我ら、八ツ橋高校科学研究部!   作:ぺんたこー

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「こんにちわー!」

 奈々が部室に入る。

「おーっす。」

「何だ、ちびすけか。」

「あれ?ぶちょーは?」

「奥で着替えてるぞー」

 そう言われると、おっけーとだけ返事をして奥にある更衣室へと向かった。

「部長こんにちわー!」

 奈々は挨拶をすると同時に更衣室のドアを開けた。結構勢いよく。

「ひぃい!って、奈々ちゃんかぁ…ビックリした〜」

 その言葉に違和感を感じ取りしばらく沈黙が続く。それを打ち破ったのは部長だった。

「ど…どうしたの?」

「いや、昨日と喋り方が違うなぁって思って…」

 部長の顔が真っ赤に染まる。手に持っていた白衣で顔を隠してしまう。

「それは…その……」

 これほど緊張する必要があるか。しかもこんな年下に。

「じゃあ、昨日つけてたやつは?」

「あ…コレ?」

 部長は奈々が指差した、ロッカーの中に入っていた変な仮面を取り出した。

「そう、それ。」

「コレは…そのぉ…」

 ますます、しどろもどろになる。

「お〜い!ちびすけ、ちょっと手伝ってくれ!」

「あっ!駆我さんが呼んでる。ごめん部長、ちょっと行ってくる。」

 

「すまんな、ちびすけ。ちょっとここの溶接を頼む。」

 頼まれた作業はとても簡単で、それこそ奈々にも余裕で出来ることだった。奈々で余裕なら駆我さんは秒でやってみせるはずだ。

「もう!そんなの自分でやればいいじゃん!」

「あれを見てもそう思うか?」

 駆我が指差した方に目を向けると燃え盛る炎が部屋の角を淡いオレンジ色に変えながら大きさを増していた。

「何かが何かに引火して、何かしらの化学反応が起きたらしい。今、冷却装置を作っているのだが作業が間に合わな…」

「勇のやつははどこ行ったんや!」

 言葉を遮るようにして奥から部長が飛び出しながら言う。

「さっき、仕事に行きました。」

「……後で詳しく聞くわ。」

 部長は関西弁でそう言うと三人は冷却装置を作り始めた。

 

「できた!」

 作業開始から3分もかからずに冷却装置が完成した。つまり3分間部室の角っこは酸素を使ってメラメラと燃えていたのだ。火は大きくならないが小さくもならない。

「えーっと、これの名前は……ひやりん!」

「いや、そこは漢字で『氷刻(ひょうこく)』というのはどうや!」

「英語で『アイスフォーメーション』とかどうや?」

 誰が見ても、今するべきではない会話の中、突然ドアが開き勇が焦った顔で入ってくる。

「ぅおおぉぃ!なにやってんだ!部屋燃えてるじゃねーか!」

「あ、忘れてた。」「忘れとった。」「忘れてた。」

 三人顔を見合わせる

「消せよ!」

「何を?」

「火だよ!ちょっとどけ!」

 勇は持っていた鞄を乱暴に投げ、積上った機材の山をかき分けて赤い円柱形のものに黒いチューブがついたものを引っ張りだす。

 それの上方部分についた黄色い部品を引き抜き、チューブを炎に向けてグリップを握る。

 するとチューブの先端から桃色の煙が吹き出し、炎を徐々に小さくしていった。やがて火は消え、勇は疲れきった顔でため息をついた。

「ふぅ、危なかった…」

「お前それ何だ?」「そんなスキル作ってたの?」「すごいやん…」

 三人の反応に勇は肩を落とす。

「これ知らないの?」

 三人は口をそろえて、知りませんと言う。

「これ…消化器だぞ?」

 それを聞いた三人は雷に撃たれたように衝撃を受け、口をあんぐりと開けたまま硬直した。

「これが消化器…」

「まさかこんなところで出会えるなんて…」

「そんなことより、何が燃えてたんだ?」

 勇が今は真っ黒に焦げている部分に近づく。

「何だこれ?」

 灰の中に埋もれている溶けた瓶をつまみ上げ、ラベリングされている文字を読み上げる。

「U…」

 勇は三秒間、脳をフル回転させて考える。

「まさか、ウランか?」

 その問いに駆我が答える。

「そうだが?」

「瓶のふたは開いていたか?」

「あぁ、多分開けっ放しだった。それがどうした?」

「やっぱりか…あのなぁ、ウランは自然発火性物質だから湿度が高いと火がつくんだよ。」

「…!そうだったのか、気をつける。」

 反省する駆我を横目に奈々が口を開く。

「そういえばゆうさんどこ行ってたの?」

 少しの間、沈黙が続いた。部長がそれを打ち破る。

「うちが説明するわ。」

「あ…その前に部長の喋り方の件を…」

「これか?これはうちのコミュ症を改善するためのもんや。」

 奈々の頭に?が浮かぶ。それを見て部長は言葉を付け足す。

「この仮面型のスキルをつけて、喋り方を変えることで自我を保てないようにして、意図的にもう一人の自分を作る。まぁ、あくまで話してるのはうち自身やから記憶とかは全部引き継いでる。まぁこれを化学武器と呼んでええかは分からんけどな」

「ようするに、強制厨二病製造マシーンだ。」

勇が横からささやくと部長が「うるさいわ!」と言ってポカッと頭をたたいた。

「そうなんだ。じゃぁ、ゆうさんの仕事は?」

 言い終わる前に学校のチャイムが鳴り響く。気づけばもう外は夕日に照らされ真っ赤に染まっていた。

「もうこんな時間か…勇の仕事いや、うちらの仕事のことはまた明日話すわ。そんじゃぁ解散!」

 

 夕日が照らす帰り道、奈々は一人こう思う。

 やっと、あの部活の本当の姿が知れる…かも。あぁ、明日が楽しみだなぁ。

 家へと歩く足はいつしか、スキップになっていた。




こんにちは、ぺんたこーです。
読んでいただきありがとうございます。
今回は勇以外の三人がどれだけ常識知らずかを知っていただきました。
そして次回からバトルシーンが豊富になると思います。
ついに科学研究部の本業が明らかに!
それではまた次のあとがきで会いましょう!

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