おい、ワイバーン食わねぇか?
━━━How do you like fate?━━━
藤丸立香は今、フランスに来ている。
穏やかな陽射し、頬を撫でる風。
ああ、可愛いパリジェンヌとカフェでお茶なんかいいよね?とか何とか思いながら藤丸は微笑む。
「せんぱーい!!現実逃避しないで指示を、指示をお願いしまーすっ!!」
「アー、アー、キコエナーイ、戦闘音なんてキコエナーイ」
「聞こえてるじゃないですか、もーうっ!!」
絶賛、周りは戦闘中。
現実逃避したっていいじゃない、人間だもの by 藤丸
「百年戦争の真っ只中とか、正気の沙汰じゃなーいっ!!」
「叫ぶ前に指示をーっ!!」
何とか戦闘は終わる。藤丸とマシュと愉快な仲間たちは倒したワイバーンの肉を焼いて食べようとしていた。
「ワイバーンって食えるんけ……?」
「………肉食の動物は不味いと聞きますが………ワイバーンですよね?」
「……基本、竜種を食べるという思考は思い付かないのだが………すまない、これから食べるというのに失言だった」
「あら、でも、焼くと美味しそうよ?こう……何というのかしら、ワイルド?的な」
「マンガ肉ですね、わかります」
Y字型の枝を左右に置き、肉の中心に枝をさしてそこに乗せて薪で焼いている。ぱちぱちと薪が火の粉をあげる。ワイバーンの肉の脂が火にかかり、そこから肉の焼ける香ばしい薫りをあげ、ジャンヌはぐぅーっとお腹を鳴らした。
「いや、なかなか美味そうじゃない?」
「……わたしたちが食べると共食いという範疇になるのでしょうか?」
「清姫さんやエリザベートさんは人間ですから、大丈夫ですよ、多分」
「ふむ、取り敢えずは次に食べれそうな部分を切り落としていこう」
「私も手伝いましょう。竜を食すというのは生涯有りませんでしたが……私の場合、あれは毒を持った竜でしたので」
ジークフリートはバルムンクを使用してワイバーンの肉を切り落とし、ゲオルギウスはアスカロンを使い、鱗を落としていく。
「………包丁代わりに使われる名剣ェ………」
「しょうがないです、先輩。あれが魔剣、聖剣の宿命なんです……あるところでは借金の取り立てに使われた聖剣もあると聞いたことがあります」
だんだんと肉が焼けてくる。少し肉が大きかった為に周りは焦げているが、中はちゃんとレアになるように火は調節してある。
そこら辺はマリーの好みの焼き方とエリザの好みが被ったので助かった。
「ボクがちゃんと音を聞いていたからね、肉に火が通ったのもバッチリさ」
「なんだ、そのステーキ焼きの名人みたいな………」
「さすがね、アマデウス……」
「これがワイバーンの焼肉……」
ナイフで人数分の皿にワイバーンの肉をよそっていく。ナイフで捌く際に少し緑っぽい血が出たような気がする。
皿が全員に回ると周りは無言になる。誰が先に食う?そんな視線が飛び交った。
暫しの無言。無言に耐えきれず、まず口火を切ったのはエリザだった。
「こ、これをまず食べようって言った人間が食べるべきじゃないかしら?」
「誰だよ………そんなこと言ったの………」
全員の視線が藤丸に集まる。
「……すまない、覚えている限り、それを口に出したのはマスターだった」
「って、オレかーいっ!!」
「そう…………ですね」
「ええ………」
「旦那様………」
流石に庇いきれなかったのか、マシュとジャンヌと清姫はすっと目を反らす。
「マスター、男気を見せるところだっ!!」
「なら、ジャンケンしようぜっ!!男気見せるんだったら男子だけでもよぉっ!」
「勇姿は撮りますから……」
いつの間にかカメラを持ち出すゲオルギウス。太い木の枝を持ってバットのように振るジークフリート。デデーンとBGMを流すアマデウス。
アマデウス、お前はアウトだ。後でタイキックな。
「くそぅ、くそぅ………」
「せ、先輩、わ、わたしが食べます、よ?」
そんな藤丸にマシュがひきつった顔で自らが食べると提案する。藤丸の隣の清姫が勇者を見る目でマシュを見ている。
そんな様子を見かねたジークフリートは手を上げて。
「いや、待て俺が食べる」
「いや、私が食べよう」
「いやいや、ボクが食べるよ」
サーヴァント男子勢が手を上げて、期待する目で藤丸を見ている。男子勢の目論みがわかった藤丸はプルプルと震える手を上げ………
「オレが………食べ………ますっ…」
「「「どうぞどうぞ」」」
「お前らぁ……覚えとけよ……」
藤丸はワイバーンの肉を震える箸で掴み、おそるおそる口に入れていく。
口に含み噛んでいけば少しばかり固めの筋が入るが噛めない程ではない。肉として近いのは固さ的に猪だろうか?
そして、焼き加減は見た目は生に見えるがちゃんと火は通っている。あふれでる肉汁。少しピリッとする感じは、ワイバーンの血によるものか。それが肉にいいアクセントとしてマッチしている。これを一言で表すならば……
「………美味いわ」
「マジで?!」
エリザが尻尾を震わせて聞いてくる。他の面子も藤丸が食べているのを見ておそるおそる口に入れていく。
「……確かに美味しいですね………」
「ああ、なんというか逆に不味くてテンション上がる方を思ったんだけどね……美味しくてテンション下がるって一体……」
清姫は上品に口に含み賞賛し、アマデウスは芸人のようなことを言っている。
「カップヌードルに入れて食ったら美味そうだわ」
「ああ、少しピリ辛ですから確かに合うでしょうね」
「作って写真取っとこうぜ」
「わかりました、このゲオルギウスにお任せください」
藤丸とゲオルギウスはいつの間にかカップ麺の上にこんがり目に焼いたワイバーンの肉を乗せて写真を取っている。
何故だろうか、マシュはこの旅の終わりがカップ麺のCMのように終わるのではないかと不安になった。
「マシュはどう、食べてる?」
「はい、先輩。美味しく頂いてますっ!」
マシュの言葉に嘘はない。見た目はゲテモノ料理だが食べていくと癖になってくる。はむはむと口に含む姿に藤丸はそれはよかったと微笑み、マシュの隣に座る。
サーヴァントたちはどんちゃん騒ぎで酒だ、肉だと騒いでいる。
「ちょっと、想像してたフランス旅行とは違うなぁ…」
「……そうですね、フランスは百年戦争の時期です。土地は荒らされてパリも華の都、とは言えませんね」
でも、それでも、とマシュは微笑んで藤丸に寄り添う。
「でも、先輩と一緒ですから、わたしは楽しいです」
「…………今度は平和な時代のフランスに来ようか……その……二人で……」
驚いたマシュが藤丸を見れば照れ臭そうに頬を掻いている。
どんちゃん騒ぎをしている隅で清姫がジーっと嫉妬の炎を燃やしながら見ていなければ満点の空気だったが。
「はい、先輩。わたし、ルーブルとか凱旋門、いろんな景色を先輩と見たいです」
「そうだね、オレもモナリザとか見たいかな、ダヴィンチちゃんの元だろ?あれ」
「ふふふ、そうですね」
藤丸はマシュの笑顔が見れたから、それでよしとするかなと、この旅の思い出と心に綴った。
後日、カルデアの職員に差し入れでワイバーン肉を送ったところ、全員、食中毒で医務室に送られた。
どうも毒抜きが必要だったようでサーヴァントとマスターは大丈夫だったが生身の人間はダメだったようだ。
ロマンはワイバーンアレルギーになった………
旅の思い出がこれしかねぇっ!!