軍服美女の悪魔契約者   作:濁酒三十六

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6話…悍ましき悪夢の後

 明奈は少し予想外だった。彼女…浮之瀬美麗が相手が苦しむ様を見て喜ぶ様な人間たとは思っていなかったのである。明奈は最後の最期でもやはり裏切られた気分になり、失望感で胸が押し潰されそうになった。

 

「結局…アンタも其処らの下衆共と同じな訳だ…。

いいよ、嬲り殺しにしなよ。私もそのつもりだったしね…。」

「ンフッ。小牧さん、今貴女…感覚はどんな風?

触覚は?

味覚は?

そして痛覚は?

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 美麗はそう言うと自分の右肩を指差した。先程撃たれた傷口を見ろと言っているのである。明奈は身体を起こし右肩の弾痕に目を向けるが、それ以前に痛みがなかった。弾は貫通しておらず体内に残ってしまっており、早めに取り出さなければならない。だが弾痕からは痛覚が感じられず “モゾリ”と傷口で何かが動いた。彼女が傷口に手をあてて探ると何やら“小さい白い物”が取れた。其を見て調べるとソイツはモゾモゾと動いた。…“白蛆”…“蛆虫”である。明奈はゾッと鳥肌を立て蛆虫を払い捨てるが…“まさか”と思いブレザーと白シャツを急いで捲り右肩を出して弾痕を確認した。

 

「あ…、ああああ……」

 

 明奈の顔から血の気が失せ、反対に美麗の表情が恍惚に火照り始めた。何と、明奈の肩の弾痕から蛆虫が何匹も湧き出ているのだ。

 

「あああああああああっ、いああ、ああああああああああっ!!?!??!!?」

 

 明奈は絶叫し、バランスを崩して瓦礫の山から転げ落ちた。身体の彼方此方をぶつけ蹲る彼女だが痛みがない事に気付いた。触覚もなくフワフワした感覚はそのせいだと気付き口から血を流していても鉄錆びた味が感じられなかった。美麗により受けた銃弾に魔力が仕込まれていた。一種の呪殺弾だったのである。

 瓦礫の山より落ち這いつくばる明奈の前にまた美麗が降り立ち片膝を付いて震える彼女を抱き起こす。

 

「小牧さん、蝿蛆症(ようそしょう)って知ってる?

世界中の牧場等でよく見られるらしいけど、家畜に蝿が卵を産み付け産まれた蛆虫が体内で宿主の血肉を養分にして育つ。時折人間にも産み付けたり、モンゴルでは飛んできた蝿が人の目に蛆を直接吹き付けるらしいわ。」

 

 明奈を抱え優しげな声で説明する美麗。彼女に使用した呪殺弾の名を“ミエリアス”と美麗は名付けている。直訳はそのまま蝿蛆症である。弾丸の中にヴェル・ゼブブの魔力を詰め、敵に撃ち込み体内で起爆…孵化した使い魔である蛆が体内を触覚・味覚・痛覚を麻痺させる毒を出しながら全身を侵食し、最後に脳を食い尽くす呪殺弾である。

 

「痛みは時に正気を保ち、意思を確認する方法になり得る。でも痛覚を感じられない常態で身体を少しずつ咀嚼されていくのはとても恐ろしい事だと思うの。

逃げ道があるとするなら…其れは精神を狂わせて自我を失う事だけ。貴女はどうなるのかしらね、小牧さん?」

 

 明奈には理解が出来なかった。…最早蛆虫が蠢く感覚が感じられず今一度銃痕を見ると皮膚を突き破り何匹もの蛆が顔を出しまた身体に潜り込む。体内の血肉を貪られ痛覚や触覚のみならず嗅覚も麻痺し、身体も動かなくなり、目をギョロつかせ全身が吹き出した汗で濡れる。

 

「イヤ…、こんな死に方いや、殺してよう…こっ、()()()()…!」

 

 毒で舌が麻痺し、味覚どころかまともに言葉を発する事も出来なくなり美麗の太股を枕に寝かされ明奈は美麗の顔を見続ける。まるで何もかもを許し包み込んでしまいそうなとても柔らかな笑顔は彼女を更に恐怖をその心に刻み込む。何故そんな微笑みを浮かべる事が出来るのか…、何故そんな優しげに自分に触れる事が出来るのか…、小牧明奈には全く理解が出来なかった。目尻に涙を溢れさせ流す。…だが涙が止まり、代わりに涙腺より出て来たのは蛆虫であった。明奈の眼球の上を這いずり瞼の下からも蛆虫が出て視界を覆い隠し始めた。耳に鼻…口の中にも蛆が湧き出、明奈は美麗の腕の中で喉がはち切れる程に絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわああああああああっっ!!?」

 

 小牧明奈は叫びながら勢い良く上半身を起こした。全身から汗が吹き出、目を見開いて“ハァハァ”と荒い息遣いをする。暫し茫然とする彼女であったが…自分がキレイな布団を掛けてベッドの上にいる事に気付いた。ギュッと布団の端を握り、息も静まり顔を上げて周囲を見渡すと其所は寝室の様であった。

 

《明奈、目覚めたか!?》

 

 聞き慣れた声が頭に響き明奈は部屋の中を見渡した。

 

「アガレス、生きてたの、何処にいるの!?」

《下だ、()()()()()。》

 

 “えっ!?”と思いながら明奈は自分の枕元を見ると…、其所には()()()()()()()()()()()()()が一羽いた。

 

「あっ…アガレス…なの??」

《あぁ、再生するのにお前に預けた魔力を少し頂いて何とか現界している。》

 

 明奈はアガレスが無事だと知ると微笑んで雛の姿であるアガレスを撫でる。…と、“コンコン”とドアを叩く音が聴こえ明奈はキッとドア側を睨む。

 

「起きたみたいね、小牧さん。」

 

 其所には自分を恐怖のどん底へ突き落とした魔女…浮之瀬美麗があの優しげな微笑みを浮かべて立っていたのであった。




蝿蛆症をググって調べましたが、キモい画像や話が一杯でした。…オエ…!?

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