慟哭の空   作:仙儒

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問答

 船に揺られて何日が経過しただろうか?

 

 転移魔法を使えば一瞬。

 

 扶桑からセイバーで移動すれば2時間から3時間半の旅路をこれだけの日数かけて旅してる。

 暇を持て余している。

 

 暇だから甲板で釣りしてたら章香に怒られた。

 確かに、甲板を掃除したりしている人が居たりしたので、不謹慎だったかもしれない。周りも注意しようにも俺の方が階級上だから注意できない。

 こういう所も気を付けなければならない。

 だからと言って何か手伝おうとすると、それもそれで、遠回しにその行動を周りに強要してるようなものだから手伝いもできないしね。

 

 この世界の書物は俺の肌には合わなかったので、シュート・イベイションや仮想空間で魔法の練習していたが、セイバーが少しは休めと強制終了させられた。

 

 歌うにも日がな一日歌うのは流石にできない。これが1日、2日だったら一人カラオケ気分で歌えるけど、旅立ってから早2週間。もうそんなテンションは残っていない。後、何日で目的地にたどり着くんだっけ?

 

 安全ルートで近道を迂回して回っているから余計に時間かかるんだよね。

 

 一人だけ先に飛んで行くわけにもいかないし…、アフリカ戦線に参加でもするか?

 何か砂漠の風作戦だっけ? 違う、それはガンダム。

 

 暇でごちゃごちゃになる思考を整える。

 

 よくよく考えてみれば、アフリカ戦線とて、常にドンパチやっているわけでは無い。

 セイバーが俺に伝えてこないという事は、今はネウロイは出ていないということだ。

 

 まぁ、軍人が暇なのが一番だ。それだけ平和と言う事だし。

 これから戦地へ赴くわけだし、この暇は差し詰め、戦場に入る前の羽休めと言った所か?

 

 体を休めるのも軍人の務めだな。

 

 …、昼寝でもしよう。

 

 

 

 

 

 これは夢か、これが夢か…、

 

 ウィッチ達が血を流して戦っている。

 それが、前の世界での魔法少女達の戦いみたいで見てて非常に腹が立つ。

 それが、インキュベーターの仕業でないことを思うと少しは気が紛れるが、丁度前線に居るウィッチ達が魔法少女と重なって見える。どちらもそう歳の変わるものでは無い。

 胸くそ悪いな、そう思った。

 

 少女達は戦っていた。

 

 俺も銃を手にしt…、

 

「待て」

 

 良く知った声が耳に届く。

 

 アスランの声だ。

 

「もう何もしなくてもいい、彼女達なら自分で戦っていける。それとも自分だったらあの悲劇を無くせるとでも言いたいのか!?」

 

 少し怒気を孕んだ声が腹の底に響く。

 

 確かにアスランの言う通りだ。

 でもこの光景を見て遠い昔、前、前世で夢見た輝き。

 

 手が届かなかったからこそ、輝きが増して見えた。

 誰かを理不尽なことから救ってみたい。

 

 勿論、そこに邪な思いが全くなかったかと言うと嘘になるが、根底にあった物だ。

 

 何時だって俺は非力だったから。

 

 だから、俺は力を持ちながらも優しくあり続けようと足掻き、もがき、苦しむアスランになった。

 他人から何を言われても、その根底だけは失わなかったアスランに憧れて。

 

 神様はそんなことで良いのかと驚かれたが、これが良かった。

 

 だけど、アスランになったからって、力を神様から貰ったからって、世界の理不尽は無くなることは無くて、

 

 転生して伸びきっていた鼻を思いっきりへし折られた。

 

 だから、

 

「思ってないさ。確かに最初は救えると思ってたけど、それは、傲慢だ。実際に被害は減らせても、零には出来なかった。それが現実だって、痛いほど思い知らされた」

 

「だったら!」

 

「ありがとう、優しいんだな、知っていたけど」

 

 口下手で、不器用なりに俺に声をかけてくれたアスラン。

 

 戦い傷ついた俺を心配してくれているのであろう。

 

 確かにこの先、幾度挫折するかわからない。

 後悔だって山のようにするであろう。

 

 そんなの、突き当たった時に考えるさ。

 

 良くも悪くもそれがアスランだから……、

 

「俺は戦うよ。何もしないで後悔するよりも、何かして後悔したい」

 

 それに、どんな道を選んでも後悔の二つや三つ必ず出て来る。

 

「それが罪を濁すためのものだとしてもか」

 

 アスランになったからわかった、アスランが背負っていた罪の重み。

 それでも、

 

「戦ってでも護らなきゃならない物がある」

 

 オーブ防衛戦でディアッカと出した一つの答え。

 

「…、良いんだな?」

 

「ああ、罪の意識からじゃなく、俺個人の意思で背負っていく」

 

 そう言って今も戦い続けているウィッチ達の元へと駆け出す。

 

「まて、選別だ、持って行け」

 

 そう言われると銃を持っている手とは逆の手に何か握っているのに気が付く。

 自然と口がニヤリと歪むのがわかった。

 

「ありがとう、セイバー。行こう!」

 

 そう言うといつの間にかセットアップ状態になっていた。

 

 しかし、何時ものセイバーと違い、本格的な騎士の姿になっている。

 

 呼び名を改めねばならないな。そう思うと意識が浮上する。

 

 

 

 

 

「知らない天井…、ではないな」

 

 目覚めて第一声がそれだった。

 なんだか大事な夢を見た気がする。

 思い出そうにも霞がかって思い出せない。

 

 体を起こし、時計を見る。

 もうこんな時間か、ずいぶん長く寝てしまっていたようだ。

 

 今までの疲れでも出たのだろうか?

 本当は栄養ドリンクでもあればいいのだが、無いのでラムネでも飲んでおこう。


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