驚く間もなく、悲しみを上回る衝撃が私に襲いかかる。
私は思わず叫ぶ。
倒れた部長に駆け寄るが、その身体はまるで死んでいるかのように動かない。
「部長!部長!!ねぇ!起きてよ!!ねぇ!!ねぇ……」
身体を大きく揺さぶるが一向に返事は返ってこない。目を開いたまま力なく横たわる部長は、儚く、美しく、切なく、静かだった。
押し潰されそうな心をなんとか保ちながら私は考える。
まずするべきことは何か。思いついたのは三つ。部長の身体を安全な場所、つまり車に運ぶこと。誰かに状況を伝えること。自分の身を守ること。だ。
私は部長をおんぶしようとする。しかし、いくら部長が高校生のわりには身長が低いからって、身長差がありすぎる奈々に持ち上げることはできない。私は仕方なく部長の足を持って、力まかせに引っ張る。部長の頭から流れる血がコンクリートの道に赤い道を描いていく。
車まであと数メートルのところで二発目の弾丸が降る。奈々は先程部長に貰った防具をつけている。それでも頭を狙われれば意味のないことだ。私は恐怖を押し殺して車を目指す。
車の中に入る寸前、三発目が射出される。弾丸は風の抵抗を受けながら奈々に向かって飛んでいく。
動かない部長を奈々が運転席側から車内に押し込むのと、弾丸が奈々に当たるのは同時だった。
弾丸は奈々の左横腹に着弾する。
「うげぇ…」
防具のおかけで貫通こそしなかったものの、防具の鉄板ごと奈々の横腹にめり込んで不快な感触を味わう。冷や汗が溢れ出し、首元を伝う。
私はどうにか車の後部座席へ飛び込み、一時的な安全を得る。ドアを閉めて車内を見回す。通話機器などは見当たらない。次に私は運転席に無理矢理ねじ込んだ部長の白衣のポケットを探る。すると携帯電話を発見した。震える手ですぐさま起動する。
「………パスワード」
私は再び考える。4ケタの暗証番号を、部長が設定しそうな数字を考える。しかし私は部長のことが全く分からない。知らないのだ。
可能性。数字が10個(0〜9)を4ケタ、つまり10×10×10×10。10の4乗。10000通りを片っ端から試すという方法もなくはない。だがそれは普通に考えて無謀だ。何者かが奇襲を仕掛けてきた今、次に何が起こるか分からない。
「くぅぅ…」
もう殆ど諦めていた時、ふと思いた数字列を入力する。
「…
結果、ロックは解除された。部長のパスワードを当ててしまった。してはいけないことをしたような気持ちになるが、というかパスワードが高校の名前って簡単すぎる気もするが、今はそんなこと言ってられない。私は携帯電話を操作して電話帳を開く。そして登録されている電話番号の中からゆうさんの名前を探す。そしてゆうさんに向けて電話をかける。
待機音が5回なってもゆうさんが出る気配はない。私は諦めて
「-どうしましたか?部長-」
この携帯電話が部長のものだと再確認する。
「くっくくく駆我さァァん!!」
舌が回らない。
「部長がぁあ!あぁあああぁぁあぁ!!」
張り詰めていたものが、知り合いと通じたことで溢れ出し、自分でも何を言っているか分からなくなった。
「-ん?ああ、ちびすけか。落ち着け!状況を説明しろ-」
私はぐちゃぐちゃの顔を服の袖で乱暴に拭きながら今陥っている状況を端的に伝える。
「-…分かった。ちびすけ、運転席側のドアにボタンがついているだろ?その中の『
私は後部座席から身を乗り出し、運転席を覗く。急いで詰め込んだが為にありえない形でそこにいる部長を押しのけながらドアへと近づく。そしていくつもあるボタンの中から駆我さんの言ったボタンを押す。
「-今からそっちに向かうから携帯電話の電源は切らずに…-」
駆我さんはそう言って通話を切った。少ししてから、不自然に会話が途切れたことに気づく。私は手に持っている端末の起動ボタンを押す。しかし画面はつかない。電源は切っていないはずだが、機体は一切動かない。再起動を試みるが私が使っている携帯電話。つまり部長の携帯電話の電池が切れていた。
「もう無理だよ…」
私は車内で一人つぶやいた。
こんにちわぺんたこーです。
念のため表記しておきますが、この小説に主人公は存在しません。いるとするなら八ツ橋高校化学研究部の人たちです。
そしてこの小説は
以上、念のための表記でした。
それではまた、次のあとがきで!