している筈なんだが…、

 

 

 

 アスランは自分が世間でどう言われているかを知らないが故に仕方が無いが、世界的な英雄であり、特にカールスラントでは5度も国を救った生きる伝説である。そんな人物が目の前に居て緊張するなと言う方が無理な話だ。

 

 

 

「いや~、待たせてすまないね」

 

 そう言って入って来る藤宮博士。

 向かい側の席に座ると「そうそう、」と言いながら、

 

「彼女は私の助手でね、ウルスラ君、挨拶を」

 

 そう言う。

 

「あ、挨拶が遅れました、助手をしながら色々と学ばせて貰ってます。ウルスラ・ハルトマンと申します。姉がお世話になっています」

 

 そう言って頭を下げる。

 やはり、501のハルトマン少尉の親族だったか。確か最年少での少尉だったか? すげーな。にしても、501は基本的にアドルフィーネの管轄で彼女に一任してる。知ってるのは隊員の顔と名前と経歴だけだ。

 

 

 そう言えば、前にラクスと声が似てる隊長であるヴィルケ中佐は音楽学校志望だったんだって。やっぱり歌姫になるって、絶対。世界的な。俺が保証してやるよ。

 ってわけで、この世界の有名な音楽学校ジャスティスに探させよう。

 

 

 話がそれた。だから全然世話してねーんだわ。

 流石にそれを口に出すわけにもいかずに、

 

「いや、彼女には此方が世話になってる、気にしないでくれ」

 

 そう言って紅茶を一口口にする。

 確かハルトマン少尉は医者志望だったな。今度医学書でも送るか? 同じ医者志望芳佳にはの扶桑語に訳した奴渡してるし。

 

「優秀な子でね、武器なんかはこの子が手掛けた物が幾つか出回っているんだよ。今はストライカーユニットの事を学びに来てるけど、もうじき教えられることは無くなるから、これを期に君に会わせようと思ってね~。私よりも君の方が彼女も学べるものが多いだろう」

 

「み、宮藤博士!」

 

 あらかじめそのことを聞いていなかったのか、ウルスラは驚きを隠しきれずに声をあげてしまう。

 その事にはアスランも驚いている。

 

「君なら私よりも凄まじい知恵と知識を持っている。能ある鷹は爪を隠すとは言った物だ」

 

 全てを見透かしたような目でアスランを見る宮藤博士。その発言でアスランは心臓を握られたような感覚に陥る。

 

「ああ、他言はしないから安心してくれていいよ」

 

 この眼鏡やっぱり天才だわ。人を見る目も勘も。あ、眼鏡は二人いるわ。

 ややこしいんでウルスラと呼ばれた子に近くに来るように手招きする。

 

 手招きに動揺しつつも此方に近づいて来た。

 アスランは眼鏡を取るように言うと困惑しながらも眼鏡を取った。目の前に手を出すとアスランは回復魔法をかけた。

 両目とアスランの手が淡く光り数秒で光が消えた。

 

「あれ?、え!? 眼鏡をかけていないのにはっきり見える」

 

「今のは?」

 

 驚き、周りを見渡しているウルスラを置いて宮藤博士が問いかけて来る。

 

「ただの回復魔法ですよ、視力を回復させたんです。これから色々するのに目が良くて悪いことはありませんから」

 

 そう説明したら、「私にも頼めるかい?」と言ってきたので回復魔法を使った。そして眼鏡は居なくなる…。

 

「ああ、そうそう、忘れる所だった。本題に入る前に芳佳から預かり物があるんだった」

 

 そう言ってポケットを探った後に、手を差し出してくる宮藤博士。

 

「これを君にって」

 

 それを受け取る。

 

「お守り…、ですか?」

 

「ああ、もしかして扶桑のお守りを見るのは初めてかな?」

 

 その問いかけにアスランは「いいえ」と首を振った。

 

 アスランは芳佳に恨まれていると思って居た。そのため、こんな物を貰えるとは思っても見なかったのだ。

 お守りは手作りなのかやや不格好な物で、赤い刺繍で必勝と書いてある。

 

「愛されてるね~」

 

 そう茶化してくる宮藤博士に、アスランは心の中でそれは無いと断言していた。

 

 そもそも、芳佳から父親を奪ったのは紛れもないこの俺だ。

 

 そんな俺がこれを受け取る資格はあるのだろうか?

 

「確かに渡したよ」

 

 そう言う藤宮博士は、闇に返却は受け付けないと言っているようだった。

 

 アスランの脳裏には敵であるアスランにハウメアの護り石を渡してたカガリの事を思い出していた。

 

 もう誰にも死んでほしくない…、だったか? 優しい芳佳なら同じことを考えてそうだな。

 

「…、確かに受け取りました。芳佳にありがとうと手紙を書きますよ」

 

 そう言うと藤宮博士は何時ものような笑顔に戻り、「そうしてくれ」と返してくる。

 

「さて、本題に入ろうか。君も暇では無いだろう?」

 

 そう言って此処に呼ばれた経緯を話して一枚の設計図を広げられる。

 どうやら、ユニット開発に行き詰まり、俺に助言を求めて来たらしい。

 ユニット名は…、震電か。

 

 第二次世界大戦の兵器はあまり詳しくはないからな。

 

 そう思いながら欠点である燃費の悪さとコストパフォーマンスを考えて定理に書き加えていく。

 

 それを横からキラキラした目で見ながらメモを取っているウルスラ女史?

 

 俺が設計図に書き込めば書き込む度に、ウルスラの目がキラキラ輝いて若干やりずらいのですが…。

 

「こことここはこうして、ここは今までの量産型のパーツで代用できます。そうすればコストも今のからだいぶ安くなります。…、ただ」

 

 ジャスティスの助言もあり、サクサクと進んでいくが、どうしても乗り越えられない壁が存在した。

 

「ただ…、なんだい?」

 

「乗り手を選ぶ機体になるかと」

 

 そうなのだ。幾ら燃費を良くしたところで、持って行かれる魔力の絶対数は減らせない。

 

 そう言うと困った顔をして

 

「やっぱり君でもそこに行きつくか」

 

 という。

 もういっその事、カートリッジシステム導入するか?

 検討しておこう。将来性を考えると実装した方がウィッチ達の負担をだいぶ軽減できる。

 原理は魔道徹甲弾や、魔道三式弾とそんなに変わらないし。後は、どの位威力が上がるかの実験だな。俺、使った事無いからここら辺の事理解できないし。

 それと、機体がカートリッジ使用時に起こる瞬間的な魔力エネルギーに耐えられるかも試して安全確認しないとな。必要ならフレーム事取り換える必要あるし。後で宮藤博士に定理とカートリッジ渡しとこう。

 

 今後の方針を考えて、一息つくために冷たくなった紅茶を口にする。

 その時、ジャスティスから緊急回線で念話が入る。

 

(空母赤城がネウロイに襲われて戦闘に入りました。…、宮藤芳佳と見られる人物が交戦中です)

 

 は? 今なんて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 坂本さんに誘われてブリタニアに行くことにした。

 軍は嫌いだ。

 私の大好きな物を何時も奪っていく。

 一時的に帰って来ていたけど、再び軍に連れて行かれた研究大好きで、ちょっと困った人だけど大好きなお父さん。

 軍人だけど偉ぶっていない、歌が上手で不器用だったけど、優しかったアスランさん。

 二人ともとても悲しい顔をしていたのを今でも忘れることができない。

 直ぐに帰って来ると言い残して遂に今に至るまで帰って来ることは無かった。

 だから、今度は此方から会いに行くことを決めたのだ。

 

 だが、甘かった。

 

 ネウロイとの戦闘に入った。

 初めて私から全てを奪っていく元凶を見て、何もできない自分がとてももどかしかった。

 自室で恐怖に震えていた時に思い出したのはお父さんとの約束だった。

 

 ――”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 それから、私は自室を飛び出て、甲板上に集められた人達を治療し続けたが、キリが無かった。

 魔法は元々得意では無かったけど、アスランさんに出会ってから、少しできるようになった。

 お母さんやおばあちゃんからもある日を境に、上達が凄いと褒められた。

 幼いながらに、これならば、お父さんやアスランさんが怪我しても私が治せる何て考えて居た物だ。

 

 だが、現実はどうだ?

 目の前には次々に運ばれてくる怪我人に追いつけていない自分の治癒魔法。

 

 大元をどうにかしないといけないと思った。

 

 唐突に思い出したのは坂本さんが使っていた空を飛ぶための”物”。

 

 あれを自分が扱うことができれば……、

 

 そう思い、包帯を取って来ると嘘を付いて格納庫に走った。

 

 

 

「嘘、そんな…」

 

 思わず膝をついてしまう。

 格納庫には甲板で次々に飛び立った人を乗せて空を飛ぶ機械はあったけど、坂本さんが使っていたようなものが見当たらなかった。

 私は誰も護れないのか…そう思うと涙が止まらなかった。

 

 お父さん、私何もできない――

 

 そう思った時だった。

 

 ウゥィーン!

 

 何かが動いている音が聞こえた。

 

 それは中央エレベーターが稼働している音だった。

 

 降りて来たエレベーターの上には坂本さんが使っていたのと同じ機械があった。

 自分の中で今一度聞こえて来る父の言葉。

 

 ”その力で皆を護るような、立派な人になりなさい”

 

 ――うん、皆を護るよ  お父さん

 

 靴を脱ぎ棄て機械に足を入れる。

 不思議な感覚が体にはしる。

 

 それと同時に再び甲板に向けてエレベーターが動き出す。

 

 

 

 

「宮藤芳佳! 行きます!!」

 

 そう口にして甲板を滑り大空へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意外と平気そうだな。

 サーチャーを通して芳佳の行動を見て、そんなことを思ってしまう。

 

 なんか美緒も付いてるし。あいつ、扶桑に戻ってたんだ、そうならそうと言って欲しかったんだけど。

 

 それに501も出撃してるみたいだし。

 

 501には空母赤城を守るように言っとこう。

 

「此方500所属、扶桑のアスラン・ザラだ。空母赤城、応答願う」

 

 二回続けて呼びかけたところで、ジャスティスが通信を拾う。

 そのまま、艦隊には南に舵を取るように指示出して、俺は芳佳と美緒回収ついでに敵を屠ることにしよう。

 

 扶桑に戻ったら提督デビューしようかな?

 海軍所属になったのに艦隊の指揮やったことないし。

 

 そのためには、勉強しなきゃダメなんだけどさ…。

 

 最初はやっぱり、見張り員とかから下済みしつつ勉強かな。

 参謀服着てるけど見張り員やってて大丈夫かな? でも、階級を盾にして艦隊の指揮を執ったって付いてきてくれる人いないだろうし。

 

 あれ?

 今、艦隊に対して指示出してね? 俺。

 

 …緊急時だから仕方ない。艦隊の皆さん指示聞いてるかしら?

 

 そう思い、サーチャーで確認するとちゃんと南に艦隊を移動させている。

 

 それに安心してビームライフルの引き金を引く。

 

 長距離射撃になるけど、ジャスティスからここからなら届くって念話があったからさ。

 

 美緒達の援護になれば、当たんなくてもいいやと言う軽い気持ちで二回目の引き金を引くと、現場で一体ネウロイの消滅が確認できた。

 なんだ、俺出ること無かったじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネウロイとの戦いは一進一退を繰り返していた。

 

 やはり、守りながら戦うのは難しい。

 

 守りながらの戦いはこれが初めてというわけでは無いが、どうしても慣れない。

 

 今までは困難に撃ち当たる度に大師匠が駈けつけてくれた。

 

 だが、今回は一人で守りも攻めもやらなければならない。

 それを、大師匠は何時も一人でやっていた。

 

 改めて思い知る、大師匠の偉大さ。

 

 救援の合流まで20分。

 それまでは何としても持ちこたえなくては…、

 

 それでも自身を守ることで手一杯に陥る。

 

 ネウロイは相も変わらず、こちらをもてあそんでいるかのような行動をとり、更に一体増えた。

 

 万事休す、か。

 

 赤城も総員離艦命令が下りる所だった。

 

 インカムから聞こえたのは悲鳴や苦しむ者達の絶望の声が聞こえて来る。

 

「宮藤芳佳! 行きます!!」

 

 そんな時だった、声が聞こえたのは。

 

 赤城を見下ろす。

 

 甲板には大きな魔法陣が浮き上がっている。

 無茶だ、そう口にしようとしたら宮藤は見事な弧を描き此方に飛んでくる。

 

「ば、馬鹿な。訓練無しで飛ぶだと!」

 

 思わずに口から言葉がもれる。

 

 その一瞬の隙にネウロイが艦隊に攻撃を仕掛ける。

 

「しまっ!」

 

 た…、そう口にした時、宮藤が攻撃の間に入り込みシールドを展開する。

 

 とてつもなく大きなシールドだ。

 

 あれが宮藤の潜在能力…、面白い!

 

「宮藤! 私の後に続け! あれはコアを破壊しなければ倒せない。私が敵を引き付ける。お前はその間にコアを破壊しろ!」

 

 そう言いながらコアのある大まかな位置を刀で指し示す。

 

 そのまま刀を構えて突撃する。

 

 ネウロイは二体いる。早々に一体を片付ける必要がある。

 そうしなくては此方が持たない。

 

 刀を振り払うと同時にもう一方のネウロイに攻撃され、真っ二つにするはずだった敵ネウロイの片翼を斬り落とす。

 

 っち、後ろのネウロイが攻撃して来て、刀では狙いが定まらない。

 しょうがないので、銃を構えて撃つ。こっちは余り得意では無いのだがな、贅沢は言ってられない。

 

 眼鏡を外して常時コアが見えるようにする。

 

 コアは……、あそこか!

 

 しかし、ネウロイたちの攻撃が激しくなる。

 

 本番はここからと言うわけか。

 

 そこからネウロイ二体による集中砲火を受ける。

 

 クソッ、これでは此方も動けない。

 

 宮藤も初戦闘という事もあってか、疲れが見え始めている。無理もない、か。訓練も鍛錬もせずに初飛行でこれだけ戦って見せたのだ。才能は底が知れない。

 

 そろそろストライクウィッチーズが到着する頃合いだ。本当に凄い奴だよ。

 

 

 

「此方500所属、扶桑のアスラン・ザラだ。空母赤城、応答願う」

 

 大師匠からの通信だ。

 インカムを通して聞こえて来る。

 

「空母、艦隊並びに501は南進して合流、501は艦隊の警備に当たれ。美緒は芳佳を回収しろ」

 

「待ってください、大師匠。このままではネウロイを振り切れません!」

 

 そう、大型ネウロイ二体を振り切ることはできない。

 私と宮藤だけなら可能だが、その場合、南に舵を取り、海域を離脱しつつある艦隊を見捨てなければならない。

 

 大師匠が見捨てるなんてことをすることは無い。そもそも見捨てるならば501と艦隊に南進して合流するように命令するなどありえない。

 

 ならば、どういう意味だ?

 

 そう考えていると、敵一体のコアが消し飛んだ。

 

 一瞬見えた緑色の閃光に大師匠の攻撃だとすぐにわかった。

 

 振り返ると、もう一体のネウロイも消失した。

 

 それを見た宮藤は緊張の糸が途切れたのか、意識を失い落ちていくところだった。

 

 全く、お前には驚かされっぱなしだよ、宮藤。

 

 そして、辺りを見渡す。

 

 大師匠の姿は確認できない。しかし、あの攻撃は、自分の知る限り大師匠しかできない攻撃方法だ。

 自然に浮かんだのは、長距離からの狙撃。

 大師匠は狙撃攻撃は得意ではないと言っていたのだが…、得意でなくてこれか…。

 師匠もそうだが、大師匠の背中はまだまだ遠いらしい。

 

 言われた通りに宮藤を回収して南進離脱した艦隊に合流するために移動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コア破壊かっくにーん」

 

 ルッキーニが威勢よく言う。

 

「こちらも確認した。ネウロイ撃墜、戦闘を終了する。引き続き艦隊を護衛する」

 

 皆に指示を出すバルクホルン。

 

 そんな中話題は未だに姿を現さない。500部隊隊長、扶桑の紅き鬼神の話になる。

 全然視認できない位置からの攻撃。必然的に超長距離からの狙撃だと判断された。

 

「…」

 

 リネット・ビショップは未だに姿が見えない500部隊の隊長であるアスラン・ザラの事を考えて居た。

 

 男の人で、しかも隊長さんで世間では英雄と言われていて、英雄の名に恥じない戦いをした。一瞬にして敵大型ネウロイ二体を倒してしまったのだ。自分と同じ狙撃をして、だ。

 やはり、自分がこの部隊に居るのが場違いに思えてならない。




あれ? ペリーヌが一言も喋ってない…だと。

一応バルクホルン達と一緒に居ます。

少佐が宮藤抱えてて叫んでんじゃないかな?

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