軍服美女の悪魔契約者   作:濁酒三十六

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4話…闘いの火蓋を切る

 深夜11時が過ぎ、夜空は星が見えない程に雲に覆われ、今にも雨が降りそうな雰囲気を醸し出していた。小牧明奈は学校の屋上にてブレザーの制服で待っていた。悪魔契約者は特にコスチュームなどを決めて着ている訳ではない。浮之瀬美麗の軍服は言ってしまえば趣味である。そして小牧明奈もその両上腕には籠手を装備し白いハチマキを締めた戦闘スタイルを決めていた。

 彼女の傍らにあの銀色の鳥人姿をした悪魔…アガレスが舞い降りた。

 

《私の推測通り…約束を破られた様だな、明奈?》

 

 腕を組み、覚悟を決めた彼女は屋上の出入口を見つめながら悪魔アガレスに返事を返す。

 

「あの女は来るわ。…何故かな、嫌い…だけど、今まで殺り合った契約者の中で一番私に近い気がするわ。」

 

 何処か思いに老ける明奈。…しかし彼女の期待は見事なまでに裏切られる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遡る事一時間前、浮之瀬美麗は住居としているマンションの五階にある2DKの部屋でお風呂に入った後パジャマに着替えてテレビを見ながら既に缶ビール500mlを三本も空けており、目を擦り始めたかと思えば寝室に向かい何とベッドに潜り込んでしまった。ヴェルは念話で彼女に尋ねる。

 

《……学校へは行かんのか?》

「三分もあれば直ぐ着けるわ。だから二十分経ったら起こして?」

 

 美麗はそう言って顔まで布団に隠れてしまった。ヴェルはそれ以上は何も言わずに心中では呆れながらも取り敢えずは彼女を寝かせてやる。

 そして午前零時…、スヤスヤと寝息をたてていた美麗は凄まじい轟音に叩き起こされた。勢い良く身体を起こした美麗はビックリして目を見開き、部屋の中を見渡す。室内は塵が舞い上がりドア側を見ると何と寝室のドアは失く壁ごとぶち抜かれて破壊されていた。

 

「私の…、わたしのいえが~~~~っ!?!?」

 

 思わず情けない顔と声で嘆く美麗。そして破壊された壁から寝室へ入って来たのは怒りの形相をした魔少女…小牧明奈であった。額に巻いた白いハチマキがなびき、ギリ…と歯を噛み締めて明奈は美麗を睨みつけ、美麗は油汗を滲ませながらまるで不倫現場を抑えられた浮気妻の様に布団で身体を隠していた。美麗はヴェルに念話を投げかける。

 

《何で起こしてくれなかったのよ!?》

《何故我がそんな事をせねばならん、我はお前の執事ではないぞ。大体決闘の約束をしておいてビール飲んで寝るなぞ我には考えられん。それこそ十年以上の付き合いでまだ我を理解せんのか、バカ娘が。》

 

 そう、彼は人間の不幸を蜜とする悪魔であり、契約して今まで目覚まし時計の代わりなど一度もしてくれた事はない。美麗は下を向き自分の浅はかな思考を呪い、小牧明奈の啖呵が塵が舞う寝室に響き渡った。

 

「浮之瀬美麗、私は…、私は今まで此処程までにコケにされた事はなかったぞお!!!!」

 

 怒り浸透の明奈は右手に握る日本刀の切っ先を美麗に向け、美麗は顔をひきつらせ愛想笑いをする。

 

「小牧さん落ち着いて、今日は日が悪かったのよ。

ビールが…冷蔵庫を見たらビールが入っていたの、普段はないのよ、ビール。今日に限ってビールが私に“飲んで飲んで”って語りかけて来たの。

…私が悪い訳じゃないのよ?」

 

 美麗は両掌を向けてヒラヒラさせながら苦しい言い訳をするが、明奈は冷ややかに彼女を睨んだまま…日本刀を一閃させ、美麗の左掌に赤い横一線が滲み“ぼとり”と指四本ごと布団に落ちた。美麗は痛みに顔を引きつらせるが、声は呑み込み血が溢れる傷口を抑えた。

 

「何時までもそのポージングじゃあ嬲り殺しにしちゃうわよ、オバサン!」

 

 明奈は冷酷にほくそ笑む。…が、美麗は左手の指四本を失ったにも関わらず含み笑いを始め次第に高笑いへと変わった。

 

「ンフ…ウフフ…ァハハハハハハッ!!

えぇ、嬲り殺しなんて事言われたの久し振りだわ!

やっぱり駄目ね、貴女みたいな娘と闘うとなると嬉しくなっちゃう!!」

 

 明奈は美麗が本気になったと覚り構えると何と美麗は口元を尖らせ燃え盛る炎を明奈に吹き付けた。炎は明奈を包み込み寝室内に燃え広がるが熱さを全く感じず明奈は炎を振り払い消し去る。

 

「クソ、幻術か!」

 

 ベッドには美麗の姿はなくベランダの窓際に目を向けると既に軍服を着た美麗が右手をヒラヒラと動かして手摺部分に乗り、背中から落下して逃亡。明奈は舌打ちをして直ぐに彼女を追いかける。二人は超人的なスピードで町を駆け抜け、片側二車線の高速道路内に侵入し、美麗は右手にモーゼルC96を握り後ろを見ずに上に銃口を向けて二十発を乱射、魔弾は後方から追ってくる明奈へとホーミングしてまたもドーム型に取り囲み一斉に彼女を襲う。だが明奈は不敵に笑うと二十発の魔弾全てを一瞬の内に両断して更に加速、美麗の真横に並んだ。

 

(凄い、二刀流だけでなく風による()()()()()()()で弾丸を切り割った!)

「遅い遅い、もう逃げるなんて出来ないっよ!!」

 

 美麗はマントを取って明奈に被さるよう投げつけるが此も一瞬にして細切れにし、美麗に斬りかかった。しかし彼女は急ブレーキをかけてクロススラッシュ(交差斬撃)を回避。そして明奈は直ぐに踵を返して美麗に突進、左から刀を振り上げて攻撃した。美麗は右のモーゼルで此を受け止めるが左手は指四本がなく守る術がない。そして回避法を思考する間もなく左肩から右下腹部へと斬り裂かれて鮮血が飛び、左手の日本刀が美麗の右腕を根元から斬り飛ばした。

 軍服を血で汚し、美麗はガクリと両膝をアスファルトに落とし…ペタリと力なく座り込んだ。ゴプッと血反吐を吐き、虚ろな瞳で明奈を見上げた。

 

「ずい…ぶんベタな、能力…なのね…。」

 

 小牧明奈の戦法は風を操る力である。弾丸を正確に切り断つ精密さと切断力のある真空波、風圧を利用して風に乗り速力を増す正に加速装置。確かにベタな能力とも言えるが応用法は何通りもある。

 

「最期まで全力出さなかったのね、死んだら元も子もないのに…。

馬鹿にされた気分だわ…。」

「ゴホッ、私が本気出したら…この町、滅ぼし…ちゃいうから、ね…。」

 

 最期も冗談しか口にしない美麗を明奈は複雑な気持ちで見つめ、刀を横薙ぎに振った。美麗の長い後ろ髪がサラサラと落ちて首がゴロリと地面に転がりその拍子に軍帽も脱げてしまった。止めを刺し楽にしてやったのある。小牧明奈は勝利したが手放しで喜ぶ気にはなれなかった。悪魔契約者が同じ町で仲良く手を組むなど出来はしない…彼女は身を以て其を知っていた。だから浮之瀬美麗に警告し、対立して…殺したのだ。

 悪魔契約者の関係は結局は弱肉強食…例え契約した悪魔が強大であっても魔力を多く引き出せなければ下級悪魔と契約した者に負ける事などざらなのだ。そして小牧明奈が契約した悪魔は強大な上に彼女はその力をかなりの量まで引き出せるのである。此処まで自分の“器”を広げるのに二年近くも戦いに明け暮れた。倒した次元魔は数知れず、経験豊富な悪魔契約者も何人も倒し、内三人は魔女にまで成長した実力者だ。明奈は美麗もその中の一人だと割り切り、踵を返す。

 

「もうお帰り?」

 

 …が、その時に背後からつい今しがた殺した筈である相手の声がはっきりと聴こえた。

 明奈が後ろを振り向くと、座り込みグッタリとして動かない軍服の首なし死体の膝元に何と美麗の頭があり明奈の青醒めた顔を見てニタリと嗤った。

 

「此からよ小牧明奈さん、悪魔の真の力を見たいなら眼球が潰れる程に焼き付けてあげる!」




悪魔契約者更新。今回の流れはドタバタ~残酷バトル~ホラーみたいな感じでしょうか。
次回、美麗VS 明奈決着です。

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