慟哭の空 作:仙儒
「アスラン・ザラ、セイバーでる!」
空母から飛び立ち戦闘機型モビルアーマーに変形して一人加速する。
作戦海域までの距離はまだまだあるが、ライセンスがあると言って命令無視して出てきてしまったが、こればかりはしょうがない。
慢心し過ぎ。敵の規模すらつかめてない中の反攻する気のあるのかわからない、ずさんな反攻作戦。
その慢心しきったでっぱなへし折る事も考えたけど、それでどれだけの血が流れるかを想像したらへし折れないよね~。
そもそも、この作戦に参加しなければ良かったんだけど、俺抜きにしても作戦やるよと言われてしまえばぐうの音も出ない。
それに、北郷中将が土下座して作戦参加の願い出と、作戦変更できなかったことを謝罪されちゃえばね。断ることはできないかな。
どちらにしろこうなったわけか。
まぁ、今更か。
ネウロイを殲滅、或は人類に対して無害になるまでは、この世界で戦い続ける訳だし。
美緒達、怒っているだろうな~。
内緒で発艦しようとしたら、格納庫で全員待機してついてくる気満々だった皆をチェーンバインドでぐるぐる巻きにして出て来たからな。
あいつら待機命令出しても、命令無視して来てちゃうだろうし。
作戦が終わった後の事を考えると怖いな。
でも、一人で出てきて正解だったな。
今までのネウロイの中でも超巨大な敵が待ち構えていた。
何だ、あのデカさ。
そう感想を持っていたら、超巨大なネウロイから小型のネウロイが続々と出て来る。
成る程、大きいのが母機なのか。
なら母機を叩けばっ! 小型ネウロイが一斉に紅いレーザーをこれでもか、と言う程に撃って来る。
っち、そう簡単にやらせてはくれないか。
アスランの記憶の中では対レイの戦闘としてドラグーンの特性、そして、それらに対する対処の仕方をシュミレーションした経験がある。キラからの助言も貰った。
セイバーだと純粋なスペックの差がある為、レイの操るレジェンドには叶わないが、相手はネウロイだ。
動きも遅いし、レーザーの速度もビームライフの速度に比べれば全然遅い。
避ける事は簡単だが、ウィッチ隊と速度の遅い戦艦、空母等が居れば守りながら戦わねばならない。小型ネウロイの排除ならばウィッチ隊だけで事足りるが、泥沼の消耗戦になることは間違いない。
これは一人偵察に来て正解だったな。
そう思いながらM106 アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を薙ぎ払うようにして撃つ。
小型ネウロイの大量消滅を確認した。
だが、無駄だと言うようにまた大量の小型ネウロイが母機である超大型ネウロイが出て来る。
くそ、フリーダムみたいに一気に殲滅させることができればいいんだが、生憎とそういうシステムは積んでいない。
MA-BAR70 高エネルギービームライフルを連続で撃ち続ける。
その一発、一発が小型ネウロイのコアを撃ち抜いてネウロイを消滅させていく。
これじゃあきりがない。
(マスター! 新たなネウロイの群れが出現、艦隊に向かって進行しています)
セイバーから珍しく大きな声があげられる。
「まさか、こっちは陽動! 仕掛けに乗せられたか」
すぐにこの戦闘海域を抜けようとするが、小型ネウロイの群れが邪魔して艦隊の方へと行けない。
「っち、これでは此方も動けない!」
片っ端から撃って撃って薙ぎ払ってを繰り返している。
アスランの撃墜スコアは今、100を超えたところだ。
「あっちに向かったネウロイの数は?」
(此方ほどではないにしろ、かなりの数です。あちらにも母機と思わしき大型ネウロイが存在します)
どうしますか? マスター。そう言ってくるセイバー。
今この戦闘海域から抜け出せたとしても、後を追ってきたネウロイに挟み撃ちにされる。
……、どの道、このネウロイは此処で全て叩かなければならないか。幸いセイバーはオールレンジ攻撃に対処できる優れた機体性能を持つ。
「セイバー、通信回線を開いてくれ」
(わかりました。通信回線、開きます)
本当はこういうのラクスがやるんだけどな。
説得、政治、交渉ごとにおいては、彼女の方が上手い。
顔も広いし。まぁ、ない物ねだりしてもしょうがない。
「此方扶桑軍所属、ザラ隊隊長のアスラン・ザラ。連合軍に通達。其方に大型ネウロイが出現した。ザラ隊並びに連合軍ウィッチ達は速やかに発艦せよ、艦隊は砲戦準備に移られたし」
その言葉を繰り返す。
その間にもネウロイは空気を読んでくれはしない。
集中砲火を受けながら通信している。
小型のネウロイは撃っても撃っても減ることは無い。
やはり母機を叩かなくては駄目か。しかし、数が多すぎて近づくこともできない。
どうする? 方法はあるができればいざと言う時のカードとして取っておきたいが、このままでは泥沼の消耗戦へもつれこんで、壊滅。壊滅しなくても死人が何人出るかわからない。
戦艦にも魔道徹甲弾や魔道三式弾は積んであれど、アンチビーム爆雷やPS装甲を使用しているわけでもない。
アンチビーム爆雷とPS装甲は科学技術的な面でも開発費的な面からも無理だった。
「っち!!」
大きくワザとのけぞり気味に回避してそのまま急降下、そのまま海面すれすれを飛んで敵の集中砲火を避ける。
深紅の魔法陣が展開される。アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲を真下から撃ち込めば恐らくコアごと抜けると考えたのだ。
魔力が収束され、赤、否、紅の光が強くなる。
次の瞬間、
ネウロイの攻撃よりも紅い色の純粋な高魔力収束砲が小型ネウロイの群れを突き破り、超大型ネウロイに直撃する。
コアの周りの装甲はかなり厚くなっているが、セイバーがそれを見落としているはずがない。
その後、高純度の魔力による大爆発が起こる。爆発は小型ネウロイの群れを呑み込み、爆風は海に大きな波紋を起こした。
大師匠が私達の静止を聞きもせずに出て行ってから2時間。
私や師匠が発艦してから30分。
何とか持ちこたえているが、このままでは魔法力が切れて終わる。
艦隊司令部は大混乱に陥り、使い物にならない。
頼れるのは連合軍ウィッチ達だけ。
「きりがない!」
連合軍ウィッチ達の誰かが呟いた。
師匠も口には出さないが、疲れの色が顔に出ている。
今ならわかる。軍令部に対する師匠の怒りの意味が。現場を知りもしないのに偉そうにふんぞり返っているだけで、いざと言う時に使い物にならない。
それなのにプライドが高い。
それをわかっていたからこそ、大師匠は作戦海域よりも前に発艦したのだろう。
だが、それが悪手となった。
まさか、ネウロイが陽動作戦を仕掛けて来るなんて思いもしなかった。
長引く防衛戦はウィッチ達の士気を根こそぎ奪っていく。
魔法力も残りわずかだ。どうすればいい? どうもできない。
己が未熟さを恥じるばかりだ。
そんな絶望が支配する中、考え事を戦場でしていた時、それは起こった。
ネウロイの一匹が私の目の前に現れた。刀を抜くにも銃を撃つにも、シールドを展開するのも間に合わない。
ああ、死んだ。そう思った。考え事をしていた付けが来た。でも…、死にたくない!
そんな考えとは裏腹にゆっくりと動く世界。
せめてもの抵抗で目をかたく瞑り、私を終わらせる絶望の襲来を待った。
「えっ」
しかし、中々来ない衝撃に目を開く。
そこには、紛れもない良く見知った大きな背中があった。
「相変わらず泣き虫だな、美緒」
紅き羽の英雄。私の大好きな大師匠、アスラン・ザラ。
次に歌が聞こえて来た。
音に聞こえた戦場に響く勝利の歌。
紅き英雄が戦場に居て、歌声が響くとき、どんなに絶望的な状況下でも勝利をもたらすことから、戦場伝説として各地で噂されている物だ。
そして、それは大師匠が紅き英雄たる所以を知った。
それは、確かなる決意。
それは、ゆるぎない信念。
それは、自らの血潮の色に誓った物だった。
だから、大師匠は紅い色なのですね。
その意味を知ったから、ウィッチ隊も私達も立ち上がる。
まだまだ私達も戦える。護れる。
護らせて欲しい。
その思いが胸に灯として燈り、確かな熱となり、体全体に広がる。
それは理屈では測れない力だった。
ネウロイよ、これが”人間の力”だ。
先ほどまで絶望が漂っていたとは思えないほど、この場は今、希望に満ちている。
最近人前で歌を歌っても恥ずかしさを感じなくなった今日この頃。
人間なれとは恐ろしい物だ。
今回もセイバーからのどの歌、歌いますか? と言うオーダーが入った。
不謹慎だ! とか言われて、後で怒られないよね?
今までの経験から考えると怒られない。多分、きっと、maybe…、
さて置き、俺が帰って来る前よりも各国ウィッチ隊の動きが良いような気がするが、はて?
それはさて置き、まずは本命の動きを止める。
そこから戦艦による砲撃にてコアの露出、これをウィッチ達の集中砲火で叩く。
これにより、魔道徹甲弾や魔道三式弾の試験にもなる。
ぶっつけ本番だけど、威力シュミレートはセイバーの折り紙付きだ。
まぁ、ぶっちゃけ、ウィッチ達の助けになる程度の性能だけど。ウィッチなど不要だよと言われないように考えた結果だ。
幸い露払いはウィッチ達がやってくれる。
「ケージング・サークル」
魔法を発動させると、超大型ネウロイを囲むように深紅の輪っかが出現する。
これで、的は完成した。
「艦隊は超大型ネウロイに対して砲撃を開始! 速く!」
そう言うと主砲が超大型ネウロイを捕える。
それから連合軍と扶桑軍艦隊から集中砲火が始まる。
何発か撃ち込まれた砲弾が装甲を削りコアが露出した。
「砲撃やめ、ウィッチ達はコアに集中攻撃、この戦いを終わらせる」
そう言うと全員が一丸となって、コアに集中攻撃を与える。
今度の露払いは俺が務める。
そして、コアを無事に破壊することに成功する。
喜びの声が木霊する。
これにて、人類初のネウロイに対する反攻作戦。後に 扶桑海事変と呼ばれる無謀な作戦は大成功に幕を閉じた。
一応、今後今回みたいなふざけたことしでかしたら、扶桑軍をやめると釘は刺しておいた。