慟哭の空 作:仙儒
501部隊は見学をしていた。
500部隊、その隊長たる扶桑の紅き鬼神と扶桑の軍神の模擬戦を。
ゴクリッ、
誰かが生唾を飲む音が聞こえた。
二人して向かい合っていて、まだ始まっても居ないのに空気は重く、殺気がピリピリと伝わって来る。
坂本美緒は何時もと変わらない姿を見せているつもりだが、持っている扶桑刀が振るえ、カチカチと音を鳴らしていた。
これでも氷山の一角でしかないと思うと自分はまだまだなのだなと思う反面、流石は私の師匠たちだと誇らしく思う。
そんな師匠たちの模擬戦で習う事がない筈がない。だから、一時も目を背けないように自身を奮い立たせる。
先に仕掛けたのは章香だった。
模擬戦と言えど手を抜くつもりはない。
手加減何てできる相手ではないし、そもそも章香に取っては、初めて試合をした時よりも、自身がどれだけ強くなったかを知るための物だった。
一刀目は首を跳ね飛ばすつもりで刀を振るった。
二刀目は心臓を貫くつもりで突きを放った。
三刀目は足を斬り裂くつもりで薙ぎ払った。
扶桑に伝わる伝説の天才剣豪。その人物が地に着いた状態で空を自由に飛び回る燕を斬り落とそうと編み出した一つの剣の境地。
名だたる剣豪の中でも高みに、頂に辿り着けた者のみが使うことを許される秘剣。
一瞬遅れて金属同士の交わる音が響き、火花が散る。
金属同士の交わる音は加速する。
そこで音楽が鳴り始める。
歌が始まる。
あの時の歌だ。
まだ、歌う余裕なんかあるのかと思うと同時に、そう来なければな! と闘志を燃やす。
剣戟で汗と言う名の飛沫が上がる。火花が駈ける。
舞う舞う、剣の舞。それは舞姫のようで玉響に。影だけが思い思いに動き、最後に背中を合わせになる。腰の所で刀同士がぶつかり合い、火花を散らしながら鍔迫り合いをしている。
どちらからともなく、同時に走りだし、距離を取る。
再び向かい合う。刀は弧を描く。影は伸びたような錯覚すら見せる。
最後は抜刀術での勝負。二人の距離は吸い寄せられるように縮まり重なり合う。
刹那、
ひときわ大きい音が響き、火花が散る。
歌が終わる。幕引きだ。
章香は大きく息を吐きながら両手を見る。
痺れる両手には、半ばから綺麗に折れた刀身が握られている。
「また、負けか…、」
笑いが込み上げて来る。
自身が目指した存在はまだまだ遠い。だが、それでいい。すぐに追いつけてはつまらない。
アフリカ戦線でひと暴れしてから、帰ると章香から模擬戦やるぞと連行された。
模擬戦だから竹刀でやるのかと思ったら真剣を渡された時に俺を殺す気かと口に出しそうになる。
書類仕事回されて堪忍袋の緒が切れちゃったのかね? しゃあないやん、軍の人気取りしなきゃいけないんだし、俺のやらねばならない書類はちゃんと処理しているんだから。
それじゃあ、気が済まないの? 何か501部隊のメンツもなぜかそろってしまったので、今更やっぱりやーめたって言えない状況に。
図ったな章香!
っと、おふざけはここまでにしよう。
じゃないと本当に死ぬ。
刀を抜き、構える。
章香から殺気が放たれる。
前回やった時からだいぶ成長したらしい。
そう思って居たら合図もなく章香が斬りかかって来る。
ちょっ、あぶな!
章香から放たれる高速の三連撃を構えた刀で、
弾き、
いなし、
そらす。
いきなり燕返しかよ。
章香がFateの方の燕返し使えてたら間違いなくここで命を落としていただろう。
まぁ、此方にはジャスティスと言うこの世界ではチートと呼べるデバイスがあるから、弾けなかったり、危なくなったらプロテクションなり、シールドなり張ってくれるだろうけど。インテリジェットデバイス様さまである。
それからしばらく剣戟の応酬が続いた後、ジャスティスからどの歌を歌うかを念話で聞いてきた。気のせいかも知れないが、念話に若干の棘があるような気がする。
歌う歌はもう決めている。初めて章香と勝負した時の歌。剣戟の応酬にはこれが一番合うと思う。
(見事なクロッシングです)
そう、ジャスティスは念話で伝えて来る。
だろう?
舐めプとか後で怒られないかな? 何か前にも同じこと考えたような気がする。
最後は抜刀術で決着が付いた。恐らく、ジャスティスは大人げないほどに剣を強化してくれたのであろう。此方が抜刀術で負けることは無かった。
折れた刃が回転して章香の前に刺さる。
ーの心。
歌もきり良く終わる。
これで気が晴れてくれれば良いんだが…、刀を鞘に戻しつつ章香に近づくと、何か「うふふ、ははは!」と笑い出したかと思うと大の字に倒れて、また笑い出した。
まぁ、泣かれるよりは良いか。
そう思い、空を見上げた。
夕日で世界が優しいオレンジ色に染まっていく。昼間と夜の境界線。
さぁ、今日も終わりだ。