獣殺しの人間性 ——修羅吸魂——   作:AM/RFA-222

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 どうも。作者です。

 話の舞台にはいるまでの話が楽し過ぎて全然話が進まないです。あと二話ぐらい続きそうな勢いですね。

 あと、お気に入り登録ありがとうございます。嬉し過ぎて癇癪起こして大爆発して東京吹っ飛ばしそうな勢いです。

 さて、どうでもいい事はこの辺にしておいて。

 本編、どうぞ。

 


第四話 見つからない担任教師

 

 

 病院内を走り回る事数十分。

 いい加減飽きて来てしまった。何にも達成感が感じられないのだ。

 そこで、俺は気付いてしまった。

 

 

 誰もいなければ、病院内を走る意味がそもそもないのでは無いか、と。

 

 

 病院内を脇目もふらずに走り回るというのはそもそも、他人の目に映る最高の自分を想像して、脳汁をぶっしゃぶっしゃとする事によって、快感が得られるのだ。

 

 だから、そもそも人がいないこの場で走り回っても、全然楽しく無い。寧ろ、虚しいくらいである。

 

 と言うわけで、そんな事を辞めてせっせこと歩き回る俺。

 実は走り周っていた時も探してはいたのだが……これがまた、中々見つからない。

 あんだけ走り回ったから、一周はした筈なんだがな。

 

 

 その後ちゃんと普通に歩き回り、勇ひいては裕子先生を探していくが、誰もいない。

 なぜだか、誰一人としていないのでは、という言葉をおもいだした。

 もしや千晶や勇まで……と、思い至りはするものの、すぐに、こう言った思考に行き着く。

 

 

 ——だから、どうしたというのだ。

 

 

 考えてみれば、俺は彼らに会うまではずっと、一人だったのだ。何年も、何十年も、何百年も、一人だった。

 それにちょっとした甘みが加わっただけで、俺の中身は未だに変わっていない。

 表面上は変わったかも知れない。だが、本質となれば話が別だ。

 俺自身は、彼らと過ごしている日常の中で、心から笑った事がない。出て精々、乾いた笑いが限界だった。

 

 

 やはり、俺を縛り付けていた呪縛は、この世界に来ても解けないままらしい。

 結局、俺の性質を明確に決めたのは、あの神殿という事なのかもな。

 

 

 そう思ったら、なんだかイライラしてきた。

 

 

 さっきまではなにも考えずに走り周ってたから何にもなかったのかも知れないが、今の自分はとにかく不愉快だ。

 

 こう、病院に配置されている自販機を、蹴りたくなるぐらいには……。

 

 

 いつの間にか俺の足は自販機の前へと移動していた。そのまま自販機側面をみ続ける。所々凹みがあるようだ。

 

 

「……これは、俺に対する誘発だろうか」

 

 

 もしや、俺に自販機を蹴っていいという、神の御慈悲だとでも言うのだろうか。

 ふふふ、と笑いが溢れてくる。

 ここまで来たら、もうやるしかないだろう。あくまでこれは、俺のメンタルを安静にさせる為の行為なのだ。決して、俺のイライラを収めるもの——

 

 

 ——バゴォォン!!

 

 

 自販機の側部に強烈な足蹴りが繰り出される。効果は抜群である。

 その後も何度も何度も自販機を蹴り続ける。あそこでは使った事がないが、案外、蹴りというのは強力なのかも知れない。

 とか思っていたら。

 

 

 ——ガゴガゴガゴン!!

 

 

 

 自販機下部から何かが落下する音が聞こえた。

 この音には聞き覚えがある。代々木公園駅で謎のジュースを買った時のものと、同じだ。

 

 ……まさか?

 

 

 不安な瞳が取り出し口を見つめる。

 するとそこにあったものは……大量の缶ジュースだった。

 

 

「(……やばい)」

 

 

 もしもこの事が千晶にバレたら、ちょっとした騒ぎになるだろう。そんな事はまっぴら御免である。

 急いで証拠隠滅の作業に入ろう。

 

 ひとまず缶ジュースを全て取り出す。今回もラベルなしの謎ジュースだ。代々木公園駅の時といい、今といい、この自販機の会社はふざけているのだろうか。

 

 社名は……ふざけた名前だな。神『耐える者』の名を語るか。結局はコイツも(デーモン)なのだろうが……まあ、それは俺が言ってもどうにもなるまい。

 というか、そもそもどうでもいい。そんな事よりも証拠隠滅作業の方が大事だ。

 

 近くにあった謎ジュースに触れる。触れて何をすると言われれば……一言で言えば、『消す』んだな。正確には『しまう』だが。

 

 その後も何本かの謎ジュースに触れ、消していく作業に没頭する事数分。全ての謎ジュースの証拠隠滅作業は終わった。

 

 後は自販機だが……元々凹んでいたし、今頃変わった所で大した事も思うまい。

 俺はそれは無視する事にした。

 

 そんな時、ふらっと視界の端に人影が映った。

 服装は非常に軽そうで、帽子を被っていた。

 

 この病院内にいて、この特徴に合う奴と言えば、俺は一人しか知らない。

 

 

 ——勇だ。

 

 

 その人影を追うべく、俺はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人影を追った先にあったのは、とある病室の一部屋だった。

 札には何もかかられていないため、裕子先生の部屋ではない……のだが、勇は一体何故こんな所を探しているのだろう。裕子先生の部屋は元々熟知しているだろうにさ。

 

 ま、考えるよりも聞いた方が早いか。

 

 戸惑いもなく、勢いよく部屋の扉をぶち開ける。

 ドン! という快音がなるが、悟りのような物を開いてしまった俺には対して快感はない。

 

 反面、部屋の先客の方は驚いたようだがな。

 肩をビクッとさせた黒いヒラヒラの服装を着こなした青年、勇は此方を振り向く。

 

 

 その顔には、恐怖が刻まれていた。

 

 

 が。

 

 

「よお、勇。どうかしたか?」

 

「——っ! な、なんだシンかよ! 脅かすなよな!」

 

 

 軽く俺が挨拶を投げ掛けると、すぐにいつもの軽い表情に戻る。

 昔からこういう奴なのだ、勇は。

 

 臆病で、周りを気にして、仲間にはちょっと高い態度を取る。反面知らない相手には怖じけてしまう、小心者。

 

 だが……あんな状態だった俺に話し掛けてくれるような、そんな良心の持ち主なんだ。彼に感謝する奴は少ないかも知れないが……少なくとも、俺は感謝しているよ。

 

 

「で、いたのか? 裕子先生」

 

 

 さっきまでキョロキョロしていた勇に問いかける。あれだけ大げさに探しているのだから、細かく探させているとは思うのだが……。

 そう思った俺の予想とは裏腹に、勇は驚きの発言をする。

 即ち、どこにも見当たらない、と。

 

 

「いや、まあそうだよな。俺だってあれだけ走り回って探したんだ。いた方がおかしい」

 

「いた方がおかしいってなんだよ」

 

 

 それは言葉の綾だ、とジト目の勇をなだめ、話を戻す。

 最初から怪しいと思っていたが、コレで少し現実感が満ちて来たな。

 そもそも、裕子先生は何故新宿の病院まで来てたのか。また、入院前のあの異常な程の欠席数はなんなのか。

 他にも、この病院には何故人がいないのか。爺さんが言っていた通りなら、数日前から診察をしていないと事だが、だったら裕子先生は何処にいるのだ? 

 

 あのロン毛男、ヒジリの言うことを鵜呑みにする訳ではないが……これは本当に、裏がありそうな事件だな。

 

 

 それはそうと。

 

 

「それじゃ勇、これからどうする?」

 

「どうするも何も……この病院、なんだか誰も居ないしさ……」

 

「確かにな。俺とお前と千晶しか居ないように感じる。こんなんじゃ裕子先生がいるとは到底思えないな」

 

「いや、でも俺ちゃんと確認したんだぜ? 入院してるの、新宿衛生病院だって」

 

 

 それは俺も確認しておいたので、その言葉に嘘偽りはないだろう。

 しかしそうなると裕子先生が居ない理由は限られてくるな……何かあったか、それとも入院していると言うの自体が嘘か。

 

 

「おいおい、辞めろよそう言うの……案内もないこの現場じゃそのジョーク、全然笑えねえよ」

 

 

 いや、本心からなのだが。

 

 

 と言いたい所だが、こんな所でおちょくっても仕方ないだろう。

 まあ現実味があるとしたら、今日は休館日だった、とかか? SF方面で行けば宇宙人、SF科学方面で行けばヤバい薬とかかな。

 

 

「ちょ、フラグ建てんなよっ!! 妙なリアル感があって怖ぇじゃねえか!!」

 

 

 スタスタと病室の入り口まで歩いて行き、扉に手を掛ける勇。トイレでも近いのだろうか。

 

 

「トイレってなんだよ、俺そんなに近くねぇわ! 千晶のとこに戻るんだよ。待たせちゃったからな」

 

 

 そう言えば、そうだった。

 彼女には月刊誌を渡してあるので多少の暇つぶしをして待っていると思うが、流石に読み終わった頃だろう。

 確かに彼の言う通り、帰った方がいいかも知れないな。

 

 

「ああ、そうしろそうしろ。じゃ、俺先に行ってるよ」

 

 

 そして、勇は行ってしまった。

 

 

 病院に誰も居ないのは気になる所だが……今は合流する方が先だろう。

 彼女を待たせても悪い。小言を言われる前に帰るとしよう。

 

 俺はエレベーターを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターから降りると降りるで、千晶がスタンバイして居た。ずっとそこで待って居たのだろうか。

 

「そんな訳無いじゃない。暇つぶしも読み終えちゃったし、そろそろ呼びに行こうと思って居たのよ」

 

「そうそう、俺が戻ってもお嬢様はシン君は? って言って聞かなくてさ。それで自分で探しに……」

 

 

 そこまで言った勇の顔面に肘当てが炸裂する。効果は抜群だ!

 勇は顔を抑えながら涙を流す。

 それを見てお嬢様は一笑い。

 

 

「余計な事は言わない」

 

「うぅ……すんません……」

 

 

 完全に奴隷と主人の関係だった。

 

 

「ま、シン君も来た事だし、丁度良いわね。ちょっとこっち来て」

 

 

 千晶は最初に病院で座って居た、あの長椅子に再び座り、足を組む。

 もう、上位者モードが入ってしまったようだ。

 そんな俺の思考を置いておいて、千晶は話を進める。

 手にはちょっと前に渡した雑誌、『月刊・アヤカシ』が握られていた。

 

 

「この雑誌の巻頭に載っているこの記事……【特殊・ガイア教団とミロク経典】っていう記事なんだけれども、気になることが書いてあるの」

 

「気になること?」

 

 

 千晶の言葉に勇が反応する。

 それを見て千晶はうんと返答、次にこう言った。

 

 

「ガイア教団だとかいう『悪魔』を拝むカルト集団があるらしいの……この日本によ?

 それでその集団が信仰しているものの一つに、ミロク経典って言うものがあるの」

 

「ミロク経典……? 弥勒菩薩(みろくぼさつ)の事か?」

 

 

 勇がすかさず返答する。

 普段はあんなだが、彼も彼なりに勉強をしているのだ。まあ、その方向性が現在必要としているものとは全く違う物なのだが。

 

 

「あら、よく知ってるわね、勇君。シン君ならともかく、貴方が知っているなんて」

 

「んだよ、俺だって勉強してるトコはちゃんとしてんだよーだ! ってそんな事はいいから、続き話せよ」

 

 

 その言葉に、それもそうね、と返す千晶。

 彼らのこの光景を見るのは、実に微笑ましい。

 

 

「で、勇君の言った通り弥勒菩薩と言うものもあるのだけれども……コレを見るに、そっちの方面は関係無さそうね」

 

 

 オカルト雑誌を人差し指でつついて此方を向く。

 それを言われて勇は悔しそうな顔をした。残念だったな、知識が役立たなくて。

 

 

「あーくそ。俺のは役に立たなかったか」

 

「ふふっ、そうね。

 それでね、二人とも。このミロク経典には『混沌』が訪れる、みたいな事が書いてあるらしいのだけども……この教団は、それを本気で実現しようとしてるらしいのよ」

 

 

 その言葉に、勇はマジ!? みたいな顔をする。あと実際に、そう叫んで居た。

 そんな勇を千晶は、マジよ、と言って簡素に答える。

 

「と言うか、『混沌』って、何のことなんだ? 直訳すればカオスがそれに当たるが……」

 

「そんなの、私も知らないわよ。コレ(雑誌)にも書いてないし……何を示しているのは流石に分からないけど、ロクでもないは確かね」

 

「あー、確かに。カルト集団がやってる事って、どの奴も危ないのばっかだしな」

 

 

 うんうん、とその考えを肯定する勇。

 それを脇目に、千晶は続ける。

 

 

「でね、ここをなんだけど……」

 

 

 雑誌の最後の文を指差してくる。

 千晶は俺が見るのを確認すると、そこを朗読する。

 

 

「『新宿の東に位置する、某病院。ここに彼らの計画を解くカギが……』」

 

「……で! 【待て、次号!】な訳ね」

 

 

 その言葉の通り、その先に文は続いて無かった。

 暫くの沈黙。

 その沈黙を、ニヤニヤした表情の勇が破った。

 

 

「その病院さぁ、意外と此処かもよぉ?」

 

 

 やはり、少し悪ノリしているようだ。小心者の癖に、よくやると思うよ。

 勇は言葉を続ける。

 

 

「この病院さ、実は妖しい噂があるんだよなぁ。

 人体実験やってるだとか、

 霊視した霊媒師が逃げ出したとか……」

 

 

 あと……、と一言つけて、

 

 

「『カルトの息がかかってる』、ってのもあったなぁ……」

 

 

 その言葉にえぇ〜、と千晶が声を漏らす。

 

 

「わたし、何も知らなかった。やだ、来るんじゃなかったなぁ……」

 

 

 そう言う千晶を見て、更にニヤニヤし始める勇。

 遊んでいるな。後で怒られても知らんぞ。

 

 

「まあ、このトンデモ雑誌を鵜呑みにする気はないけれども……この病院がおかしいのは、明らかよね?」

 

「ああ、全くだ」

 

 

 千晶の言葉に、俺も同意する。明らかに、嵐の前の静けさだ。

 

 

「……先生の事、心配になってくるなぁ」

 

 

 不安を感じる。それは千晶も、勇も同じようだった。

 

 

「……仕方ないな。それじゃ探すか」

 

 

 じゃないと何にもならない訳だしな、と言って提案する。

 その言葉に勇も同意したようで、そうだな、と言って頷く。

 

 

「じゃ、俺は分院の方を探してくるよ」

 

「分院?」

 

 

 千晶が疑問の声をあげると勇はあちゃー、と言って頭を掻く。

 

 

「ああ、さっき探して居た時に見つけたんだよ。2Fから行けるみたいだから、俺行って来るよ」

 

 

 そのままの勢いで此方に何かをぽいっと投げつけて来る。

 カードキーだった。

 これは……?

 

 

「それは地下室のゲートを解除するカードキーだよ。院長室からパクって来たから、シンはそっち頼むわ」

 

「え、もしかして勇君、盗んで来たの?」

 

「しょうがないだろ、非常事態なんだから」

 

 

 まあ、勇の事も一理ある。隈なく探す事もしておいた方が良いだろう。こういうあり得ない所に探し物が良くあるのは、お約束なのだから。

 そんな勇の事を睨みつけている人物がいる。言わずもがな、千晶だった。

 

 

「と言うか勇、カードキー持ってたならあんたが行けば良いじゃん。それとも……怖いの?」

 

 

 その言葉に勇は動揺したようで、焦ったような巻き舌で、

 

 

「こ、怖くなんてないっての!

 どうせ地下になんか先生は居ないだろうから、シンに頼むの!」

 

 

 バレバレの嘘を隠す子供のように、否定した。

 その様子を眺めていた千晶は先ほどの勇のように、ニヤニヤしていた。

 

 形成逆転である。

 

 

「ま、ともかく! シンは先生がいない事さえ確認してくれればOKだから。出会いを果たすのは、オレの役目ね」

 

「……了解」

 

 

 なんとなく、言ってはいけないお約束を聞いてしまったような気がするが、あくまで気がする程度だろう。

 

 彼らと別れを告げて、エレベーターに乗る。目指すは、地下一階の立ち入り禁止区域である。カードキーがあるので、俺は立入れるが。

 

 因みに、千晶はこのまま、フロント待機となっていた。理由付けは俺を送る出した時と同じで、か弱い女の子に重労働をさせる気? だった。

 

 勇が殴られたには言うまでない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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