慟哭の空 作:仙儒
扶桑を出発してから約50日。
ようやく目的地に到着。
降りて来た船員の女の子や女性は「丘だ~!」とはしゃいでいる。
どうでもいいが、女の人が丘だと喜んでいるのを見るのは新鮮なものだな。
そう言えば俺、何にも考えずに最初に降りちゃったけど、降りるのって順番が決まってなかったっけか?
後で怒られたりしないよね…、
さて、現実逃避はやめよう。
降りた先の港には観艦式並みの人が存在しており、軍人が直立不動二列横隊敬礼しながらずらーりと並び、歓迎の演奏も流れている。
中央にはこれまた敬礼をしたカールスラント軍上層部だと思われる人物たちが居た。
その中を俺に向かって歩いてくる人物が居た。
アドルフィーネ・ガランド少将だ。
俺の前で止まり、敬礼をすると口を開く。
「遠路はるばるようこそカールスラントへ。アスラン・ザラ少将。貴官の到着を心より歓迎するものである」
「貴官らの歓迎に我々扶桑海軍一同を代表して最大の感謝を」
そう言って敬礼をした後、手を降ろし、握手を求める。
「すまない、よろしく頼む」
そうすると、ガランド少将は笑いながら握手に答えた。
「此方こそ、よろしく頼むぞ、アスラン」
そうすると周りが一斉に沸いた。
シャッター音は絶えず鳴り響き、演奏はより一層凄くなった。
掴みは上場と言えた。
アスランは両国の仲を保つために握手を求めたが、カールスラント軍は違った。
カールスラント軍から見れば、そこの場面では返礼をするだけで良かったのだが、アスランが自分から握手を求めたという事は、カールスラント軍に大きな信頼を置いている、或は期待を示しているという事だ。扶桑海軍に付け入るスキは十分にあると判断したのだ。
また、今回の握手は政治的にも大きな意味を持つ。
今まで独占されていた世論を此方も受けることができる。
何せ、”アスランから握手を求めた”からだ。
このままうまくいけば、引き抜きも絵空事ではないと思ってしまうのも無理ないだろう。
それを抜きにしても、人類史始まって以来の未知の敵であるネウロイに対抗できる男の生きる大英雄だ。
そんな人物が自軍に借り所属とは言え、所属することで士気はうなぎ登りだろう。
こうしてここに第500試験統合戦闘航空団、通称赤枝ウィッチーズが誕生した。
正確には独立統合航空団の試験運用チームであるが、もう幾つかの統合航空団が名乗りを挙げており、それらの総監督も務める。
第500試験統合戦闘航空団の戦果はめざましい物だった。
一年後、第500試験統合戦闘航空団は、正式に500統合航空団に認定される。
それと同時に501統合航空団、通称ストライクウィッチーズが結成。
500統合航空団は結成された501の後ろ盾になる。
当初の予定通りアスランは名乗りを挙げた501統合航空団、後に続く502統合航空団の総監督に就任、アドルフィーネ・ガランドは副監督に就任する。
召喚命令にて一時帰国し、北郷章香は大佐に昇進。
アスランも昇進の話がでていたが、昇進を蹴ってカールスラントへ。
扶桑海軍はアスランがカールスラントに引き抜かれるのを恐れ、再び北郷章香にアスラン・ザラの監視兼観戦武官としてアスランと共にカールスラントに戻る事となる。
北郷章香がアスランと共に戻ってきたことにアドルフィーネ・ガランドは北郷章香を挑発、喧嘩になりかけたが、アスランからの拳骨制裁で終わる。
二人の仲はそんなに良くないが、戦闘では良いコンビネーションを見せる。
最も最近は戦線に出るよりも書類との格闘と、軍上層部との喧嘩が多くなっている。
とは言え、重大な事はアスランの鶴の一声で通っているが。
アスランも中規模戦闘以下の戦闘には参加しなくなった。次世代を担うウィッチの実戦経験を積ませるためだ。
歌は相変わらず歌い続けている。何処の国でもアスランの歌は愛され、ラジオに雑誌に引っ張りだこだ。
戦場で歌う闘志を掻き立てたり勇気をくれる歌と、平時に歌う恋の歌、郷愁の溢れる歌、そのギャップはますます人々を引き付けた。