───How do you like fate?───
吹雪のカルデア。雪の上に立つ男とカメラを構えている男が二人。
藤丸とゲオルギウスだった。
「こんばんは、皆さん。今回も始まりました」
雪の坂から小さいソリで降りてくるマシュ。
「今夜は前回のアメリカ横断の続きになります。今回はシアトルから出発し、カルデア一行ポートランドを目指しました」
「では、皆さん、ご期待ください。」
吹雪が強くなっていく。二人はゲオルギウスを残して離れていく。
「…………ダヴィンチちゃん、めっちゃ吹雪いてんだけとっ!!」
「寒い、寒いですよ………早く入りましょう先輩」
アメリカ横断ツーリング。マシュのマシュマロウィリー事件の後から始まる。
「いやぁ、マジか…………マシュ大丈夫か?」
モーさんことモードレットがバイクを寄せてマシュを心配している。
「マシュ、ゴメンなー?もうちょっとゆっくり行けばよかったな」
「マジビックリしたぜ………怪我はないか?嬢ちゃん」
藤丸と金時も心配そうに近寄る。
「はい、皆さん、心配お掛けしました………ホントに焦りました」
冷や汗と心臓の音が止まらないのか、胸に手を当てゆっくり深呼吸するマシュ。
後ろではダヴィンチちゃんがマシュのバイクを修理点検している。
「ダヴィンチちゃーん、マシュのバイク大丈夫ー?」
「ちょっとボディにヒビが入ってるし、タイヤが歪んじゃってるねー。うわ、スポーク取れた…………うーん、直せるけど時間がかかるね、これは」
「マジかぁ………どうする?」
ダヴィンチちゃんの診断に顔しかめる三人。せっかくのツーリングに流石にマシュをワンボックスに押し込める訳には行かない。
「なら、藤丸くん。マシュを後ろに乗せて上げれば?」
「「「はぁっ?!」」」
「「「「ガタッ!!」」」」
カルデアの食堂で映像を見ていた何名かのサーヴァントが立ち上がる。
ダヴィンチちゃんの提案に一同が騒然とする。
「いや、オレは別に良いですけど………マシュは嫌じゃないか?」
藤丸がマシュに確認すると。
「せ、先輩の後ろに乗る………そ、それはつまり……抱きつくという………」
「嬢ちゃんがトリップしてんだけど……」
マシュがあわあわとよくわからないポーズをとって顔を赤くしながら立ちすくんでいた。
「マシュー?マシュ?戻ってこようなー?」
藤丸はマシュをガタガタを揺さぶる。マシュはハッとするが顔が赤い。
「は、はい、先輩、お願いしましゅ……」
マシュは顔を赤くして頷く。それを見ていたモードレットは少し不機嫌そう。
「じゃあ、マシュのバイクは車に積むから、ちょっと手伝ってー」
「あいよー」
全員で破損したスーパーカブを車の後ろに入れていく。邪魔にならないようにダヴィンチちゃんはコンパクトに分解していく。
「しかし、簡単にバラすね。ダヴィンチちゃんや」
「うーん?基本、経験だけどね。藤丸くんだってバイクは改造するだろ?」
「ボアアップとギア比弄るくらいで。流石にここまでは……」
ダヴィンチちゃんの作業を見ていた藤丸はダヴィンチちゃんの分解の速さと的確さに驚いていた。いや、万能の天才とは知ってはいたがここまでとは、と。
「ダヴィンチちゃんからすれば現代人の技術も形無しかなぁ……」
「それは少しばかり違うね。確かに私は万能の天才と自負しているし、私に作れないものは少ないだろうと思っている。だけどね、それが出来るからと言って現代人の技術を馬鹿にすることはない。このエンジンにしたってどれだけの時間と努力が注ぎ込まれているのか。それを踏まえて私は彼らに敬意を表しているよ」
分解しながら、ダヴィンチちゃんは語る。バイクの部品を分かりやすいように車に常備された棚に入れていく。
「ふーん、ダヴィンチちゃんはダヴィンチちゃんでリスペクトはしてると…」
「それに私が目指した空の旅も、キミたちは作り上げたじゃないか」
「ああ、そう言えば、あのリンゴの皮みたいなヘリコプター作ってたんだっけ?」
「リンゴの皮?いや、待つんだ、待ちたまえ、藤丸くんっ!!あれは単純なスケッチだっ!!多分、飛ぶんじゃないかなぁ程度で描いた落書きなんだ……あんなので飛ぼうとしてたなんて思わないでくれ…」
ヨヨヨと崩れるダヴィンチちゃん。
どうやら本人はあのヘリコプターに何か思うところがあったようだ。自分の考える最強の乗り物的な黒歴史なんだろうか。
こんなダヴィンチちゃんに「わ、わかった」と藤丸は言うしかない。
後に藤丸が他のスタッフに聞いてみると、どうやらあのヘリコプターはダヴィンチの落書きで実際は試作はしてないそうなのだ。
教科書に描いた自分の落書き見られたようなものかと藤丸は考えた。
「でも、多少、芸術性は出してみたんだ………リンゴの皮……リンゴの皮かぁ………」
ダヴィンチちゃんは凹みながら、道具をしまっていく。
マシュのバイクも積込が終わり、出発する前にダヴィンチちゃんから全員に声をかけられた。
「えーっとオレゴン州に着いたら、エミヤ氏から依頼で食料を取ってきて欲しいとのことでね。どうする?」
「まぁ、変なもんじゃなければ取ってくるけど?」
「じゃあ、これを藤丸くん」
ダヴィンチちゃんが藤丸にエミヤからメモを渡される。
「なになに?ヘーゼルナッツ、ベリー、蜂蜜…………鮭?何を作るんだよ、エミヤ」
「先輩、この時代にヘーゼルナッツってあるんでしょうか?」
ハテナマークを着けながら、藤丸とマシュは首を傾げる。
「それと、ベリーと蜂蜜を取りに行くときはナーサリーライムとジャックを呼んで連れていって欲しいそうだ。
二人が外に出たがっているから頼む、と」
「流石、カルデアの保母さん………」
甘いものでその場で楽しめることも計画されている。エミヤのオカンさに藤丸は戦慄した。
「じゃあ、取り敢えずはポートランドまでしゅっぱーつ!!」
藤丸を筆頭に全員が出発する。マシュは藤丸の後ろに乗り、ギュッと腰に手を回している。
それをモードレットは羨ましそうに見ている。金時とダヴィンチちゃんはそれをニヤニヤ笑いながら見ていた。
そんな藤丸は背中にマシュのマシュマロが当たって心臓がドキドキしていた。
旅は順調に進んでいる。時折、海側に出て、太平洋側の海を眺める。海はなだらかで海鳥が優雅に飛んでいた。
「次は釣りに行こうか………」
海を見た藤丸がふと言葉を漏らす。
「いいねぇ、大将。海釣りかぁ!!」
『それだと、エミヤやクー・フーリンが来るね』
金時が行きたそうに頷き、ダヴィンチちゃんは苦笑する。
「今回はツーリングだから、道具がないしねー…」
『作ろうか?』
「…………今回はパスで」
ダヴィンチちゃんの言葉に藤丸は躊躇いながら断った。
ツーリングが今回の目的なのだ、釣りが目的な訳ではない。藤丸はこういうところはキッチリしている。
「そう言えば、先輩はメドゥーサさんとイスカンダルさんも誘ったんですよね?」
「ああ、二人は遅れてくるってさ。メドゥーサはなんか姉さま方に呼ばれたみたいで、イスカンダルは今日発売のゲーム買ってから来るってさ」
「ってことは時間的にポートランド辺りで合流か?マスター」
「メドゥーサはどうだろ?あの姉さま方だしなぁ…」
藤丸は苦笑する。ステンノとエウリュアレの性格の悪さは知っている。だが、それもメドゥーサへの愛情の裏返し。
生前が酷かった三人。せっかく今は三人揃ってゆっくりできるのだ。彼女たちは姉妹水入らずでゆっくりするべきだと藤丸は思っている。
「では、イスカンダルさんがポートランド辺りでしょうか?」
「 恐らくね。そう言えば孔明も誘うっていってたなぁ…」
「エルメロイさんもですかっ?!バイク乗れるんですかっ?!」
あのロード・エルメロイⅡ世がバイクに乗る?全然、想像の付かないマシュだった。
ポートランドに到着する、一行。
一同は休憩として、バイクを止める。
「大体、シアトルから200㎞以上は走ったかなぁ……尻がいたいなぁ……くぁぁ」
バキバキと音を出しながら、腰を押さえて背中を伸ばす藤丸。
「ふぅ……身体がカチカチです」
「あー、距離的に丹波から駿河ってか」
「わかりずれぇよ、金時」
他の三人も喋りながら身体を動かしていた。
朝早くの出発、遊びながらのツーリングで既に日は真上に来ている。
「ちょっと早めだけどご飯にしょうか?」
「「「さんせーい」」」
藤丸の提案に三人は手を上げる。するとマシュがダヴィンチちゃんの乗ってるワンボックスからお弁当箱を持ってくる。
「今日のお弁当はわたしたちが作りました。ふふふ、皆さんにおみまいしますよ」
マシュの言葉に三人は顔をしかめる。
どうおみまいするんだろ?と困惑しながら、お弁当の中身を確認する。それは普通に美味しそうなサンドイッチが箱狭しと入っていた。
「おお、美味そうじゃんかよ」
「どれどれ、かなり種類あんな」
「じゃあ、先ずは1つっと」
藤丸がレタスサンドイッチ1つを取って口にする。すると、藤丸が妙な顔をする。
「どうした、マスター?」
藤丸が妙な顔をしているのを見たモードレットは藤丸に問いかける。もしかして、その、不味いのだろうか?モードレットの頭に不安がよぎる。
「いや…………その……………」
藤丸が口を開く。
「メッチャ甘いんだ」
金時とモードレットが不可思議な顔をする。藤丸が食べているのは普通にレタスとトマトが入ったサンドイッチ。甘い要素なんてパンぐらいなものなのだが。
「あ、先輩のは恐らくメディアリリィさんが作られたものですね」
三人が固まる。そう言えば、マシュは「わたしたち」と言っていた。
「メディアが作ったのか?!あの甘味の魔女がっ?!」
「待って、マシュ、これは、他に、作ったのって誰?」
モードレットの言葉が素通りする。
藤丸が言葉を震わせながらマシュに聞く。すごく嫌な予感がする。聞いてはいけない、だが聞かねば進めない。
「えっと、ブーディカさん、マリーさん、エミヤさん、メディアリリィさん」
良かった、甘いのはリリィだけか、三人の心は安堵する。
「エリザさんですね」
三人が思った。
あ、これ終わった、と。