慟哭の空   作:仙儒

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リバウ撤退戦

 そこは地獄だった。

 

 かつてないほどのネウロイの軍勢との超大規模な総力戦となっていた。

 

「第一、第二防衛ライン突破されました! 司令!」

 

「わかっている! 扶桑の鬼神はまだか!」

 

「現在空母でアフリカ中部を北上中との事! 間に合いません!」

 

「くそっ、民間人の避難を優先させろ、リバウは放棄する!」

 

 その言葉に誰もが息をのむ。

 

「っ! 駄目です!敵の進行が予想以上に速く、民間人の避難がに追いつきません!」

 

 怒号のやり取りは続く。

 

「陸軍ウィッチを避難に回せ、空だけで持たせろ!」

 

「それでは戦線が維持できません!」

 

「クッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランは焦っていた。

 

 普段ならば転移魔法で移動しているが、扶桑事変のように此方にも大量のネウロイが襲撃をかけて来たのだ。

 このことから、ネウロイが少なからず個々での連携は取れずとも、大まかな意志を持っていることは確かだった。

 

 セイバーの調整が進み、新たな力、インフィニットジャスティスが使えるようになった今、パワーで押し負けることは無いが、接近にある程度特化したジャスティスでは、数で来られると迎撃に時間がかかる。

 

 ある程度、数を減らした時点で、章香達に押し付k…、任せて来たが、それでも、リバウでネウロイが現れてからそこそこの時間が経ってしまった。

 

 セイバー改めジャスティスから現場の状況をサーチャーで見ていたため、リバウの壊滅を目の当たりにするしかできなかったことに舌打ちをする。

 

 

 そして、リバウへ。

 

 上空へ転移してから、改めて戦況を確認する。

 

 この戦闘、俺が参戦したところで立て直しは不可能だ。そう、頭の冷静な部分が判断する。できるのは、どれだけ被害を減らせるか。

 

「こちら、扶桑海軍所属のアスラン・ザラだ。司令部応答を願う」

 

 繰り返す、そう言って居たら相手からのコンタクトが取れた。

 どうも、此処から巻き返しができると思って喜んでいる所水を差すようで悪いんだが、それは不可能だ。それを伝える。

 

「戦線を援護する、今のうちに撤退を!」

 

 そう言いながらビームライフルを撃って小型ネウロイを撃破していく。

 

 クソッ! きりが無い。

 

 各々バラバラに街に進行していたネウロイ達が此方に向かって一斉攻撃をして来る。

 

 瞬時に一番近くに居る大型ネウロイに、楯に内蔵されているワイヤーアンカーで捕まえ、引っ張ってそれを盾にする。

 

 盾になった大型ネウロイは容赦ないネウロイ達のレーザーの雨により、なすすべなく消滅していった。

 

 ビームサーベルを抜き、コアのみを的確に切り裂く。

 

 フリーダムのように接近して、一気に抜刀術で倒す。

 

 ファトゥム-01を射出して遠隔操作で強引に道を作る。

 

 最前線で孤立しているウィッチ(少女)達が居る。今は彼女たちの救出が第一だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処を持ちこたえれば何とかなる!」

 

「無理よ美緒! 囲まれたわ!」

 

「そうだよ、美緒ちゃん!」

 

「しかし、何とかしなければ基地が、民間人が巻き込まれる!」

 

 そうして少し目を離した。その一瞬のスキが戦場では命取りになる。

 坂本美緒の目の前にネウロイが突っ込んで来た。

 

「なっ」

 

「美緒!」

 

「美緒ちゃん!!」

 

 今からシールドを出しても間に合わない。

 此処までか…、そう思いながらも、せめて、己を殺す敵の姿を見続けようと睨みつける。

 意味など無い事を知っていてもやらずには居られない。

 

 次の瞬間、緑色の光線が突撃して来たネウロイを貫き、ネウロイが消滅する。

 

 頬けていると何かが目の前を通り過ぎて、囲んでいたネウロイが消滅する。

 

「久しぶりだな、美緒、醇子」

 

「大師匠…、」

 

「先生!」

 

 安堵感から久しぶりに涙が出て来た。

 

「…、悪いが泣くのは、この戦いが終わってからだ」

 

「はい」

 

 言われたが涙が止まらなかった。ミーナは驚いた顔をしていて、醇子は苦笑いをしていた。

 

 大師匠が気を使って頭を撫でてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久々に会った孫弟子の美緒は、たくましくなったと思って居たが、最後の最後で泣いてしまう辺り、中身は変わってないらしい。泣き虫な後ろ姿とか。それがキラに重なって見えたからか、頭を撫でてあやそうとする。

 これだからアスランは腐女子に人気なんだろうな、そう考えてしまう。

 

 ともあれ、今はこの状態をどうにかしないとな。

 

「…、このまま戦線を維持する」

 

「そんな、幾ら先生でもこの数のネウロイを相手にするのは無理ですよ!」

 

「そうよ、無茶だわ!」

 

 無茶なのは百も承知の上である。あと、全然関係ないけど最後の子、ラクスと似た声だったな。まぁ、ミーヤと言う前例があるし。まぁ、ミーヤは中の人は一緒だけど。

 そのうち、歌姫とかになるんじゃないかね?

 

 っと、話を戻そう。

 

 何か右手で不幸な男を思い出した。

 

「なら協力してくれないか? 皆で笑って帰るって言うのが俺の夢だ…、だから」

 

 勿論、俺が全力でフォローするからと付け加える。

 

 そう言うと少し考える美緒と醇子以外の残りの一人は少し考える仕草をした後、渋々と頷いてくれた。

 

 そうと決まれば、そう口にして、ジャスティスに無事な武器庫の中から使えるだけの武器を近くに大量転移する。

 前の世界のマミの魔法のパクリ。まぁ、マミみたいに勝手に連射とかできないんだけど…。

 

 念話で皆の銃の残弾をジャスティスに確認して貰って、無くなり次第マガジンを転移魔法で補充、または、すぐそばに銃を転移することは可能かどうか聞いてみる。

 

(可能です、マスターは私を何だと思って居るのですか? マスターの、貴方だけの、唯一の相棒にしてデバイスですよ! 貴方が望むのを叶えるのが私の務めです)

 

 忠義心が強いというか、若干怖い発言してるよ。頼もしくはあるけど……、こじらせないでくれよ。

 

(それよりも、何を歌いますか?)

 

 いや、流石にこの状況では歌う余裕がないだろう。

 考えを察したのかジャスティスは

 

(良いから歌ってください。それが士気向上に繋がります!)

 

 確かに俺の歌う歌はバカ売れしていたけど、それ程の物なのかね?

 どうしてもそうは思えない。

 

 ……、思えないけど、相棒が、何時でも俺の事を第一に考えてくれる俺の剣が無駄な事を言うはずがない。俺も信じてみよう。どうせ、この状況で勝利はできないんだ。歌ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、私の歌だった。醇子でもミーナでもない。師匠でもない。

 

 強さの真の意味を解らないで居た頃の私。

 迷い、惑い苦しみ抜いた事があった。

 

 だが、仲間ができたから乗り越えられた。

 

 そして、告げている。常に強くあろうとしていた私に、弱さをさらけ出してもいいのだと。

 

 だが、心だけは夢だけは決して汚してはいけない、と。もとより、自分が天才であるとかうぬぼれた事は一度として無い。誰にでもついている普通の平凡な手だ。

 その平凡な手でも絶対に突き出す事、それを忘れないのならば。

 

 惨めでも、無様でも立ち上がることができるならば、天は私達に味方する。

 

 だから、自分自身の勇気を問え、決意を持て。それが私の剣だと。

 

 

 前を見る。

 ネウロイの群れが大師匠に集中している。

 これだけのネウロイ相手に勝てるはずがないと、此処にいる誰よりも一番わかっている人が、一番最前線で戦っているのだ。これ程頼もしいものは無い。

 

 心に強い火が燈る。

 

 大師匠に貰った大事な魔眼殺しの眼鏡をはずし、大事にしまう。

 

 無線で歌が聞こえているらしく、ウィッチ達が立ち上がり始める。

 

 

 

 

 

 

 その後、リバウ撤退戦は被害も少なく大成功を収める。特に殿で大活躍した美緒、醇子、ミーナ、アスランは軍から大手を振るっての感謝状と、勲章授与式が開かれたが、アスランはこれをすっぽかしてしまう。


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