「どうしていつもいつもこんな酷い点数とるのぉ!」
「いてっ…どうしてって言われても…いてっ!」
「もぉ!次の模試まで勇は
「「そ、そんなぁ〜!」」
「ちょっと勇さん!!」
放課後、部室にて、俺、説教中。
未だに理解できないこの状況を俺、南古都 勇は理解できていない。理解できないのだから理解できてなくて当然なのだが…
床に仰向けで寝ている俺の腰の上にはオーバーオールの女の子が立っている。特殊すぎる状況をどう理解しろというのだろう。
テンペストキーと名をつけた斬れ味超特化の武器、それのコダチという小さなナイフ型の剣の回収と無差別に子供の心臓だけを持ち去る
いつも通り家に帰り、仮眠。起きて黒焦げのパンを食いながら学校へ到着。六限まである授業を終え、部室へ向かうとドアの前で奈々が腕を組んで仁王立ちで待っていた。
歩いてくる俺に気がつくと奈々は小さな体を生かして俺の股下へ綺麗なスライディングで滑り込み、右手に隠し持っていた
そのまま部室へと引きずり込まれて今にいたる。
「聞いてるの?」
「聞いてない。というよりなんでそんなに怒ってるんだ?」
「勇さんが昨日…今日の朝の依頼の後片付けせずに帰ったからでだよ!」
浮かぶ疑問。なぜ片付けしなかったことを怒っているのか
長年の疑問だ。そういえば部長にも怒られたことがあった。
足を確認する。まだ痺れは残っているが動かすには十分だ。
「おい奈々、覚悟しろよー」
次々と説教を繰り出す奈々に軽く注告すると、俺は腰に乗っている小さな足を掴んで奈々を垂直に持ち上げる。
急に足が地面から離れた奈々は驚愕と恐怖で慌てふためいている。
奈々の足の下から体を退け、代わりに転がっていた
「この
俺は奈々の足首を持つ力を本当にゆっくり、しかし確か弱めていく。
「さあどうする!俺を許すか!足を失くすか!」
「いやぁぁああぁぁ!!下ろしてぇぇぇえええ!!」
「手を離していいんだな?」
奈々の下には獣噛みが設置されている。
奈々は首を横にぶんぶん振り、必死に否定する。
「だったら答えろ!許すか!足か!」
「許す!許す!許すから安全なとこに降ろして!」
最大限暴れた奈々を
「ひどいよ勇さん!」
「なにがひどいだ!会うなりバチってくるほうがひでぇだろ!」
「うぅ…」
奈々が反論できないでいると部室のドアが開き、黒髪ロングストレートでコミュ障の部長が入ってきた。
「おっはよぉ…ってなにしてるの勇…」
「おはようございます部長。俺はなにもしてないです」
昼なのに朝の挨拶を返す。
「じゃあなぜ奈々ちゃんは泣いてるの?」
部長の言葉で奈々の方を向くと地面を濡らすそうと涙が下へ落ちていく。
部長は持っていた
放課後、部室にて、俺、再説教。
「許してくださ…ッ!」
再び響く鈍い音。部長は自分の身長ほどあるシンプルな形の大剣を軽々と振って、その側面を俺の頭にぶつける。
いくら軽量といえど頭に金属をぶつけられると痛い。
「あ、そういえばぁ情報屋からお手紙きてたよぉ」
右手で大剣を持ちその刀身を俺の頭に乗せたまま、部長は左手で制服の胸ポケットから器用に手紙を取り出す。
「HARDの居場所ですか?」
部長は今回はこれで許すというように大剣を壁際の床に勢いよく突き刺すと軽く頷いた。
「どこなんです?」
まだ痛む頭を押さえながら立ち上がる。
「それがねぇ…」
大剣に軽く体重をかけている部長は複雑な表情をあらわに続ける。
「全員この高校にいるらしいのよぉ…」
俺は再び理解できない状況に陥った。
敗走にまで追い込んだにしろ、廃ビルを使った巧妙な作戦で駆我を
「え…?じゃあ今から会おうと思えば会えるってことですか?」
「うん…、しかも秒でぇ…」
灯台下暗しとはこのことだ。つい先日、本気で殺し合いをした相手が同じ学校で暮らしているなんて誰が考えるだろうか。
「…で、どうするんですか?部長」
同じ学校の生徒ということは、HARDのメンバーの誰か一人でも死ねば緊急集会が開かれ、追悼が行われるということだ。
ここは敵味方お互いに引くべき状況である。
「とりあえず会ってお話ししましょぅ…」
いつもよりさらに活気の無い声は、部室の空気までも変えてしまった。
「でもぉ私は会ったら討伐しちゃうかもしれないからぁ、かかりと奈々ちゃんで行ってきてぇ…」
「俺はどうするんですか?」
名前を呼ばれなかった勇が問う。
「勇はオオダチ手入れしてしまっておいてぇ」
オオダチとはさっき部長が勇を叩いていた剣のことだ。
「え?あ…」
事に気づいた勇は目を見開き間抜けな顔で剣を指差す。
「あれテンペストキーだったんですか」
「製作者が忘れないでよぉ!」
弱々しく怒鳴る部長。
八ツ橋高校科学研究部の裏の姿、
気だるそうにオオダチの柄を持ち、軽々と持ち上げて部室奥のロッカールームへ向かう勇を見届けて、
HARDの居場所はすぐに分かった。
科学研究部とは似て非なる存在。科学研究部の一つ下の階に位置する技術・工芸部の部員だった。
放課後である今、科学研究部は活動を一時停止、裏の顔
「はーい!」
活気のある声の後すぐに扉が開き生徒が一人顔を出す。
「なにかご用ですか?」
奈々より高く部長より低い身長の少女は「ロウェイド・リリィ・コンシェータ」という名前らしい。ハーフなのだろうが日本でいることが長いのか、発音はとても綺麗だった。
「えっと…どうしました?」
困惑する少女は足に包帯を巻いていた。廃ビルからの逃走時、部長の
その傷を見て
「足の傷、剣か?銃か?」
少女の表情が曇る。動揺と葛藤に
「場所を変えましょう」
「この前と同じ屋上でいいか?」
無言で頷いた少女はちょっと待ってと言うと部屋へ入っていき、しばらくして戻ってきた。先程とは服装が変わっており、八ツ橋高校の指定制服からブラウンが主体の大人しい服になっていた。
「行きましょう」
こうして駆我と奈々はコンシェータを連れて屋上に向かった。
廊下を歩いていると普段見慣れない、制服以外の服装が注目を集めた。当の本人は気にする様子もなく、むしろ一歩一歩、堂々と屋上への道を辿って行く。
屋上へ続く扉は当然のように閉鎖されていた。南京錠が扉を強引に塞ぐよう掛けられていた。
一目みると駆我、何の躊躇いもなくポケットから出した小さな
屋上に出るとそこには開放感に満ちた世界が広がっていた。グラウンドを一望できる高さ、雲一つない青空、間を持て余すほどの広さ。
そして、戦うに十分な足場。
「お前を呼んだのは他でもない」
コンシェータを鋭い目で抑えながら駆我は白衣を
「『テクノ』とはなんだ?」
技術・工芸部部員の少女は黙りこむ。視線に耐えながら打開策を実行する。
相手に悟られぬよう呼吸を乱さず慎重に、脳裏で描いた勝利の軌道をシュミレートする。
自分との勝負。葛藤を演じる少女。勝利を確信した瞬間、内ポケットに腕を突っ込み
一閃
ロリポップが放物線を描く前につま先から右手を綺麗な一直線に伸ばして跳躍した駆我が、振り上げられた少女の腕をがっしりと掴む。
少女の腕から落下した
「毒煙か。お菓子に偽装するとはいい案だ。…だが」
足下のロリポップを煙の害が及ばないほど遠くへ蹴飛ばし、少女の腕をさらに強く掴む。
「さあ、テクノとはなんだ?」
再び浴びる心臓を掴まれるような視線に、少女は口を割るしかなかった。
こんにちは、ぺんたこーです。
とても久しぶりですね。
今回は科学研究部とは別の部活、技術・工芸部が登場しました。一応学校ですからいろいろな部活があります。
彼らの今後の活動にご期待下さい!
ではまた次のあとがきで!