───How do you like fate?───
2017年、某日、京都タワー前。
「先にお土産買っとく?」
昼御飯を食べたカルデア一行は先ず京都駅周辺を探索しようと京都タワー前にいた。
「先輩、それは後でよろしいかと帰りに買った方が日持ちの関係上いいとエミヤ先輩が言っていました」
「………あー…………」
マシュの言葉を聞いて京都の空にエミヤの笑顔を幻視した藤丸。
配布されている京都のバスの路線地図を広げ、どうするか考える一行。
「うーん、先ずはバスの一日乗車券買ってしまおうか」
「うん、確かに。バスの一日乗車券あれば京都市内であればフォローは出来るしね」
「うし、じゃ、ごめん、小太郎……」
「買ってきました、主殿」
買って来てくれ、という藤丸の言葉より前に先に買っていた小太郎。
流石、カルデアで気のきくサーヴァントの上位に入る一人。
京都に来なかったが呪腕のハサンもその一人である。
「あ、ありがとう」
ただ、サーヴァントたちの先読みのレベルが高過ぎて、藤丸が逆に困惑してしまうパターンも多いのだが。
小太郎から一日乗車券を受け取りながら、そう言えばとふと藤丸は疑問を覚えた。
「そういや、ダヴィンチちゃん宿はどうしたん?」
「ん?ああ、電話でちゃんと予約しておいたよ。
もちろん二人部屋を二部屋ね」
「「「「「「「ん?」」」」」」」
ダヴィンチちゃんを除く全員が首を傾げた。
何がもちろんなのだろうか?8人いるから四人部屋を二部屋なら分かるのだが。
「え?四人部屋を二部屋じゃなくて?」
「ああ、旅館の人も困惑してたよ。
8名様でしたら四人部屋が空いてますからそちらはどうですか?と。
私は言ってやったよ、いいや、二人部屋を二部屋と。四人部屋にするなら安くしろと」
「いや、その理屈はおかしい!」
「そりゃ、旅館の人も困惑するじゃろうよっ!」
おき太とノッブがダヴィンチちゃんに突っ込んだ。
「待て、ダヴィンチちゃん」
嫌な予感がした藤丸はダヴィンチちゃんに問いかける。
藤丸は嫌な予感に冷や汗が止まらない。
「なんだい?藤丸君」
「………部屋割りってどうなってん?」
その藤丸の言葉にニヤリと笑うダヴィンチちゃん。
ピシッと固まる女性陣たち。
「ふっ、良いところに目をつけたね………」
ダヴィンチちゃんが人の悪い笑みと同時に言葉を紡ぐ。
全員がゴクリと唾を飲む。
「これから決めるに決まってるじゃないか」
「ゲオル先生、小太郎、ダヴィンチちゃん頼む」
藤丸の切なる願いにダヴィンチちゃんを除く二人が涙した。
「ダメだよ、藤丸君。
男四人とかそんなんじゃ、面白くないだろう?部屋割りは君一人、女性陣の中から3人だ」
「なん………だと………」
お前は女性なのか男性なのかどっちかにしろ、と思いながら藤丸は膝をつく。
そんな中、女性陣たちは闘志の炎を燃やしていた。
「ふっ、ついに沖田さんの本領発揮と言ったところでしょうか?」
「はっはっはっ、抜かしおるではないか、壬生狼ごときが?」
「せ、先輩の貞操はわたしが守りますっ!!」
「…………………チャキッ」
おき太とノッブ、マシュ、ハサンは既にスイッチが入っている。
無言で暗器を持っているハサンが何気に恐ろしい。
今、ここに聖杯戦争ならぬ、部屋割り戦争が始まろうとしていた。
四人のうち一人は省かれる、逆ならともかくこれは酷い。
「………オレ、鴨川で寝ようかな……」
藤丸の悲しい呟きは誰にも聞かれることはなく雑踏に流れていった。
部屋割りは女性陣たちが勝手に決めるだろうと藤丸は溜め息を吐きながら、勝手に盛り上がる女性陣たちを尻目に取り敢えず一人で次の目的地を決めようとする。
「さて、何処にいこうか?」
「現実逃避だね?わかるともっ!」
「帰れ、マーリン」
いつの間にかいたマーリンに腹パンをかます藤丸。
ぐぉぉっ、と腹を押さえて踞るマーリンに藤丸は何度目かの溜め息を吐く。
マーリンという目立つ人物がいるというのに誰も気にしていないのはマーリンが認識阻害の魔術をかけているからだろうか?
「何で来てんの?」
「いやなに、楽しそうなイベントがあると聞いてね」
「はっはっはっ、マーリン、お前の目は節穴か?」
藤丸はマーリンの目に容赦なく目突きを行った。
「イイッ↑タイ↓メガァァァ↑」
目突きをくらったマーリンはごろごろと地面を転がる。
そんなマーリンを無視しながら地図を見直す藤丸。
「ホントに何しに来たのさ?」
「……いやいや、少しばかり我がマスターの様子を見に来たのさ。モードレッドが見に行けと特にうるさくてね……」
ケロッと立ち上がるマーリン。
マーリンの言葉に藤丸は地図から顔を上げて申し訳なさそうな顔をする。
「あー、なるほど……今回はモーさんは誘わなかったからなぁ……悪いことしたかな」
「マスターの故郷をみたいと思うのはサーヴァント全員が思ってることさ、そこはしょうがない」
「そんなもんかな………」
マーリンが微笑みと同時に優しく藤丸の肩をポンと叩く。
「まぁ、今は君が守った世界を我が儘に楽しむといい、君にはその権利があると私は思う」
「……なんか、企んでる?」
「ハッハッハッ、信頼がないなぁ、私は。だが、君のこれからのこと思うと私だって優しくもなるさ」
藤丸は胡散臭げにマーリンを見る。
表情を少しばかり引き締めるマーリン。
「君は確かに世界を救った。でも、この平和は一過性の物だ。
人類悪が表れた世界は連鎖的に次なる
冠位を持っていた私や山の翁、キングハサンですら勝てるかどうか」
いつもと違うマーリンに困惑する藤丸。
「君が全ての人類悪と関わるかは、千里眼を持っている私にもわからない。
私が見れるのはその時代のことだけだから。
ひょっとしたら関わるのは君の次の世代かも知れない。その前に君の描く英雄譚がどのように終わりを迎えるのか。
だけど私は、いや、
話すマーリンの言葉に熱がこもっていく。
今のマーリンを見たら円卓の騎士たちは「誰だ、お前」レベルの綺麗さである。
だけど、彼が本当に自分に対して親愛の情があるのは藤丸にも感じられた。
「カルデアの職員や私も含めて皆、君のことが好きだからね」
恥ずかしげなく言うマーリンの言葉にキョトンと藤丸はしてしまう。
「そして、ロマニ・アーキマン。 Dr. ロマンだって君がバットエンドで終わることなんて望んでいないさ」
そして、その言葉を聞いた自身の顔と心に熱がこもっていくのを藤丸は感じて、少しばかり泣きそうになるのを藤丸は顔を背けてこらえた。
カルデアの誰もが覚えている。頼りなく
「それは………その言葉はズルいわ……」
「はっは、魔術師なんて皆ズルいものさ」
泣きそうになった藤丸の頭をマーリンは優しく微笑みながら撫でる。
「…くっそ、マーリンの癖に」
「これこそ年季の違いという奴さ。
人を騙したりするのは得意だし、どれだけ私がアルトリアを困らせてきたと思ってるんだい?」
「それを自分で言うのかよ………」
マーリンに頭を撫でられながらジト目で睨む藤丸。
頭を撫でるのを止めたマーリンはふと思い出したかのように遠い目をする。
「しかし、次の人類悪《ビースト》よりも、私も人のことは言えないんだが君の女性関係の方が不味いんじゃないかい?」
「あー…………」
「何故か君はエレシュキガル嬢を含めて神格持ちの女性にもモテるしねぇ。
英霊の女性たち、特に清姫嬢は言わずもがなで………多少は自覚はしてるんだろ?」
「うん、まぁ………」
思春期の少年らしく藤丸は顔を赤らめるがマーリンの表情は固い。
「正直な話なんだけども………ぶっちゃけ、君が死んだあとが一番大変になるんじゃないかと思うんだ、私は」
マーリンの言葉に顔を背ける藤丸。
「生きているうちは、まだ何ともなるかも知れない。
君がハーレムを選ぼうと、ただ一人を選ぼうとね。
流石にハーレムを選んだ場合、親御さんにどう説明するかは難しい所ではあるがねっ!」
「ホントにどうしろと……」
その様子をイメージしたのか藤丸は顔を手で覆う。
追い討ちをかけるようにマーリンは言葉を紡ぐ。
「だが、君も知っての通り、神格持ちの女性は嫉妬深く、更には執着しやすい。アルテミスという例もあることだし…」
あのスイーツ脳の女神アルテミスに熊のぬいぐるみのような姿にされたオリオン。
女癖については言及はしないが、永遠とも言える時間をあのような姿で過ごさなくてはいけないとは。
確かに同情してしまうが、藤丸に取っては他人事では無くなりつつある。
「ケツァルコアトル、エレシュキガル、ゴルゴーン、あと聖槍を持ったアルトリア。特にこの四天王はヤバイね。
多分、君の魂を独り占めしたいだろうし」
「もう既に勝てる気がしない……」
その四人の名前を聞いた瞬間に天を仰ぐ藤丸。
「だけど、ぶっちゃけ面白そうだと思ってる私もいるんだけどねっ!こう一人の男を取り合う為に自主規制的な薄い本的なアレが捗るよっ!」
「お前、やっぱりクズだわっ!」
さっきまでの綺麗なマーリンはどうしたと言わんばかりに藤丸は吠える。
ギャー、ギャーと騒ぎ会う二人はまるで友人のようだった。
「………さて、と。藤丸君の様子も見れたことだし、私は私で京都を満喫しようか」
藤丸と別れてモグモグと生八つ橋を食べながら人の隙間を歩いているマーリン。
「ただ、藤丸君には言うのを忘れたけど、
染々と天を仰ぐマーリン。
いや、この男の場合、わざと言わなかったという正しいのだろう。
それによってマーリンは藤丸が更なる苦労するのを楽しみにしていた。つまり、確信犯である。
「ふふふ、藤丸君も驚くだろうなぁ………」
楽しそうにマーリンは歩き続けるが、居なくなった友人を悼むように言葉を続ける。
「ソロモン王、いや、ロマニ・アーキマン。君の代わりに私が彼の英雄譚を見届けよう」
微笑みながら、マーリンが見る先には山の中腹をとぐろを巻いた巨大な黒き蛇が藤丸のことを見つめていた。
「ただ、彼女を連れてきたのは不味かったかなぁ?」
次回、ガ〇ラVS〇リス