慟哭の空 作:仙儒
私、北郷章香はイライラしていた。
それと言うのも全部アスランの態度にある。
言葉足らずで時々誤解をされるが、基本部下思いのいい上司だ。少将と言う階級に威張りもしない。他のプライドの塊だけの奴にアスランの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。
と、そこまでは良い。問題はアスランが男である事だ。
男と言うのは極めて貴重な存在だ。それは世界中で一夫多妻制を取っていることからも明らかで、古くは男をどれだけ身近におけるかで自身の権力が如何に強大であるかを示した時代もあった位だ。
それに、男は女を避ける傾向があり、ウィッチともなればなおさらである。
そんな中、アスランは違う。女を避けることはしないし、ウィッチであっても同様だ。
更には人類の希望と言っても過言ではない存在。階級も高い。容姿も良い。これだけの条件が整えば女が放っておかない。
少しでもお近づきになろうと、あまつさえお零れに与ろうと女が言い寄って来る。現にアスランの部屋には何人も女が毎日押しかけてきている。
それを毎回私が追い払っているのだ。
それに、向かっている先の国で待ち受ける女とは因縁がある。
ザラ隊の頃に観戦武官として居た人物で、何回もアスランに夜這いを仕掛けようとしたその人であった。その都度撃退はしているも、懲りることなくやって来ていた。
そんな女が背後に居る事も私のイライラを加速させた。
こちらの気も知らないで歌を歌うアスラン。
歌うなとは言わないし、私自身楽しみにしているので言えないが、そのせいで余計に女が寄って来るのだ。
どうにかならんだろうか?
「アスラン様がついに此方に向かっているとの情報が入ったわ」
大きな教会の中は一枚のステンドグラスを除いて、全ての窓が布によって閉ざされていた。
その教会の中には大勢の女性が黒いローブを被り、所狭しとひしめき合っている。
教会の一番高い像の前に立つ女性が声高々に宣言する。
すると、薄暗い教会の中は一気に色めき立つ。
「静粛に!」その声により再び静まり返る教会。
「ついに救われる時が来た! 思えばネウロイがこの世界に現れて数十年。我々は苦渋を強いられ続けて来た。それも今日を思えばこそだ!
今こそ我らも立ち上がる時が来たのだ!!」
そうだそうだ、とそこに居た誰もがその意見に賛同した。
違う意見の者は最早ここには存在しなかった。
此処に集う誰もがアスランを誰よりも敬い、
誰もがアスランを信仰し、
誰もがアスランを信頼し、
誰もがアスランを思って居る。
彼女たちの心は一つ。
「すべてはアスラン・ザラ様のために!!」
ザラ派が集う教会の唯一明かりを通すステンドグラス、神の降臨が神々しく光っていた。