朝になった。俺は目を覚まし、首をコキコキと鳴らしながら電気を点けた。どうせ今日も任務はない。どうやって暇潰ししようかな。
考えながら、とりあえず着替えることにした。上半身のパジャマを脱いだ所で、異変に気付いた。胸が重い……?
「………なんだ、これ」
自分の胸元に視線を落とすと、バインバインのオッパイが二つ付いていた。
「………ぃぃいいいやっほおおぉぉぉぅうう‼︎」
き、キタアアアアアア‼︎育ったああああああ‼︎ポケモン並みに進化して姿形が変わったが、そんな事はどうてもいい!俺はバインバインになったんだ!
「うおおお!『卍解、おっぱい桜景義』‼︎」
直後、俺のオッパイは散って刃となった。それでも、胸の体積は変わっていない。ホンモノだああああああ‼︎
………あ、そうだ。このオッパイを夜一さんに見せて自慢してやろう!そしておっぱいで窒息死させてやろう!そう決めて自分の部屋の扉を開けた。その直後……、
俺は目を覚ました。辺りを見回すと、自室。胸元に視線を落とすと、真っ平らな胸。……そうか、夢か………。
「………あんまりだ……」
ベッドの上で絶望した。頭を抱えて枕に顔を埋めてると、夜一さんが自室に入ってきた。
「ルイ、来たぞ……って、何をしとるんじゃお主は」
「…………」
あいつが……!あいつがホンモノのオッパイか……‼︎
「うおおおおお‼︎」
「うわっ!な、なんじゃお主は⁉︎いきなり胸を揉……!んっ……やめっ……い、いい加減にせんか‼︎」
殴られた。
☆
「………それで、あのような暴挙に走ったと?」
「…………はい、すみませんでした」
出会い頭に上司の胸を揉みしだくってやばいな。何やってんの俺。
「しかし、そんな気にすることないじゃろ。個人差だし」
「ある奴はそう言うよな!ない奴は変に劣等感を抱くんだよ!」
「ふむ、そんなに気になるなら揉んでやろうか?儂が」
「え、まじ?」
「うむ」
「……………」
「……………」
「………よ、よろしくお願いします」
「じゃ、脱げ」
「へ?ぬ、脱ぐの?直?」
「そういうものではないのか?」
「……………」
無言で脱いだ。………なんか恥ずかしいな。いつもお風呂一緒に入ってるのに不思議。その羞恥心から逃げるように、夜一さんに背中を向けた。
「お、お願いします……?」
「うむ」
………なんか変な感じだな。なんで緊張してるんだろ。落ち着け俺、女性同士だ女性同士。恥ずかしがることなんて……いや、女の子同士でも十分おかしいよねこれ。や、元々、女じゃないからわかんねーよ。全国の女性の皆さーん、これおかしいんですかねー?
直後、夜一さんの両腕が伸びて俺の胸を掴んだ。
「んぅっ……」
息が漏れた。あ、ヤバイ。こ、これは……ヤバイ……!
これが、女が胸を揉まれる感覚……!と、なんか変な実感を持った直後、
「ルーたーん!朝飯持ってきたっスよー!………ありっ?」
喜助が入ってきた。喜助の帽子の奥の目が丸くなる。
「…………あっ」
夜一さんが今更気付いたのか、声を上げた。
恥ずかしさのあまり、俺の体温が上がっていくのがわかった。
直後、喜助が「虚閃を撃たれる!」と思ったのか、両手を自分の前でアワアワと彷徨わせる。そして、懐からビデオカメラを取り出した。
「さっ!続きをドウゾ!」
違った。「録画しなければ!」と慌ててるだけだった。あーあ……さすがに入口の鍵を閉めなかった自分を責めようと思っていたのに……これは殺すしかないわ。
俺は斬魄刀を抜いた。それに合わせて身構える喜助。けど、それは無駄なんだなぁ。
「止まれ、『時折』」
直後、世界が真っ白になって静止した。夜一さんも喜助もその場から動かない。その間に俺は瞬歩で喜助の後ろに回り込む。この間、約1秒である。
「あれ?ルーたん?」
首をキョロキョロさせて、俺の姿を探す喜助の後ろから、さらにあたしは能力を発動する。世界が再び白に染まり、拳を構え、1秒間に50発ほど喜助に拳を叩き込んだ。
「ゴブホッ⁉︎」
喜助には、1度に50個の拳に襲われたような感覚だっただろーな。俺の斬魄刀、時折の能力は、1秒間だけ時を止める能力だ。それを20回使える。20回使い切ると、10秒間リロードの時間が必要になる。ハッキリ言って、瞬歩とか使えるこの世界の中ではかなりチートの部類だろう。しかも、初見では瞬間移動に感じるだろうから斬魄刀の能力を誤認させることもできる。
あたしは指をゴキゴキと鳴らしながら殴り飛ばした喜助に迫った。
「………何かいうことは?」
「…………言っていいんスか?」
「台詞による」
「……………いや、でもこれ……言ったら殴られそうだなぁ……でも言わないとこれ………」
「何ブツブツ言ってんの?死にたいの?」
「わかった!言わせてもらいます!」
喜助は俺を制止すると、目を逸らしながら言った。
「………まずは服を着ましょうよ」
「……………」
「……………」
「ふんっ!」
「痛い⁉︎」
蹴って黙って服を着た。
☆
「………本当にスミマセンでした」
土下座してる喜助。
「………今度あーいうこと言ったらマジぶっ殺すからな」
「まぁ、そう言ってもルーたん絶対許してくれるっスからね」
「止まれ……」
「嘘っス!スイマセンでした!」
まったくこいつは……!まぁいいし別に。
「しかし、主はいつの間に始解なんて覚えたんじゃ?」
「少し前かな。………色々事情があって、あまり他の人には言いたくなかったんだけど、二人にならいいかなって」
事情、とは言うまでもなく藍染のことだ。ある意味、鏡花水月の対抗策だと思ってる。………戦う方じゃなくて、逃げる方の。
まさか、「いつから、時が止まっていたなどと錯覚していた?」とはならないだろう。
「で、能力は?」
「空間移動ですよ」
とりあえず、しれっと嘘ついてみた。正直、目の前の二人が藍染や東仙である可能性は否めない。のだが、
「嘘っスよね」
真面目な顔をした喜助にあっさりと看破された。
「えっ……」
「食らった攻撃は明らかに複数の箇所に同時に衝撃が来ました。あたしにそんな事、夜一さんでもできない」
「…………」
相変わらず目敏いなぁ、喜助は。
「………時を止める能力だよ。1秒間だけ」
「1秒?」
「ただし、20回までね。これでいいでしょ」
そう言うと、俺は斬魄刀を納めた。が、喜助はまだ真面目な顔をして俺を睨んでる。
「………何」
「ルイスさん。アタシや夜一さんはあなたのことを信頼しています。ですが、あなたは虚であり、虚が死神の斬魄刀を持つなんて、どんな影響を及ぼすかわからないんです」
「…………」
「ですから、そういうところで嘘をつくのはやめて下さい」
………確かに、その通りかもしれない。俺の存在自体が尸魂界にとってイレギュラーなのだ。俺の言動一つ一つが信頼に繋がり、俺の生き死にに繋がるのだ。ただ、藍染から逃げ切ればいいだけじゃない。
「………ごめんなさい」
素直に謝ると、喜助は俺の頭を撫でた。
「分かれば良いんスよ」
そう言う喜助の声は、とても優しかった。
「それはそうとルーたん、おっぱい大きくしたいならアタシが揉んであげますよ!」
「止まれ、『時折』」
「え、ちょ待っ」
上げて落とさないと気が済まないのか。