私はゆうさんが勝ったのを確認すると、リングへ向かって走った。ゆうさんが発砲したと思ったら急に爆発が起きたのだ。煙が引くと発砲音がもう一度聞こえてルートさんが動かなくなっていた。私がリングを登るとゆうさんは対戦相手の遺品を担いでリングを降りるところだった。
「お、奈々、どうした?」
「どうした?じゃないよゆうさん!大丈夫なの?」
揚がった息を整えながらゆうさんの後ろをついていく。方向からして多分受付へ向かっているのだろう。
「大丈夫なの?って言われても…無傷なんだから大丈夫だろ」
人混みをかき分けながら歩いていく。ゆうさんは回収したスキルのパーツを肩に乗せて担いでいる。かなり大きく、結構重そうだがゆうさんの顔は全然辛そうに見えない。きっと見た目のわりに質量は無いのかもしれない。
受付に着くとゆうさんは手っ取り早くリタイアして、私達は狂気の戦場タルタロスを後にした。車の後ろの荷台にゆうさんが担いでいたスキルを置く時、車が傾いた気がしたが気のせいだろう。
依頼の物を部室へ帰る途中ゆうさんが部活について話してくれた。
「八ツ橋高校化学研究部は依頼を受けて、それを遂行する。依頼は3種類あって、目標を仕留める『討伐』、頼まれた物を調達する『回収』、それ以外の『特殊』、だ。だいたいは
「今回は回収だったってこと?」
私が聞くとゆうさんは、そうだと答えた。
「じゃあ、その『特殊』ってなんなの?」
ゆうさんはすぐには答えなかった。深呼吸をしてから答えた。
「『特殊』はさらに細かく種類分けされる」
ゆうさんは静かにハンドルをきる。
「まずは『安全』、スキルの改造や買取なんかをするんだ。他の依頼に比べて安全度がかなり高い。次に『危険』、取引や偵察をする。あくまでもこちらからは仕掛けないから討伐とは別物だ。最後に『極限』だ。」
説明を終えるとゆうさんは黙ってしまった。
それからしばらくエンジン音のみが聞こえるだけだったので、私は窓から外の景色を見ていた。何も考えずに流れ行く景色を見つめる。
湯豆腐、うどん、ハンバーガー、ショートケーキ……
何故か食べ物ばかりが認識してしまう。そんな自分が嫌になったのか私は目線を上げ、空を見た。どれだけ地上が色褪せても、いつも変わらず青い空を、ただぼーっと見つめる。
「ねぇゆうさん、空が青くなくなったら、それはこの世の終わりってことなのかな?」
「急になに言い出すんだ。フラグが立つぞ」
私は、そうだねと言って運転席の方を見るとそこには、
「……ゆうさんなに食べてるの?」
「なにって…ぬれ煎餅だが?」
ぬれ煎餅を食べているゆうさんがいた。
しばらくして学校に着くと駐車場に車を停める。学校に車を停めても大丈夫なのかと思ったが、免許も持ってるし部活動の一環だと言って学校側も納得しているとゆうさんが言っていた。
部室に着くと部長がいた。
「おかえりぃ、大丈夫だったぁ?」
相変わらず変な喋り方だ。
「ええ、何もありませんでしたよ。これが今回の依頼品です」
そう言うとゆうさんは肩に担いでいたスキルを部長の前に降ろす。スキルが地面と接触する時に、ドスンッという音がした。やはり相当重いようだ。
「そういえば部長、どうして今日はお面つけてないんですか?」
私がそう言うと部長は急に頰を赤らめて目を回し始めた。
「あのねぇ…作った人格で喋ってる間はいいんだけどねぇ、仮面をとった後にねぇ…とっても恥ずかしくなるのぉ。強制的に人格を作っても、記憶は維持してるからぁ…だからそれだったら、頑張って喋った方がいいと思うのぉ」
「そうだったんだね…」
切ない理由に自然に苦笑いが漏れる。
「それはそうと部長!今回の報酬はどうなったんですか?」
ゆうさんの問いかけに答えた人はいなかった。強いていうならゆうさん自身が答えた。
「また部費になったんですね…」
その声はとても小さかった。そしてその次に発せられた言葉は、今のゆうさんの心から漏れた本音だったのかもしれない。
「頼みますから…そろそろお小遣いを下さい……」
こんにちは、ぺんたこーです。
一応ここで一章は終わります。次からは二章ということになりますね。
あと化学武器図鑑的なものを作ろうと思います。ですがこれは別小説ということで投稿することになりそうです。週一回の更新が目標です。挿絵も挿れるつもりです。
それではまた次のあとがきで!