閉じ込められて数十年経っても、俺の精神が壊れていないのは、やはり任務になると出れるのと、夜一さんと喜助がたまに娯楽を買って来てくれてるからだろう。
………まぁ、この時代の娯楽なんてたかが知れてるんですが。はぁ、スマホ…いや、プレ4……いやそれ以前にTVが恋しい。
「………はぁ」
「む、どうしたルイ?」
ため息を吐くと、夜一さんから声が掛かった。つーか、君達が付けた名前だろうに、ルイスって全然呼ばないなこの人達……。
「何でもない。いつもここにいると退屈だなって思って」
「ふむ、そうか?何か欲しいものがあれば……」
「いや、良いよ。………ああー!退ッッッ屈‼︎」
ベッドの上で脚をバタつかせながら仰向けに寝転がった。あー、せめてゲームくらいあれば良いのに。
「夜一さん」
「なんじゃ」
「なんか面白い話してー」
「…………」
起き上がりながら、思わずダメ上司のようなことを口にしてしまった。俺は何を口走ってるんだ。ほらぁ、案の定、夜一さん困ってんじゃん。
「………面白い話と言われてものう。なら、こういうのはどうじゃ。むかーしむかし、ある所に……」
「おとぎ話じゃん。それ何回も聞いた。バカにしてんの?」
直後、夜一さんの頬がヒクッと吊り上り、ひたいに青筋を立てながら姿を消した。
と、思ったら後ろから俺の首に腕が絡みつき、締め上げられながらこめかみに拳がグリグリと押し当てられる。
「ほほう?お主は随分と偉くなったもんじゃのう?」
「いだだだだだ‼︎頭凹む!頭凹むって!」
「ごめんなさいは?」
「ごめんなさい!ごめんなさいって!」
「じゃ、そのままあと30秒我慢じゃ」
「いやいやいや!夜一さんみたいな筋肉お化けに30秒もやられたら頭弾け飛ぶって!」
「…………は?」
「いや間違えましたすいませんっしたああああああ‼︎」
耳元で絶叫し過ぎたのか、ようやく離してくれた。涙目で頭をさすってると、呆れた目で夜一さんが俺を見ているのに気付き、なんとなく不貞腐れてしまった。
「そんな怒らなくても良いじゃん……」
「仕置きが足らんか?」
「いえ、なんでもないです」
この人はホント怒ると怖いんだよなぁ……。前に浣腸したら本気でキレられたっけ。
「でも暇ー」
「ふむ、ではあれやるか?久々に鬼事でも」
「えー、体動かすの面倒臭いー」
「お主はどこまでも勝手じゃのう……」
「いや、なんていうか……たまには外の空気を吸ってみたいっていうか……」
「むっ……」
言うと、夜一さんは少し困ったような表情を浮かべた。が、すぐにいつもの表情に戻った。
「仕方ないじゃろう。そういう契約なのだから」
「えー、でも俺もたまには二番隊以外の人と話したり流魂街でなんか色々したいよー」
「困ったのう……」
ああ、しまった。困らせるつもりはなかったが、つい我儘が出てしまった。自分がこんな現状に置かれてる理由は理解してるし、むしろ殺されないだけマシだとも思っているが、それでもこの中で引きこもってるのは、やはりストレスも溜まる。
………でも、これやっぱ我儘だよなぁ。我慢しないとダメだろ俺。
「………や、ごめん。何でもないよ、夜一さん。ちょっと言ってみたかっただけ」
とりあえず、テキトーな言い訳をしておいた。なるべく、迷惑はかけたくないし、俺のせいで二人が総隊長に怒られるのはもっと嫌だ。それに、任務の時は外に出してもらえてるし、それで我慢しよう。
「そ、そうか……?」
「それより、俺お風呂はいってくるから」
俺の部屋は他の隊士の部屋よりも広い。死神と同じ風呂に入ったりするわけにはいかないので、部屋に風呂やトイレ、他にキッチンだの机だのと、とにかく色々な生活用家具が置かれている。
まぁ、部屋割りとかはないんだけどね。バスルームとトイレだけカーテンで仕切りを作ってるだけ。その仕切られてるバスルームに服を脱ぎながら歩き始めると、後ろから声が掛かった。
「ルイ」
「?」
「たまには、一緒に風呂でも入るか?」
「入る!」
………なんか今日は目一杯甘えよう。
☆
シャワーの前に座ると、俺はシャンプーハットを被った。その上に夜一さんがシャンプーを垂らし、頭を洗ってくれる。俺は夜一さんの胸の上に後頭部を置いた。
昔、まだ転生したばかりの時、上手く身体が動かせなくて、夜一さんにシャンプーしてもらってたのだが、シャンプーハットがまた素晴らしいものでね。洗ってもらう時はいつも使ってる。
「痒いところはあるか?」
「ありませーん!強いていうなら乳首が後頭部に当たっててちょっとキモいだだだだ!指が!摩擦が!そんな擦らないで禿げるうううう‼︎」
「では、流すぞ」
じょぱーっと流すと、今度は俺が夜一さんの頭を流し、続いて夜一さんの背中を洗う。傷ひとつない褐色の肌を、ゴシゴシとボディーソープを含んだタオルで擦った。
「ふはぁ〜……気持ち良いのう。昔はどんなに力を入れられても少しかゆいくらいだったのに。………なんか母親になった気分じゃ」
「うーん……でもこれ娘と母親というより息子と親父だよね」
「え、そ、そう?」
それも昭和の。というか夜一さんが親父臭すぎるんだよな。何なら、喜助よりも遥かに男前に見えるレベル。
………それにしても、と、俺は夜一さんの胸を上から覗き込んだ。デカイ……。
「ああっと、手がすべったぁ!」
「ひゃわっ⁉︎な、なんじゃ、急に!」
肩を拭くフリして後ろからオッパイを鷲掴んだ。な、なんつー弾力とハリと柔らかさだ……!四楓院家の
「ひゃわっ⁉︎だってー、夜一さんも可愛い声出すねー」
「あまり揉むな。これ以上、大きくなられても困るのじゃ」
「はいはい。出たよ巨乳の常套句」
「おい、いつまで胸を揉んでおる。儂だから良いものの、もし他の誰かと風呂に入る機会があっても絶対揉むなよ」
「分かってるっつーの」
………どうせ、他の誰かと風呂に入る機会なんてない。死神達にとって、虚の俺は鼻つまみ者のようで、二番隊以外にはあまり歓迎されていない。というか、そもそも俺は彼らにとって倒すべき敵で、俺の同族に何人殺されてるかもわからんのだ。そう考えると、俺に流魂街を出歩かせないのは、ある意味正解かもしれないな。
………あーあ、なんで俺は虚なんかに転生したんだろうな。
「ルイ」
「! な、何?夜一さん」
上から声が掛かった。
「今度は儂が洗ってやろう」
「へ?よ、夜一さんが?」
「ほれほれ、前に行け」
後ろから俺の脇に手を差し込み、持ち上げて自分の頭の上を通して前に無理矢理座らされると、背中を洗ってもらった。
「って、いだだだだ!力入れすぎ!背中剥がれる!」
「むっ、そ、そうか?」
「まったくこの怪力バ……あ、いやなんでもないですから力入れるのやめてマジで」
「まったく……お主は……」
段々と俺の背中の強度に慣らしてもらって、気持ちよくなってきた。と、思ったら、急に夜一さんは俺の脇の下と肩の上の二箇所から手を潜り込ませ、胸を揉んで来た。
「はうっ⁉︎」
「ふーむ、相変わらずちっこい八つ橋みたいな胸じゃのう」
「う、うるせぇ!触んな!ていうか何してんだあんた!」
「どれ、少しでも大きくなるように揉んでやるとするか」
「いやいいです!やめて下さいなんか捥がれそうだから!」
「捥ぐほどないじゃろ」
う、ウゼェー……!ていうか虚って胸成長すんのかな。そもそもギリアンだのなんだのってのは聞いたことあるけど、それって成長というより進化だしな……。
「ていうか、夜一さんこそ何を食べたらそんな胸になるんだよ。バインバインじゃん」
「特に何かした覚えはないのう」
「…………」
「……いやホントに。そんな恨みがましそうな目で睨むな」
「ふん、まぁいいし。戦闘中にそんなバインバインなのあったら邪魔だし」
「そうでもないぞ?服でちゃんと揺れないように縛れるからのう」
「…………」
この野郎……!そのドヤ顔腹立つなオイ……!
ふん、いいさ。俺だっていつかは……!いや、虚って体成長するか微妙だしな……。下手したら一生このまま……、
「………はぁ……」
「ふむ。何に落ち込んどるのか手に取るように分かるが、一応言っとくぞ。頑張れ」
煽ってんのか。
そのまま石鹸を洗い流し、二人で湯船に浸かった。カポーン、と、音がしそうな雰囲気で、二人して「ふぅーっ」と息をつく。
いい湯でござるー。ほへー。緩み切った俺の顔を見ると、夜一さんが言った。
「元気は出たか?」
「………へっ?」
「随分としょげていたからのう。外出できない代わりに、儂が少しでも相手してやれたら良いと思ったったのじゃ」
「…………」
マジか。なんか気を遣わせちゃったみたいで悪いことしたな。
「うん。元気出た」
「なら良かった。主が外出できるようになるのはいつだか分からんが、それまでの間は儂を母親だと思って存分に甘えて良い。良いな?」
「良いのか?二番隊の隊長って忙しいんじゃ……」
「大前田や喜助にやらせるから問題ない」
うわあ、こいつまじか。まあ、この人がそう言うなら良いんだろうけど。
「………じゃあ、お言葉に甘えるわ」
「うむ」
虚と死神は敵同士、それは間違いないけど、少なくとも俺と夜一さんと喜助だけは、敵同士ではない。俺はそう思った。