慟哭の空 作:仙儒
__助けて!
概念になり下がった男の元に声が響く。
最も、ある事情のせいで概念にすらなりきれずに、居る思念体、と言った方が正しいのか。
おかしなこともあるものだ。それとも、余りにも
だが、はっきりと聞こえてしまった。
苦痛に歪む少女の声を。
その少女が誰なのかは知らない。
しかし、ますますおかしい。
俺はそんな少女達を助けるために概念もどきにまで身を落とし、表舞台から消え、救済する装置のまねごとをやっているのに。
故にこれ程に苦痛な叫びを放つ前に少女は救済される仕組みになっているはずだった。
__お願い!誰か私たちの世界を助けて!!
まただ。
どうやら聞き間違いではないらしい。
そうして強い引力に引っ張られるのがわかった。
久方ぶりの感覚だ。
重い瞼を開けると草原の中に立って居た。
嫌な予感がする。
戦士の直感がささやく。地獄ができると。
そこで理解した。してしまった。
握りしめている右手を開くと、前の世界で散々世話になった相棒の姿があった。
「お前も俺はただ戦士でしかないと言いたいのか?」
問いかけに答える者はいない。代わりに右手の宝石が点滅した。
ああ、自分は何処まで行ってもアスラン・ザラなのだな。
世界は何時でもアスランに対して冷たい態度を取り続けて来た。
その度に、迷い、惑い、苦しみ、しかし、立ち上がり、前へと進んで来た。
アスランの相棒はそれを強いたわけでも、ましては、主であるアスランの言葉を賛提したわけでは断じてない。ただ、アスランの在り方に沿うように答えを導き出しただけなのだ。
はぁ、と深くため息をつく。
「ジャスティス、セットアップ!」
深紅の光が少年を包み、光が引くとそこには先程のような服装ではない、何処か騎士甲冑を思わせる格好だった。
「って、セイバーじゃないか。まあいい、悩んでいるのは後だ」
遠くで砲撃音らしきものが聞こえたため、今は深く考えないことにした。
前の世界で散々練習したため、直ぐに飛翔することに成功した。
変形して戦場エリアへと入り込む。
地獄だった。
ここはどこの世界だ? ファフナーの世界か?しかし、ファフナーの世界にこんな赤い敵っていたっけ。
砲撃が当たって消し飛んだ筈の胴体が再生していく。
(敵内部にコアらしきもの発見。転送します)
流石は相棒。すぐに見抜いたのか解析結果を現在進行形で更新しながら網膜にコアの場所を映してくれる。
そしてアスランの腕前さえあれば、動き回って居ようとコアを射抜くことは造作もない。
前の世界では動き回る上に手の獲物だけしか狙えない中を戦い抜いて来た。
C.E.の世界でもコクピット避けて当ててたしな。
第一射と共に複数の敵のコアが消し飛ぶ。
それと同時に此方の方を危険因子として捉えたのか、深紅のビームが此方に殺到するが、常に音速下での戦闘をして来たアスランの経験から言えば、取り敢えず数うちゃ当たると言った感じ。ビームの速度が妙に遅く、ぬるゲーの弾幕避けてる気分だった。
この世界でも火力はチート級のようだ。
変形してくるくる回転して攻撃を避けながらビームを撃ちまくる。敵前線はこれで一気に押し上げられる。
しかし、ちらりと兵士達の方を見たが、どうにもおかしい。
兵士達は全員女であった。男の姿が見当たらない。むしろ、こういった場所ではむさ苦しい男たちの仕事ではないだろうか?
まぁ、そこら辺も後で調べよう。この世界はまだまだ俺にとって未知なる物だ。前情報もない。
敵の事すらわからない。
そうこう考えているうちに、地上を蹂躙していた異形の物は居なくなった。
後は空の飛行機タイプを叩けば終わりだ。
未だに変形を解かずに戦闘機形態のままなのには理由がある。
純粋に顔を見られたくないから、と言うのもあるが、都市がこれ程壊滅的打撃を受けているにも関わらず、防衛機能が全く歯が立たない状況下、それを一人で叩いたとなると、最悪世界を敵に回しかねない。否、もう半分以上は敵に回っているとみて間違いない。
人間を信用していないわけでは無いが、人間が一番信用ならないのが世界の常だ。
その場合、本体である俺の身元がバレないのが一番大切なのだ。それにこの世界にアスラン・ザラと言う人物が居るとは思えない。
圧倒的だった。
赤い翼の戦闘機が現れた瞬間押されていたネウロイ達を一方的に屠っていく。
新型のネウロイかとも思ったがネウロイがネウロイを襲うなんて事例聞いたことない。
少なくとも私達が知る限りでは無い事だ。しかし、戦闘機にしてはいささか小さすぎる。
どこかの軍の新兵器だという事も聞いていない。
取り敢えず、そのあたりの事は基地に戻ってから調べたほうがよさそうだ。
戦闘機と思わしき物はネウロイを殲滅すると、凄まじいスピードで戦場跡を離脱していった。
しばらく呆気に取られていた兵士たちが、ようやく状況を把握したのか勝利の歓声が木霊する。
人類はネウロイに常に後手後手回されていたせいか、突如として現れたアンノウンに人類の反攻らしい反攻行動が起こったせいか、都市は壊滅状態だが、地上の人々の歓声は凄まじく、ネウロイの攻防に頭を抱えていた軍のお偉いさん方も新たな敵の可能性を視差するよりも、勝利の美酒に酔いしれていた。
あれから2日たった。現在は日本改め、扶桑皇国にある帝国ホテルにて過ごしている。
この世界に来た日にこの世界の事をあらかたジャスティス改め、セイバーが情報を集めて教えてくれた。
どうもこの世界、俺たちが住んでた世界よりもだいぶ時代が古い事。そのことに関しては新聞でも確認した。
俺たちの世界で言う所の第二次世界大戦が始まる前後なんだけど、その気配はなく、代わりに、未知の生物、「ネウロイ」が人類を脅かし、それを打倒するために世界は一応手を取り合っているらしい。
そして、この世界では古来よりウィッチと言われる者たちに導かれて来たらしい。
この世界にはこの世界で固有の魔法体系が存在しているのだ。しかし、それは女性に限った話であり、20歳前後がピークとされている。中には例外も何人かいるらしいが……、おおむね理解できた。
しかし、理解できない部分も出て来た。
この世界ではウィッチと呼ばれる者たちに導かれてきたと言ったが、そのせいなのか男性と女性の在り方が逆転している。加えてウィッチ達は古来より魔力に守られて生きてきたが、魔力を持たない男性は多くは病気で命を落としている。体が弱いわけでは無いのだが、ウィッチに比べると遥かに多い。
そして、女性には少なからず魔力を帯びた血が流れているらしいので男性よりもパラメーター全てが勝っているらしい。そんな時代的背景があるせいか、男性の絶対数が少ないのだ。それが古代より続いていると言えば理解できるだろう。
普通女性の遺伝子の方が強い場合男が生まれるんだけど、この世界では女が生まれるらしい。で、男性の人口は世界的に見ても右肩下がり。それはもう、国が動くレベルで。
一夫多妻制が取り付けられるほどだ。ただ、強制しても子供ができなければ意味がないので強制ではない。ただ、子供ができると国からの補助がでるので子供だけ作ると言う家庭が多いみたいだ。そこで男の子が生まれれば国が希望があれば大学まで学費やなんかを援助してくれるので、研究員になる根暗な奴が多い。
ただ、それが功を成しているのか、研究、開発においては男の右に出る者はいない。とは言え、この時代背景にあった物に限るが。
有名どころは藤宮博士と言う人物。何でもウィッチの力を数倍にし、それを効率化することで、対ネウロイ戦闘が有利になったとかなんとか…、そんな感じ。
有利にならなくても、希望を持つだけには十分な時間を稼げた、と言うべきか。
話は戻るが、そんなわけで、男は公的にエリートヒキニート、女は男を求めて大暴走。性的に。
それを男性が嫌悪して余計に未婚の女性を増やしていた。
これ元の世界に置き換えるなら、思春期の男子嫌悪してる女子の図やん。